日本には明確な四季があり、日本人はその移りゆく自然の情景をとても大事にしてきました。たとえば、「春はあけぼの」で始まることで有名な平安時代の随筆、『枕草子』(まくらのそうし)の中で、清少納言(せいしょうなごん)は四季について、「春は明け方」「夏は夜」「秋は夕暮れ」、そして、「冬は早朝」が風情があって趣があると言っています。では、冬の朝のどんなところがいいと言っているのでしょうか。

『枕草子』では、雪が降っても降らなくても、「冬は早朝がいい」平安時代の京都では、冬に霜が降りたり、雪が降ったりしていたのでしょう。『枕草子』の中でも、雪や霜について書かれています。冬について書かれている部分を現代風に訳してみると、「冬は早朝がいい。雪が降っている朝は言うまでもないし、霜が降りて辺りが白くなっているときも、そうでなくても、とても寒い朝に火を急いで起こして部屋まで持っていく様子も、冬らしくていい」というふうになります。平安時代の名エッセイスト、清少納言がまるで、「冬の朝は寒いからこそいいのよ~!」と言っているようですね。『古今集』では、「明け方、月明かりかと思ったら雪だった」と詠われている「朝ぼらけ 有明の月と みるまでに 吉野の里に ふれる白雪」
これは坂上是則(さかのうえのこれのり)の歌で、百人一首に選ばれています。吉野というのは、今の奈良県吉野郡のあたりで、雪の名所としても知られています。現代語に訳してみると、「夜がうっすらと明けるころ、有明の月の明かりかと思うほどに、吉野の里に降りつもっている白い雪よ」となります。冬の明け方、「あれっ、やけに明るいな、月明かりか?」と思って外を見ると、辺りは雪で真っ白、「それで明るかったんだ!」という感動を詠ったものです。雪が降ると雪が音を吸収して、しんと静かですよね。冷たい空気、薄明るい夜明け、一面の白さと静寂…。冬の朝の情景が伝わる一首ですね。国宝の水墨画『松林図屏風』に描かれた「冬の朝」の空気感 『松林図屏風』(しょうりんずびょうぶ)は桃山時代の絵師・長谷川等伯が描いた最高傑作と言われる水墨画で、国宝に指定されています。冬の朝に靄(もや)がかかる松林を、素早い筆づかいで描いたもので、手前の松は色が濃く、遠くに行けば行くほど淡く、さらに、遥か遠くには薄っすらと雪山が描かれていて、深い奥行きを感じます。余白部分が多いのですが、この余白こそが冬の静謐な空気感を表していて、冬の朝の静けさ、漂う湿潤さ、キリリとした冷たさ、無を感じさせる時間、それらがこの余白から感じられます。
このように、随筆や歌、水墨画など、日本では様々な角度で冬の朝が描かれています。四季のある日本では芸術家たちにとって、冬といえば「朝」が魅力的なのでしょうか。冬本番のこの季節、寒いのは当たり前ですが、寒い寒いと体を縮こめてばかりいないで、いにしえの芸術家たちのように、朝の風情を楽しんでみてはいかがでしょうか。