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    『鬼滅の刃』竈門炭治郎の日輪刀の知られざる秘密 「刀鍛冶の里」で起こった“ある事件”とは

    【※ネタバレ注意】以下の内容には、今後放映予定のアニメ、既刊のコミックスのネタバレが含まれます。 『鬼滅の刃』アニメ新シリーズ「刀鍛冶の里編」の制作が発表されて以降、新情報はまだ解禁されていない(2022年9月30日時点)。このシリーズで新しく参戦する、恋柱・甘露寺蜜璃と霞柱・時透無一郎のティザービュジュアルや新PVの完成度の高さは、ファンの期待を高めている。放映時期、新しい声優メンバー発表が待ち遠しい今だからこそ、「刀鍛冶の里編」の見どころについて、放映前におさらいしておきたい。今回は主人公・竈門炭治郎が刀鍛冶の里で手にする、「新しい日輪刀」の謎について考察する。炭治郎の日輪刀は、刀鍛冶の里で起こる“ある事件”をきっかけに、大きな変化を遂げることになる。 *  *  * ■「英雄」が使う入手困難な「剣」  古今東西、物語のヒーロー(英雄)たちは、異能、優れた身体能力、稀有な道具を使って強大な敵と戦う。英雄と「剣」にまつわる伝承は数多くあり、石に刺さっていたアーサー王の名剣エクスカリバー(「アーサー王物語」)、リンゴの大木に突き立てられていたシグルズの名剣グラム(『ヴォルスンガサガ』)など、その由来は象徴的に語られている。『日本書紀』『古事記』に登場する、八俣大蛇(ヤマタノオロチ)の尾から見つかった草薙剣(くさなぎのつるぎ。※天叢雲剣 あめのむらくものつるぎ)もそれにあたる。  いずれも入手困難であること、他の物体から取り出されること、持ち主が運命的に“選ばれている”ことを想像させる語りであることが特徴だ。 ■『鬼滅の刃』の「日輪刀」の神話性 『鬼滅の刃』において、鬼と戦う鬼殺隊の隊士たちは、「日輪刀」と呼ばれる、太陽のパワーを秘めた刀を使用するが、不死に近い肉体を持つ鬼を倒すためには、この日輪刀が必須となる。 「日輪刀は 別名 色変わりの刀とも言ってなぁ 持ち主によって色が変わるのさぁ」(鋼鐵塚蛍/2巻・第9話「おかえり」)  日輪刀は原材料が「陽光を吸収する鉄」で、それだけでも神話的なエピソードだが、刀の持ち主が「道具」である日輪刀に「色変わり」という影響を与える相互性が興味深い。日輪刀の「色変わり」が、入隊試験を終えた鬼殺の剣士の第一の関門となる。 ■竈門炭治郎の「日輪刀」  炭治郎は水柱・冨岡義勇(とみおか・ぎゆう)の導きによって、元・水柱の鱗滝左近次(うろこだき・さこんじ)から、剣術と体術の指南を受けた。コミックス1巻・第4話で炭治郎の説明とともに描かれている刀は、おそらく鱗滝から借りたものだ。これには、柱の日輪刀に刻まれている「惡鬼滅殺」(あっきめっさつ)の文字はなく、通常の刀であると思われる。2巻で炭治郎がはじめてもらう日輪刀にも刻まれていない。 「この刀の後から階級制度が始まり 柱だけが悪鬼滅殺の文字を刻むようになったそうだ」(鋼鐵塚蛍/15巻・第129話「痣の者になるためには」) 注※セリフ中では「悪」の表記 注※「この刀」=刀鍛冶の里で手にする新しい炭治郎の刀。300年以上前のもの。  炭治郎は激戦のために、何度か日輪刀を破損・紛失し、そのたびに自分の日輪刀の制作者である、鋼鐵塚蛍(はがねづか・ほたる)から厳しく叱責されている。しかし、炭治郎はもともと「水の呼吸」の使い手である。のちに「ヒノカミ神楽」を使うようになった彼の日輪刀にも、変化が必要だったはずだ。そんな時に、刀鍛冶の里で、炭治郎は「新しい日輪刀」と出会う。 ※以下、放映予定の「刀鍛冶の里編」の内容が含まれます。ネタバレにご注意下さい。 ■刀鍛冶の里での「事件」(1)  遊郭での戦いの際に、日輪刀を刃こぼれさせてしまった炭治郎は、鋼鐵塚から「お前にやる刀はない」と言われてしまう。新しい刀も届けてもらえなかった。炭治郎は鋼鐵塚と直接話をするため、刀鍛冶の里に出向くが、そこでいくつもの事案が重なって、300年以上前に実在したという天才剣士を模した「カラクリ人形」と戦闘訓練を行うことになった。  刀鍛冶の少年・小鉄の助力もあり、炭治郎の能力はさらに覚醒する。とうとう炭治郎が「カラクリ人形」に勝ったその瞬間、その人形の「体内」から、1本の日輪刀があらわれた。神話的物語において、「英雄」の条件のひとつである、「入手困難な剣」を炭治郎が手にした瞬間だった。この「天才剣士のカラクリ人形」に勝つことは、炭治郎にとって通過儀礼としての意味を持つ。さらに、この「剣」の持ち主は、炭治郎の祖先、炭治郎の耳飾りとも関係していた。  一見、唐突とも思える「カラクリ人形」の描写であるが、このカラクリ人形のモデルとなった剣士と竈門家の縁、「強い者」を倒すことで手に入れられる「最強のアイテム」というエピソード、そして、その剣が「体内」から出てくるところに、強い神話性が感じられる仕組みとなっている。これらは鬼滅の作者・吾峠呼世晴氏の周到な「仕掛け」であるといえよう。 ■刀鍛冶の里での「事件」(2)  この「天才剣士の日輪刀」は、そのまま使用できるわけではなかった。長い年月によって、著しく劣化していたからだ。そこで、刀鍛冶の里の「技の継承」が、この古い日輪刀をよみがえらせるために必要となる。上弦の鬼たちが刀鍛冶の里を襲撃してきたことにより、炭治郎たちは刀鍛冶を鬼から守らねばならない。 「天才剣士の日輪刀」を研ぐ鋼鐵塚は、顔を切られても、目をつぶされても刀の研磨をやめなかった。敵である上弦の鬼にすら「私とてこれ程集中したことはない!!芸術家として負けている気がする!!」と言わしめている。そして、小鉄少年も命をかけて日輪刀を守ろうとした。 「時透さん… お 俺のことはいいから…鋼鐵塚さんを…助けて…刀を…守って…」(小鉄/14巻・第118話「無一郎の無」)  刀鍛冶たちの熱い思いと技の継承が、炭治郎の「新しい日輪刀」に命を吹き込む。 ■完成された炭治郎の「日輪刀」  この「新しい日輪刀」は、『鬼滅の刃』のテーマともいえる「継承」を表現し尽くしたモチーフだといえるだろう。 「血の継承」のエピソードとして、竈門家が先祖から受け継いだ縁の深さが語られている。竈門家で相伝された「ヒノカミ神楽」は、数百年の時をへて、天才剣士の技を後世につなぐものだった。  次に「技の継承」であるが、これは刀鍛冶たちの日輪刀製作の様子からうかがい知ることができる。また、冨岡義勇と鱗滝左近次、ともに戦ってきた仲間によって研鑽されていった炭治郎の剣技も、「技の継承」を示している。「選ばれた血」だけが人を強くするのではない、炭治郎の成長には、多くの人たちの「思い」がつながっているのだ。  鬼の攻撃によってひどい傷を負った鋼鐵塚から、研磨が完成した日輪刀を手渡された炭治郎は涙を浮かべた。 「あっ刀… ありがとうございます 煉獄さんの鍔だ!!」(竈門炭治郎/15巻・第129話「痣の者になるためには」)  炭治郎の「新しい日輪刀」は、炎柱・煉獄杏寿郎の鍔がつけられたことで完成する。刀鍛冶の里では、この鍔がある1人の人物の命を救う。誰も死なせはしないと、言った煉獄の願いが、この鍔に込められている。たくさんの人々の心を背負って、炭治郎は戦う。  「刀鍛冶の里編」では、「新しい日輪刀」のエピソードひとつをとっても、これほど重層的な物語が展開される。続報が待ち遠しい。 ◎植朗子(うえ・あきこ)1977年生まれ。現在、神戸大学国際文化学研究推進センター研究員。専門は伝承文学、神話学、比較民俗学。著書に『「ドイツ伝説集」のコスモロジー ―配列・エレメント・モティーフ―』、共著に『「神話」を近現代に問う』、『はじまりが見える世界の神話』がある。AERAdot.の連載をまとめた「鬼滅夜話」(扶桑社)が好評発売中。

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    「しつけが悪い」で追い込まないで 発達障害のある子を早期支援へつなぐ課題とは

     今年7月、福岡で発達障害のある中学生を殴るなどして、施設の理事長らが逮捕された。背景には、養育ストレスを抱えた親への支援の脆弱さがある。誰もが生きやすい社会にするにはどうすればいいのか。AERA 2022年10月3日号の記事を紹介する。 *  *  *  発達障害の子を持つ親は追い込まれていると話すのは、千葉県松戸市にある社会福祉法人「まつど育成会」統括施設長の早坂裕実子さんだ。 「発達障害の子どもを持つ親御さんは、わらをもすがる思いで来られます」  同施設は、子どもから大人までの障害者支援を行う。中でも、幼少期から思春期にかけての発達障害の子どもを持つ親からの相談は深刻だという。  子どもが家の中で全裸のままトイレをどこにでもしたり、家の壁を壊したり。途方に暮れ、子の首を絞めて一緒に死のうと考えるという親もいる。  そこまで親を追い詰めるものは何か。 「親御さんはいろいろな施設に相談に行かれます。しかし、その子に合った『見立て』の中で適切に支援をしてくれるところが少ないと思います」(早坂さん)  例えば、「自閉スペクトラム症」(ASD)と言っても、一人一人様相が異なる。対応が難しい子ほど適切な療育や支援をしてくれる施設は多くない。そうした中で子どもが行動の問題を起こすと「うちの施設では対応が難しい」と言われ、親はまた別の施設を探すことになる。こうして行き場をなくした親は追い込まれていく。早坂さんは自戒の念を込め、「現場の力が足りない」と話す。 「職員は学校で福祉を学んでいても、相対的な学習であって、すぐに一人一人の子どもに合ったアプローチはできません。子どもの困りごとと向き合い、子にも親にも適切な支援を届けられるような、職員の専門性を高めることが重要になっていくと思います」  福岡の事件では、逮捕理由に関連し、理事長による強度行動障害のある人への虐待とも取れる行為の問題も指摘されている。鳥取大学大学院の井上雅彦教授(応用行動分析学)はこう話す。 「強度行動障害の支援現場では、専門知識を持った人材が不足しています。職員は研修を受ける余裕がなかったり、精神的にも高いストレスを抱えたりしている現場が多いのです。さらに、子どもが感情的になった時にはクールダウンする部屋やスペースも必要ですが、資金面で難しいということもあり、行動面での問題を持つ子どもの受け入れ環境は十分と言えません。預かりや利用を拒否されるケースもあります」  問題行動が生じてからの身体的な抑制行為に対しては、押さえつけや抑制など侵襲性の高い方法は、本人や他者への危険が切迫した状況の中で他の方法がない場合にやむを得ず一時的に許される場合はある。しかし、と井上教授は言う。 「『治療』として行うことは倫理的な問題だけでなく、対象者にとって身体的・精神的に取り返しのつかない大きなダメージを残すリスクがあります」 ■子どもに合わせた対応と早期支援がカギになる  こうした課題をクリアする上で重要とされるのが「早期支援」だ。05年に施行された発達障害者支援法では、早期の発達支援が重要と条文にうたわれた。  発達障害のある子どもと親への支援を行う特定非営利活動法人「ADDS」共同代表の熊仁美さんは、早期支援の重要性についてこう語る。 「早期支援をしたからといって、必ずしも就学後に行動の問題が起こらないということはありません。しかし、例えば、欲しいものがあれば『ちょうだい』、嫌なことがあったら『いや』と自分の意思を表示する手段を教え、それがしっかり周囲の人に伝わったという経験を早いうちから積み重ねることはとても重要です。また、早期からさまざまな遊びを通じて、子どもが落ち着いて楽しく過ごすための活動や手段を見つけ、その幅を広げていくことも早期支援の重要な目的です」  逆に、支援が遅くなればなるほど、子どもも親も苦しむことになる。ASDは早期支援が、後の発達や予後によい影響を及ぼすことがさまざまな研究で報告されている。  熊さんたちが実践しているのが、「ABA」と呼ばれる心理学の理論に基づいた療育プログラムだ。Applied Behavior Analysisの頭文字をとった略称で、「応用行動分析学」と称される。具体的な目標を立て、スモールステップに分解し、成功体験を積み重ねる。子ども一人一人の学び方に徹底的に向き合うエビデンスに基づいた方法だ。 「大切なのは、障害を持ったお子さんを変えようとアプローチするのではなく、お子さんの周りにいる親御さん、そして支援者がともに学びながら伴走していくことです」(熊さん)  例えば、幼稚園で運動会の練習が始まり、普段のルーティンが崩れて子どもの癇癪が増えた場合。癇癪(かんしゃく)を抑え込んだり我慢させようと考えるのではなく、園の先生と協力してスケジュールの予告をしたり、家で遊戯のビデオを見てみたり、運動会の部分的な参加を検討したり、本人に合わせた対応を柔軟に考えていくことが必要となる。 「こうした日常の変化に合わせた細かい判断を、親御さんが一人で考えるのは本当に大変です。そこで支援者が、次の見通しを立てながら一緒に考えていくことが重要となります。一口に発達障害といっても千差万別。お子さんやご家庭に合った個別の支援を、早期からしっかり行う体制をつくっていくことが大切だと感じます」(同) ■「保護者頼み」から地域で支えあう仕組みへ  親の苦悩や悩みを受け止め、施設での子どもの虐待をなくすにはどうすればいいか。熊さんは、地域で支えあう仕組みづくりが重要だと話す。 「今の制度は保護者頼みになっていて、保護者の負担が大きすぎると感じます。また、私たちは早期支援を中心に行っていますが、年齢があがるにつれどこに相談したらよいか分からない、という声を頂くことも多い。問題が重篤化する前に、予防的な支援が行える場が少ないのです。エビデンスに基づく支援が早期に受けられる仕組みや、障害を抱えたお子さんと保護者を地域全体で長期的に見守っていく仕組みが必要ですし、私達もその一端を担わなければという思いです」  福岡で起きた事件は、決して許されるものではない。しかし、特異な事件と片づけるのではなく、事件の背景にある子どもや保護者の苦しみ、そして支援者の現状に目を向け、よりよい仕組みづくりへと活かしていくことが必要だという。  逮捕された理事長らが、苦悩する保護者を前に、自分たちにしか解決できないという誤った使命感を抱え、孤立し、行き過ぎた行為になっていった側面もあるのではないか。そしてそこに救いを求めるしかなかった保護者がいることにも目を向けなければならない。 「地域で困っている親御さんには、行政が密に連携を取り、ライフステージで切れ目がないよう関わっていくことが必要です。対応が難しいケースほど、当事者だけでなく支援者をしっかり支え、抱え込んだり孤立したりしないようにする。地域みんなでつながり、長期的にお子さんや親御さんを支える仕組みが求められると思います」  井上教授は、まず「家族への支援を進める必要がある」と話す。 「行動面で問題のある子どもを持つ親は追いつめられ、誰かに相談したくても『しつけが悪い』などと言われると思い、相談機関に行けない人が多くいます。そのハードルを下げ、家族を孤立させない仕組みづくりが求められます」  そのために重要というのが、「ペアレントトレーニング」と「ペアレントメンター」の二つ。前者は、子どもの困った行動に対する適切なかかわり方を親が学び子どもの望ましい行動を促すもので1960年代に米国で開発された。後者は、発達障害の子どもを育てた経験のある人が「先輩の親」として、就学後の不安や学校での心配事などを抱えた「後輩の親」の相談者になるという当事者同士の支えあいの仕組みだ。2005年に日本自閉症協会が養成を始め、いま全国で1800人近いペアレントメンターが養成されている。これらの普及に向けては、実施に必要な人材の育成などが課題とされている。  井上教授はこう話した。 「地域での発達障害支援は法律や仕組みは示されていますが、自治体による差も大きく、まだ道半ばと言えます。強度行動障害などによって地域での支援から切り離され、孤立してしまいがちな子どもやご家族は少なくありません。子どもから成人までの切れ目のない支援と機関の連携、家族も含めた支援を整えていくことで、みんなが生きやすい社会になっていきます」 ※当初の配信記事に「例えば、落ち着きがない『注意欠陥・多動性障害』(ASD)と言っても」とあったのは、「例えば、『自閉スペクトラム症』(ASD)と言っても」の間違いでした。おわびして訂正いたします。 (編集部・野村昌二) ※AERA 2022年10月3日号より抜粋

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    22時間前

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    深澤辰哉「You Tubeはすっぴんで」に込めたまっすぐな思い 「一番近くにいる人」とは

     セカンドアルバム「Snow Labo.S2」で、ダンスナンバー「Movin’ up」を担当したSnow Manの深澤辰哉さん。デビューからいままで変わらない、グループらしさ、自分らしさについて語った。AERA 2022年10月3日号から。 *  *  * ――2ndアルバム「Snow Labo.S2」は、メンバーが一人一ジャンルを担当して選曲を行うところからスタートしたという。ユニークな制作スタイルだ。 深澤辰哉(以下、深澤):Snow Manは「これ」という一つのイメージにとらわれないで、いろいろなジャンルに挑戦していく、という意味で「Labo(研究所)」なんです。1stアルバムではできなかった「こんな曲もやっちゃうの?」というジャンルにもチャレンジしているので、今のぼくらだからこそ広げることができた「表現の幅」を楽しんでもらえると思う。  アルバム全体の候補曲を一から決めるとなると、全員が100曲近い楽曲を聴かなきゃいけない。でも今回は、自分の担当ジャンルの候補十数曲の中から3曲くらいに絞って、メンバーにプレゼンを行って、そこから全員で決める形にしたんです。これなら自分の担当ジャンルにたくさん時間を使えるから、細部にこだわる余裕と責任感が生まれる。俺も「中途半端な楽曲は作れないぞ!」という気持ちになりました。 ――担当したのはグループの真骨頂ともいえる「ダンスナンバー」。「Movin’ up」は、エッジの利いたサウンドに加え、「今」に満足せず、さらなる高みを目指す歌詞が印象的だ。 ■自分たちを鼓舞する 深澤:歌詞も「対自分たち」を意識して作った、自分たちを鼓舞する楽曲です。  曲作りにもけっこう踏み込んで意見を言わせていただいて。もともと間奏がなかった箇所に「どうしてもここに間奏を入れたい」とか、「このフレーズは頭に残るけど、聞き馴染みがありすぎるので、ちょっと変えたい」とか、いろいろお願いしました。個々がそうやって制作した「より良い一曲」が集まって、本当にいいアルバムができたと思う。このアルバムのツアーも始まりますが、「Movin’ up」は激しいダンス曲になると思うので、パフォーマンスにも期待していただきたいですね。 ――「Movin’ up」には「本当の敵は自分自身だろう」という歌詞が出てくる。自身もそう感じる瞬間はあるかと尋ねた。すると、グループの中で率先してボケたり三枚目役を引き受けたりする深澤の、意外な一面が見えた。 ■「今の自分」がらしい 深澤:もともと、めちゃくちゃ人見知りなんです。すぐ「あ、これはダメだな」と、マイナス思考になってしまう。特に「俺のことを知らないだろうな」という人が多いと、前に出ていけない。  これはちょっと前の話ですが、「櫻井・有吉THE夜会」に出演させていただいたとき、そんな人見知りの自分が思いっきり出てしまって、一回もしゃべれなかったことがありました。落ち込みましたね。「夜会」は(Snow Manの冠番組の)「それSnow Manにやらせて下さい」と同じスタッフさんが関わっているので、自分が抱える悩みを打ち明けて話を聞いてもらったりしました。  でも、そのときの大きな後悔と反省があったからこそ、今はだいぶ殻を打ち破って出ていけるようになったと思う。今もネガティブな思いが消えたわけじゃないけど、考え過ぎないことを心がけて、自分からしゃべるようにしたらラクになりました。結局、何事も自分次第なんですよね。自分が変われば周りも変わる。もともとの俺と今の俺は相当違うけど、「今の自分」が、一番「自分らしい自分」だと思います。 ――Snow Manの前身となるグループに加入したのは17歳のころ。これまでさまざまな岐路があった。デビューを目指し、試行錯誤しながら長い道を歩き続けたが、「選んだ道は全部間違ってなかった」と感じる。 深澤:昔はけんかもしていました。でも、グループとしてはずっと仲は良かった。後輩たちがデビューしていく中で、同じような複雑な感情を共有できる人って、Snow Manのメンバー以外いない。そりゃ大切にしたい人たちです。でも、だから、仕事の話ができなかった。仕事の話になると少し変な空気になるし、それも嫌だった。お互い「言わなくてもわかるだろ」という勝手な思い込みもありました。  今思うと、もっと早く話せばよかったのかもしれない。でも、仕事の話ができなかったからこそ、今のSnow Manがあるのかもなぁ、とも思うんです。人生って少しのことで変わっちゃうから。正解は誰にも分からないけど、決断する場面、場面で、きっと正しい方を選んでくることができた気はします。  そもそも、俺はカッコいい路線でいきたかった人間です。滝沢(秀明)くんとA.B.C-Zの河合(郁人)くんに出会って、滝沢くんに「お前はそっちじゃない」と言われて、仕方なく三枚目をやったから今の自分がある。昔から人に恵まれているし、運がいいんです。なんだかわからないけど、いい方向に進めるんです(笑)。 ■満足はしていない ――いざデビューを果たすと、CDはミリオンセールスを連発。破竹の勢いで活躍の場を広げているが、現状の満足度を尋ねると不敵な笑みを浮かべた。 深澤:だって俺、「Movin’ up」を作ったんですよ?(笑)。満足はしてないです。  でも、Snow Manが世間の人に「すごい」と言ってもらえるのは、支えてくれているファンの人たちがすごいからなんです。何かあるとSNSのトレンドに入るし、反響の大きさに俺らが「うそ!?」となるときもよくあります。そこに対しては、本当に感謝してもしきれません。  あと……自分たちのことを言うのはアレだけど、デビューさせていただいて2年半経ちますが、何かを届けるときの熱量の高さは、変わらずキープできていると思います。歌番組に出る前は、今も必ず30分はダンス練習をします。そこは自分が所属しているグループながら、いいなあと思う。そういうのは、きっと見てくれる人に伝わると思う。今まで通り「らしく」努力を続けていけば、もっともっとぼくらを応援してくれる人が増えてくれると思っています。 ――深澤の名を検索すると、上位にサジェストされるのが「リアコ」というワードだ。リアルに恋しているの略語で、「推し」ではなく、リアルな恋愛感情を抱くことを指す。Snow Manの“リアコ枠”として人気を誇っている。 深澤:それ、よく言われるんですけど、自分では全然理由がわからなくて。たぶん、「普通」だからでしょうね(笑)。どこにでもいそうだし、本当にその辺にいますし。昨日も買い物をしていたら、「ファンです」という人と居合わせて、「そうなんだ、何買うの?」とか普通にしゃべりました(笑)。そうやって人と話すのが、息抜きにもなる。こうしてインタビューを受けているときも、番組収録中も、原宿を歩いてるときも、俺は「同じ」なんです。人に信頼してもらうには「作らないこと」って大切だと思うから。  だから俺、YouTubeに出る時はすっぴんで出たいんです。テレビ番組に出演する時はちゃんとメイクしますけど、主にファンの人に届けるコンテンツでは、作りすぎた「アイドル」ではなく、ラフな自分でいたい。作った俺が話す「思い」は届かない気がして。俺はいつまでもファンの「一番近くにいる人」でいたい、と勝手に思っているんです。 ――今年30歳を迎えた。憧れる男性像を尋ねた。 深澤:滝沢くんと河合くん。自分が追いかけた先輩方はやっぱりすごかった。憧れますね。滝沢くんには、「面倒を見た後輩の中で、お前がダントツで手がかかった」と言われますけど、自分としては素直でいい子だったと思うから、ちょっとわからない(笑)。でも、見捨てないで育てていただきました。自分が与えてもらったように、いつか誰かにいい影響を与えたい。そんな人になれたらいいですね。 (ライター・大道絵里子)※AERA 2022年10月3日号

