江戸時代に日本用に改訂されたという、季節を72に分ける七十ニ候は、四季の繊細な移り変わりが美しい日本にふさわしい暦。それぞれの名にも季趣があふれ、4月14日から19日までの5日間は、「虹始見(にじ はじめてあらわる)」です。
例年、晴れたと思ったら雨が降ったりと、気候が安定しないこの時節。そんな折に旬を迎えているのが「たけのこ」です。ご近所のスーパーでも朝掘りものが並ぶこの時期、ぜひ茹でて、煮て、和えて、揚げてと、滋味豊かなおいしさを満喫してみませんか。

虹が現れ出す時節、まさに「雨後の筍」のようにぐんぐん伸びているたけのこ

花々が咲く春が深まり、大気に潤いが満ちてくると現れ出す虹。大空に壮大な色彩のグラデショーンを描く橋がかかると、思わず心が晴れ晴れと幸せな気分になりますね。雨も多くなるこの時期、竹林ではぐんぐん、竹の赤ちゃん“たけのこ”たちが成長しています。
よく耳にすることわざ「雨後の筍(うごのたけのこ)」を辞書で紐解けば、「雨上がりにいっせいに生えて伸びる筍のように、物事が続々と発現することのたとえ」とあります。
ほかにも「筍医者」は、「藪にも達しない腕の悪い医者」。「筍生活」は「着物を一枚ずつ売って暮らして行く貧乏生活」など、私たちの暮らしに身近なたけのこ。手に入れた丸ごとのたけのこを、台所でひと手間かけ味わうのも、春ならではのお楽しみですね。
※新潮日本語漢字辞典より

早くは3月ごろから出回る孟宗竹のたけのこ。真竹の旬は5月ごろです

南北に長い日本。桜と同じようにたけのこ全線も南から北へ、季節を追いかけ北上していきます。種類もいろいろあり、3月ごろから九州で出回りだす、おなじみの肉厚で大ぶりなたけのこは、孟宗竹(もうそうちく)。続いて4月からは淡竹(はちく)、5月には真竹(まだけ)が成長(淡竹も真竹もほっそりした姿が特徴です)。私たちの食卓で最もなじみ深い孟宗竹のたけのこは、地下茎から生じる若芽を、先端が地表に現れるころに掘り出したものです。
魚介と同様に鮮度が命のたけのこ。手に入ったらアク抜きのために手早く下茹でし、鍋に入れたまま冷めるのを待ち蒸らすことが肝心です。多くの茹で方レシピでは「米ヌカ」を入れてと書いてありますが、ない場合はお米のとぎ汁でも、お米の粒をそのまま鍋に加えてもOK。まだ丸ごとのたけのこ料理に挑戦したことがない方は、ぜひ気軽にトライしてみてくださいね。
また、産地として全国的に名高いのが京都周辺。寒中から藪の土壌を手入れし良質なものを育て上げ、前もって茹でなくてもやわらかく煮えることで有名。掘りたてならば、おさしみとしてもおいしくいただけると聞きます。

若竹汁、木の芽和え、煮もの、筍ごはん…天ぷらにしてもおいしい♪

さて、手間暇かけ下茹でしたたけのこ。どのように調理しましょうか。新わかめと合わせたおすまし・若竹汁、木の芽和え、筍ごはんなど定番だけでもいろいろありますが……(写真は)家庭料理を大切に“おふくろの味”を提唱した料理研究家・土井勝さんの懐かしいレシピから、「たけのことふきの煮もの」と「たけのこと大豆の煮もの」の2種です。色が薄いほうはだし汁と薄口しょうゆでさっと煮たもの。色が濃いほうは、しょうゆ多めのやや濃い味付けで、小一時間ほど煮込んだもの。同じ煮ものでも味が違うので、交互に飽きることなく食べられます。
また、あらかじめ煮て味をつけた、たけのこの天ぷらは格別においしいもの。この時期一緒に出回る、うどやたらの芽などと、春の精進揚げをぜひ楽しみたいものです。
風味豊かで、ほんのり甘いたけのこ。茹でた後に見られる白い結晶はチロシンで、脳を活性化する働きがあるとか。また利尿作用もあり、食物繊維が豊富なので、むくみ解消や体内デトックスにも有効なのだそう。ただし、吹き出物やアレルギーに似た症状が出ることもありますから、おいしいからといって食べ過ぎにはくれぐれもご注意を!
※参考/土井勝の家庭料理(お料理社刊)