お花見シーズン真っ盛り。お花見会場にも出現する黒いやつ。
ゴミ置き場を荒らし、通行人を威嚇し、道路や線路でいたずらをし。雑食性で何でも食べて狡猾で知能が高く繁殖力も強い。まさに無敵で凶暴だよね…そんな憎々しいイメージで語られることが多いカラス。
でも本当にカラスってそんな生き物なのでしょうか。
筆者が子供の頃は、商店街の店先などにカラスを飼ってる人がいて、九官鳥やオウムのように人間の言葉をモノマネしていてかわいいなあ、と思ったものです。いつからカラスはこんなにも嫌われ者になったのでしょう。

実は、カラスは人に良くなつき、ものマネも得意なひょうきんもの。
実は、カラスは人に良くなつき、ものマネも得意なひょうきんもの。

怖い! でかい! 日本のcrow

英語ではカラスには二種類の呼び名、ravenとcrowがあります。某超メジャーな英国魔法ファンタジーの中で出てくる寄宿舎も、このraven/crowをもじったものがありましたよね。イギリスでは国の守り神としてマスコットになっているravenは日本名はワタリガラスと呼ばれ、名前の通り北海道の一部に渡り鳥として渡ってくることがありますが通常ほとんど見られません。別名オオガラス、翼長1メートルを超える大型のカラスです。それ以外の小型のカラス類をcrowと呼びます。
日本で一般的に見られるのはハシブトガラス、ハシボソガラスの二種類。どちらも小型カラスcrowに分類されます。
では、日本のカラスは小さいの? それがそんなことはなくて、日本を訪れた外国人に、「日本のカラスが大きくていっぱいいて怖かった」と印象的に語る人がよくいるそうです。ハシブトガラス、ハシボソガラスとも日本のカラスは大陸の同種よりも大型のようなのです。
特にハシブトガラスはワタリガラスとそう変わらないくらいに大きくなります。これは生物の島嶼化現象ともいわれ、大型の生物は小型化するのに対し、鳥のような目方の軽い生物は逆に大型化する傾向がある事を言います。日本は島国ですので留鳥が「島嶼化」している可能性があるのです。実際、カラスだけではなく、鳩や雀などの留鳥も、大陸のものよりも大きいようです。
それに加えて、日本の都市部ではえさが豊富なこと、また、ハシブトガラスは多くの国では山奥に住んでいて都市部で見かけることはあまりなく、都市化している日本のカラスに、余計に驚いてしまうのかもしれません。
やっぱり日本のカラスは「大きくて怖くて無敵」なのでしょうか。

謎のカラスの大量死

ところが昨年(2014年)の年末から今年(2015年)の年初にかけて、東京の隣の埼玉県で100羽を超えるカラスが大量死するという事件がありました。検死が行なわれ、ウイルス性腸炎による餓死であると発表されましたが、カラスの無敵無双イメージが定着しているからか「雑食で何でも食べるカラスが餓死とかありえない」「天変地異の予兆では」というような声が巷にあがりました。
けれども実際には、雑食で悪食だからこそ、腐敗し雑菌まみれの食物を口にして腸炎に罹り死んでしまうことは、カラスはよくあることのようなのです。
過去にも、秋田県や神奈川県の足柄町などでカラスの大量死は起きていますし、経験が浅く免疫力も弱い若鳥は、毎年相当な数が死んでいます。
また、カラスに襲われた、という事件も、カラスが繁殖期に入り子育てをしている警戒感の強い時期に集中しています。

ゴミの分別収集が分岐点

カラスは毎年狩猟により一定数が捕獲されていますが、その年推移を見ると1970年代からずっと右肩下がりで捕獲数が減っています。これはハンターの数の減少もあるのかもしれませんが、カラスが言われるほど実は数は増えていない、ということかもしれません。また狩猟捕獲の減少はもともと山間部で暮らしていたカラスが、徐々に都市に集まり始めてきたこととも関連があるようです。
そう、実はカラスの都市進出が、人間との摩擦、イメージ悪化の一番大きな要因なのです。
1990年代、ゴミの分別回収が各自治体で徹底され始め、分別のために黒いゴミ袋から透明な袋に変わっていきました。するとカラスがゴミ袋の中の食べ物を容易に目視できるようになり、その結果ゴミ捨て場荒らしをはじめるようになったのです。それに伴って苦情が激増したのです。
東京都環境局では苦情の増加を受けて平成13年からカラスの捕獲殺処分、巣の撤去などの処置を行い、またゴミ袋をカラスが透視できないように改良するなどして、都内にいたカラスはおよそ3万6千羽から半分以下に減り、苦情もピーク時の4000件近くから、今では500件ほどに激減したそう。今のカラスたちは、一時期ほど抱負に生ゴミをあされず、決して恵まれているわけではありません。埼玉のカラスたちの餓死も、ちょうど年末年始の寒くエサの少ない時期。実はカラスはかなりシビアなサバイバルに晒されているのが現実なのです。特に各自治体が駆除・排除に乗り出してからは、厳しい生活を送っているようです。
参考:http://www.env.go.jp/nature/choju/effort/effort6/effort6-1/ref05b.pdf

イメージは最悪、でもよくみると…

お花見の時に、公園でもし見かけたら、気持ち悪がらずにしばらくながめてみてください。抑揚のあるテノールの鳴き声(ちなみに澄んだ「かぁー」という声はハシブト、しゃがれたような声はハシボソです)も、くりっとした賢そうな瞳も、地面をふわふわ歩いたりスキップするようなひょうきんな仕草も、見ているとこれがかわいいのです。
昔から美しい髪を「カラスの濡れ羽色」と表現し、三本足のヤタガラスを信仰してきた日本人。邪険に遠ざけるだけではなく、興味をもって観察することから共存するヒントが生まれるかもしれません。