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    18時間前

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    他球団が欲しがる「巨人の中堅2人」 トレードなしで起用も増えず「もったいない」の声も

     現在セ・リーグでBクラスに沈んでいる巨人。新型コロナウイルスの集団感染で多くの選手が離脱して苦しい状況ではあるが、ここからの巻き返しに注目が集まる。そんな中、石川慎吾、重信慎之介と能力的には高く評価されているものの、なかなか出場機会が回ってこない中堅2人が存在する。  選手層の厚いチームという事情もあり、常時出場は難しいかもしれない。加えて、若手への切り替えを図る球団方針もある。出場機会が減ってしまうのは理解できるが、あまりにチャンスが少ない。他球団へ行けばレギュラー争いに加わることのできる実力があると言われているだけに「もったいない」の声も多い。  開幕から調子に乗り切れない巨人はペナント争いで首位から13ゲーム差の5位。先述のようにオールスター前にはコロナ禍の直撃を受け、7月19日からの4日間で首脳陣、選手、スタッフを含め計73人が陽性判定を受けた。  優勝争いは非常に厳しい状況ではあるが、今はチームが若返りの時期でもあり、有望株たちの奮起も期待されている。野手では坂本勇人の後継者と言われる中山礼都、レギュラー定着が期待される増田陸に加え、秋広優人、菊田拡和など有望株は少なくない。一方、投手でも大卒ルーキーの大勢がストッパーとして活躍し、赤星優志、山崎伊織、堀田賢慎など開花の兆しを開幕当初に見せていた将来のエース候補は多い。 「良い素材が多いのは間違いないが中心選手になるには数年かかる。若手の積極起用が苦戦にもつながっている部分もある。編成面も任される原辰徳監督は数年先を考えているのでしょう。オフの積極補強がなかったのを見ても、球団方針として決定事項なのかもしれない」(在京球団編成担当) 「(若手が期待通り成長すれば)将来的に黄金時代が来るかもしれない。しかし巨人は常勝を宿命づけられている球団。ファン、スポンサーなどが(勝てない)現状に対して不満を持っている場合も多い。中堅クラスの実力者をなぜ使わないのかという声も聞こえる。石川、重信はその最たる例です」(大手広告代理店関係者)  数年後を見据えヤングジャイアンツを育成するのはごもっとも。しかし巨人のファン、そしてスポンサーなどは「常に勝利」を求めている。結果を出せる可能性がある実力者を起用すべきとの意見もある。  そして、二軍などで結果を出しながらも「起用されない選手」の筆頭が石川だ。  石川は16年オフのトレードで日本ハムから巨人に移籍。加入1年目となった17年には99試合に出場して、57安打、5本塁打、20打点と存在感を見せたが、それ以降はなかなか出場機会を増やせないでいる。だが、先述のようにファームでは常に結果を残し続けており、一軍で使われないのが不思議な気もするほどだ。 「打撃はレギュラークラス。特に飛距離はトップクラスで逆方向の打球も簡単にスタンドインさせる。東京ドーム外野席上部看板にもバンバン当てています。外野守備も決して悪くなく標準以上でもある。出番は少ないですが確実に仕事をこなせるメンタルの強さもある」(巨人担当記者)  石川は今季もこれまで一軍の出場は13試合と少ないが、打率.353(17打数6安打)とハイアベレージをキープしている。新型コロナウイルスの影響で選手も大量に離脱しており、ここからチームの救世主的な存在となれるのか。  また、石川と同じ外野手の重信も実力がありながら出場機会に恵まれない選手の一人だ。早稲田大時代から安打製造機として知られ、15年のドラフト2位で巨人に入団。即戦力として期待されながらも、なかなかレギュラー奪取には至らず中堅の域に差し掛かっている。 「早稲田の先輩であるヤクルトの青木宣親のような活躍を期待されたが伸び悩んでいる。大学時代の活躍から、将来的にはメジャー挑戦もという声も上がったほどの選手だった。試合に出れば確実に結果を残すが、パフォーマンスが安定しないところもある。チーム編成上の影響もありレギュラー奪取とまではいかない状況が長く続いている」(巨人担当記者)  今のところ巨人ではともに一軍当落線上の選手にはなってしまってはいるが、他球団からの評価も高い。7月31日のトレード期限までに動きはなかったが、「試合に出さないのであれば欲しい」という声も多くあるようだ。 「石川は代打だけでは惜しい。スタメンで4打席立てばシーズン25本塁打は期待できる。重信は実戦タイプで伸び代もまだ感じる。試合に出続け経験を積めば大学時代のような存在感を示すことができる可能性もある」(在京球団編成担当)  これからのチームを担う若い選手を育てなければいけないチーム事情もある。かつての坂本や岡本和真などは若手時代から我慢して使い続けたことで、現在のような確固たる地位を築くことができた。だが、常勝チームがゆえに勝つことも求められる。そうなった場合、やはり石川、重信のような選手も積極的に起用しなければいけないような気もするが……。 「全ては原監督の考え方次第。これだけ苦戦をしても若手中心の起用法に変化はない。今後も同様ならば石川と重信の立ち位置も変わらないので、トレードの可能性も出てくる。2選手との交換でポイントを絞って戦力補強をしつつ若手育成をするのが現実的ではないか」(巨人担当記者)  巨人は今、ピンチを迎えている。球団史上2度目となるシーズン最下位の可能性もでてきた。若手へのシフトも重要だが、目先の1勝も大きな意味を持つ状況になっている。新型コロナウイルスの影響で離脱した選手が多い中で、石川、重信の起用は増えるのか。また、シーズンオフのトレードなど、名門チームでくすぶる中堅2人の今後はどうなっていくのだろうか。

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    【前編】22歳元女性自衛官が実名・顔出しで自衛隊内での「性被害」を告発 テント内で男性隊員に囲まれて受けた屈辱的な行為とは

     元女性自衛官が実名・顔出しで、訓練中に受けた性被害をYouTubeで告白したことが話題を呼んでいる。五ノ井里奈さん(22)は、陸上自衛隊に所属していた2021年の6月~8月、複数の上官から集団でセクハラを受けたという。上長に被害を訴えても取り合ってもらえず、自衛隊内の捜査機関に被害届を出しても、検察からは不起訴とされた。現在は検察審査会に不服申し立てをし、結果を待っている。五ノ井さんは、AERA dot.の単独インタビューに応じ、「日常的に起きているセクハラの被害から、残された女性隊員を守りたい」と、自身の受けた体験を語った。 *  *  * 五ノ井さんが陸上自衛隊に入隊したのは、2020年4月。小学生の頃から女性自衛官に憧れ、20歳のときに自衛隊の門をたたいた。教育期間は順調にこなし、その時までは、思い描いていた自衛官の姿に誇りとやりがいを持っていた。  だが、その後に配属される中隊名が発表されたときから、風向きが変わった。女性の先輩隊員から、こんな忠告を受けたのだ。 「あそこの中隊はセクハラとパワハラがひどいから気をつけろ」  五ノ井さんが配属された東北方面の中隊は、隊員58人の中で女性は5人。1人は育休中だったので、実質的に女性隊員は4人しかいなかった。同部屋の女性隊員からも「セクハラは覚悟して」と言われたので警戒はしていたものの、すぐにそれが現実のものとなった。 「2020年秋ごろ、勤務中に、男性隊員が『柔道しようぜ!』と言いながら技をかけてくるのですが、腰をつかまれて“バック”のような体制にされて腰を振ってくるんです。それを女性隊員が目撃していました。廊下を歩いていると、急に抱きつかれることも日常的にありました」(五ノ井さん)  部屋に戻ると、女性隊員同士でこうした行為を報告しあった。だが女性隊員は圧倒的少数。自分の身を守るだけで精いっぱいの場合もある。  2021年6月24日。山に入って訓練をしていた時、新人の五ノ井さんは夕食や酒のつまみを作る役割を任されていたので、天幕で料理を作っていた。天幕とは2~3人用のテントのことで、山での訓練では寝床として使用されていた。天幕で酒盛りをし、定員より多い男性隊員が入れ代わり立ち代わり入ってきて、多いときには5、6人くらいの隊員がぎゅうぎゅうになって座っていた。料理を作るためにいた五ノ井さんはその輪の中に入れられ、胸をもまれ、キスをされ、男性隊員の陰部を下着越しに触らせられた。  逃げられないと思った五ノ井さんは、別の天幕にいる女性隊員にLINEで「はやく来てください」と助けを求めた。女性隊員からは「オオカミなってる??w」と返事がきた。「オオカミ」とは、男性がお酒を飲んで暴走し、理性をコントロールできない状態のこと。「はい」と返せば、女性隊員は助けに来ないと思い、五ノ井さんは「なってません とりあえず早く来てください」と再度助けを求めた。だが、その女性隊員は「今来たらやばい」という別のLINEも受け取っていたことから、結局、五ノ井さんのいる天幕には来なかった。女性隊員はその直後に退職した。  状況としては“見捨てられた”ようなものだが、五ノ井さんはこの女性隊員の気持ちもわかると話す。 「女性隊員が自分の身を守るためには、来ないのが正解なんです。夜遅い時間に男性隊員のストレス発散に使われて、自分だって危ない目にあう可能性があるんですから、行きたくない気持ちにもなりますよ」(同)  五ノ井さんからLINEを受け取った元女性隊員は当時の状況をこう証言する。 「LINEを受け取った前日に、私も同じ天幕で宴会に参加して、同じようなセクハラを受けていました。その時は、男性隊員から膝に乗って接待しろとか、頬にキスしろと強要されました。ある男性隊員から次の日は『覚悟しとけ』と言われ、もう何をされるかわからないので、五ノ井さんに助けを求められた時に行くことができませんでした。止めに行きたい気持ちはあったのですが、止めに入ったら(次は)自分に来るので、怖くて助けられませんでした」  元女性隊員自身も「ほぼ毎日抱きしめられる」などのセクハラを受けており、五ノ井さんが日常的に被害にあっている場面も目撃していたという。元女性隊員によると、この部隊は2018年から女性隊員が入るようになり、その時から、「セクハラがヤバイ」として悪評が立っていた。セクハラをしているグループの中心は、20代後半の男性隊員数名で、他の隊員は上下関係から、逆らうことができず、ただ見ているだけだったという。  だが、この日のセクハラ事件は、中隊でも問題となった。事件を目撃していた誰かが、中隊長に報告したからだ。すぐに「中隊長に告げ口したのは誰か」と、犯人捜しが始まり、被害者である五ノ井さんが疑われた。加害者からは、「セクハラじゃなくて、コミュニケーションの一部だもんな」と声をかけられた。事情聴取として曹長から呼び出された五ノ井さんは「何もありません。大丈夫です」と報告した。問題が大きくなり、組織に居づらくなるのを避けようとしたからだ。 「自衛隊には厳しい上下関係があって、その場の空気に合わせなければならない。和を乱せば、無視や陰口を言われますから」(同) ■セクハラを超えた性被害を受けて限界に  この日以降、五ノ井さんは気持ちを押し殺しながら日常的なセクハラに耐えてきたが、昨年8月に我慢の限界に達する出来事が起きた。  8月3日から地方で約1カ月間の訓練があった。訓練場所に到着した日の夜、部屋で食事の準備をしていた五ノ井さんは、男性隊員から「料理はいいから接待しろ」と言われ、男性隊員十数人の輪の中に座らされた。宴会だったので、隊員らは酒を飲んでいた。  一曹Eと二曹Yが格闘の話をしていたところに、男性隊員S三曹が部屋に入ってきた。するとEは、Sに「五ノ井に首をキメて倒すのをやってみろ」と命令した。Sは、五ノ井さんの首に両手を当てて、そのままベッドに押し倒すような技をかけた。 「この時、Sさんが暴走し始めたのです。股を無理やりこじ開け、腰を振りながら陰部を押し当ててきました。一人で『あんあん』とあえぎ声みたいな声を出して、それを見ている周りの男性隊員たちは笑っていました。特にEとYはこっちを見ながら確実に笑っていました」(同)  続いて、2人目の男性隊員Kも「首をキメて」押し倒し、Sと同様の動きをした。さらに続いた。3人目男性隊員Rは同様に押し倒した後、五ノ井さんの両手首を押さえつけながら、何度も腰を振ってきた。 「全力で抵抗しようと、手首に力を入れて振りほどこうとしましたが、男性の力にはかないません。諦めて、終わるのを待つしかありませんでした。終わって体を起こすと、周りの男性隊員たちはこっちを見ていました」(同)  コトが終わると、Rからは「五ノ井って案外力が強いな」と言われた。五ノ井さんが抵抗していたことはわかっていたのだ。  一旦話題が収まったにもかかわらず、再び一曹Eが格闘技の話を面白おかしくしはじめて、「あれ、首をキメて倒すのどうやるんだっけ?」と笑いながら言い出した。すると、再びSが、五ノ井さんの首に両手を当てて押し倒し、腰を振ってきた。五ノ井さんの引きつった顔を見たSは「これ誰にも言わないでね」と口止めしてきたという。 「もう限界でした。訓練場所は、すぐに抜け出せる環境ではありませんでしたが、先輩の女性隊員と中隊長Mに相談して、帰りたいとお願いしました」(同)  先輩女性隊員は、最初は味方してくれたが、男性中隊長が「訓練は訓練だ」と言うと、「そうだよ、訓練は訓練だから」と態度を変えた。訓練はあと20日以上続く。これ以上耐えられないと感じた五ノ井さんは、訓練から抜けることを懇願した。だが、セクハラを受けたことが理由では、6月の時のように告げ口したと思われてしまう。母親が倒れたことにして、実家に帰れることになった。  この時、先輩女性隊員からは「一応、嘘ついていることは心の隅にでも置いておいてね」と言われた。エスカレートする性被害から逃れるための苦渋の判断にもかかわらず、被害者である五ノ井さんに非があるような言い方に聞こえた。 ■被害届を出すも不起訴処分  この8月の性被害の後、適応障害と診断され、五ノ井さんは休職することになった。被害については、まず、自衛隊の総務・人事課にあたる「一課」にセクハラ被害を報告した。だが、一課からは「8月のセクハラの件を見たという証言が得られなかった」と回答された。次に、自衛隊の犯罪捜査に携わる警務隊(防衛相の直属組織)に強制わいせつ事件として被害届を出した。 「警務隊の現場検証では、人形を使って再現しました」(同)  検察庁の捜査をへて、22年5月31日付で判決が出た。結果は、不起訴処分。五ノ井さんが不起訴の理由を尋ねると、検察官は「複数の自衛官を取り調べたところ、五ノ井さんを『首ひねり』という技で倒すところは見たけれども、腰を振るようなわいせつ行為をしているところは見ていない」という供述だったと説明された。そして「被疑者を有罪にするにはそれなりの証拠が必要だ」とも言われたという。 「その場で見ていた人がたくさんいたのに、なぜか腰を振ったという証言は出てこない。単に技をキメて押し倒しただけで、どうして笑いが起きるのでしょうか。その続きがなかったら、笑うわけがない」(同)  五ノ井さんは6月7日付で、検察審査会に不服申し立てをしている。  自衛隊内部では、この事件をどう捉えているのか。AERA dot.は五ノ井さんが配属された東北方面の部隊に事実確認すると、広報担当は「現在、部隊で調査中のため回答は差し控える」と答えた。調査結果がいつ出るかは未定だという。また、五ノ井さんが報告を上げた「一課」にも確認をしたが、「その件は一課長が対応したが、いまは不在」とのこと。代わりに対応した指令業務室の担当者は「事実を調査中のため、予断を持って回答することは差し控えたい」と回答した。なお、被疑者の処罰については、「判明した事実に基づき、厳正に対処する」とした。 (AERA dot.編集部 岩下明日香) ※「後編」では、五ノ井さんがセクハラを受けてもすぐに辞めなかった理由、顔と名前を出して告発に踏み切った経緯などを明かす。

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    巨人が“浅野以外”で欲しいのは? ドラフト補強ポイント【中日・広島・巨人】

     プロ野球のドラフト会議まであと約3週間となり、各球団の動向や候補選手についての報道も多くなる時期となってきた。今年は本命らしい本命は不在という印象で、近年多かった事前の1位指名公表も少なくなることが予想されるが、各球団どんな選手を狙うべきなのか。補強ポイントと、その選手がチームにマッチするかという点から探ってみたいと思う。今回は現在セ・リーグでBクラスの巨人、広島、中日の3球団だ。 *  *  * 【中日】  立浪和義新監督が就任し、期待が高かった中日だが最下位が決定的となっており、今年も苦しいシーズンとなった。昨年のドラフトでは長打力不足を解消するためにブライト健太、鵜飼航丞の強打者タイプの大学生外野手2人を指名したが、ともに確実性に大きな課題を残しており、一軍の戦力となるにはまだ時間がかかりそうな印象だ。若手野手では岡林勇希がブレイクし、土田龍空も成長を見せているが、根尾昂が投手に転向となり、石川昂弥も故障続きとなると、やはり今年も野手中心の指名と考えるのが妥当ではないだろうか。  そこで筆頭候補として推したいのが内藤鵬(日本航空石川・三塁手)だ。西武のところでも紹介したが、その長打力は高校生ではナンバーワンであり、今年の候補全体を見ても長距離砲としての素質の高さはトップという印象を受ける。仮に内藤を1位で指名できたとしても、大砲候補はプロで苦しむケースが多いだけに、もう1人くらいは高校生の強打者タイプを狙いたい。  石川、ブライト、鵜飼も右打ちだということを考えると左打者が狙い目になりそうだが、2位で残っていれば狙いたいのが西村瑠伊斗(京都外大西・外野手)だ。体はそれほど大きくないが、ミート力は高校球界でも1、2を争う存在で、技術で遠くに飛ばすことができる。足と肩も高水準で、広い外野を任せられるポテンシャルも備えている。下位で狙えそうな選手では田中多聞(呉港)も面白い。少し確実性には課題が残るが、大型でパワフルなスイングは高校生離れしたものがある。肩の強さがあるのも魅力だ。  投手では高橋宏斗を筆頭に若手に楽しみな選手は多いが、主力はベテランも多いだけにこちらも柱となれる人材は必要だ。2位で西村が残っていなければ、その枠でスケールのある投手に切り替えるのも一つの手だろう。候補としては先発タイプなら青山美夏人(亜細亜大)、リリーフタイプなら橋本達弥(慶応大)が面白い。青山は長身と長いリーチでボールに角度があり、力を入れた時のストレートの勢いは目を見張るものがある。また未完成な部分も目立つが、スケールでは大学生投手でトップクラスだ。橋本は東京六大学を代表する抑え投手。150キロに迫るストレートにフォーク、カットボールと決め球を複数備えている。ともに完全な即戦力という感じではないが、2年目から一軍の戦力になれるだけの潜在能力は十分にありそうだ。 【広島】  5位の広島は森下暢仁、栗林良吏、森浦大輔など即戦力を期待して獲得した投手がしっかり戦力になっている印象が強い。一方で野手は坂倉将吾、小園海斗の成長はあるものの、鈴木誠也の抜けた穴は大きく、昨年社会人の右打者を獲得はしているが、やはり強打者タイプは必要になるだろう。  高校生であれば内藤鵬(日本航空石川・三塁手)ももちろん候補だが、脚力のある選手を重視するチームであることを考えると少しマッチしないようにも感じる。そこで候補として推したいのが森下翔太(中央大・外野手)だ。東海大相模時代から評判の強打者で、1年春には早くも大学日本代表に選ばれている。その後は少し苦しんだ時期が長かったが、今年の春は打率3割をクリアし、課題の確実性も向上してきた。全身を使ったフルスイングで広角に長打を放つことができ、脚力と肩の強さも備えている。また今年は死球による骨折から早期に復帰するなど体の強さを見せているところも広島向きの選手と言えそうだ。  前述した通り、投手陣は確実に補強されてきているが、高校卒の若手となると遠藤淳志と玉村昇吾しか一軍の戦力になっておらず、二軍まで見ても2年目の小林樹斗くらいしか有望株は見当たらない。そうなると高校生のスケールのある投手を狙いたいところだが、候補としては斉藤優汰(苫小牧中央)、門別啓人(東海大札幌)などが挙げられる。斉藤はたくましい体格から投げ込むストレートが武器で、スピードはコンスタントに145キロを超える。まだ粗削りではあるが、今年の高校生投手ではスケールの大きさはナンバーワンと言えるだろう。  門別はオリックスのところでも紹介したが、スピードだけでなく総合力も高いサウスポー。将来の先発候補として期待できるだろう。大学生でも将来性とスケールを重視するなら仲地礼亜(沖縄大)が面白い。高校時代は無名ではあったが、大学で急成長した本格派右腕で、昨年の大学選手権でも好投している。森下に次ぐエース候補として狙いたい存在だ。 【巨人】  4位に沈む巨人は数字的には投手成績が課題のようにも見えるが、今年プロ初勝利をマークした投手が8人出ていることからも分かるように、今後の成長が楽しみな投手は少なくない。一方で野手は坂本勇人、丸佳浩、中田翔など中心選手にはベテランプレイヤーが多く、数年後には大きくメンバーを入れ替える必要があり、若手の有望株は必要不可欠な状況となっている。  そんな中で9月28日には早くも浅野翔吾(高松商・外野手)の1位指名を公言したが、これはチーム状況を考えても非常に理解できる選択と言える。右打ちの外野手で支配下の選手は外国人のウォーカーを含めて2人しかおらず、内野も含めてもパンチ力のある若手は多くない。浅野自身は中距離打者を目指すと話しているが、東京ドームが本拠地であればホームランを量産することも期待できるだろう。  ただ、巨人は抽選に外れ続けており、その時の選択も重要になってくる。過去には野手を外して投手に切り替えたこともあったが、チーム事情を考えるとやはり外しても野手を狙いたい。そこで、指名されず残っていれば推したいのが松尾汐恩(大阪桐蔭・捕手)だ。将来の正捕手候補としても当然魅力的な人材だが、巨人としては坂本の後釜候補として考えたい。地肩の強さとフットワークは抜群で、長打力十分のバッティングも高校生ではトップクラスだ。浅野、松尾ともに指名できないケースでも中日のところでも挙げた西村瑠伊斗(京都外大西・外野手)や、イヒネ・イツア(誉・遊撃手)など高校生のスケール型の選手を狙いたい。  投手は前述したように楽しみな若手が多いが、リリーフの手当てはしておきたい。4位以降で残っていれば検討したいのが小孫竜二(鷺宮製作所)だ。今年で大学卒3年目だが、短いイニングであれば球威で圧倒することができ、課題だった制球力も確実に向上している。リリーフなら早くから戦力となる可能性は高い。大学生であれば才木海翔(大阪経済大)も好調時のストレートは目を見張るものがあるだけに、セットアッパー候補として面白いだろう。(文・西尾典文) ●プロフィール西尾典文 1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

