調子の上がらない沢村拓一投手について西武元監督の東尾修氏は、原因をこう語る。

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 巨人の沢村拓一投手が不振で2軍落ちした。後半戦の開幕投手を務めながら、結果が出せなかった。150キロを超える球速は出るけど、肝心な制球力がアバウトだよな。ストライクがほしい時は必ずといっていいほど、速球が来る。日本ハム大谷翔平が162キロを出しても、オールスターで失点した。速球一本ではプロでは抑えきれない。速球を生かす変化球の精度を上げ、終盤の優勝争いに戻ってくることを願うよ。

 現在は控えているようだが、沢村はウエートトレーニングで体を大きくしてきた。昨年3月のWBCで、投手総合コーチの立場で沢村を間近で見たけど、上半身の力が強くて、前後左右へのブレが大きいと感じたよな。松坂大輔(メッツ)、ダルビッシュ有(レンジャーズ)ら、メジャー移籍した投手も、体重を増やす時期にウエートを取り入れた。その流れを沢村も参考にしたのだろうが、無駄な部分の筋肉も多いと感じたよ。

 体が大きくなれば、それだけパワーは増す。それ自体は否定しない。ただ、忘れてはいけない基本軸がある。投手は下半身の躍動を上半身に伝え、肩と腕の回転力につなげる。要はバランス。上半身だけ強くなりすぎると、下半身の動きが弱まり、どうしても上体だけで投げることになる。その結果、頭の軸や目線にブレが生じ、制球が安定しなくなる。体のしなやかさも失われることが多い。私は選手の時に、体重85キロを超えることはなかった。

 バッテリー間の距離は18.44メートル。もし、プレート上で、捕手に向かう体が数センチずれれば、本塁上では、数十センチもの誤差が生じる。それが致命傷になる。西武の菊池雄星もウエートトレーニングに熱心だと聞く。制球にバラつきがあるのは、上下のバランスのズレが生じているのではないか。

 ダルビッシュや田中将大(ヤンキース)が、体を大きくしてもバランスが変わらないのは、下半身をしっかりと使い、最後のフォロースルーもしっかりと大きくとっているからだ。安定性を保ったまま、球威を増すことができている。

 体を大きくする上で、徐々に必要な筋肉をつけていくのではなく、一気に体を大きくして、無駄をそぎ落とすという考え方もあると思う。ただ、無駄な部分だけそぎ落とすことは容易じゃない。体を大きくしたら、投球フォームも変わるし、体を絞る段階でフォームがまた変化する。元に戻すという作業は困難を極める。

 最近、振りかぶって投げるワインドアップを使う投手も減ったな。走者がいなくてもセットポジションで投げる投手が多い。安定性を増すためには良いが、下半身をしっかり使う意識を持たないと意味がない。投球の初動の部分の無駄をなくしているだけ。セットで投げることと、最後のフィニッシュの部分の安定感を生むこととは別だよ。下半身が使えないと、肩、ひじにも負担がかかってしまう。

 一流選手を参考にするのは中高生にとっても良いことだ。しかし、その本質を理解しないと、遠回りしてしまう。プロ選手もそう。

 私の現役時代と違い、トレーニング技術が発達し、体のメカニズムも細部まで解明されている。だけど、選択肢が多い分、その効用や意図をしっかり把握しないと、間違った方向へ進んでしまう。何度も言うけど、見てほしいのは本質だよ。

週刊朝日 2014年8月15日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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