北海道の庶民の代表的な魚といえば、サケ、ニシン、タラ、そして「ホッケ」があげられます。「ホッケ」の開きの一夜干しは大ぶりで身が厚く、また、食べるときの身離れがよいので、家庭の食卓だけでなく、居酒屋メニューの定番でもあります。
ところがこの「ホッケ」、20年ほど前から少しずつ漁獲量が減っていて、特にここ数年は、例年の3分の1以下になってしまいました。
いったい、なぜ北海道の海から「ホッケ」が消えつつあるのでしょう。

原因は海水温の上昇、特に北海道南部の水温が秋に高く、産卵期に影響が

「ホッケ」の漁場を、北海道の北部沿岸と、北海道南部から本州にかけての沿岸の、2つに分けて見てみると、北海道北部のほうは「ホッケ」の漁獲量は比較的安定していますが、北海道南部での「ホッケ」の漁獲量は、1990年代から減少し、2000年以降は、急激に減少しています。
水産総合研究センターの報告によると、日本海の北東の水温が、1980年代の後半から2000年代の後半にかけて上昇しているそうです。つまり、「ホッケ」の生息地である北海道の南部の水温上昇が著しいということです。
北海道南部の「ホッケ」は秋に、北海道の檜山沿岸や奥尻沿岸で産卵しますが、この辺りの海では特に夏から秋にかけて、海水の温度が上昇しています。秋に海水温が上がるということは、「ホッケ」の産卵の期間や場所に大きく影響を与えていることになります。つまり、海水温の上昇によって、北海道南部の「ホッケ」の産卵が、ひと昔前のように行われていないといえます。

漁獲量が激減、10年前の3分の1以下に

水産庁などによると、「ホッケ」の漁獲量は、2004年には北海道全体で約17万トンありましたが、去年は約5万トン。前年よりも24%も減っていて、過去最低となりました。
また、道立総合研究機構によれば、漁獲量は10年前の3分の1以下になっているそうです。
北海道では2012年から漁獲制限が行われていますが、その努力はまだ実を結んでいません。

開きが1枚980円!! もはや「ホッケ」は高級魚になってしまった…

北海道では、「ホッケ」は食卓にのぼる定番メニューで、地元では開きだけでなく、煮付けやフライにしても食べています。ひと昔前なら開きは1枚300~400円もあれば買えていましたが、今では少し大きいものだと、980円もします。この値段には地元の主婦もビックリで、「ホッケ」が家庭の食卓にのぼる回数がめっきり少なくなったそうです。
また、東京のスーパーでは、「ホッケ」の開きが例年の3割増しの価格で売られています。
居酒屋でも「ホッケ」は人気メニューでしたが、価格も高いうえ、入荷量も安定しないので、泣く泣くメニューからはずす店もあるそうです。

「ホッケ」の不漁で動物園のエサもピンチ!!

「ホッケ」は栄養のバランスがよく、安価で、安定供給ができるので、全国の動物園や水族館でエサとして使われる代表的な魚です。北海道の釧路市動物園では、1975年にオープンしてからずっと、干物にならないような小さな「ホッケ」を、タンチョウやヒグマ、シマフクロウなどの動物たちにエサとして与えており、昨年は約32トンを使用しました。
ところが、今年に入ったあたりから、「ホッケ」の不漁で入荷量が減少しはじめ、今年の10月にはとうとう手に入らなくなってしまいました。イワシを代わりに使ってみましたが、イワシだけではビタミンが不足するなど、栄養が偏ってしまいます。そこで、北海道以外で獲れたアジやサバに切り替えましたが、これらは「ホッケ」に比べて価格が2倍もします。今後、「ホッケ」が手に入る見通しはなく、釧路市動物園の関係者は、「ホッケが再び入手できるようになってほしい」と話しているそうです。
海水温の上昇によって「ホッケ」が不漁となり、家庭の食卓や居酒屋メニューが変わってしまいました。また、人間だけでなく動物園の動物たちにも影響が出ています。海水温が元にもどり、再び「ホッケ」が庶民の魚になる日はくるのでしょうか。
(参考1:「北海道新聞」2014.11.29夕刊)
(参考2:「水産資源ならびに生息環境における地球温暖化の影響とその予測」、独立行政法人 水産総合研究センター)