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    サウナブームの意外な“落とし穴” 疲労の専門家は「快感あっても頭と体は疲れるだけ」と指摘

     空前のサウナブーム。「ととのう」快感を求める愛好家が増える一方で、人によっては「疲れた」「翌日がだるい」というマイナスの意見もある。疲労の専門医によると、快感を得られたとしても、実は脳や体にはとても大きな負担がかかっているため、心臓や脳の疾患リスクが増大する危険もあるという。サウナ好きな筆者には耳が痛い話だが、「気持ちいい」だけではないサウナの「リスク」を聞いてみた。 *  *  * 高温のサウナで汗をたっぷりかき、冷たい水風呂へ。ほてりを冷やしてからは外気浴。イスなどに腰かけてぼーっとリラックス。サウナ好きにとって、この「ととのう」状態は、何よりも心地よい時間である。  サウナ大国であるフィンランドの大学などの研究論文によれば、サウナに入る頻度が高い人は、それほど入らない人よりも健康長寿で心臓疾患や認知症のリスクが低くなる、との結果が示唆されたという。気持ち良くて、健康にもプラスに作用するなんて最高ではないか。  だが、疲労の専門家で「東京疲労・睡眠クリニック」院長の梶本修身医師は、この論文に疑問を呈する。 「私もこの論文を読みましたが、『サウナに入る頻度が高いから健康』と解釈できる一方で、『健康な人でないとサウナには頻繁に入れない、だからこの結果が出た』という読み方もできるんです。日本人も体調不良や病気なのにサウナに入る人はそうそういませんよね」  梶本医師はサウナの健康効果について否定的で、むしろ危険だと訴える立場を取る。その理由をこう解説する。 「高温の空間で大量に汗をかくため、脱水症状や熱中症をおこしやすくなります。脳温度が上昇し自律神経がオーバーヒートすると、血圧や心拍、体温などの調節機能が低下し、心筋梗塞や脳卒中などのリスクが生じます。そんな状態で水風呂に入ることは、心臓発作のリスクをさらに高めることになります」  そして、「サウナは百害あって一利なし……せめて一利ならあるかもしれない、というくらいの認識です」と続ける。  では、その「一利」とは何か。梶本医師は、厳しい寒さの冬が長く家にこもりがちになるフィンランドの特殊な生活環境だからこそ生まれた、サウナの効用に言及する。 「家に閉じこもるようになると、汗を出す汗腺が閉じてしまいます。汗腺には体温を調節する重要な役割があり、これは自律神経の働きによって制御されています。汗をかけない極寒の環境ではサウナという外的刺激によって汗腺を開き、自律神経による体温調節機能を回復させてあげる、というプラスの効果はあるのかもしれません」  日本でもコロナ禍で家から一歩も出ない時間が長く続いたり、寒冷地で冬は家に閉じこもり運動をまったくしない人がいるとすれば、サウナが有効となる可能性はあるという。  ただ、厳寒のフィンランドと日本では気候がまったく違う。日本では、満員電車や重い買い物袋を持って歩くだけでも自然に汗腺が開く。汗が流れ出るほどでなくても、活動中は自律神経が汗腺を開いて体温を調節しているのだという。梶本医師によれば、日本で普通に生活している限り、わざわざ酷暑環境を作って汗腺を開く必要はないということだ。  こうした環境でサウナに入るとどうなるか。 「懸命に頑張っている自律神経にさらに負担をかけるので、疲れてしまうだけです。日々のストレスや仕事で疲れている自律神経からすれば、『ひーひー言うとる時に何してくれんねん!』という状況ですよ」  とはいえ、サウナに入った日はストンと眠れている気がする。安眠効果についてはどうなのだろうか。 「すぐ眠れたという声は聞きますが、それは疲れて『寝落ち』しているだけで、寝つきがいいこととは全く異なります。緊張や覚醒をつかさどっているのも自律神経。自律神経が極度に疲れると覚醒を保てなくなり寝落ちしてしまうのです。さらに睡眠リズムを作るのも自律神経ですから、寝落ちした状態では睡眠の質がとても悪く、変な時間に目が覚めたりして疲れを回復させることはできません」  ネットを見ると、「サウナの翌日がだるい」などの投稿が散見されるが、睡眠の質の悪さが原因なのかもしれない。  ただ、愛好家にとってサウナや水風呂、その後の外気浴が気持ちいいことは事実だ。身体への負担が大きいのに、なぜ気持ちがいいと感じるのか。  梶本医師によると、β-エンドルフィンという物質など、気分の高揚や幸福感を得られる「脳内麻薬」が関係していると考えられる。  マラソンで苦しい状態が続いた後、多幸感や陶酔感を覚える「ランナーズハイ」と呼ばれる現象が起きることはよく知られるが、それと同じ現象がサウナでも起きているというのだ。 「動物は子孫を残すため生きることに忠実ですが、ヒトは脳の前頭葉が発達しているため、自己利益を実現する『欲』を持ちます。欲によって脳の報酬系と呼ばれる回路の働きが活発になり、『もっと、もっと』という精神状態になってしまう。これが災いしているのがサウナやその後の水風呂です。体には良くないことが分かっていたとしても『もっと快楽を』と、のぼせるまで頑張る人が出てしまうのです。ランナーや筋トレ愛好家でも、常に脳内麻薬による快感を求めてトレーニングを休めなくなる方がいます」  自律神経の機能は20歳を「100」とすると、40歳で半減、50歳で3分の1、60歳で4分の1に減るのだという。体の調子を整えてくれる力が、ガクッと衰えていくということだ。  脳内麻薬のおかげで、身体の悲鳴にはなかなか気づくことは難しい。梶本医師も「体に悪いと知っても、やめようとは思う人は少ないと思います」と話し、こうアドバイスする。 「水分をしっかり補給する。絶対にのぼせるまで入らず、サウナを出た後は、ぬるいシャワーで体を冷やす、涼しい部屋で過ごすなど、脳と体を守る基本は大切にしてください。また、年齢により自律神経が衰えるということをしっかり理解して、若い時よりも入る時間を短くすること。高齢になると温度を感じる機能が鈍くなりますので、のぼせに気づきにくくなりますからね」  サウナに入るかは個人の自由だ。ただ、快感を味わうだけではなく、自分へのいたわりも必要であることは心得ておきたい。(AERA dot.編集部・國府田英之)

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    【後編】元女性自衛官が「性暴力」を告発した理由 「セクハラを“なかったこと”にするのが許せなかった」

     元女性自衛官の五ノ井里奈さん(22)が、訓練中に受けた性暴力をYouTubeなどで告発して話題となっている。五ノ井さんは、「セクハラの被害から、残された女性隊員を守りたい」と、AERA dot.の単独インタビューに応じた。「前編」では具体的な性被害の実態を詳述したが、「後編」では五ノ井さんが自衛隊を志した理由、セクハラを受けてもすぐには辞職せず、今回の告発に踏み切った思いなどを聞いた。 ※「前編」より続く。 *  *  * 宮城県東松島市出身の五ノ井里奈さん(22)は、小学4年生の時に東日本大震災に見舞われた。小学校にいる時に被災し、学校の1階部分は津波で浸水した。五ノ井さんたち児童は2階に逃げて無事だったが、避難所生活の後、母親と再開できたのは1週間後。家に戻ると、1階部分は津波に流され、室内で飼っていた愛犬2頭が亡くなっていた。散り散りに避難していた父親と兄2人とも再会し、その後は公民館で避難生活を送った。  この時、災害支援に来てくれたのが女性自衛官だった。 「女性自衛官がお風呂を造ってくれたり、お風呂上がりには腕相撲をしたりして、遊んでくれました。私は小さい頃から柔道のオリンピック選手を目指していたので女性自衛官にそのことを伝えると、『柔道は続けたほうがいいよ。頑張ってね』と応援してくれました。私にとって憧れの存在でした。この時から、いつかは陸上自衛隊に入りたいと夢を抱くようになりました」(五ノ井さん)  11年たったいまでも、女性自衛官と連絡を取り合って、感謝の言葉を伝えているという。  公民館で3カ月過ごした後、五ノ井さん一家はアパートに移った。しかし、小学6年生の時に両親は離婚。がんの治療中だった母親が、3人の子どもを女手ひとつで育てることになった。  五ノ井さんは、中学・高校と柔道で全国大会ベスト16の成績を残し、山口県にある大学に進学する。だが自衛官への夢が捨てきれずに中退。自衛隊体育学校の柔道部に入って、オリンピックを目指すことにした。好きな柔道を続けながら、自衛官アスリートへの道を切り開こうとしたのだ。  2020年4月、晴れて陸上自衛隊に入隊する。だが、「前編」で記したように、配属された東北方面の中隊では日常的にセクハラをされ、ひどい性暴力を受けた。五ノ井さんは次第に追い詰められていく。 「常にセクハラはあったので、受けている方も感覚がまひしてしまうんです。外ではアウトなことも、自衛隊内ではセーフになってしまう雰囲気がありました。男性隊員は、コミュニケーションの一部だと解釈していたようです。その意識を改善させることはほぼ不可能です。結局は、被害を受けた女性隊員がいなくなるしか解決策はないんですよね。私も自分で自分の身を守るためには逃げるしかありませんでした」  五ノ井さんは、2021年8月に複数の男性隊員から受けた性暴力を機に、休職することになった(被害の詳細は「前編」参照)。精神科医からは、適応障害と診断され、3~4カ月分の薬が処方された。 「憧れていた自衛官になるという夢を失い、どん底でした。先の見えない生活に絶望して、好きな柔道もできなくなりました。震災の時に助けてもらった女性自衛官みたいになりたくて入隊したのに、内部ではあんなにひどい実態があるなんて思ってもいませんでした……」  精神的に追い詰められ、何度も自死を考えた。覚悟を決めた今年の3月16日深夜、思いがけないことが起こった。 「ベッドの上に正座して、よしっ、と決断した時に、震度6強のすごく大きな地震がきたんです。その時、思いました。ああ、ここで死んではいけない。地震のせいで、生きられなかった人がいるのに、自分は何をしているんだろうって」  東日本大震災の記憶がよみがえり、五ノ井さんは自死を踏みとどまった。「どうして被害者が泣き寝入りして苦しまなければならないのか。性暴力に負けてはいけない」と組織と闘うことにした。  昨年8月に受けた性暴力について、自衛隊の犯罪捜査に携わる警務隊(防衛相の直属組織)に強制わいせつ事件として被害届を出した。今年5月末に不起訴処分になったが、現在は検察審査会に不服申し立てをし、結果を待っている。  この不起訴処分に関して、国際人権NGO「ヒューマンライツ・ナウ」副理事長の伊藤和子弁護士はこう疑問を呈する。 「圧倒的に男性が多い自衛隊のような閉ざされた空間で性暴力が起きると、『見ていない』と口裏を合わせる可能性があります。今回はどうだったのか。加害者が何人もいる場合、供述に矛盾が生じることがあります。一貫して細部まで同じことを言っているのか、そうでないのか。すべて同じであれば、口裏合わせをしている可能性もあるでしょう。丁寧に供述の評価が行われたのか疑問の余地が残ります」  不起訴後、五ノ井さんが検察官にその理由を尋ねると「複数の自衛官を取り調べたところ、五ノ井さんを『首ひねり』という技で倒すところは見たけれども、腰を振るようなわいせつ行為をしているところは見ていない(という供述だった)」と説明されたという。ただ、伊藤弁護士は、首に手をかけて押し倒している時点で暴行罪を問うことができるとも指摘する。 「少なくとも押し倒した所を見ている人がいたわけですから、立件すべきです。なぜ検察は暴行罪で起訴しなかったのかも非常に疑問です」  たとえ刑事事件で起訴されなかったとしても、民事裁判でハラスメントが認定されることもある。伊藤弁護士は「第三者委員会を立ち上げて、構造的な問題を調査する必要がある」と話す。 「男性隊員が女性隊員に対して、首に手をかける技をかけていること自体がハラスメントであるという認識があるのか否か。私的な生活の中で起きた出来事なのか、訓練中の行為なのか。訓練と称したハラスメントではないのかなど、さまざまな疑問が浮かびます。ハラスメント行為があれば処分に値する問題なので、組織としてきちんと調査をするべきです」  最後に、五ノ井さんは実名と顔出しで告発に踏み切った理由をこう話す。 「内部に残る自衛隊員から『なかったことにしようとしている』と聞きました。隠蔽(いんぺい)です。ここでなかったことにしたら、これから被害者がもっと増えてしまう。セクハラをしている人は、今でも普通に隊にいて、また新しい女性隊員が入ってきた時に同じことが起こります。それだけは阻止したい。あとは、謝罪がほしいです。その一心で声をあげようと決意しました」  五ノ井さんの悲痛な思いは、自衛隊員たちに響いているのだろうか。(AERA dot.編集部・岩下明日香)

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    稲垣えみ子「原発回帰の波に対抗するには、まだまだ『やりよう』がある」

     元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。 *  *  *  原発のことを書く。専門家でもないし運動家でもないが、福島の事故を機にある意味「人生を変えた」身としては、やはり今の局面について語るべきと思う。  戦争に伴うエネルギー危機で、原発回帰の波が世界中で起きている。未曾有の事故を起こした日本も然り。再稼動どころか新しい原発も作ろうと首相も堂々と言い始めた。  確かに原発は電力不足回避の一助となろう。だがその重い負の面が消えたわけではない。事故を起こした場合の回復困難な被害はもちろん、発電が生み出す放射性廃棄物の行き場は未だどこにもない。加えてこの度、戦時には敵の攻撃対象になるという恐ろしい現実まで突きつけられた。それでも目立った反発が見られないのは、あらゆるものが値上がりする目前の現実を前にしては、「背に腹は代えられない」ということなのだろう。  原発の問題は、結局そこに行き着くのだと思う。自分は生きていないであろう将来のために、余分なお金を払ったり、不便な暮らしに耐えたり、ただでさえ余裕のない中でそんなホトケのような行動を取れるのか。やはりそれはリアルにホトケでない限り難しすぎることだ。原発はできれば止めたいと多くの人が願っていても、なし崩し的に事態が元へ戻るのはそう思うと致し方ないことかもしれない。  で、ですね。ここで私が言いたいのは、その「原発を抱きしめて幸せになるか」「離れて不幸になるか」という選択肢そのものが実は違うんじゃないかということである。  電気をほぼ使わない暮らしを実際にやってみて何が驚いたって、待っていたのは想像していたような我慢でも不便でも不幸でもなく、安心と楽しさと豊かさだったことだ。ゆえに「1億円あげるから元に戻って」と言われたら全力でご辞退申し上げる。無論誰もがそうなるかは不明。でもこのささやかだがリアルな事実には、幸せを求めるほどなぜか不幸になってしまう現代人のジレンマを解く鍵があるように思う。我らはまだまだ「やりよう」があると思うのだ。 ◎稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行※AERA 2022年10月3日号

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    13時間前

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    Snow Man・岩本照「なんで俺、男に嫉妬すんの?って(笑)」

     7月8日、Snow Man・岩本照さんの単独初主演映画「モエカレはオレンジ色」が全国公開される。岩本演じる消防士・蛯原恭介と友達のいない“ぼっち”の女子高生・萌衣との恋を描く恋愛映画であるのと同時に、人を守る仕事の尊さやチームワークの素晴らしさも強く印象に残る作品には、岩本照本人の姿が見え隠れする。活躍の幅を広げる岩本さんを直撃した。 *  *  * ──原作を読んだとき、恋愛シーンでは、くぁー!ってなったシーンがいっぱいあったとおっしゃっていました。  心の声になったりするところとか、見てる人も俺も、うわっ、恥ずかしい!ってなる瞬間っていうのはけっこうあるんですよ。でも蛯原って、それに気づかないタイプだから、気づいてない演技が大変でした。だって俺、気づくし(笑)。 ──例えばどの場面?  萌衣が体調崩すところかな。さらっとそんなこと言えないよってなっちゃう、俺は。 ──反対に、自分にもありそうだという場面は?  嫉妬するとこじゃないですかね。何やってんだ俺、ってなるあの感覚は、気持ちわかります。 ──嫉妬といえば、自分ではあまりしないタイプだと思っていたら、それは嫉妬だとメンバーの深澤辰哉さんに指摘されたという話が。  あー。自分のプライベートで仲いい友達同士を会わせたら、俺がいないところで二人で出かけるようになっていて、嫉妬したって話ですよね。まあ自分がめぐりあわせたってうれしさはあるんですけど、いやいや、俺は?ってなる。でも男同士だし、なんで俺、男に嫉妬すんの?って(笑)。恋愛絡まずの嫉妬って、意味わかんないじゃないですか。  恋愛だったら、自分が気になってる子がほかの男としゃべったりっていうのは絶対に嫌だな。束縛とかはしないと思うんですけど、俺以外の男と笑いあう時間なんかなきゃいいのにと思います。 ──付き合っていたら?  付き合ってたら、別に大丈夫かもしれない。でも、わざと嫉妬させるためにやってんだとしたら呼び出しもんですよね。「ちょっとお前こっちこいよ」問題ですよ(笑)。 ──映画の主題歌はSnow Manの新曲「オレンジkiss」です。  聴いたとき、本当に映画の世界観に合ってると思ったし、「これまでどんなことがあっても」とか、歌詞がけっこう印象的だなって。Snow Manがキュンソングを歌わせてもらうことによって、パフォーマンスでより色みを濃く出せればいいなって思ってます。 ──歌詞にちなんで、辛い時に思い出すとがんばれてしまうものは?  タピオカ(満面の笑み)。いま、滝沢歌舞伎(取材は「滝沢歌舞伎ZERO 2022」公演中)で1日2回公演やってて、昼公演やってるときとかにマネジャーさんにお願いして楽屋に入れといてもらって、わーい!ってなるのが、楽しみなんで。辛い時は、僕はタピオカを(笑)。 ■リアクションが豊かになった? ──ミュージカル「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」の主演もおめでとうございます。  ありがとうございます。映画ではかなりハードルの高さが上がる役者さんが演じていた作品なので、リスペクトもありつつ、あんまり考えすぎずやりたいなと。 ──映画で演じていたレオナルド・ディカプリオとかけて「ヒカプリオ」と……。  はい、ヒカプリオっていじられてて。恐れ多くも俺の名前が先にきちゃってるんですけど。 ──メンバーの佐久間大介さんとタイタニックごっこをして「ヒカプリオ」と呼ばれていたことも(2021年10月10日放送の冠番組「それSnow Manにやらせて下さい」)。  あのとき、もう俺は知ってたんで、実は。佐久間は知らなかったから、うわ、これ伏線に!って一人で思ってました(笑)。 ──詐欺師は、嘘をつけないという岩本さんと一番遠い役柄にも思えます。  たしかに! まあ、ある種、いろんな面を持った人物なので、全部を120パー(セント)で演じれればいいかなと。パイロットも医者も、たぶん新聞記者も、いろいろやるんですよ。どれも嘘じゃなく、その時々で全力注げばいいかなと。 ──ところで最近、以前よりリアクションが豊かになり、ボケたりもするようになったという声が。  いや、もともと笑いに興味ないわけでもないですし……ただうちにはかなり飛ばして笑いを取りに行くメンバーが多いので、そういうなかで、リアクション薄いとかって言われてたとき(2021年2月19日配信の前出冠番組)もありましたけど(笑)。  でも、わりと昔からYouTubeでもわちゃわちゃしてたし、僕としてはあんまりリアクション変わってないんですけどね。これは照しかできないよね、って状況で、より面白いことを考えちゃうと、やりたくなっちゃう(笑)。常にふざけてるわけじゃないですけど、それができる現場の雰囲気を作ってくれるから、そういうときは出すようにしているだけかな。それだけ、自分のことを知ってくれる人や場がより増えたのかなって。うれしいですよね。 (本誌・伏見美雪) 濱田英明さんが撮影したやわらかい表情の岩本さんが魅力のカラーグラビアや、映画「モエカレはオレンジ色」のほかでは見られない独占カットを含む場面写真やオフショットは、週刊朝日2022年7月15日号で楽しむことができる。※週刊朝日  2022年7月15日号より抜粋 >>【前編】Snow Man・岩本照「ふっかとは10日間一緒に寝ちゃった関係(笑)」

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    狡猾な官邸官僚の原発解散戦略 古賀茂明

     9月9日号の本コラムで紹介したとおり、岸田文雄総理は8月に、これまで認めていなかった原子力発電所の新増設について年末までに検討するよう指示し、原発政策を事実上大きく変更した。  その後も政府は、電力不足を煽り、安全でクリーンで安価だという触れ込みで「次世代原発」なるものを必死に世の中に売り込んでいる。  こうした原発推進政策は、一般には、「電力不足」への対応だと理解されているが、「不足」と言っても、冬や夏の一部地域の数日間の需要のピーク数時間だけのことである。本気で節電対策などを行えば「停電」などは容易に回避でき、原発にこだわる必要はない。  岸田内閣は、旧統一教会スキャンダルや安倍晋三元総理の国葬への批判、五輪スキャンダル、そして円安とインフレなどで満身創痍状態。支持率は内閣発足後最低水準だ。それにもかかわらず、不人気政策である原発推進の姿勢を鮮明にしているのはなぜだろうか。  実は、9月上旬、私は岸田文雄総理の首席秘書官・嶋田隆氏が周囲に語った内容を記したメモを入手した。  そのメモの詳細は省略するが、最大のポイントは、東京電力の柏崎刈羽原発(新潟県)を原子力規制委員会の最終承認や地元新潟県の同意がなくても、国が前面に出て再稼働させるという話だ。そのためには特別の法律が必要になるが、それを国会で通すという。さらに、これを東電にあらかじめ約束する代わりに、東電が来年春に行うと見込まれる電力料金値上げのうち、家庭用の値上げを止めさせる取引を行うという話も書いてある。  規制委の権限を乗り越えて政府が勝手に原発再稼働を認める法律など言語道断だが、それも「一気に国会に議論してもらう」とメモにはある。経済産業省の事務方トップの事務次官まで務めた大物秘書官である嶋田氏らしい強気の姿勢だ。  果たせるかな、9月16日に東電は、2023年4月から法人向け標準料金を値上げするが、家庭向けの値上げはしないと発表した。しかも、柏崎刈羽原発7号機の来年7月からの再稼働を織り込んで「顧客の負担軽減」につなげると説明している。メモに書いてあるとおりだ。  何とも驚きの強引なシナリオだが、そこには、「電力不足対策」という表向きの理由とは別に、二つの隠された狙いがあると私は見ている。  一つは、東電の取締役も経験し、秘書官就任前は次期東電会長の筆頭候補と噂された嶋田氏の悲願である東電再生である。すでに建設された柏崎刈羽原発を再稼働させれば、燃料費が浮き、経営の大幅改善が可能となるのだ。  もう一つの狙いは、原発再稼働を国会での争点にすることだ。意外に思うかもしれないが、嶋田氏は、おそらく、「電力不足」キャンペーンで国民を騙すことができると考えているのだろう。冬や夏のピーク時に、「停電すれば死人が出る」と叫び、緊急事態に限って再稼働を認めるべきだとして、そのための法案を出せば、国民の多くは、賛成するという読みだ。野党が少しでも抵抗すれば、直ちに衆議院を解散する。前号で書いた「ジリ貧追い込まれ解散」に比べればはるかに勝利の確率が高まるという計算だ。  国民は完全に馬鹿にされている。官邸の猿芝居に騙されてはならない。 ※週刊朝日  2022年10月14-21合併号

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    乃木坂46で選抜入りゼロも…… 「将来のセンターになれる逸材」と評価急上昇のアイドルは?

