日に日に暖かくなり、日射しもキラキラしてきたら、いよいよ春の到来。春ならではの空気や景色、生き物や草木、食べ物、行事などをたっぷり満喫したいですね。そのための手段の一つとしておすすめしたいのが、季語を知ること。「世界でもっとも短い詩」ともいわれる俳句に使われる季語は、日本人が古来から持つ豊かな四季の感覚がよくわかる、宝石のような言葉たち。現代の暮らしの中で曖昧になりつつある季節のうつろいを深く感じられるヒントがいっぱいです。

外出先で春を感じたら、お手軽なスマホ専用アプリを使って俳句を詠んでみませんか
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最初はゲームだった?俳句の始まり

「五・七・五」という独特のリズムを持つ「俳句」。「川柳」も同じリズムですが、俳句のほうは「季語」を入れるのが決まりです。
俳句の起源は中世。もととなったのは、1人目が「五・七・五」、2人目が「七・七」、3人目が「五・七・五」…と、次々に詠み手が代わる「連歌」という遊びでした。何人かで集まって楽しむために、どの季節から始めるかはっきりわかるように、季節を表す「季語」を1人目が必ず使うというルールができたとか。
やがて江戸時代の中期になると、松尾芭蕉が登場。ゲームの要素が強かった連歌から「五・七・五」だけを取り出し、研ぎ澄まされた言葉で後世に残る芸術的な句を詠んで世界的にも知られるようになりました。
たった17文字の詩を「俳句」と名づけたのは明治の俳人・歌人、正岡子規。俳句に必ず季語を入れるというルールができたのも、明治時代のことです。

季節の訪れと喜びを先取りで楽しむ季語

一方、季語そのものは平安時代から使われていました。能因法師がまとめた和歌の学問書『能因歌枕』では、月別に分類された150の季語を確認することができます。
聞けば誰もがその季節をイメージできる季語ですが、実際には1年中見ることができる「月」が「秋に見るのがいちばん美しい」という理由で秋の季語となっているなど、日本人ならではの美意識も端々に感じられます。
最初は150ほどだった数も、どんどん変化する日本人の生活を反映して今や5000以上。季節ごとに分類されて「歳時記」や「季寄せ」と呼ばれる季語の辞書に収められています。
なお、季節の区切りは旧暦に従っているため、実際の季節を1カ月ほど先取り。たとえば「春」は2月4日(立春)から5月5日(立夏の前日)までとされています。

心が浮き立つ春の季語たち

春の季語にはどんなものがあるのでしょうか。一例をご紹介します。
花や草木:桜、木蓮、レンギョウ、菫(すみれ)、クローバー,菜の花、蒲公英(たんぽぽ)、柳、花水木など
動物:蝶、みつばち、おたまじゃくし、田螺(たにし)、鶯(うぐいす)、燕(つばめ)、仔猫など
食べ物:鰆(さわら)、浅蜊(あさり)、蜆(しじみ)、蛍烏賊(ほたるいか)、菠薐草(ほうれんそう)、若布(わかめ)、蓬(よもぎ)、蕨(わらび)、春菊(しゅんぎく)、桜など
行事:梅見、雛祭り、卒業、茶摘み、エイプリルフールなど
気象や天文・地理に関する春の季語も多くあります。
春風、春の海、春の川、春一番など「春」がつくもののほか、春の夜にかすんで見える月を表す「朧月(おぼろづき)」や、花が咲いて草木が緑に染まった春の山を表す「山笑う」、春になって水温が上がってくる様子を表す「水温む(みずぬるむ)」、花も咲いて暖かくなってきた頃に突然冷え込むことを表す「花冷え」などがあります。どれも使ってみたくなる繊細で美しい表現ですね。

四季の恵みを感じて毎日を豊かに

ほんの少しだけご紹介しましたが、特に食べ物などは「これって春のものだったのか!」と気づかされた人も多いはず。春に限らず、食べ物の旬やその季節独特の気象現象などを知ることで、毎日を心豊かに過ごすことができます。季語にまつわる本は、俳句を詠まない人も読み物として楽しめるものが数多くあります。ぜひ手に取ってみては。
参考文献:『四季のことば絵事典』(PHP研究所)