四月も後半、春の海も穏やかな波を寄せるようになってきたことでしょう…そのような穏やかな春の波を表わす季語に「春涛(しゅんとう)」という言葉があります。春の海の名句とともにご紹介いたします。

春の海の一句と言えば…

春の海…と聞いて、俳句好きの方ならまず思い出すのが、与謝蕪村の『春の海終日(ひねもす)のたりのたりかな』ではないでしょうか。
俳句をなさらない方もどこかで聞いた覚えがあるような一句です。「のたりのたり」という言葉の音感に、春の海の穏やかさが感じられる、シンプルでいて情景豊かな句の味わいの一句です。それは、蕪村が絵筆(墨絵)も手にしていたことと関わりがあるのかもしれません。蕪村が丹後の海を懐かしんで作った句とも言われています。
そして、そんな春の海の波を表わす季語に「春濤(しゅんとう)」があります。「濤(とう)」は大きくうねる波を表わす言葉ですが、春の波は大きくても穏やかなことをこの句は感じさせてくれますね。また、同様の表現に「春怒涛(はるどとう)」があります。こちらは響きは強いのですが、春という一語がその強さを和らげてくれるから不思議です。

季語
「春濤(しゅんとう)」、「春怒涛(はるどとう)」

春の海ならではの「旬の味覚」

そしてこの時期の海と言えば、シラスが美味しい季節です。
シラスは4~5月と7月が潮流の関係で大漁となり、新鮮で美味しいと言われています。生はもちろんのこと、釜揚げやてんぷらなどの「シラス尽くし」を楽しむにはこの季節がお勧めです。
有名な産地としては、駿河湾や江の島・鎌倉(腰越)が知られていますが、淡路島(和歌山)など、南から北までの太平洋沿岸で捕られているようです。
陽射しに揺れる春濤のように、キラリと光る生シラスを生姜醤油でいただく…これも春ならではの味わいですね。
海を見てリラックスし、感じて句を作り、シラスを味わう。そのように「行く春を惜しむ」一日も楽しいものではないでしょうか。
【きらきらと寄せては返す春怒涛(はるどとう)】 柊花

参考文献
角川俳句歳時記「春」