     アイドルグループ・乃木坂46は新たな時代を迎えている。今年はグループ結成10周年を迎え、5月14、15日に日産スタジアムで開催された「10th YEAR BIRTHDAY LIVE」には現メンバーだけでなく、西野七瀬、白石麻衣、生駒里奈ら卒業生たちが登場して公演を盛り上げた。  月日が流れると共に、メンバーが卒業していく。今年に入って1期生の星野みなみ、2期生の北野日奈子、山崎怜奈が卒業。1期生の樋口日奈、和田まあやも8月31日発売の30枚目シングル「好きというのはロックだぜ!」の活動を最後に卒業することが決まっている。  一方で、新しい風も。今年から加入した5期生は井上和、菅原咲月、川崎桜らを筆頭に加入から1年も経たずに人気メンバーとなり、次のシングルで何人が選抜入りするか注目されている。  乃木坂に在籍しているメンバーは現時点で43人。ただ、全員が同じステージで歌えるわけではない。各シングルの表題曲を歌う16~20名の「選抜メンバー」が選ばれる。他のメンバーは「アンダーメンバー」という枠組みの中で活動する。 「人気メンバーが選抜で固定されているので、アンダーから新たに入るのは容易ではありません。乃木坂に在籍して一度も選抜入りできずに卒業するメンバーも少なくない。それほど厳しい世界です。でも選抜メンバーの全員が日の当たる道を歩んできたわけではない。アンダーから大ブレークした代表格がエースの齋藤飛鳥です。グループの初期は白石、西野、生駒ら人気メンバーに隠れる形でアンダーの常連メンバーでしたが、モデルとして活躍してパフォーマンスを磨くことで大輪の花を咲かせた。選抜入りしなくても人気メンバーはいますし、活動の全てではないですが、彼女の歩んだ道のりは後輩に大きな勇気を与えている」(スポーツ紙の芸能担当記者)  ネクストブレークを狙う逸材たちの中で、テレビ関係者から高い評価を得ているのが4期生の林瑠奈だ。  民放のテレビ制作スタッフは「頭の回転が速く、バラエティー能力が高いと現場で評判です。お笑い好きで瞬発力があるだけでなく、場をうまく回すこともできる。共演した芸人やタレントの評判がいい。独特の感性と発言で、乃木坂の中では異質なオーラを身にまとっているのも魅力です」  林は順風満帆な道のりを歩んだわけではない。18年8月に坂道合同オーディションに合格するが、グループには配属されず坂道研修生として活動した後、20年2月に4期生に加入する。同じ4期生の中でも林より早く加入し、圧倒的な人気を誇る賀喜遥香、遠藤さくらに比べて当初は影が薄かったが、アンダーライブやグループ活動で輝きを放つこと存在感が増していく。歌唱力は乃木坂トップクラス。ダンススキルも磨かれ、ライブで見せるパフォーマンスが話題になった。  8月上旬にYouTubeでMVが公開された4期生の楽曲「ジャンピングジョーカーフラッシュ」ではフロントメンバーに抜擢され、大きな武器である歌唱力を発揮。コメント欄には、「林の歌声って世間が気づいたら爆発的に人気出るだろうな。そう思うぐらい魅了される」、「話題の5期生加入。でも、新4期生の覚醒がそれを大きく上回る。林瑠奈、ほんとうに凄すぎる。美しくなりすぎて、一時も目が離せない」など称賛の書き込みが相次いだ。  テレビ東京の帯番組「乃木坂工事中」でも話題に。「10th YEAR BIRTHDAY LIVE」のパフォーマンスを取り上げた放送回で、MCを務めるバナナマン・設楽統が「林とかいい表情するよね。アイドルがステージで輝いているのを絵に描いたみたいな」と名指しで絶賛していた。  前出のスポーツ紙記者は「林は選抜入りにとどまらず、賀喜や遠藤のように将来はセンターになれる可能性も十分に秘めている。楽曲によって色々な表情を見せて観客の目を引きつける。中心の立ち位置でなくても『主役感』があるんですよね。ファンからの人気が高まっていますし、これからも快進撃が続くと思います」と期待を込める。さらなる活躍が楽しみだ。(梅宮昌宗) ※週刊朝日オンライン記事

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    母は父に処刑され、自身も処刑寸前に追い込まれ…壮絶な生涯を遂げた“もう一人”のエリザベス女王

    『戦国武将を診る』などの著書をもつ産婦人科医で日本大学医学部病態病理学系微生物学分野教授の早川智医師が、歴史上の偉人や出来事を独自の視点で分析。今回は、英国での“二人”のエリザベス女王について「診断」する。 *  *  *  9月8日、英国女王エリザベス2世が崩御された。20世紀から21世紀、激動の連合王国を統治した偉大な君主に追悼を申し上げたい。古くから英国は女王が統治すると発展するといわれてきた。その意味で最初に思い浮かぶのは19世紀、大英帝国の最盛期に君臨したヴィクトリア女王であろう。そして次に思い浮かぶのは16世紀にイングランドをヨーロッパの強国の地位に引き上げたエリザベス1世である。 ■二人のエリザベス女王  名は体をあらわすというが、心理学的に人は与えられた名に見合った振る舞いをすることが知られている。我々医師や大学教員には古風な名前の持ち主が多く、映画監督や芸術家には少し変わった名前が多いという研究があるが、出身階級や家庭の教育に加えて、与えられた名にふさわしい行動をとろうと無意識のうちに努力しているのかもしれない。故エリザベス2世の場合、同名のエリザベス1世が名君だっただけに直接の血のつながりはないとはいえ、何らかのプレッシャーを感じていたであろう。  エリザベス1世はテューダー朝2代目、英国ルネサンスを代表する名君かつ暴君であるヘンリー8世の次女として生まれた(1533年)。最初の王妃キャサリン・オブ・アラゴンに男児が生まれないことに業を煮やしたヘンリー8世がカトリック教会と決別して離婚、再婚したアン・ブーリンとの第1子であったが、その後も男児は生まれず、父王は2番目の王妃に姦通の濡れ衣を着せて処刑してしまう。その後も王妃たちに理由をつけては離別や処刑を繰り返し、都合6人の王妃との間にエリザベス、エドワード、メアリーの3人の子をもうけた。  ヘンリー8世の後を継いだ王子はエドワード6世として即位するが、生来病弱で、結核(一説には先天梅毒)により15歳で死去、そのあとを継いだメアリは愛する母が離婚されたことを恨んで、カトリックに復帰するとともにプロテスタントを徹底弾圧、「ブラッディ・メアリー」という悪名を残した。母方の親戚スペイン王太子フェリペ(のちのフェリペ2世)と結婚するも子には恵まれず42歳で死去。やっとエリザベスに王位が回ってきた。 ■処刑寸前に追い込まれ  エリザベスは母を殺した父によって庶子の身分に落とされたり、その父を恨む姉によってロンドン塔に拘束されて危うく処刑されそうになったり、若年のころから権力闘争と宗教戦争の恐ろしさを痛感していた。そのために、英国国教会を重んじながらカトリックや清教徒に対する厳しい弾圧は行わず、ドイツや北欧のプロテスタント諸国、カトリックのスペインやそのライバルであるフランスと等距離外交を展開。また女王の配偶者を狙って近寄ってくる貴族たちや諸外国の王族を「私は国家と結婚しています」といって適当にあしらい生涯を独身で通した。その間、フランスにおける新教徒と旧教徒の内戦、スペイン無敵艦隊の襲来など何度も危機があったが、宰相バーリー卿ウィリアム・セシルや海賊出身の名提督フランシス・ドレーク卿などの活躍でこれを乗り越え、英国ルネサンスの最盛期を築いた。  筆者の好きな古楽の世界では、ウィリアム・バードやジョン・ダウランド、アンソニー・ホルボーン、トマス・モーリーなどの作曲家が輩出し、文学の世界では英国史上最大の劇作家ウィリアム・シェイクスピアが活躍したのがこの時代である。  しかし。 「処女王」の称号を守るために生涯結婚せず、エリザベス1世の没後にはライバルだった遠縁のスコットランドのメアリー女王の長男ジェームズ6世(英国王としてはジェームズ1世)を後継に迎えざるを得なかった。  エリザベス1世の偉大な生涯は当然ながら、伯父エドワード8世の退位(有名なシンプソン夫人との恋のために王位を放棄)、そして父ジョージ6世の早逝によって、25歳で王位につかざるを得なかったエリザベス2世に影響を与えたに違いない。しかし、エリザベス1世の寂しい晩年に比べると、多くの子供たちや孫たちに囲まれて最期を迎えたエリザベス2世は幸せだったかもしれない。 ■チャールズという名の国王  さて、母の死を受けて即位した新国王チャールズは、その名を冠するイングランド国王(スコットランド国王としても)3代目である。面白いことに国によって王様の名前に好みがあるようで、フランスでは聖ルイ王(ルイ9世)以来、ルイが多い。太陽王ルイ14世が有名だが、その曽孫でロココの遊蕩児ルイ15世、フランス革命に非業の死を遂げたルイ16世、そしてその弟のルイ18世まで18人もいる。  英国で多いのは、ハノーバーから移って王位についたジョージ1世からエリザベス2世の父までのジョージ、エドワード証聖王からエリザベスの伯父まで8人も続くエドワードであろうか。フランスにおける領土を喪失したジョン欠地王のようにケチのつく名前は選ばれない。  チャールズも英国王の名としては微妙である。前述のジェームズ1世の息子だったチャールズ1世は非常に謹厳実直な性格の持ち主だったようであるが、王権神授説を信じて清教徒が多数を占める議会との妥協をあくまで拒み、革命で断頭台に上るという悲劇の最期を遂げた。  その息子チャールズ2世は辛くも清教徒革命を逃れてフランスに亡命したが、父の仇を討つために頑張った形跡はなく、フランスやスペイン領ネーデルラントのブルージュで優雅な宮廷文化の吸収と美女たちとの恋愛遊戯に10年を費やした。強権的な指導者オリバー・クロムウェルの没後、清教徒政府の瓦解を受けて王政復古で英国に戻ってきたが、政治は家臣に任せて相変わらず多くの愛妾を抱え、庶子たちはノーサンバーランド公やバクルー公、グラフトン公、セントオルバンズ公など、現在も続く英国貴族の先祖となっている。  ただ、王妃キャサリンとの間には嫡子に恵まれず、弟のジェームズ2世、そのあとは姪のメアリー2世、アンと続くが直系の子孫は絶えてしまった。そして遠縁のハノーバー家から英語の話せない英国王がヘンデルとともにやってきてこれが現在の英国王室の直系祖先である。 ■「ピースメーカー」としての期待  チャールズも物心つくころから、自分が将来は伝統ある王室の後継者であることは意識していたであろうが、先代先々代のチャールズがあまりぱっとしなかったことは面白くなかったであろう。しかし、欧州全体に目を向けると、有名なシャルルマーニュ(カール大帝)や日の沈まないスペイン帝国を築いたカール5世(カルロス1世)など、同名の名君は少なくない。  チャールズ3世はカミラ夫人に発した“下ネタ”が報じられることもあったが、ご両親や祖父のジョージ6世、曽祖父のジョージ5世のような謹厳実直な君主よりもさらにもう1代前のエドワード7世のようなユーモアあふれる国王になっていただきたいと願う。エドワード7世も母であるヴィクトリア女王があまりに偉大かつ長命で王位に就いたときは高齢であり、治世は10年足らずであったが、保守党(ソールズベリー侯爵とバルフォア)と自由党(キャンベル=バナマンとアスキス)が交互に政権を担当、日英同盟、英仏協商、英露協商を締結、甥で英国に対抗意識むき出しだったドイツ皇帝ウィルヘルム2世とも良好な関係を維持した「ピースメーカー」であった。  チャールズ新国王は皇太子時代から環境問題や人権には活発に意見を述べてこられたが、中東のイスラム原理主義者、ロシアとウクライナ、中国と台湾など、世界がきな臭くなっている今こそ、国際協調への活躍を祈念したい。 ◯早川 智(はやかわ・さとし)1958年生まれ。日本大学医学部病態病理学系微生物学分野教授。医師。日本大学医学部卒。87年同大学院医学研究科修了。米City of Hope研究所、国立感染症研究所エイズ研究センター客員研究員などを経て、2007年から現職。著書に『戦国武将を診る』(朝日新聞出版)など ※AERAオンライン限定記事

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    Snow Man・岩本照「ふっかとは10日間一緒に寝ちゃった関係(笑)」

    「ストイックでシャイ、そして鍛え上げられた筋肉の持ち主。まさかの甘党までぴったりとは!」──制作サイドが「もはやこれは運命」とまで語ったキャスティングが話題だ。7月8日公開の単独初主演映画「モエカレはオレンジ色」で、消防士・蛯原を演じる。友達のいない“ぼっち”の女子高生・萌衣との恋を描く恋愛映画であるのと同時に、人を守る仕事の尊さやチームワークの素晴らしさも強く印象に残る作品には、岩本照本人の姿が見え隠れする。 *  *  * 「挑戦してみたいこと? 消防士とか警察官とかの、訓練みたいなものに参加してみたい。そういう、守る人たちのお仕事の体験をしたいなって思いますね。誰かを守るためにつけた筋肉とか、気持ちっていうのは、訓練とか体験でも、自分のためになりそうだなって」 ──と、2020年の冬に取材させていただいたときに。  俺、言ってました?(笑)まあ、常々思ってます。 ──いつごろからですか?  18、19ぐらいから、ずっと。「警察24時」って番組あるじゃないですか。あれ、めっちゃ好きで。正義が悪を成敗するみたいな感覚があって。たぶん、幼少期からなんとかレンジャーとかが好きだったところからきてると思うんですけど。  警察官とか消防士とか、今から勉強してなるのは難しいかもしれないけど、普段やっているトレーニングとか、一日体験とかのメニューには興味があって、自分でも調べたりして。 ──映画出演にあたり、実際に訓練に参加し、現役消防士の方に「Firemanになりませんか」とスカウトまでされたとか。  だからまあ、これからはSnow Man、8人で頑張ってくださいっていう……(笑)。 ──ぐらいの気持ちに?  はい(笑)。やっぱうれしいですよ、冗談でもそう言っていただけたのは。実際、自分もいろいろ訓練やらせてもらって、より大変さが身にしみましたし、男気とか信念の熱さとかっていうのも近くで感じられたので。本当に心から、すごい職業だなって思いました。 ──実際に訓練を体験して、消防士のリアル、ここは絶対に伝えたいと思ったのは?  やっぱり誰かを守るっていうところ。自分の命、後先考えずに火の中に飛び込むって絶対誰もが怖い。でも中にいる人たちのほうが怖いからって行動できる、その強さは、やっぱ日々の鍛錬からきていると思うので、本当にかっこいいなって。訓練期間が自分の記憶では一瞬すぎたので、もっと深く知れたらいいなって思いながら消防局を後にしましたね。 ──救助隊のチームワークも印象的です。映画のように仲間にフォローしてもらったと感じたことは?  メンバーには、もらいっぱなしな感じがしますけどね。例えば、TGC(3月21日に行われた東京ガールズコレクション)で、もともと普通のタンクトップ着て歩くつもりだったんですけど、俺の顔がプリントされてるタンクトップ(3月公開のSnow Manの主演映画「おそ松さん」の小道具)を用意してくださってて。何でだろうと思いつつ、これ着てランウェー歩いて、一番前でジャケット開いたらめっちゃ面白くね?って佐久間(大介さん)に相談したら、じつは佐久間が衣装さんにお願いして用意してくれてた。(岩本さんが映画で演じた)カラ松だったら、あれ着てサングラスかけたほうが絶対いい、って。あのタンクトップ、劇中でも着てないでしょ? 佐久間の優しさですよね。そういうことは本当に多いですね。  ほかにも、自分が決めたことで、やっぱこっちのほうがよかったかなって思うことがあるんだけど、みんなが背中を押してくれるから、一人で負のループに入らずにいられるっていうか。選択肢が多すぎて決めきれずにいるところを、めっちゃいいと思うよって後押ししてくれる、気づかせてくれるっていう感覚ですかね。そういう優しさは、メンバーとかファンの方から、いつも感じますね。 ■親友って枠ならふっかと佐久間 ──今回、映画にはライバルや親友が登場します。現実で誰か選ぶとしたら?  親友っていう枠で言ったら、ふっか(深澤辰哉さん)と佐久間ですかね。年は1個上だけど、いろんな話するし。もちろんほかのメンバーとも仲いいんですけど、より。特に、佐久間なんか“ニコイチ”って言われるぐらい一緒にいたり、ふっかとだったら“いわふか”って呼ばれたり。本当に気、遣わないっていうか、空気。  深澤に関しては、楽屋や遠征先のホテルが一緒になることも多いんで。シンガポールでは、なぜか俺たちの部屋だけベッドが1個しかなくて。だから1個のベッドで10日間一緒に寝ちゃった関係なんで(笑)。俺、海外行ったら俺の部屋だけベッド1個しかないって謎の縛りやられてるんですよね、もうずっと(笑)。 ──ちなみに深澤さんとの楽屋生活は?(取材は「滝沢歌舞伎ZERO 2022」公演中)  なんか膨らますマットみたいなやつを、俺が2人分色違いを買って。深澤が紺で、僕オレンジ色使ってます。モエカレ意識していると思われそうで、あんまり表で言ってないんですけど(笑)。  紺を2個買おうと思ったんですよ。そしたら残り1個しかなくて。紺とオレンジの2色展開だったんで、ふっかにどっちがいい?って聞いたら、俺紺、って言われたから、そりゃそうだよなって。で、楽屋に置いてたら(向井)康二が、なんで照兄(てるにい)オレンジなん? え、なに俺のことを意識してんの(向井さんのメンバーカラーがオレンジ)、みたいなこと言うから、いや、モエカレかな?みたいな(笑)。  で、掛けるタオルケットは、深澤が色違いで買ってきてくれて。ペイズリーみたいな柄で、俺が紺でふっかが灰色みたいなの。色違いのマットと色違いのタオルケットで一緒に寝てます。  サボテンと四つ葉のクローバーを2個ずつ僕が買ってきて、毎日水あげて、あ、芽が出てきた、とかって楽しんでる。あと夜になると光るスミスキーって人形みたいなのがあるんすけど、かわいかったから俺、2個買って、ふっかの机の前と俺の机の前に。だから、うちはわりと静かに暮らしてます。二人の時間を。 ──本当に夫婦のように。  過ごしてます。   ライバルは……あーこれできたのになって気持ちがふと湧いてくる自分。あ、今日休んでんじゃん、この時間トレーニングしてる人いっぱいいるぞって、煽ってくる自分。で、その煽ってくる自分が決めたメニューを超えた自分に満足して戦っているっていうか。  いまが常に人生で一番若いじゃないですか。今後、あんときこれできたのにとか、あの時代のほうが踊りかっこよかったよねとかって、自分自身と比べられることが増えてくると思うんで。自分がライバルになってくるのかなって思います。 ──トレーニングといえば、映画の中で萌衣が悩んでいるときに、筋トレに連れていく場面が。  凹んだとき? 筋トレ、しますね。 ──ご自身も凹んだ女の子を筋トレに連れていきますか? 例えば妹さんとか。  あ、妹が凹んでたら、いまだったらサウナに連れていきます。トレーニングとサウナ、頭空っぽにするっていう部分ではどっちも共通してるんで。汗をかいて老廃物を出す、邪念を出すっていう部分では、連れていくかもしれない。 (本誌・伏見美雪) 濱田英明さんが撮影したやわらかい表情の岩本さんが魅力のカラーグラビアや、映画「モエカレはオレンジ色」のほかでは見られない独占カットを含む場面写真やオフショットは、週刊朝日2022年7月15日号で楽しむことができる。※週刊朝日  2022年7月15日号より抜粋 >>【後編/Snow Man・岩本照「なんで俺、男に嫉妬すんの?って(笑)」】へ続く

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    中学生監禁事件の背景に「脆弱な支援」と「親心」 発達障害の子を持つ親の養育ストレス

     発達障害のある中学生を殴るなどして、福岡県で施設の理事長らが逮捕された。事件から浮かび上がってきたのは、子どもためにどんな支援が正しいのか苦悩する親の姿だった。AERA 2022年10月3日号から。 *  *  * 「すがってしまう親御さんの気持ちは、よくわかります」  東京都内で自閉症の息子(10代)と暮らす女性(40代)はそう話す。  今年7月、福岡県久留米市で障害児福祉施設などを運営するNPO法人の理事長の男(57)らが逮捕される事件が起き、関係者に衝撃を与えた。  理事長らは、発達障害のある14歳の中学生の手足を結束バンドなどで拘束し、頭に袋をかぶせ殴って脅し、施設で監禁した。この施設は県内外から重度の知的障害や自閉スペクトラム症(ASD)がある人を積極的に受け入れ、激しい自傷・他害や物を壊すなど「強度行動障害」のある人の生活改善を実現するとPRしていた。中学生の母親は、息子の暴言などに悩み「合宿費用」として約100万円を理事長に支払い依頼していたという。  冒頭の女性の息子は3歳の時、「自閉症」と診断された。集団生活に入れず、教室から飛び出したり、食事の皿を投げたり。夜中に物音で目覚めると1日中起きていたりした。  この子にとってどのような支援が正しいの──。  女性はいくつもの施設や相談先を回り、試行錯誤を繰り返した。だが、夫や両親は「しつけが足りない」などと女性を責めた。女性は「しんどかった」と振り返る。 「発達障害の子を持つ親が最も大変なのが、この子にとって何が正解なのかが見つからないことです。そういう時に、『俺に任せろ』と言って指導をしてくれる人がいたら、大金を払っても頼ったのは親心だと思います」  自閉症の息子(26)がいる都内在住の女性(55)は、事件についてこう話す。 「暴力で従わせようとすれば、子どもは自分の身を守るために従います。しかし、それでおとなしくなったことが、本当に改善したといえるのか、その後の親子の生活に良い変化があるのか疑問に思います」  発達障害は脳の先天的な発生・発達の偏りによる。対人関係が苦手で感覚の過敏や鈍さを伴うこともある「自閉スペクトラム症」、読み書きに困難を抱える「学習障害」(LD)、落ち着きがない「注意欠陥・多動性障害」(ADHD)の主に三つに分類される。特性は一人一人異なり、複数の特性が重複していることもよくある。強度行動障害は知的障害とASDが伴う場合が多い。  文部科学省の2012年の調査では、「発達障害の可能性のある児童生徒」の割合は、全国の公立小中学校の通常学級に在籍する児童生徒の6.5%で15人に1人の割合だ。ASDは米疾病対策センター(CDC)の18年の分析で、4歳児は59人に1人、8歳児は44人に1人。これらの値は、発達障害の認知度の高まりとともに専門機関での受診が増えたことで増加傾向にある。  鳥取大学大学院の井上雅彦教授(応用行動分析学)は、発達障害の子どもの支援は十分ではないと語る。 「そのために、発達障害がある子を抱える親は、高い養育ストレスを抱えていることがわかっています。米国での最新の研究ではASDの子どもを持つ親の31%がうつ、33%が不安障害、10%が強迫性障害などの可能性があると指摘しています。特に母親は子どもと接する時間が長いので、負担がかかり、バーンアウト(燃え尽き)の可能性も高くなります」 (編集部・野村昌二) ※AERA 2022年10月3日号より抜粋

