街路樹の緑が美しい季節です。
近年、都心では主にファッションブランドによるビルの建築がさかんです。
植物のオーガニックな質感とコントラストをなすシャープでモダンな建築を巡りながら、
新しい街の表情を発見してみませんか。

ガラスブロックを全面的に使った銀座のメゾンエルメス
ガラスブロックを全面的に使った銀座のメゾンエルメス

ファッションブランドの旗艦店が立ち並ぶ表参道・銀座

2000年代以降、主に表参道や銀座などの地域で、ファッションブランドの旗艦店のオープンが目立ちます。列記してみましょう。
■表参道(カッコ内は完成年、設計者)
ルイ・ヴィトン表参道ビル(2002 青木淳)
プラダブティック 青山店(2003 ヘルツォーク&ド・ムーロン)
ディオール表参道(2003 妹島和世+西沢立衛)
トッズ表参道ビル(2004 伊東豊雄)
コーチ表参道(2013 OMA)
■銀座
メゾンエルメス(2001 レンゾ・ピアノ)
ディオール銀座(2004 乾久美子)
ミキモト・ギンザ2(2005 伊東豊雄)
Breguet Boutique Ginza(2007 坂茂)
資生堂ビル(2013 竹中工務店)
De Beerseギンザビル(光井純&アソシエイツ)
主なものだけでもこんなにあります。これらのビルをとりあげた書籍もありますし、ブログでも多くとりあげられています。銀座などで中国語が飛び交う中、こうしたビルが建つ街を歩いていると、月並みながら近未来の無国籍な空間を滑走しているような気分になります。
ファッションブランドの高いデザイン性や非日常的な高級感を演出するには、ありきたりの外観では物足りないのはもちろんのこと。しかし建築作品としてはサステイナビリティ(持続可能性)や都市景観などの問題も重要です。それらと関連しますが、ここではこうしたビルのデザインをちょっと違った視点から見てみましょう。

建築素材が作る軽やかさ──ガラスの透明性

これらのビルで目につくのは、建築素材の質感が強調されているようにみえることです。それも大理石や(1980年代から1990年代にかけて広く使われた)打ち放しのコンクリートではなく、もっとも特徴的なのは、ガラスです。
代表的なのは、世界的な建築であるレンゾ・ピアノ氏(パリのポンピドーセンターなどが有名)による、銀座のメゾンエルメスのガラスブロックです。
この素材を単なる装飾ではなく建物全体の構造としても全面的に使うことで、メゾンエルメスは街の表情を変えてしまうような強いデザインでありながら、ガラスの透明性によって威圧的ではないランドマークになっています。
表参道のプラダブティックは凹凸のあるガラスブロックの使用によって、光が乱反射してまるで宝石のようです。
ファッションブランドではありませんが、ガラスは原宿のアウディフォーラム東京(2006 CDI青山スタジオ)やこの秋完成予定の「(仮称)銀座5丁目プロジェクト」でも全面的に使われており、「銀座5丁目プロジェクト」では江戸切子をモティーフにしているというデザインが、現在だんだん見えてきています。

ガラスの作る風景

ガラスはその透明性によって、軽やかさを演出するとともに、周囲の景観を反射することで、風景の奥行きを強調する機能も持っています。
この他にも素材としては、網状に穴が開けられるなどした、メッシュ状に加工された金属板が挙げられるでしょう。資生堂ビルのアルミシェードもユニークです。やはりこの素材も軽やかさと奥行きへの志向があるのでしょう。
コンクリートからガラスとメッシュへ──素材の変化やそのデザインが、私たちの街歩きをも変えていくかもしれません。