すっかり春めき、桜の蕾も日毎に膨らんでまいりました。
桜を愛でる衣装を花衣(はなごろも)と言います。日本人は衣服の呼び方にも季節や行事を表わす言葉を慈しんできました。「花衣(はなごろも)」の装いにもある、日本ならではの奥ゆかしさと「粋(いき)」についてお話します。

花見の主役はあくまでも「桜」です

一年に一度、春爛漫(はるらんまん)を彩る桜。観る方もつい、気合が入ってしまいますね。洋服で行こうか、和服にしようか…女性は着るもの一つにも心を騒がせてしまいます。ですが、ここは一つ、大切なことを思い出してください。花見の主役はあくまでも桜なのだ、ということを…。
桜を観に行くんだから、やっぱり桜の模様の…と思ってしまうのが人情です。でも、主役より目立ってはいけませんね。桜の花が咲いている屋外でのお集まりなら、桜は小物使い程度にしましょう。和服なら帯揚げ、帯締め、帯留めや髪飾りなど、目線に入りやすい場所に使うのもよし、草履や下駄の鼻緒など足元に。ハンカチや扇など手元に。洋服の場合も、ブローチやスカーフ、ハンカチやバッグにチラリと桜が見えると素敵ですよ。

桜の花が見えない屋内のお集まりなら…

屋外のお花見とは逆に、桜の見えない場所では、和服であれ、洋服であれ「桜」を連想する色柄を多めに使う方が素敵です。
なぜなら、見えないはずの花を纏っている人がいることで、お集まりの皆さんに季節を感じていただき、話題も提供できるからです。ぜひ、桜色や桜模様の美しい装いをして、会場に桜の気配を振りまいてください!
また、咲き始め~五分咲き~満開~散り際…と、花の咲き加減に合わせて装うのも上級の技です。一般に、枝のある模様は咲き始めから満開になる前まで、花と花びらの模様は満開以降に選ぶのが時節と合っていて間違いがありません。
ちなみに、花びらの模様なら季節を問わず着ることも許されていますが、桜木は季節が限定されますのでご注意くださいね。
桜が近くにあるときは控えめに、桜が遠くにある時は桜の代わりに花になる。そんな気持ちで装うのが「粋(いき)」であり、センスのみせどころと言えるでしょう。どうぞ、今年の桜の季節を装いでも、楽しんでください。

参考文献
九十歳和の躾 木村孝著