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    深澤辰哉「人が笑っている顔って、いいんですよ」 敢えて“三枚目”を選んだ理由

     Snow Man・深澤辰哉さんがAERAに登場。グループのMCとしてトークを回し、つっこみつつ、自分自身もいじってもらう役割だという。「パスがこないと成り立たない。いろいろな人に支えられている」と語った。AERA 2022年10月3日号から。 *  *  * 「あ~ホントだ。こっちもいい!」  表紙フォトグラファー蜷川実花から、自身が思う“利き顔”とは違う向きも褒められた。肩ひじ張らない自然体で、うれしそうにモニターを覗き込んだ。撮影現場も、リラックスムードに引っ張られて笑顔が増える。  人気アイドルグループSnow Manの最年長だ。トークを回すMC役ながら、ボケたりいじられたりもする三枚目役としてグループを支える。 「三枚目は誰でもできることではないが、やってみたら?」  事務所の先輩、滝沢秀明にそう勧められたのは20歳ごろ。 「ひたすらかっこつけてた時期で、嫌でした、最初はね(笑)。でも、その頃から滝沢くんとお仕事をする機会が増えて、いろいろな形でいじってくれるようになって。そうしたら、打ち返さなきゃいけないから、トークの勉強にもなった」  何より、気づいたことがあった。 「人が笑っている顔って、いいんですよ。こっちの方が自分らしいなぁと素直に思うようになったんです」  さらに「長年、尊敬する先輩」というA.B.C-Zの河合郁人に「ボケるだけじゃなくMCもやった方がいい」と勧められ、現在のスタイルが生まれた。「河合くんのやり方を近くで見て学ぶことができたのは大きかった」という。 「俺の立ち位置は、うまくパスを出してくれる人がいないと成り立たない。メンバー、先輩後輩、いろんな人たちに支えてもらっていると思います」  9月21日発売の2ndアルバム「Snow Labo.S2」では、ラボ(研究所)という名に相応しい、多様なジャンルに挑戦した。参加したユニット曲「ガラライキュ!」は王道アイドルソングだ。 「俺、本当のフィールドはこっちかも、と思いました(笑)。今回は、リード曲も自分たちが『これで踊りたい』と決めさせてもらった。岩本(照)が振り付けを担当した『JUICY』の“バランすのダンス”、楽しいのでぜひ皆さんに真似していただけたら」 (ライター・大道絵里子)※AERA 2022年10月3日号

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    【夫婦が告白】4歳息子「ぼくはハッピーだよ」夫婦関係解消のryuchellとpecoを受け止めた

     ryuchell(りゅうちぇる)さんとpeco(ぺこ)さんが8月25日、夫婦関係を解消し、今後は「人生のパートナーとして暮らしていく」ことをそれぞれのインスタグラムで発表した。二人は2016年に結婚し、いまは4歳になる息子がいる。  婚姻解消をして何が変わったのか、なぜ公表したのか、そして4歳の息子にはどう接したのか。りゅうちぇるとぺこがAERAdot.のインタビューに思いを語った。 ※【前編】「ryuchellが壊れかけていた」pecoが婚姻解消の経緯を吐露、はこちら *  *  * ――婚姻を解消して、何か変わったことは? りゅう 生活は変わっていないです。今も家族3人で暮らしています。 ぺこ りゅうちぇるが仕事から家に帰ってきてとか、その後、子どもと接して、翌日、一緒に朝ごはん食べてとか、そういうのは変わっていません。逆に、それを変えないために、選んだ道です。  もし話し合いでずっとぶつかり続けていたら、違う道を選択することもあったかもしれない。それこそ一緒にいられないね、ということも可能性としてあったと思います。  だけど、それは息子が悲しむことなので。息子が一番楽しくママとパパと一緒にいるということが、何よりも大事なことなので、色んなことのバランスを考慮してこうなりました。 ――りゅうちぇるさんの今の気持ちは落ち着いている? りゅう 以前とは全然違いますね。去年のような生活が続いていたら、最悪な状況になっていたと思います。  てこ(ぺこ)に打ち明けたときは怖かったですが、いまとなっては打ち明けてよかったなと思います。  変わらずにやっていけそうな家族の雰囲気もあって、皆さんからの励ましの声もあって、少しずつ元気になってきました。 ――自分たちの新しい家族の形を社会に訴えたいわけではない? ぺこ そういうわけでは一切ないです。 りゅう だけど、勇気を振り絞ってくれて、ありがとうという声をたくさんもらいました。 りゅう こういうのもあっていいんだよ、ということをみんなに言いたいわけではないんですが、「勇気が出ました」という声ももらえたので、その声を裏切らないようにしたいと思っています。  私たちの選択が当たり前のようになってほしいとは思わないですが、多様な形があったり、色んな形がある、幸せの形はこういうのもあるんだ、というくらいに僕たちを見て思ってもらえたらいいなと。 ぺこ ロールモデルになりたいというのはないけども、身の回りで似たような家族の形と出会ったときに「ぺこ&りゅうちぇるみたいな感じか」とか、「ぺこ&りゅうちぇるもそういっていたな」とか、そういった多様な家族の形に寄り添える考えのきっかけになれたら嬉しいな、とは思います。 ――今回の発表は「する必要がなかったのでは」という声もあります。 りゅう 「新しい家族の形にします」となったときに、それが外に伝わって、その理由について憶測であることないこと言われるのであれば、ちゃんと理由を言いたいと思いました。ただ、公表するのは、とても怖かったです。憶測が飛んでも「それは違います」と否定すれば済む面もありますし。正直、ギリギリまで悩んでいました。 ぺこ 私の目線からだと、息子に誇りをもって話せることは世間に言っていいと思う。  りゅうちぇるの本当の自分については、私は一切恥ずかしいとか、「なにそれ」とも思わない。そこはりゅうちぇるには私には計り知れない勇気や恐怖があったと思うけど、それを言うことで勇気をもらえる人もいると思いました。  ただ、何よりも、息子にも誇りをもって話せる事実なのだから、世間に伝えたらいいと思いました。 りゅう 当事者の苦しみをいちいち世間に伝える必要があるのか、自分のことだけならいいが……、という考えもありました。世間は厳しいだろうという思いもありました。  だけど、てこが言ったように、息子に誇りをもって話せることは、世間にも話したほうがいいと思いました。 りゅう 僕たちにすごい憧れてくれたファンの方もたくさんいたので、それを考えるとちゃんと言いたいという気持ちがありました。  結果としては公表して良かったと。心が軽くなった部分はあります。 ――ファンからのリアクションで、励まされた声はどんなものだったか りゅう ファンの方が「最初理解ができなくて、何度も何度も二人のインスタを読み返したけど、逆に、性を超えて好きになったということだったんだ」と言ってくれて、僕たちの考えを表現してくれていると思いました。 ――ペコさんへの今の気持ちは? りゅう 家族として、人として、好きです。尊敬しています。 ぺこ お互いそういう気持ちです。 ――4歳の息子には伝えましたか? ぺこ 発表の前日に伝えました。4歳とはいえ、けっこういろんなことをわかっているので。  ウソ偽りなく、わかりやすく伝えました。お家に『いろいろ いろんな かぞくの ほん』という絵本があって、それがママとママがいるお家とか、パパだけのお家とか、おじいちゃんとおばあちゃんが親代わりのお家とか色んな家族が載っているんですが、それを見ながら説明しました。 りゅう 「男の子が男の子を好きになることがあるよね」という話もしました。 ぺこ 今回のりゅうちぇるとの話がある前から、もともと息子に男の子でも男の子のことを好きな人もいるんだよ、とか、女の子だけど心は男の子がいるんだよ、という話は息子にしていました。 「男の子だけど男の子を好きな人がいることについてどう思う?」と聞いたら、「ぼくはハッピーだよ」って言ってくれて。100%わかっていないにしろ、4歳なので「ちょっと変だよ」とか言われてもおかしくないと思っていたけど、そう言ってくれたことはすごく嬉しかった。  そこで「ダダ(パパ)はそういう人なんだよ」という話をして、「だけど、何より私たちが伝えたいのは、あたなは紛れもなく愛し合ってできた子なんだよ」ということも伝えました。 ぺこ ダダのお仕事がテレビの仕事というのはわかっているので、もしかしたらこれからお友達とかに「お家のパパとママはどういう感じなの?」とか、「どうなっているの?」とか、いろんなことを言われるかもしれないけど、そのときは言いたくなければ何も言わなくてもいいし、「わからない」でもいいし、「全然ママたちは大丈夫だよ」でもいいしと。 りゅう 正直、この話はいま話したから終わりではなく、ずっと話さないといけないと考えています。4歳なので、まだ世の中をわかっていないところが多いです。「ハッピー」という心が4歳のときにあることはすごく嬉しいことだけど、どんどん考えや環境は変わっていくだろうし。その都度その都度、息子と向き合って話あっていけないと思っています。 ぺこ すごい難しい話だったと思うんですけど、ちゃんと最後まで聞いてくれて、「難しかったー」とは言っていましたけど、しっかりと受け止めてくれたのは、すごく感じた。ちゃんと伝えて良かったと思った。  その日の夜に息子が、私と二人のときに、何の前触れもなく、「僕はママのことを大切にしているよ」と言ってくれて。息子にはりゅうちぇるとの話がまとまるまで気づかれないようにと日々過ごしてきたけど、どこかで気づいていたのだろうなと思う。「これからも3人は変わらないよ」ということをちゃんとわかってくれたんだなと感じました。 (構成/AERA dot.編集部・吉崎洋夫)

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    【後編】「安倍元首相と教団の関係を検証して被害者を救済を」 旧統一教会を脱会した“信仰2世”の願い 

    「世界平和統一家庭連合」(旧統一教会)の元信者で、親が信者である「信仰2世」の冠木結心(かぶらぎけいこ)さん。合同結婚式で二度結婚し、いずれも相手の男性からひどい仕打ちを受けた。そして、韓国で10年もの間、極貧生活を送ることになる。【前編】ではその経緯を詳述したが、冠木さんの苦労は、洗脳が解けて日本に帰国してからも続いた。【後編】では、日本における「2世」としての生きづらさ、安倍晋三元首相と教団との関係性への思いなどを聞いた。 *  *  *「旧統一教会を脱会したときに、私はこれからどうやって生きていけばいいのかわかりませんでした。自分を否定したり、犠牲にしたりすることで成り立っていた世界だったので、自己否定する癖が染みついてしまっていたんです。そんな精神状態のまま、ずっと教会の命令に従って生きてきました。狭い世界の中でしか生きるすべがなかった宗教(信仰)2世の人たちは、外の世界に放り出されたらすんなりとは生きていけない。社会に適応できずに、精神を病んでしまう人も少なくありません」  旧統一教会の「信仰2世」である冠木結心(かぶらぎけいこ)さんはこう語る。  母親が信仰していた旧統一教会に自身も高校生で入信した冠木さんは、合同結婚式による二度の結婚と離婚を経験。娘2人を抱えながら、10年もの間、韓国での極貧生活を耐え忍んだ(詳細は【前編】を参照)。  2013年、教祖である文鮮明が死去したことで洗脳が解けて、脱会。娘たちと日本に帰国することになった。その時の気持ちを冠木さんはこう振り返る。 「私の入信の動機は母への親孝行で、教義への信仰ではなかったので、洗脳が溶けやすかったのだと思います。実は頭の片隅には教会に対して不満がありましたが、母を悲しませたくなかったので受け入れていただけでした」(以下同)  帰国後、まずは親族のアパートに身を寄せた。だが、そこにはまだ信者である母親が住んでいた。献金として教団に生活費を搾取されていた母親は、姉の稼ぎを頼りにしなければ生活がままならない状態になっていたのだ。  旧統一教会では、合同結婚式を挙げて授かった子どもを「神の子」と呼ぶ。母親はすでに洗脳が解けた冠木さんには関心を示さず、「神の子」である娘たちに信仰を強要しようとした。娘たちが自分と同じ目にあうことは絶対に避けたい。私は母と絶縁しなければならない――冠木さんはこう心に決めた。 「親が信者である2世は、どんなに親と離れたいと思っても、経済的な自立ができないと縁を断ち切るのは難しい。だから、親がいないと生きていけない“子どもの2世”は、どんなに嫌でも信仰を受け入れざるを得ない。これは、子どもの人権に関わる問題です。私は身をもってそれを経験したし、娘たちのためにも、ここで私が“負の連鎖”を断ち切らなければいけないと思ったんです」  冠木さんは、親族の家から引っ越す際に警察に相談し、親族による「児童虐待及びこれに準ずる行為」を理由に、住民票の閲覧制限をかけた。その後、安定的な仕事がなかった冠木さんは役所に生活保護を申し出たが、閲覧制限をかけていたことから、母親に居場所を知られずに済んだ。 「10年も韓国で暮らしていた私には、日本での生活基盤がなく、40歳手前のシングルマザーが仕事を見つけるのは困難でした。でも、娘2人はどうにかして育てなければならない。そこで、しばらくは生活保護を受けて暮らしを立て直すことにしたんです。そのおかげで娘たちを学校に通わせることができたし、私自身も心身が回復して、社会復帰することができました。生活保護には本当に助けてもらいました。心から感謝しています。ただ、もしこれが若い2世だったら、役所から『あなたは若いから働ける』と言われて門前払いされたかもしれない。今、宗教2世は社会問題となっていますが、彼らを救済する受け皿がなければ、自立していくことは難しいのではないでしょうか」  社会復帰した冠木さんはすでに生活保護に頼らずに生活しており、娘たちは成人しているという。  ただ、やはり「2世」として社会で生きていくのは困難がつきまとった。他人との距離感に戸惑いを感じることがあり、冠木さんは「教会に戻ろうかな」と何度も心が揺れたという。 「何か悪いことが起こると『教会をやめたからなのかな』と思ってしまうんです。末端の信者はまじめで優しい人が多かったから、『世間の人より、教会の人たちのほうが温かく迎え入れてくれるのでは』と、何度も戻ることを考えてしまいました」  それでも、教団に戻ることなく踏みとどまった冠木さん。旧統一教会は今、宗教法人の「剥奪」まで叫ばれているが、頭をよぎるのは末端の信者のことだという。いま宗教法人が剥奪されたら、末端の信者は行き場を失う。その時のために、信者たちを救済する制度を国に検討してほしいと願っている。 「信者は生きる拠り所を奪われてしまうわけですから、極端な行動をする人が出てしまう可能性もあります。『国から迫害を受けている』と教会から誘導され、かつてのオウム真理教信者の、相手に怒りを向けるような凶行に出たり、自分を傷つけてしまったりする人も出るかもしれません。私はそのことをとても心配しています。あのオウムの事件があった時点で、統一教会にもメスを入れるべきだったのです。そのツケが回ってきて、今になって2世問題が深刻化しているのだと思います」  安倍晋三元首相を銃撃した山上徹也容疑者は、母親が旧統一教会に多額の献金をしたことで生活が苦しくなったと供述している。そんな環境の中、安倍元首相が旧統一教会の友好団体にビデオメッセージを送っている動画を目にして、「つながりがあると思った」ことが動機の一端とされる。同じ2世という立場からも、冠木さんは「安倍元首相とつながりがあったのかは検証すべきだ」と話す。 「亡くなってしまった安倍元首相に直接確かめることはできませんが、ビデオメッセージを出していたのだから、広告塔の役割を果たしていたと思われても仕方がありません。国葬の前に、実際はどうだったのかを政府に検証してほしいと思っています。ただ、すでに友好団体が安倍元首相の大規模な追悼式をやっているわけですから、教団側は関係性を認めたも同然だとは思います」  27日に行われる国葬については、「国葬に反対している国民の意思だけではなく、旧統一教会に人生を狂わされた被害者たちの気持ちも置き去りにされているように感じます」と語った。  2世も含めた被害者の救済に、政府は目を向ける必要がある。(AERA dot.編集部・岩下明日香)

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    台風シーズンまだ続く 熱帯擾乱が発生するとすぐに影響が出る可能性も

    今年の台風シーズンは、まだ続くとみられます。熱帯低気圧など熱帯擾乱が、日本の近くで発生し、発生すると影響がすぐに出る可能性もあります。南の海上の状況きょう2日、雲の様子をみると、特にまとまった雲はなく、今後すぐに熱帯低気圧などの発生はなさそうです。今は、インド洋から東南アジア付近で対流活動が活発になっており、日本の南は不活発な周期に入っています。ただ、今年の台風シーズン、もう終わりに向かっていることではなさそうです。今年の台風シーズン 上空で北東から寒気が流れ込みやすい9月に、九州を北上して日本海を北東へ進んだ台風14号もそうでしたが、台風の発生のきっかけの一つとして、上空の寒気が関係することがあります。上空を流れる偏西風の北側の寒気が、日本の南に流れ込んでくることがあり、この寒気の周辺で、熱帯低気圧など熱帯擾乱が発生することがあるのです。台風シーズンに珍しいことではありませんが、今年の上空の大気の流れは、例年以上に、日本の南に、北東から寒気が流れ込みやすくなっています。10月もその傾向です。南の海上で熱帯低気圧が発生する可能性アメリカ海洋大気庁の予想では、10月5日から11日にかけて、日本の南で、熱帯低気圧など熱帯擾乱が発生する確率は20%から40%です。5日には日本付近に本格的な秋の空気が流れ込み、残暑は途切れますが、台風シーズンはまだ続くとみられます。今年の熱帯低気圧や台風は、日本に近い所で発生しやすいことが特徴です。今後も日本に近い所で発生し、発生するとすぐに影響が出ることがあるかもしれません。南の海上に、まだ注意が必要です。

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    ホラン千秋「鬼ヤバ弁当」予想外の反響に驚き 飾り気ゼロも「他人に合わせる必要ないと思う」

     澄んだ声と飾ることのない自然体で、いまやすっかり“夕方の顔”。そんな人気に拍車がかかったのは、飾り気ゼロのお弁当だった。ホラン千秋をひもとけば、根幹に流れる“解釈”が見えてきた。AERA2022年9月26日号の記事を紹介する。 *  *  *  タッパーのなかで散らばる小松菜。ラップで区切ったハンバーグとラタトゥイユ。詰めたというよりは、ぶちこんだように見えなくもない。  タレントでキャスターのホラン千秋さん(33)は、自身のブログやインスタグラムに手作り弁当を載せている。だが、ぱっと見、流行(はや)りの「映え」とはまるで対極。どんと横たわるきゅうりのぬか漬けに、スカスカのとうもろこしご飯──。そんな自由な弁当が注目されている。 「自分では、お弁当の見た目がひどいなんて思ってもいなかったんです」  と、笑うホランさんだが、ファンやフォロワーの間では「鬼ヤバ弁当」として愛されている。  そうなったきっかけは? 「1食分の料理を作るのって難しいじゃないですか。ほうれん草がぱらぱらと入っているお弁当は、2日くらい保存容器として使って、その最後の1食分を冷蔵庫から出して持っていっただけなんです。どっちも同じ容器だから、詰め替える作業を省略すれば時短になります」 ■「残飯みたい」と言われ  ある時、ブログのネタに困り、目の前にあった弁当を載せた。 「そしたら『残飯みたい』とコメントがきて。母親も、『私がこういうお弁当を作っていたって勘違いされるじゃない』って戸惑っていました。私としては、キラキラしたデコレーション弁当と同列だとは思わないけれど、“あるもので工夫したお弁当”には変わらないよなという感覚だったんです」  料理好きだというホランさん。一つひとつのおかずはどれもおいしそうで、ラザニアなど手が込んだものもある。ただ、その盛り付けは、ときに質素で、ときに豪快。当初はビジュアルについて散々な言われようだったが、次第に変化し始める。 「写真を載せているうちに、『この弁当を見て気が楽になりました』というコメントがくるようになって。きれいにお弁当を作らなければという呪縛みたいなものがあって、そこから解放される人がいるのだと、予想外の反響に驚きました」  きらびやかな弁当がSNSに並ぶなか、おかずが1色しかない弁当を恥ずかしく感じる人がいることにハッとしたという。だが、最近では「白米とミートボールだけ」といったシンプルな弁当がコンビニでヒットしていると伝えると、机をバンッと叩いて切り出した。 「何であのお弁当は歓迎されるのに、同じような私のお弁当は『うわぁ』ってなるんだ!って思うんですよ。その気持ちの差がどうして生まれるのかを考えたとき、同じものを作っても、家庭での努力は過小評価されがちだって気づいて」 ■「衣装選び」はパズルだ  たしかに、弁当箱には「こうあるべき」という思い込みを詰めがちだ。だが、ホランさんは違う。小さな箱のなかに「宇宙が広がっている」とたとえる。 「そりゃ私だって、心と時間と脳みそに余裕があれば、『曲げわっぱでのっけ弁』を作ってみたいって願望もあります。全部違うおかずにして、紫キャベツや青じそで彩りや仕切りを加えるとか。でも、寝たいし、頑張りたくないし、韓国ドラマだって見たい。人生の優先順位をリスト化したら、『お弁当をきれいに作る』というのはそれらの欲望よりも下のほうにあって。お弁当作りの優先順位が高い人ももちろんいると思いますし、それはそれで素敵だと思うんです。ただ、他人にあわせて自分が高くする必要はないですよね」  目の前にあることに優先順位をつけて、てきぱき判断する。その考え方は、弁当作り以外にも垣間見える。  平日の夕方、週5日間キャスターを務める「Nスタ」では、1週間分の衣装がまとめて用意されるという。トップニュースがスポーツやエンタメの明るい話題のときは、ピンクや黄色など、暖色系の洋服を。事件や事故など、悲しいニュースが続く日は落ち着いた色を自分で選んでいる。 「ときに、大変なニュースが続いてしまった週の後半には、明るい色しか残っていないということもありうるので、そうならないためにどう組み合わせるか、バランスを見ながら衣装のパズルをしています」  一つ質問するたびに、明快でユーモアの交じった答えが飛び出す。秒単位で動くニュース番組でも、そのスキルはいかんなく発揮。相方であるTBSの井上貴博アナウンサーとともに、落ち着きながらもときにアツく、しっかり的を射た“コメント力”が人気を博している。さらに、今秋からはバラエティーの新番組でMCに抜擢された。 ■バカ笑いできる「瞬間」 「今でも私の“ホーム”は長いこと育てていただいたバラエティーだと思っています。バラエティーの仕事は楽しいし、バカ笑いできる瞬間ってすごく大事だと思っているんです。ニュースとバラエティーって雰囲気に振れ幅がありますが、切り替えは特に意識していません。スタジオに入ると、自然と番組ごとの私に切り替わっているのだと思います。それぞれの番組に合わせてチューニングすることで、どんなジャンルの仕事でも対応できるタレントでありたいです。それに、この数年は皆さん大変なことが多かったですよね。そんなとき、私の場合は半ば強制的に明るい瞬間を持ってくることで、重たい空気にのみ込まれないよう、ニュートラルな場所に私を引き戻してくれるのが、バラエティーの現場。だから、とっても大切なんです」  20代の頃は悩みもあった。強烈な才能と個性にあふれる芸能界で、自分の価値がどこにあるのかわからなくなったことも。 「平凡な私にできることはあるのだろうかと、自信を持てない時期がありました。でも、“普通”が求められることもあると気づいて楽になりました。私たちタレントは“本人”としてテレビに出るので、本来持っている以上のものは出せないと思っています。一時的に取り繕えても、継続は難しい。今も天才的な才能や実力はないし、自信をなくすときもあります。そんなときは、こんな自分を信じてくれる人の声を信じればいい。その積み重ねが、毎日笑いながら仕事ができる日々に続いています」  だからこそ、「自分」を偽らない。 「それに、私のお弁当みたいに自分が普通だと思っていたことが、周りからするとそうじゃなかったということもありますからね(笑)。ありのままでいることが、一番大切なのだと思います」 (編集部・福井しほ) ※AERA 2022年9月26日号

