試合前日にそう語っていたのは主将の長谷部だ。日本が一番警戒していた立ち上がりだったが、UAEはこれまでの対戦相手と違い、素早いパスワークで日本に襲い掛かった。そのスピード感に選手も戸惑ったことだろう。そして前半7分、アメル・アブドゥルラフマンのタテパスに抜け出たマブフートが、ワントラップから鮮やかなシュートを突き刺す。後方からのボールをトラップして、間髪入れずに放った難しいシュートだった。

 UAEが放ったシュートは120分間を通じてたったの2本。そのうちの1本がゴールに結びついた。苦境に立たされた日本は23本のシュートを浴びせ、ようやく後半35分、交代出場の柴崎が本田とのワンツーから起死回生の同点弾を決める。

 その後も波状攻撃を仕掛けたものの、UAEのゴールをこじ開けることはできずにタイムアップを迎えた。

 ボール支配率は前半が60・2%対39・8%、後半は72・5%対27・5%。そして、延長前半が67%対33%、延長後半が86・6%対13・4%。CKは日本の18本に対しUAEは0本だった。試合後、隣に座っていた中東の記者が「ハードラック(不運だった)。日本の方がよいサッカーをしていた」と声を掛けてくれた。それでもUAEが勝ってしまうのがサッカーの怖さでもある。

 PK戦は運が左右すると言うが、「運も実力のうち」という言葉もある。武藤、香川、豊田らが決定機に決め切れなかったことで日本は勝機を逃したということだ。チャンスは作っているものの、決定力不足の課題は残ったままだ。そんなアジアカップで収穫を上げるとすれば、柴崎の輝きだろう。疲労の濃い遠藤に代わって出場すると、緩急のついたパスで日本の攻撃をリードした。

 同点弾は右サイドの酒井にパスを出すとみせてスローダウンし、前線の本田に速いパスを当てて猛ダッシュ。そして本田からのリターンをワンタッチの強シュートで決めた。このプレー以外にも美しいスルーパスを酒井に通して観客を沸かせた。

 今大会で遠藤は国際Aマッチのアジア人最多出場記録を更新したが、遠藤の後継者がやっと現れたことを、日本が発見した大会として語り継がれるかもしれない。

(オーストラリア・シドニー=サッカージャーナリスト・六川亨)