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    他球団が欲しがる「巨人の中堅2人」 トレードなしで起用も増えず「もったいない」の声も

     現在セ・リーグでBクラスに沈んでいる巨人。新型コロナウイルスの集団感染で多くの選手が離脱して苦しい状況ではあるが、ここからの巻き返しに注目が集まる。そんな中、石川慎吾、重信慎之介と能力的には高く評価されているものの、なかなか出場機会が回ってこない中堅2人が存在する。  選手層の厚いチームという事情もあり、常時出場は難しいかもしれない。加えて、若手への切り替えを図る球団方針もある。出場機会が減ってしまうのは理解できるが、あまりにチャンスが少ない。他球団へ行けばレギュラー争いに加わることのできる実力があると言われているだけに「もったいない」の声も多い。  開幕から調子に乗り切れない巨人はペナント争いで首位から13ゲーム差の5位。先述のようにオールスター前にはコロナ禍の直撃を受け、7月19日からの4日間で首脳陣、選手、スタッフを含め計73人が陽性判定を受けた。  優勝争いは非常に厳しい状況ではあるが、今はチームが若返りの時期でもあり、有望株たちの奮起も期待されている。野手では坂本勇人の後継者と言われる中山礼都、レギュラー定着が期待される増田陸に加え、秋広優人、菊田拡和など有望株は少なくない。一方、投手でも大卒ルーキーの大勢がストッパーとして活躍し、赤星優志、山崎伊織、堀田賢慎など開花の兆しを開幕当初に見せていた将来のエース候補は多い。 「良い素材が多いのは間違いないが中心選手になるには数年かかる。若手の積極起用が苦戦にもつながっている部分もある。編成面も任される原辰徳監督は数年先を考えているのでしょう。オフの積極補強がなかったのを見ても、球団方針として決定事項なのかもしれない」(在京球団編成担当) 「(若手が期待通り成長すれば)将来的に黄金時代が来るかもしれない。しかし巨人は常勝を宿命づけられている球団。ファン、スポンサーなどが(勝てない)現状に対して不満を持っている場合も多い。中堅クラスの実力者をなぜ使わないのかという声も聞こえる。石川、重信はその最たる例です」(大手広告代理店関係者)  数年後を見据えヤングジャイアンツを育成するのはごもっとも。しかし巨人のファン、そしてスポンサーなどは「常に勝利」を求めている。結果を出せる可能性がある実力者を起用すべきとの意見もある。  そして、二軍などで結果を出しながらも「起用されない選手」の筆頭が石川だ。  石川は16年オフのトレードで日本ハムから巨人に移籍。加入1年目となった17年には99試合に出場して、57安打、5本塁打、20打点と存在感を見せたが、それ以降はなかなか出場機会を増やせないでいる。だが、先述のようにファームでは常に結果を残し続けており、一軍で使われないのが不思議な気もするほどだ。 「打撃はレギュラークラス。特に飛距離はトップクラスで逆方向の打球も簡単にスタンドインさせる。東京ドーム外野席上部看板にもバンバン当てています。外野守備も決して悪くなく標準以上でもある。出番は少ないですが確実に仕事をこなせるメンタルの強さもある」(巨人担当記者)  石川は今季もこれまで一軍の出場は13試合と少ないが、打率.353(17打数6安打)とハイアベレージをキープしている。新型コロナウイルスの影響で選手も大量に離脱しており、ここからチームの救世主的な存在となれるのか。  また、石川と同じ外野手の重信も実力がありながら出場機会に恵まれない選手の一人だ。早稲田大時代から安打製造機として知られ、15年のドラフト2位で巨人に入団。即戦力として期待されながらも、なかなかレギュラー奪取には至らず中堅の域に差し掛かっている。 「早稲田の先輩であるヤクルトの青木宣親のような活躍を期待されたが伸び悩んでいる。大学時代の活躍から、将来的にはメジャー挑戦もという声も上がったほどの選手だった。試合に出れば確実に結果を残すが、パフォーマンスが安定しないところもある。チーム編成上の影響もありレギュラー奪取とまではいかない状況が長く続いている」(巨人担当記者)  今のところ巨人ではともに一軍当落線上の選手にはなってしまってはいるが、他球団からの評価も高い。7月31日のトレード期限までに動きはなかったが、「試合に出さないのであれば欲しい」という声も多くあるようだ。 「石川は代打だけでは惜しい。スタメンで4打席立てばシーズン25本塁打は期待できる。重信は実戦タイプで伸び代もまだ感じる。試合に出続け経験を積めば大学時代のような存在感を示すことができる可能性もある」(在京球団編成担当)  これからのチームを担う若い選手を育てなければいけないチーム事情もある。かつての坂本や岡本和真などは若手時代から我慢して使い続けたことで、現在のような確固たる地位を築くことができた。だが、常勝チームがゆえに勝つことも求められる。そうなった場合、やはり石川、重信のような選手も積極的に起用しなければいけないような気もするが……。 「全ては原監督の考え方次第。これだけ苦戦をしても若手中心の起用法に変化はない。今後も同様ならば石川と重信の立ち位置も変わらないので、トレードの可能性も出てくる。2選手との交換でポイントを絞って戦力補強をしつつ若手育成をするのが現実的ではないか」(巨人担当記者)  巨人は今、ピンチを迎えている。球団史上2度目となるシーズン最下位の可能性もでてきた。若手へのシフトも重要だが、目先の1勝も大きな意味を持つ状況になっている。新型コロナウイルスの影響で離脱した選手が多い中で、石川、重信の起用は増えるのか。また、シーズンオフのトレードなど、名門チームでくすぶる中堅2人の今後はどうなっていくのだろうか。

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    【前編】22歳元女性自衛官が実名・顔出しで自衛隊内での「性被害」を告発 テント内で男性隊員に囲まれて受けた屈辱的な行為とは

     元女性自衛官が実名・顔出しで、訓練中に受けた性被害をYouTubeで告白したことが話題を呼んでいる。五ノ井里奈さん(22)は、陸上自衛隊に所属していた2021年の6月~8月、複数の上官から集団でセクハラを受けたという。上長に被害を訴えても取り合ってもらえず、自衛隊内の捜査機関に被害届を出しても、検察からは不起訴とされた。現在は検察審査会に不服申し立てをし、結果を待っている。五ノ井さんは、AERA dot.の単独インタビューに応じ、「日常的に起きているセクハラの被害から、残された女性隊員を守りたい」と、自身の受けた体験を語った。 *  *  * 五ノ井さんが陸上自衛隊に入隊したのは、2020年4月。小学生の頃から女性自衛官に憧れ、20歳のときに自衛隊の門をたたいた。教育期間は順調にこなし、その時までは、思い描いていた自衛官の姿に誇りとやりがいを持っていた。  だが、その後に配属される中隊名が発表されたときから、風向きが変わった。女性の先輩隊員から、こんな忠告を受けたのだ。 「あそこの中隊はセクハラとパワハラがひどいから気をつけろ」  五ノ井さんが配属された東北方面の中隊は、隊員58人の中で女性は5人。1人は育休中だったので、実質的に女性隊員は4人しかいなかった。同部屋の女性隊員からも「セクハラは覚悟して」と言われたので警戒はしていたものの、すぐにそれが現実のものとなった。 「2020年秋ごろ、勤務中に、男性隊員が『柔道しようぜ!』と言いながら技をかけてくるのですが、腰をつかまれて“バック”のような体制にされて腰を振ってくるんです。それを女性隊員が目撃していました。廊下を歩いていると、急に抱きつかれることも日常的にありました」(五ノ井さん)  部屋に戻ると、女性隊員同士でこうした行為を報告しあった。だが女性隊員は圧倒的少数。自分の身を守るだけで精いっぱいの場合もある。  2021年6月24日。山に入って訓練をしていた時、新人の五ノ井さんは夕食や酒のつまみを作る役割を任されていたので、天幕で料理を作っていた。天幕とは2~3人用のテントのことで、山での訓練では寝床として使用されていた。天幕で酒盛りをし、定員より多い男性隊員が入れ代わり立ち代わり入ってきて、多いときには5、6人くらいの隊員がぎゅうぎゅうになって座っていた。料理を作るためにいた五ノ井さんはその輪の中に入れられ、胸をもまれ、キスをされ、男性隊員の陰部を下着越しに触らせられた。  逃げられないと思った五ノ井さんは、別の天幕にいる女性隊員にLINEで「はやく来てください」と助けを求めた。女性隊員からは「オオカミなってる??w」と返事がきた。「オオカミ」とは、男性がお酒を飲んで暴走し、理性をコントロールできない状態のこと。「はい」と返せば、女性隊員は助けに来ないと思い、五ノ井さんは「なってません とりあえず早く来てください」と再度助けを求めた。だが、その女性隊員は「今来たらやばい」という別のLINEも受け取っていたことから、結局、五ノ井さんのいる天幕には来なかった。女性隊員はその直後に退職した。  状況としては“見捨てられた”ようなものだが、五ノ井さんはこの女性隊員の気持ちもわかると話す。 「女性隊員が自分の身を守るためには、来ないのが正解なんです。夜遅い時間に男性隊員のストレス発散に使われて、自分だって危ない目にあう可能性があるんですから、行きたくない気持ちにもなりますよ」(同)  五ノ井さんからLINEを受け取った元女性隊員は当時の状況をこう証言する。 「LINEを受け取った前日に、私も同じ天幕で宴会に参加して、同じようなセクハラを受けていました。その時は、男性隊員から膝に乗って接待しろとか、頬にキスしろと強要されました。ある男性隊員から次の日は『覚悟しとけ』と言われ、もう何をされるかわからないので、五ノ井さんに助けを求められた時に行くことができませんでした。止めに行きたい気持ちはあったのですが、止めに入ったら(次は)自分に来るので、怖くて助けられませんでした」  元女性隊員自身も「ほぼ毎日抱きしめられる」などのセクハラを受けており、五ノ井さんが日常的に被害にあっている場面も目撃していたという。元女性隊員によると、この部隊は2018年から女性隊員が入るようになり、その時から、「セクハラがヤバイ」として悪評が立っていた。セクハラをしているグループの中心は、20代後半の男性隊員数名で、他の隊員は上下関係から、逆らうことができず、ただ見ているだけだったという。  だが、この日のセクハラ事件は、中隊でも問題となった。事件を目撃していた誰かが、中隊長に報告したからだ。すぐに「中隊長に告げ口したのは誰か」と、犯人捜しが始まり、被害者である五ノ井さんが疑われた。加害者からは、「セクハラじゃなくて、コミュニケーションの一部だもんな」と声をかけられた。事情聴取として曹長から呼び出された五ノ井さんは「何もありません。大丈夫です」と報告した。問題が大きくなり、組織に居づらくなるのを避けようとしたからだ。 「自衛隊には厳しい上下関係があって、その場の空気に合わせなければならない。和を乱せば、無視や陰口を言われますから」(同) ■セクハラを超えた性被害を受けて限界に  この日以降、五ノ井さんは気持ちを押し殺しながら日常的なセクハラに耐えてきたが、昨年8月に我慢の限界に達する出来事が起きた。  8月3日から地方で約1カ月間の訓練があった。訓練場所に到着した日の夜、部屋で食事の準備をしていた五ノ井さんは、男性隊員から「料理はいいから接待しろ」と言われ、男性隊員十数人の輪の中に座らされた。宴会だったので、隊員らは酒を飲んでいた。  一曹Eと二曹Yが格闘の話をしていたところに、男性隊員S三曹が部屋に入ってきた。するとEは、Sに「五ノ井に首をキメて倒すのをやってみろ」と命令した。Sは、五ノ井さんの首に両手を当てて、そのままベッドに押し倒すような技をかけた。 「この時、Sさんが暴走し始めたのです。股を無理やりこじ開け、腰を振りながら陰部を押し当ててきました。一人で『あんあん』とあえぎ声みたいな声を出して、それを見ている周りの男性隊員たちは笑っていました。特にEとYはこっちを見ながら確実に笑っていました」(同)  続いて、2人目の男性隊員Kも「首をキメて」押し倒し、Sと同様の動きをした。さらに続いた。3人目男性隊員Rは同様に押し倒した後、五ノ井さんの両手首を押さえつけながら、何度も腰を振ってきた。 「全力で抵抗しようと、手首に力を入れて振りほどこうとしましたが、男性の力にはかないません。諦めて、終わるのを待つしかありませんでした。終わって体を起こすと、周りの男性隊員たちはこっちを見ていました」(同)  コトが終わると、Rからは「五ノ井って案外力が強いな」と言われた。五ノ井さんが抵抗していたことはわかっていたのだ。  一旦話題が収まったにもかかわらず、再び一曹Eが格闘技の話を面白おかしくしはじめて、「あれ、首をキメて倒すのどうやるんだっけ?」と笑いながら言い出した。すると、再びSが、五ノ井さんの首に両手を当てて押し倒し、腰を振ってきた。五ノ井さんの引きつった顔を見たSは「これ誰にも言わないでね」と口止めしてきたという。 「もう限界でした。訓練場所は、すぐに抜け出せる環境ではありませんでしたが、先輩の女性隊員と中隊長Mに相談して、帰りたいとお願いしました」(同)  先輩女性隊員は、最初は味方してくれたが、男性中隊長が「訓練は訓練だ」と言うと、「そうだよ、訓練は訓練だから」と態度を変えた。訓練はあと20日以上続く。これ以上耐えられないと感じた五ノ井さんは、訓練から抜けることを懇願した。だが、セクハラを受けたことが理由では、6月の時のように告げ口したと思われてしまう。母親が倒れたことにして、実家に帰れることになった。  この時、先輩女性隊員からは「一応、嘘ついていることは心の隅にでも置いておいてね」と言われた。エスカレートする性被害から逃れるための苦渋の判断にもかかわらず、被害者である五ノ井さんに非があるような言い方に聞こえた。 ■被害届を出すも不起訴処分  この8月の性被害の後、適応障害と診断され、五ノ井さんは休職することになった。被害については、まず、自衛隊の総務・人事課にあたる「一課」にセクハラ被害を報告した。だが、一課からは「8月のセクハラの件を見たという証言が得られなかった」と回答された。次に、自衛隊の犯罪捜査に携わる警務隊(防衛相の直属組織)に強制わいせつ事件として被害届を出した。 「警務隊の現場検証では、人形を使って再現しました」(同)  検察庁の捜査をへて、22年5月31日付で判決が出た。結果は、不起訴処分。五ノ井さんが不起訴の理由を尋ねると、検察官は「複数の自衛官を取り調べたところ、五ノ井さんを『首ひねり』という技で倒すところは見たけれども、腰を振るようなわいせつ行為をしているところは見ていない」という供述だったと説明された。そして「被疑者を有罪にするにはそれなりの証拠が必要だ」とも言われたという。 「その場で見ていた人がたくさんいたのに、なぜか腰を振ったという証言は出てこない。単に技をキメて押し倒しただけで、どうして笑いが起きるのでしょうか。その続きがなかったら、笑うわけがない」(同)  五ノ井さんは6月7日付で、検察審査会に不服申し立てをしている。  自衛隊内部では、この事件をどう捉えているのか。AERA dot.は五ノ井さんが配属された東北方面の部隊に事実確認すると、広報担当は「現在、部隊で調査中のため回答は差し控える」と答えた。調査結果がいつ出るかは未定だという。また、五ノ井さんが報告を上げた「一課」にも確認をしたが、「その件は一課長が対応したが、いまは不在」とのこと。代わりに対応した指令業務室の担当者は「事実を調査中のため、予断を持って回答することは差し控えたい」と回答した。なお、被疑者の処罰については、「判明した事実に基づき、厳正に対処する」とした。 (AERA dot.編集部 岩下明日香) ※「後編」では、五ノ井さんがセクハラを受けてもすぐに辞めなかった理由、顔と名前を出して告発に踏み切った経緯などを明かす。

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    巨人が“浅野以外”で欲しいのは? ドラフト補強ポイント【中日・広島・巨人】

     プロ野球のドラフト会議まであと約3週間となり、各球団の動向や候補選手についての報道も多くなる時期となってきた。今年は本命らしい本命は不在という印象で、近年多かった事前の1位指名公表も少なくなることが予想されるが、各球団どんな選手を狙うべきなのか。補強ポイントと、その選手がチームにマッチするかという点から探ってみたいと思う。今回は現在セ・リーグでBクラスの巨人、広島、中日の3球団だ。 *  *  * 【中日】  立浪和義新監督が就任し、期待が高かった中日だが最下位が決定的となっており、今年も苦しいシーズンとなった。昨年のドラフトでは長打力不足を解消するためにブライト健太、鵜飼航丞の強打者タイプの大学生外野手2人を指名したが、ともに確実性に大きな課題を残しており、一軍の戦力となるにはまだ時間がかかりそうな印象だ。若手野手では岡林勇希がブレイクし、土田龍空も成長を見せているが、根尾昂が投手に転向となり、石川昂弥も故障続きとなると、やはり今年も野手中心の指名と考えるのが妥当ではないだろうか。  そこで筆頭候補として推したいのが内藤鵬(日本航空石川・三塁手)だ。西武のところでも紹介したが、その長打力は高校生ではナンバーワンであり、今年の候補全体を見ても長距離砲としての素質の高さはトップという印象を受ける。仮に内藤を1位で指名できたとしても、大砲候補はプロで苦しむケースが多いだけに、もう1人くらいは高校生の強打者タイプを狙いたい。  石川、ブライト、鵜飼も右打ちだということを考えると左打者が狙い目になりそうだが、2位で残っていれば狙いたいのが西村瑠伊斗(京都外大西・外野手)だ。体はそれほど大きくないが、ミート力は高校球界でも1、2を争う存在で、技術で遠くに飛ばすことができる。足と肩も高水準で、広い外野を任せられるポテンシャルも備えている。下位で狙えそうな選手では田中多聞(呉港)も面白い。少し確実性には課題が残るが、大型でパワフルなスイングは高校生離れしたものがある。肩の強さがあるのも魅力だ。  投手では高橋宏斗を筆頭に若手に楽しみな選手は多いが、主力はベテランも多いだけにこちらも柱となれる人材は必要だ。2位で西村が残っていなければ、その枠でスケールのある投手に切り替えるのも一つの手だろう。候補としては先発タイプなら青山美夏人(亜細亜大)、リリーフタイプなら橋本達弥(慶応大)が面白い。青山は長身と長いリーチでボールに角度があり、力を入れた時のストレートの勢いは目を見張るものがある。また未完成な部分も目立つが、スケールでは大学生投手でトップクラスだ。橋本は東京六大学を代表する抑え投手。150キロに迫るストレートにフォーク、カットボールと決め球を複数備えている。ともに完全な即戦力という感じではないが、2年目から一軍の戦力になれるだけの潜在能力は十分にありそうだ。 【広島】  5位の広島は森下暢仁、栗林良吏、森浦大輔など即戦力を期待して獲得した投手がしっかり戦力になっている印象が強い。一方で野手は坂倉将吾、小園海斗の成長はあるものの、鈴木誠也の抜けた穴は大きく、昨年社会人の右打者を獲得はしているが、やはり強打者タイプは必要になるだろう。  高校生であれば内藤鵬(日本航空石川・三塁手)ももちろん候補だが、脚力のある選手を重視するチームであることを考えると少しマッチしないようにも感じる。そこで候補として推したいのが森下翔太(中央大・外野手)だ。東海大相模時代から評判の強打者で、1年春には早くも大学日本代表に選ばれている。その後は少し苦しんだ時期が長かったが、今年の春は打率3割をクリアし、課題の確実性も向上してきた。全身を使ったフルスイングで広角に長打を放つことができ、脚力と肩の強さも備えている。また今年は死球による骨折から早期に復帰するなど体の強さを見せているところも広島向きの選手と言えそうだ。  前述した通り、投手陣は確実に補強されてきているが、高校卒の若手となると遠藤淳志と玉村昇吾しか一軍の戦力になっておらず、二軍まで見ても2年目の小林樹斗くらいしか有望株は見当たらない。そうなると高校生のスケールのある投手を狙いたいところだが、候補としては斉藤優汰(苫小牧中央)、門別啓人(東海大札幌)などが挙げられる。斉藤はたくましい体格から投げ込むストレートが武器で、スピードはコンスタントに145キロを超える。まだ粗削りではあるが、今年の高校生投手ではスケールの大きさはナンバーワンと言えるだろう。  門別はオリックスのところでも紹介したが、スピードだけでなく総合力も高いサウスポー。将来の先発候補として期待できるだろう。大学生でも将来性とスケールを重視するなら仲地礼亜(沖縄大)が面白い。高校時代は無名ではあったが、大学で急成長した本格派右腕で、昨年の大学選手権でも好投している。森下に次ぐエース候補として狙いたい存在だ。 【巨人】  4位に沈む巨人は数字的には投手成績が課題のようにも見えるが、今年プロ初勝利をマークした投手が8人出ていることからも分かるように、今後の成長が楽しみな投手は少なくない。一方で野手は坂本勇人、丸佳浩、中田翔など中心選手にはベテランプレイヤーが多く、数年後には大きくメンバーを入れ替える必要があり、若手の有望株は必要不可欠な状況となっている。  そんな中で9月28日には早くも浅野翔吾(高松商・外野手)の1位指名を公言したが、これはチーム状況を考えても非常に理解できる選択と言える。右打ちの外野手で支配下の選手は外国人のウォーカーを含めて2人しかおらず、内野も含めてもパンチ力のある若手は多くない。浅野自身は中距離打者を目指すと話しているが、東京ドームが本拠地であればホームランを量産することも期待できるだろう。  ただ、巨人は抽選に外れ続けており、その時の選択も重要になってくる。過去には野手を外して投手に切り替えたこともあったが、チーム事情を考えるとやはり外しても野手を狙いたい。そこで、指名されず残っていれば推したいのが松尾汐恩(大阪桐蔭・捕手)だ。将来の正捕手候補としても当然魅力的な人材だが、巨人としては坂本の後釜候補として考えたい。地肩の強さとフットワークは抜群で、長打力十分のバッティングも高校生ではトップクラスだ。浅野、松尾ともに指名できないケースでも中日のところでも挙げた西村瑠伊斗(京都外大西・外野手)や、イヒネ・イツア(誉・遊撃手)など高校生のスケール型の選手を狙いたい。  投手は前述したように楽しみな若手が多いが、リリーフの手当てはしておきたい。4位以降で残っていれば検討したいのが小孫竜二(鷺宮製作所)だ。今年で大学卒3年目だが、短いイニングであれば球威で圧倒することができ、課題だった制球力も確実に向上している。リリーフなら早くから戦力となる可能性は高い。大学生であれば才木海翔(大阪経済大)も好調時のストレートは目を見張るものがあるだけに、セットアッパー候補として面白いだろう。(文・西尾典文) ●プロフィール西尾典文 1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

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    『鬼滅の刃』竈門炭治郎の日輪刀の知られざる秘密 「刀鍛冶の里」で起こった“ある事件”とは

    【※ネタバレ注意】以下の内容には、今後放映予定のアニメ、既刊のコミックスのネタバレが含まれます。 『鬼滅の刃』アニメ新シリーズ「刀鍛冶の里編」の制作が発表されて以降、新情報はまだ解禁されていない(2022年9月30日時点)。このシリーズで新しく参戦する、恋柱・甘露寺蜜璃と霞柱・時透無一郎のティザービュジュアルや新PVの完成度の高さは、ファンの期待を高めている。放映時期、新しい声優メンバー発表が待ち遠しい今だからこそ、「刀鍛冶の里編」の見どころについて、放映前におさらいしておきたい。今回は主人公・竈門炭治郎が刀鍛冶の里で手にする、「新しい日輪刀」の謎について考察する。炭治郎の日輪刀は、刀鍛冶の里で起こる“ある事件”をきっかけに、大きな変化を遂げることになる。 *  *  * ■「英雄」が使う入手困難な「剣」  古今東西、物語のヒーロー(英雄)たちは、異能、優れた身体能力、稀有な道具を使って強大な敵と戦う。英雄と「剣」にまつわる伝承は数多くあり、石に刺さっていたアーサー王の名剣エクスカリバー(「アーサー王物語」)、リンゴの大木に突き立てられていたシグルズの名剣グラム(『ヴォルスンガサガ』)など、その由来は象徴的に語られている。『日本書紀』『古事記』に登場する、八俣大蛇(ヤマタノオロチ)の尾から見つかった草薙剣(くさなぎのつるぎ。※天叢雲剣 あめのむらくものつるぎ)もそれにあたる。  いずれも入手困難であること、他の物体から取り出されること、持ち主が運命的に“選ばれている”ことを想像させる語りであることが特徴だ。 ■『鬼滅の刃』の「日輪刀」の神話性 『鬼滅の刃』において、鬼と戦う鬼殺隊の隊士たちは、「日輪刀」と呼ばれる、太陽のパワーを秘めた刀を使用するが、不死に近い肉体を持つ鬼を倒すためには、この日輪刀が必須となる。 「日輪刀は 別名 色変わりの刀とも言ってなぁ 持ち主によって色が変わるのさぁ」(鋼鐵塚蛍/2巻・第9話「おかえり」)  日輪刀は原材料が「陽光を吸収する鉄」で、それだけでも神話的なエピソードだが、刀の持ち主が「道具」である日輪刀に「色変わり」という影響を与える相互性が興味深い。日輪刀の「色変わり」が、入隊試験を終えた鬼殺の剣士の第一の関門となる。 ■竈門炭治郎の「日輪刀」  炭治郎は水柱・冨岡義勇(とみおか・ぎゆう)の導きによって、元・水柱の鱗滝左近次(うろこだき・さこんじ)から、剣術と体術の指南を受けた。コミックス1巻・第4話で炭治郎の説明とともに描かれている刀は、おそらく鱗滝から借りたものだ。これには、柱の日輪刀に刻まれている「惡鬼滅殺」(あっきめっさつ)の文字はなく、通常の刀であると思われる。2巻で炭治郎がはじめてもらう日輪刀にも刻まれていない。 「この刀の後から階級制度が始まり 柱だけが悪鬼滅殺の文字を刻むようになったそうだ」(鋼鐵塚蛍/15巻・第129話「痣の者になるためには」) 注※セリフ中では「悪」の表記 注※「この刀」=刀鍛冶の里で手にする新しい炭治郎の刀。300年以上前のもの。  炭治郎は激戦のために、何度か日輪刀を破損・紛失し、そのたびに自分の日輪刀の制作者である、鋼鐵塚蛍(はがねづか・ほたる)から厳しく叱責されている。しかし、炭治郎はもともと「水の呼吸」の使い手である。のちに「ヒノカミ神楽」を使うようになった彼の日輪刀にも、変化が必要だったはずだ。そんな時に、刀鍛冶の里で、炭治郎は「新しい日輪刀」と出会う。 ※以下、放映予定の「刀鍛冶の里編」の内容が含まれます。ネタバレにご注意下さい。 ■刀鍛冶の里での「事件」(1)  遊郭での戦いの際に、日輪刀を刃こぼれさせてしまった炭治郎は、鋼鐵塚から「お前にやる刀はない」と言われてしまう。新しい刀も届けてもらえなかった。炭治郎は鋼鐵塚と直接話をするため、刀鍛冶の里に出向くが、そこでいくつもの事案が重なって、300年以上前に実在したという天才剣士を模した「カラクリ人形」と戦闘訓練を行うことになった。  刀鍛冶の少年・小鉄の助力もあり、炭治郎の能力はさらに覚醒する。とうとう炭治郎が「カラクリ人形」に勝ったその瞬間、その人形の「体内」から、1本の日輪刀があらわれた。神話的物語において、「英雄」の条件のひとつである、「入手困難な剣」を炭治郎が手にした瞬間だった。この「天才剣士のカラクリ人形」に勝つことは、炭治郎にとって通過儀礼としての意味を持つ。さらに、この「剣」の持ち主は、炭治郎の祖先、炭治郎の耳飾りとも関係していた。  一見、唐突とも思える「カラクリ人形」の描写であるが、このカラクリ人形のモデルとなった剣士と竈門家の縁、「強い者」を倒すことで手に入れられる「最強のアイテム」というエピソード、そして、その剣が「体内」から出てくるところに、強い神話性が感じられる仕組みとなっている。これらは鬼滅の作者・吾峠呼世晴氏の周到な「仕掛け」であるといえよう。 ■刀鍛冶の里での「事件」(2)  この「天才剣士の日輪刀」は、そのまま使用できるわけではなかった。長い年月によって、著しく劣化していたからだ。そこで、刀鍛冶の里の「技の継承」が、この古い日輪刀をよみがえらせるために必要となる。上弦の鬼たちが刀鍛冶の里を襲撃してきたことにより、炭治郎たちは刀鍛冶を鬼から守らねばならない。 「天才剣士の日輪刀」を研ぐ鋼鐵塚は、顔を切られても、目をつぶされても刀の研磨をやめなかった。敵である上弦の鬼にすら「私とてこれ程集中したことはない!!芸術家として負けている気がする!!」と言わしめている。そして、小鉄少年も命をかけて日輪刀を守ろうとした。 「時透さん… お 俺のことはいいから…鋼鐵塚さんを…助けて…刀を…守って…」(小鉄/14巻・第118話「無一郎の無」)  刀鍛冶たちの熱い思いと技の継承が、炭治郎の「新しい日輪刀」に命を吹き込む。 ■完成された炭治郎の「日輪刀」  この「新しい日輪刀」は、『鬼滅の刃』のテーマともいえる「継承」を表現し尽くしたモチーフだといえるだろう。 「血の継承」のエピソードとして、竈門家が先祖から受け継いだ縁の深さが語られている。竈門家で相伝された「ヒノカミ神楽」は、数百年の時をへて、天才剣士の技を後世につなぐものだった。  次に「技の継承」であるが、これは刀鍛冶たちの日輪刀製作の様子からうかがい知ることができる。また、冨岡義勇と鱗滝左近次、ともに戦ってきた仲間によって研鑽されていった炭治郎の剣技も、「技の継承」を示している。「選ばれた血」だけが人を強くするのではない、炭治郎の成長には、多くの人たちの「思い」がつながっているのだ。  鬼の攻撃によってひどい傷を負った鋼鐵塚から、研磨が完成した日輪刀を手渡された炭治郎は涙を浮かべた。 「あっ刀… ありがとうございます 煉獄さんの鍔だ!!」(竈門炭治郎/15巻・第129話「痣の者になるためには」)  炭治郎の「新しい日輪刀」は、炎柱・煉獄杏寿郎の鍔がつけられたことで完成する。刀鍛冶の里では、この鍔がある1人の人物の命を救う。誰も死なせはしないと、言った煉獄の願いが、この鍔に込められている。たくさんの人々の心を背負って、炭治郎は戦う。  「刀鍛冶の里編」では、「新しい日輪刀」のエピソードひとつをとっても、これほど重層的な物語が展開される。続報が待ち遠しい。 ◎植朗子(うえ・あきこ)1977年生まれ。現在、神戸大学国際文化学研究推進センター研究員。専門は伝承文学、神話学、比較民俗学。著書に『「ドイツ伝説集」のコスモロジー ―配列・エレメント・モティーフ―』、共著に『「神話」を近現代に問う』、『はじまりが見える世界の神話』がある。AERAdot.の連載をまとめた「鬼滅夜話」(扶桑社)が好評発売中。

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    サウナブームの意外な“落とし穴” 疲労の専門家は「快感あっても頭と体は疲れるだけ」と指摘

     空前のサウナブーム。「ととのう」快感を求める愛好家が増える一方で、人によっては「疲れた」「翌日がだるい」というマイナスの意見もある。疲労の専門医によると、快感を得られたとしても、実は脳や体にはとても大きな負担がかかっているため、心臓や脳の疾患リスクが増大する危険もあるという。サウナ好きな筆者には耳が痛い話だが、「気持ちいい」だけではないサウナの「リスク」を聞いてみた。 *  *  * 高温のサウナで汗をたっぷりかき、冷たい水風呂へ。ほてりを冷やしてからは外気浴。イスなどに腰かけてぼーっとリラックス。サウナ好きにとって、この「ととのう」状態は、何よりも心地よい時間である。  サウナ大国であるフィンランドの大学などの研究論文によれば、サウナに入る頻度が高い人は、それほど入らない人よりも健康長寿で心臓疾患や認知症のリスクが低くなる、との結果が示唆されたという。気持ち良くて、健康にもプラスに作用するなんて最高ではないか。  だが、疲労の専門家で「東京疲労・睡眠クリニック」院長の梶本修身医師は、この論文に疑問を呈する。 「私もこの論文を読みましたが、『サウナに入る頻度が高いから健康』と解釈できる一方で、『健康な人でないとサウナには頻繁に入れない、だからこの結果が出た』という読み方もできるんです。日本人も体調不良や病気なのにサウナに入る人はそうそういませんよね」  梶本医師はサウナの健康効果について否定的で、むしろ危険だと訴える立場を取る。その理由をこう解説する。 「高温の空間で大量に汗をかくため、脱水症状や熱中症をおこしやすくなります。脳温度が上昇し自律神経がオーバーヒートすると、血圧や心拍、体温などの調節機能が低下し、心筋梗塞や脳卒中などのリスクが生じます。そんな状態で水風呂に入ることは、心臓発作のリスクをさらに高めることになります」  そして、「サウナは百害あって一利なし……せめて一利ならあるかもしれない、というくらいの認識です」と続ける。  では、その「一利」とは何か。梶本医師は、厳しい寒さの冬が長く家にこもりがちになるフィンランドの特殊な生活環境だからこそ生まれた、サウナの効用に言及する。 「家に閉じこもるようになると、汗を出す汗腺が閉じてしまいます。汗腺には体温を調節する重要な役割があり、これは自律神経の働きによって制御されています。汗をかけない極寒の環境ではサウナという外的刺激によって汗腺を開き、自律神経による体温調節機能を回復させてあげる、というプラスの効果はあるのかもしれません」  日本でもコロナ禍で家から一歩も出ない時間が長く続いたり、寒冷地で冬は家に閉じこもり運動をまったくしない人がいるとすれば、サウナが有効となる可能性はあるという。  ただ、厳寒のフィンランドと日本では気候がまったく違う。日本では、満員電車や重い買い物袋を持って歩くだけでも自然に汗腺が開く。汗が流れ出るほどでなくても、活動中は自律神経が汗腺を開いて体温を調節しているのだという。梶本医師によれば、日本で普通に生活している限り、わざわざ酷暑環境を作って汗腺を開く必要はないということだ。  こうした環境でサウナに入るとどうなるか。 「懸命に頑張っている自律神経にさらに負担をかけるので、疲れてしまうだけです。日々のストレスや仕事で疲れている自律神経からすれば、『ひーひー言うとる時に何してくれんねん!』という状況ですよ」  とはいえ、サウナに入った日はストンと眠れている気がする。安眠効果についてはどうなのだろうか。 「すぐ眠れたという声は聞きますが、それは疲れて『寝落ち』しているだけで、寝つきがいいこととは全く異なります。緊張や覚醒をつかさどっているのも自律神経。自律神経が極度に疲れると覚醒を保てなくなり寝落ちしてしまうのです。さらに睡眠リズムを作るのも自律神経ですから、寝落ちした状態では睡眠の質がとても悪く、変な時間に目が覚めたりして疲れを回復させることはできません」  ネットを見ると、「サウナの翌日がだるい」などの投稿が散見されるが、睡眠の質の悪さが原因なのかもしれない。  ただ、愛好家にとってサウナや水風呂、その後の外気浴が気持ちいいことは事実だ。身体への負担が大きいのに、なぜ気持ちがいいと感じるのか。  梶本医師によると、β-エンドルフィンという物質など、気分の高揚や幸福感を得られる「脳内麻薬」が関係していると考えられる。  マラソンで苦しい状態が続いた後、多幸感や陶酔感を覚える「ランナーズハイ」と呼ばれる現象が起きることはよく知られるが、それと同じ現象がサウナでも起きているというのだ。 「動物は子孫を残すため生きることに忠実ですが、ヒトは脳の前頭葉が発達しているため、自己利益を実現する『欲』を持ちます。欲によって脳の報酬系と呼ばれる回路の働きが活発になり、『もっと、もっと』という精神状態になってしまう。これが災いしているのがサウナやその後の水風呂です。体には良くないことが分かっていたとしても『もっと快楽を』と、のぼせるまで頑張る人が出てしまうのです。ランナーや筋トレ愛好家でも、常に脳内麻薬による快感を求めてトレーニングを休めなくなる方がいます」  自律神経の機能は20歳を「100」とすると、40歳で半減、50歳で3分の1、60歳で4分の1に減るのだという。体の調子を整えてくれる力が、ガクッと衰えていくということだ。  脳内麻薬のおかげで、身体の悲鳴にはなかなか気づくことは難しい。梶本医師も「体に悪いと知っても、やめようとは思う人は少ないと思います」と話し、こうアドバイスする。 「水分をしっかり補給する。絶対にのぼせるまで入らず、サウナを出た後は、ぬるいシャワーで体を冷やす、涼しい部屋で過ごすなど、脳と体を守る基本は大切にしてください。また、年齢により自律神経が衰えるということをしっかり理解して、若い時よりも入る時間を短くすること。高齢になると温度を感じる機能が鈍くなりますので、のぼせに気づきにくくなりますからね」  サウナに入るかは個人の自由だ。ただ、快感を味わうだけではなく、自分へのいたわりも必要であることは心得ておきたい。(AERA dot.編集部・國府田英之)

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    乃木坂46で選抜入りゼロも…… 「将来のセンターになれる逸材」と評価急上昇のアイドルは?

     アイドルグループ・乃木坂46は新たな時代を迎えている。今年はグループ結成10周年を迎え、5月14、15日に日産スタジアムで開催された「10th YEAR BIRTHDAY LIVE」には現メンバーだけでなく、西野七瀬、白石麻衣、生駒里奈ら卒業生たちが登場して公演を盛り上げた。  月日が流れると共に、メンバーが卒業していく。今年に入って1期生の星野みなみ、2期生の北野日奈子、山崎怜奈が卒業。1期生の樋口日奈、和田まあやも8月31日発売の30枚目シングル「好きというのはロックだぜ!」の活動を最後に卒業することが決まっている。  一方で、新しい風も。今年から加入した5期生は井上和、菅原咲月、川崎桜らを筆頭に加入から1年も経たずに人気メンバーとなり、次のシングルで何人が選抜入りするか注目されている。  乃木坂に在籍しているメンバーは現時点で43人。ただ、全員が同じステージで歌えるわけではない。各シングルの表題曲を歌う16~20名の「選抜メンバー」が選ばれる。他のメンバーは「アンダーメンバー」という枠組みの中で活動する。 「人気メンバーが選抜で固定されているので、アンダーから新たに入るのは容易ではありません。乃木坂に在籍して一度も選抜入りできずに卒業するメンバーも少なくない。それほど厳しい世界です。でも選抜メンバーの全員が日の当たる道を歩んできたわけではない。アンダーから大ブレークした代表格がエースの齋藤飛鳥です。グループの初期は白石、西野、生駒ら人気メンバーに隠れる形でアンダーの常連メンバーでしたが、モデルとして活躍してパフォーマンスを磨くことで大輪の花を咲かせた。選抜入りしなくても人気メンバーはいますし、活動の全てではないですが、彼女の歩んだ道のりは後輩に大きな勇気を与えている」(スポーツ紙の芸能担当記者)  ネクストブレークを狙う逸材たちの中で、テレビ関係者から高い評価を得ているのが4期生の林瑠奈だ。  民放のテレビ制作スタッフは「頭の回転が速く、バラエティー能力が高いと現場で評判です。お笑い好きで瞬発力があるだけでなく、場をうまく回すこともできる。共演した芸人やタレントの評判がいい。独特の感性と発言で、乃木坂の中では異質なオーラを身にまとっているのも魅力です」  林は順風満帆な道のりを歩んだわけではない。18年8月に坂道合同オーディションに合格するが、グループには配属されず坂道研修生として活動した後、20年2月に4期生に加入する。同じ4期生の中でも林より早く加入し、圧倒的な人気を誇る賀喜遥香、遠藤さくらに比べて当初は影が薄かったが、アンダーライブやグループ活動で輝きを放つこと存在感が増していく。歌唱力は乃木坂トップクラス。ダンススキルも磨かれ、ライブで見せるパフォーマンスが話題になった。  8月上旬にYouTubeでMVが公開された4期生の楽曲「ジャンピングジョーカーフラッシュ」ではフロントメンバーに抜擢され、大きな武器である歌唱力を発揮。コメント欄には、「林の歌声って世間が気づいたら爆発的に人気出るだろうな。そう思うぐらい魅了される」、「話題の5期生加入。でも、新4期生の覚醒がそれを大きく上回る。林瑠奈、ほんとうに凄すぎる。美しくなりすぎて、一時も目が離せない」など称賛の書き込みが相次いだ。  テレビ東京の帯番組「乃木坂工事中」でも話題に。「10th YEAR BIRTHDAY LIVE」のパフォーマンスを取り上げた放送回で、MCを務めるバナナマン・設楽統が「林とかいい表情するよね。アイドルがステージで輝いているのを絵に描いたみたいな」と名指しで絶賛していた。  前出のスポーツ紙記者は「林は選抜入りにとどまらず、賀喜や遠藤のように将来はセンターになれる可能性も十分に秘めている。楽曲によって色々な表情を見せて観客の目を引きつける。中心の立ち位置でなくても『主役感』があるんですよね。ファンからの人気が高まっていますし、これからも快進撃が続くと思います」と期待を込める。さらなる活躍が楽しみだ。(梅宮昌宗) ※週刊朝日オンライン記事

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    【ゲッターズ飯田】今日の運勢は?「慣れた仕事ほど集中して行うように」金の鳳凰座

     占いは人生の地図のようなもの。芸能界最強の占い師、ゲッターズ飯田さんの「五星三心占い」が、あなたが自分らしく日々を送るためのお手伝いをします。12タイプ別に、毎週月曜日にその日の運勢、毎月5のつく日(毎月5、15、25日)に開運のつぶやきをお届けします。 【タイプチェッカー】あなたはどのタイプ?自分のタイプを調べる 【金の羅針盤座】水を差すような発言や野暮なことを言うのはやめましょう。ハッキリと否定していなくても、うっすら否定的なことを言ってしまっている自分に気づいて。肯定的な言葉や、相手を認める言葉を選んでみるといいでしょう。 【銀の羅針盤座】まとめていろいろやろうとするよりも、一つひとつをていねいに進めるようにしましょう。言葉ひとつ選ぶときも、上品さや、相手にどう思われるかまで細かく考えてみると、いい勉強になりそうです。 【金のインディアン座】勘が外れやすく、タイミングも悪くなりやすい日。思っているよりも疲れやストレスがたまっている場合があるので、しっかり休憩をとるようにしましょう。軽く運動をするのもいいでしょう。 【銀のインディアン座】自分のやるべき仕事に集中して、無茶な目標は立てないように。1日を無事に過ごせただけでも「十分頑張った」と、自分をほめるようにしましょう。 【金の鳳凰座】慣れた仕事ほど失敗しやすいので、集中して行うように。とくに「自分は間違えていない」と思い込んでいると、大きなミスにつながります。自信があるときほど、しっかり確認しましょう。 【銀の鳳凰座】朝から予想外に忙しくなってしまったり、求められることが増えそうな日。いい意味であなたの魅力や才能に気づく人が現れますが、急に要求されることが増えて、慌ててしまうかも。 【金の時計座】手を抜くことを考えればラクできる日ですが、それでは運を活かさない「もったいない日」になるだけ。些細な仕事にも本気で取り組んでみると、大きな結果を出せたり、高く評価される1日になるでしょう。 【銀の時計座】得意な仕事をキッチリ行うことで、評価されたり、自信につながる日。周囲の役に立てるように頑張ってみたり、間接的にでも自分が誰かのためになっていると思ってみると、いい1日になるでしょう。 【金のカメレオン座】どんな人にもていねいに接することが大事な日。他人を雑に扱っても何もいいことはないので、言葉や態度には端々まで心を込めるようにしましょう。もしも雑に扱われたとしても、あなたはイライラしないこと。 【銀のカメレオン座】午前中は的確な判断ができ、いい流れにも乗れそうです。自分の能力をうまく活かすこともできそう。ただし、夕方あたりからは、判断ミスやうっかりミスが増えるので、午前と午後では気持ちを切り替えるようにしましょう。 【金のイルカ座】使っていないアプリを一気に削除してみたり、不要なデータを消去するといい日。時間を浪費しているゲームなどのデータも、この機会に消してしまうと、スッキリできてオススメです。 【銀のイルカ座】問題が発生したときに他人のせいにしていると、また同じ壁にぶつかることになります。すべては自分の責任だと思って受け止めて、どうすべきかを真剣に考えてみるといいでしょう。 ※毎週月曜日に占いが届きます!AERA dot.の公式LINEの友達申請はこちら↓↓↓https://lin.ee/trWiCvV

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    22時間前

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    【後編】元女性自衛官が「性暴力」を告発した理由 「セクハラを“なかったこと”にするのが許せなかった」

     元女性自衛官の五ノ井里奈さん(22)が、訓練中に受けた性暴力をYouTubeなどで告発して話題となっている。五ノ井さんは、「セクハラの被害から、残された女性隊員を守りたい」と、AERA dot.の単独インタビューに応じた。「前編」では具体的な性被害の実態を詳述したが、「後編」では五ノ井さんが自衛隊を志した理由、セクハラを受けてもすぐには辞職せず、今回の告発に踏み切った思いなどを聞いた。 ※「前編」より続く。 *  *  * 宮城県東松島市出身の五ノ井里奈さん(22)は、小学4年生の時に東日本大震災に見舞われた。小学校にいる時に被災し、学校の1階部分は津波で浸水した。五ノ井さんたち児童は2階に逃げて無事だったが、避難所生活の後、母親と再開できたのは1週間後。家に戻ると、1階部分は津波に流され、室内で飼っていた愛犬2頭が亡くなっていた。散り散りに避難していた父親と兄2人とも再会し、その後は公民館で避難生活を送った。  この時、災害支援に来てくれたのが女性自衛官だった。 「女性自衛官がお風呂を造ってくれたり、お風呂上がりには腕相撲をしたりして、遊んでくれました。私は小さい頃から柔道のオリンピック選手を目指していたので女性自衛官にそのことを伝えると、『柔道は続けたほうがいいよ。頑張ってね』と応援してくれました。私にとって憧れの存在でした。この時から、いつかは陸上自衛隊に入りたいと夢を抱くようになりました」(五ノ井さん)  11年たったいまでも、女性自衛官と連絡を取り合って、感謝の言葉を伝えているという。  公民館で3カ月過ごした後、五ノ井さん一家はアパートに移った。しかし、小学6年生の時に両親は離婚。がんの治療中だった母親が、3人の子どもを女手ひとつで育てることになった。  五ノ井さんは、中学・高校と柔道で全国大会ベスト16の成績を残し、山口県にある大学に進学する。だが自衛官への夢が捨てきれずに中退。自衛隊体育学校の柔道部に入って、オリンピックを目指すことにした。好きな柔道を続けながら、自衛官アスリートへの道を切り開こうとしたのだ。  2020年4月、晴れて陸上自衛隊に入隊する。だが、「前編」で記したように、配属された東北方面の中隊では日常的にセクハラをされ、ひどい性暴力を受けた。五ノ井さんは次第に追い詰められていく。 「常にセクハラはあったので、受けている方も感覚がまひしてしまうんです。外ではアウトなことも、自衛隊内ではセーフになってしまう雰囲気がありました。男性隊員は、コミュニケーションの一部だと解釈していたようです。その意識を改善させることはほぼ不可能です。結局は、被害を受けた女性隊員がいなくなるしか解決策はないんですよね。私も自分で自分の身を守るためには逃げるしかありませんでした」  五ノ井さんは、2021年8月に複数の男性隊員から受けた性暴力を機に、休職することになった(被害の詳細は「前編」参照)。精神科医からは、適応障害と診断され、3~4カ月分の薬が処方された。 「憧れていた自衛官になるという夢を失い、どん底でした。先の見えない生活に絶望して、好きな柔道もできなくなりました。震災の時に助けてもらった女性自衛官みたいになりたくて入隊したのに、内部ではあんなにひどい実態があるなんて思ってもいませんでした……」  精神的に追い詰められ、何度も自死を考えた。覚悟を決めた今年の3月16日深夜、思いがけないことが起こった。 「ベッドの上に正座して、よしっ、と決断した時に、震度6強のすごく大きな地震がきたんです。その時、思いました。ああ、ここで死んではいけない。地震のせいで、生きられなかった人がいるのに、自分は何をしているんだろうって」  東日本大震災の記憶がよみがえり、五ノ井さんは自死を踏みとどまった。「どうして被害者が泣き寝入りして苦しまなければならないのか。性暴力に負けてはいけない」と組織と闘うことにした。  昨年8月に受けた性暴力について、自衛隊の犯罪捜査に携わる警務隊(防衛相の直属組織)に強制わいせつ事件として被害届を出した。今年5月末に不起訴処分になったが、現在は検察審査会に不服申し立てをし、結果を待っている。  この不起訴処分に関して、国際人権NGO「ヒューマンライツ・ナウ」副理事長の伊藤和子弁護士はこう疑問を呈する。 「圧倒的に男性が多い自衛隊のような閉ざされた空間で性暴力が起きると、『見ていない』と口裏を合わせる可能性があります。今回はどうだったのか。加害者が何人もいる場合、供述に矛盾が生じることがあります。一貫して細部まで同じことを言っているのか、そうでないのか。すべて同じであれば、口裏合わせをしている可能性もあるでしょう。丁寧に供述の評価が行われたのか疑問の余地が残ります」  不起訴後、五ノ井さんが検察官にその理由を尋ねると「複数の自衛官を取り調べたところ、五ノ井さんを『首ひねり』という技で倒すところは見たけれども、腰を振るようなわいせつ行為をしているところは見ていない(という供述だった)」と説明されたという。ただ、伊藤弁護士は、首に手をかけて押し倒している時点で暴行罪を問うことができるとも指摘する。 「少なくとも押し倒した所を見ている人がいたわけですから、立件すべきです。なぜ検察は暴行罪で起訴しなかったのかも非常に疑問です」  たとえ刑事事件で起訴されなかったとしても、民事裁判でハラスメントが認定されることもある。伊藤弁護士は「第三者委員会を立ち上げて、構造的な問題を調査する必要がある」と話す。 「男性隊員が女性隊員に対して、首に手をかける技をかけていること自体がハラスメントであるという認識があるのか否か。私的な生活の中で起きた出来事なのか、訓練中の行為なのか。訓練と称したハラスメントではないのかなど、さまざまな疑問が浮かびます。ハラスメント行為があれば処分に値する問題なので、組織としてきちんと調査をするべきです」  最後に、五ノ井さんは実名と顔出しで告発に踏み切った理由をこう話す。 「内部に残る自衛隊員から『なかったことにしようとしている』と聞きました。隠蔽(いんぺい)です。ここでなかったことにしたら、これから被害者がもっと増えてしまう。セクハラをしている人は、今でも普通に隊にいて、また新しい女性隊員が入ってきた時に同じことが起こります。それだけは阻止したい。あとは、謝罪がほしいです。その一心で声をあげようと決意しました」  五ノ井さんの悲痛な思いは、自衛隊員たちに響いているのだろうか。(AERA dot.編集部・岩下明日香)

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    進化型カプセルホテルは豪華で快適 若い女性客にも人気の理由とは

     狭くて、利用客は男性ばかり。そんな従来のイメージが変わりつつある。本当だろうか。進化型カプセルホテルに記者が泊まってみた。AERA 2022年10月3日号より紹介する。 *  *  *  「出張でもないのに、高級カプセルホテルに泊まる……贅沢!」「カプセルホテルめっちゃおしゃれ! 開放感すごい~!」  ユーチューブやインスタグラムで、こうした女性からの投稿をいくつも目にした。  カプセルホテルと言えば、男性専用で古めかしく、終電を逃したときに泊まるイメージだったのだが。  少し前から気になってはいたが、やはりハードルは高い。でも、記者(女性、30歳)が思い切って、都内のカプセルホテルに泊まって取材してみると、豪華で居心地のいい「進化型カプセルホテル」が、多く誕生していた。  取材で歩き回った夕方、疲れがどっと押し寄せた。もう家に帰るのも無理……。  そんな日に行ったのは、東京メトロ竹橋駅近くの「ナインアワーズ大手町」だ。  外装も内装も白。共用スペースの机や椅子はシンプル。有名デザイナーが手がけた。 ■快適、SNS映えも  カプセルホテルは閉鎖的なイメージが強いが、ここは廊下の壁がガラス張りで、明るいうちは、日光がよく入る。暗くなったら、暖色のライトが窓の外に漏れる。SNS映えする。  男女別の専用エレベーターでフロアも別々。ベッドも厚く、硬めで腰が痛くならなそうだ。慣れない布団だと寝られない記者もぐっすりだった。  寝る前に共用スペースで「残業」した。机、いす、コンセント、Wi-Fiがある。家なら寝てしまうけど、ここなら緊張感を保てる。想像以上に快適だ。ナインアワーズの米本秀高さんは言う。 「ナインアワーズの名前の由来は『1時間のシャワー+7時間の睡眠+1時間の身支度=9時間』です。眠るだけなのに、個室ホテルは割高に感じる。だからといってネットカフェに泊まるのは疲れる。そんな方たちのために必要な『眠り』と『シャワー』に特化したサービスを提供しています」  一部店舗では睡眠解析サービスも。カプセル内の赤外線カメラやマイクが、心拍やいびきを測定、メールで結果を届ける。宿泊料金は時期によるが3千~5千円ほど。この価格、この快適さなら、十分満足と思う人も多いだろう。  読みたかった本を持ち込んで、羽を伸ばしたい……。そんな特別な時間を過ごしたいという需要にも応える。 ■ファーストクラス気分 「地上でファーストクラスを体験!」  こうアピールするのは、「ファーストキャビン」だ。今年2月にリニューアルした市ケ谷店では、ベージュのジャケットを着たスタッフが「いらっしゃいませ」と、柔らかいほほえみで迎えてくれる。  ここのホテルは窮屈さがない。普通はカプセル内では中腰になる。だが、ここでは天井まで自分のスペースだ。カプセル内で立つこともできる。  最もランクの高い「ファーストクラスキャビン」に泊まってみた。  なんとベッド以外のスペースがある。机もあって、普通のホテルの部屋のようだ。アコーディオンカーテンで仕切る。  広い大浴場に、洗濯乾燥機、充実のスキンケアグッズ、数万円する高級ドライヤーも完備。なんと豪華なことか。宿泊料金は4千円から。ビジネスクラスは千円ほど安くなる。  女性客のほうが多いのではないかと思ったが、記者が宿泊した8月の平日は、2対1の割合で男性客が多かった。それでも、女性に好まれそうなサービスを提供する理由について、ファーストキャビンの西島紗織さんはこう答える。 「男性でもハードルを感じる人もいる。男性でも女性でも心地よく感じる清潔な場所は選んでもらえるはず。メインターゲットは30、40代女性です」  全館女性専用のカプセルホテルも出てきた。「秋葉原 BAY HOTEL」だ。  記者が日曜日に泊まったところ、ワンピース姿の20、30代くらいの女性が多い印象だった。支配人の大上香音さんは言う。 「東京ドームなどでコンサートがある週末は、稼働率がかなり上がります。夜行バスの時間に間に合わない、または翌日ゆっくり帰りたい方が使ってくださっています」  ここでは「推(お)し事(ごと)プラン」が人気だという。推し活での疲れを癒やして、というのが狙いで、栄養ドリンクなどのプレゼントを選べる。  アニメやゲームのキャラクターとも時折コラボ。なんとカプセル内に、キャラクターの特大イラストが貼られている。まるでキャラクターと一緒に寝そべっているかのようだ。 ■「推し活」に活路  大上さんは、推し活のエネルギーを感じている。 「キャラクターで飾るのは10室ほどですが、予約枠が瞬時に埋まることもあります。ただ、部屋はランダムなんです。予約したお客様は、どのキャラクターのカプセルに当たるか、実際に来るまでわかりません。推しのキャラクターのカプセルに泊まれるのか、そういう楽しみもあると思います。コラボ期間中にリピーターになってくれる方も多いですね」  カプセルホテルは増えている。厚生労働省の衛生行政報告例によると、カプセルホテルを含む簡易宿所の施設数は、2010年に約2万4千だったが、20年には約3万8千と6割も増えた。鍵となったのは、13年頃から始まったインバウンドの増加だった。  ホテル評論家の瀧澤信秋さんは言う。 「インバウンドは増えたものの、宿泊施設が不足していました。旅館やホテルも増えましたが、一から造るハードは開業までに時間を要します。それに比べて、カプセルホテルは準備期間が短く、数を伸ばしました」  ただ、最近はカプセルホテルの休業や閉鎖も耳にする。 「コロナ禍とインバウンドが減ったことが大きいですが、実は宿泊施設の供給過剰は、コロナ禍前から始まっていました」と瀧澤さん。一般のホテルの開業ラッシュだった18年頃から、稼働率の低下が指摘されるようになったという。 「カプセルホテルも淘汰されています。他社にない魅力を打ち出そうとした。結果、進化を遂げたのです」 (編集部・井上有紀子) ※AERA 2022年10月3日号

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    Snow Man・岩本照「なんで俺、男に嫉妬すんの?って(笑)」

     7月8日、Snow Man・岩本照さんの単独初主演映画「モエカレはオレンジ色」が全国公開される。岩本演じる消防士・蛯原恭介と友達のいない“ぼっち”の女子高生・萌衣との恋を描く恋愛映画であるのと同時に、人を守る仕事の尊さやチームワークの素晴らしさも強く印象に残る作品には、岩本照本人の姿が見え隠れする。活躍の幅を広げる岩本さんを直撃した。 *  *  * ──原作を読んだとき、恋愛シーンでは、くぁー!ってなったシーンがいっぱいあったとおっしゃっていました。  心の声になったりするところとか、見てる人も俺も、うわっ、恥ずかしい!ってなる瞬間っていうのはけっこうあるんですよ。でも蛯原って、それに気づかないタイプだから、気づいてない演技が大変でした。だって俺、気づくし(笑)。 ──例えばどの場面?  萌衣が体調崩すところかな。さらっとそんなこと言えないよってなっちゃう、俺は。 ──反対に、自分にもありそうだという場面は?  嫉妬するとこじゃないですかね。何やってんだ俺、ってなるあの感覚は、気持ちわかります。 ──嫉妬といえば、自分ではあまりしないタイプだと思っていたら、それは嫉妬だとメンバーの深澤辰哉さんに指摘されたという話が。  あー。自分のプライベートで仲いい友達同士を会わせたら、俺がいないところで二人で出かけるようになっていて、嫉妬したって話ですよね。まあ自分がめぐりあわせたってうれしさはあるんですけど、いやいや、俺は?ってなる。でも男同士だし、なんで俺、男に嫉妬すんの?って(笑)。恋愛絡まずの嫉妬って、意味わかんないじゃないですか。  恋愛だったら、自分が気になってる子がほかの男としゃべったりっていうのは絶対に嫌だな。束縛とかはしないと思うんですけど、俺以外の男と笑いあう時間なんかなきゃいいのにと思います。 ──付き合っていたら?  付き合ってたら、別に大丈夫かもしれない。でも、わざと嫉妬させるためにやってんだとしたら呼び出しもんですよね。「ちょっとお前こっちこいよ」問題ですよ(笑)。 ──映画の主題歌はSnow Manの新曲「オレンジkiss」です。  聴いたとき、本当に映画の世界観に合ってると思ったし、「これまでどんなことがあっても」とか、歌詞がけっこう印象的だなって。Snow Manがキュンソングを歌わせてもらうことによって、パフォーマンスでより色みを濃く出せればいいなって思ってます。 ──歌詞にちなんで、辛い時に思い出すとがんばれてしまうものは?  タピオカ(満面の笑み)。いま、滝沢歌舞伎(取材は「滝沢歌舞伎ZERO 2022」公演中)で1日2回公演やってて、昼公演やってるときとかにマネジャーさんにお願いして楽屋に入れといてもらって、わーい!ってなるのが、楽しみなんで。辛い時は、僕はタピオカを(笑)。 ■リアクションが豊かになった? ──ミュージカル「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」の主演もおめでとうございます。  ありがとうございます。映画ではかなりハードルの高さが上がる役者さんが演じていた作品なので、リスペクトもありつつ、あんまり考えすぎずやりたいなと。 ──映画で演じていたレオナルド・ディカプリオとかけて「ヒカプリオ」と……。  はい、ヒカプリオっていじられてて。恐れ多くも俺の名前が先にきちゃってるんですけど。 ──メンバーの佐久間大介さんとタイタニックごっこをして「ヒカプリオ」と呼ばれていたことも(2021年10月10日放送の冠番組「それSnow Manにやらせて下さい」)。  あのとき、もう俺は知ってたんで、実は。佐久間は知らなかったから、うわ、これ伏線に!って一人で思ってました(笑)。 ──詐欺師は、嘘をつけないという岩本さんと一番遠い役柄にも思えます。  たしかに! まあ、ある種、いろんな面を持った人物なので、全部を120パー(セント)で演じれればいいかなと。パイロットも医者も、たぶん新聞記者も、いろいろやるんですよ。どれも嘘じゃなく、その時々で全力注げばいいかなと。 ──ところで最近、以前よりリアクションが豊かになり、ボケたりもするようになったという声が。  いや、もともと笑いに興味ないわけでもないですし……ただうちにはかなり飛ばして笑いを取りに行くメンバーが多いので、そういうなかで、リアクション薄いとかって言われてたとき(2021年2月19日配信の前出冠番組)もありましたけど(笑)。  でも、わりと昔からYouTubeでもわちゃわちゃしてたし、僕としてはあんまりリアクション変わってないんですけどね。これは照しかできないよね、って状況で、より面白いことを考えちゃうと、やりたくなっちゃう(笑)。常にふざけてるわけじゃないですけど、それができる現場の雰囲気を作ってくれるから、そういうときは出すようにしているだけかな。それだけ、自分のことを知ってくれる人や場がより増えたのかなって。うれしいですよね。 (本誌・伏見美雪) 濱田英明さんが撮影したやわらかい表情の岩本さんが魅力のカラーグラビアや、映画「モエカレはオレンジ色」のほかでは見られない独占カットを含む場面写真やオフショットは、週刊朝日2022年7月15日号で楽しむことができる。※週刊朝日  2022年7月15日号より抜粋 >>【前編】Snow Man・岩本照「ふっかとは10日間一緒に寝ちゃった関係(笑)」

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    深澤辰哉「You Tubeはすっぴんで」に込めたまっすぐな思い 「一番近くにいる人」とは

     セカンドアルバム「Snow Labo.S2」で、ダンスナンバー「Movin’ up」を担当したSnow Manの深澤辰哉さん。デビューからいままで変わらない、グループらしさ、自分らしさについて語った。AERA 2022年10月3日号から。 *  *  * ――2ndアルバム「Snow Labo.S2」は、メンバーが一人一ジャンルを担当して選曲を行うところからスタートしたという。ユニークな制作スタイルだ。 深澤辰哉(以下、深澤):Snow Manは「これ」という一つのイメージにとらわれないで、いろいろなジャンルに挑戦していく、という意味で「Labo(研究所)」なんです。1stアルバムではできなかった「こんな曲もやっちゃうの?」というジャンルにもチャレンジしているので、今のぼくらだからこそ広げることができた「表現の幅」を楽しんでもらえると思う。  アルバム全体の候補曲を一から決めるとなると、全員が100曲近い楽曲を聴かなきゃいけない。でも今回は、自分の担当ジャンルの候補十数曲の中から3曲くらいに絞って、メンバーにプレゼンを行って、そこから全員で決める形にしたんです。これなら自分の担当ジャンルにたくさん時間を使えるから、細部にこだわる余裕と責任感が生まれる。俺も「中途半端な楽曲は作れないぞ!」という気持ちになりました。 ――担当したのはグループの真骨頂ともいえる「ダンスナンバー」。「Movin’ up」は、エッジの利いたサウンドに加え、「今」に満足せず、さらなる高みを目指す歌詞が印象的だ。 ■自分たちを鼓舞する 深澤:歌詞も「対自分たち」を意識して作った、自分たちを鼓舞する楽曲です。  曲作りにもけっこう踏み込んで意見を言わせていただいて。もともと間奏がなかった箇所に「どうしてもここに間奏を入れたい」とか、「このフレーズは頭に残るけど、聞き馴染みがありすぎるので、ちょっと変えたい」とか、いろいろお願いしました。個々がそうやって制作した「より良い一曲」が集まって、本当にいいアルバムができたと思う。このアルバムのツアーも始まりますが、「Movin’ up」は激しいダンス曲になると思うので、パフォーマンスにも期待していただきたいですね。 ――「Movin’ up」には「本当の敵は自分自身だろう」という歌詞が出てくる。自身もそう感じる瞬間はあるかと尋ねた。すると、グループの中で率先してボケたり三枚目役を引き受けたりする深澤の、意外な一面が見えた。 ■「今の自分」がらしい 深澤:もともと、めちゃくちゃ人見知りなんです。すぐ「あ、これはダメだな」と、マイナス思考になってしまう。特に「俺のことを知らないだろうな」という人が多いと、前に出ていけない。  これはちょっと前の話ですが、「櫻井・有吉THE夜会」に出演させていただいたとき、そんな人見知りの自分が思いっきり出てしまって、一回もしゃべれなかったことがありました。落ち込みましたね。「夜会」は(Snow Manの冠番組の)「それSnow Manにやらせて下さい」と同じスタッフさんが関わっているので、自分が抱える悩みを打ち明けて話を聞いてもらったりしました。  でも、そのときの大きな後悔と反省があったからこそ、今はだいぶ殻を打ち破って出ていけるようになったと思う。今もネガティブな思いが消えたわけじゃないけど、考え過ぎないことを心がけて、自分からしゃべるようにしたらラクになりました。結局、何事も自分次第なんですよね。自分が変われば周りも変わる。もともとの俺と今の俺は相当違うけど、「今の自分」が、一番「自分らしい自分」だと思います。 ――Snow Manの前身となるグループに加入したのは17歳のころ。これまでさまざまな岐路があった。デビューを目指し、試行錯誤しながら長い道を歩き続けたが、「選んだ道は全部間違ってなかった」と感じる。 深澤:昔はけんかもしていました。でも、グループとしてはずっと仲は良かった。後輩たちがデビューしていく中で、同じような複雑な感情を共有できる人って、Snow Manのメンバー以外いない。そりゃ大切にしたい人たちです。でも、だから、仕事の話ができなかった。仕事の話になると少し変な空気になるし、それも嫌だった。お互い「言わなくてもわかるだろ」という勝手な思い込みもありました。  今思うと、もっと早く話せばよかったのかもしれない。でも、仕事の話ができなかったからこそ、今のSnow Manがあるのかもなぁ、とも思うんです。人生って少しのことで変わっちゃうから。正解は誰にも分からないけど、決断する場面、場面で、きっと正しい方を選んでくることができた気はします。  そもそも、俺はカッコいい路線でいきたかった人間です。滝沢(秀明)くんとA.B.C-Zの河合(郁人)くんに出会って、滝沢くんに「お前はそっちじゃない」と言われて、仕方なく三枚目をやったから今の自分がある。昔から人に恵まれているし、運がいいんです。なんだかわからないけど、いい方向に進めるんです(笑)。 ■満足はしていない ――いざデビューを果たすと、CDはミリオンセールスを連発。破竹の勢いで活躍の場を広げているが、現状の満足度を尋ねると不敵な笑みを浮かべた。 深澤:だって俺、「Movin’ up」を作ったんですよ?(笑)。満足はしてないです。  でも、Snow Manが世間の人に「すごい」と言ってもらえるのは、支えてくれているファンの人たちがすごいからなんです。何かあるとSNSのトレンドに入るし、反響の大きさに俺らが「うそ!?」となるときもよくあります。そこに対しては、本当に感謝してもしきれません。  あと……自分たちのことを言うのはアレだけど、デビューさせていただいて2年半経ちますが、何かを届けるときの熱量の高さは、変わらずキープできていると思います。歌番組に出る前は、今も必ず30分はダンス練習をします。そこは自分が所属しているグループながら、いいなあと思う。そういうのは、きっと見てくれる人に伝わると思う。今まで通り「らしく」努力を続けていけば、もっともっとぼくらを応援してくれる人が増えてくれると思っています。 ――深澤の名を検索すると、上位にサジェストされるのが「リアコ」というワードだ。リアルに恋しているの略語で、「推し」ではなく、リアルな恋愛感情を抱くことを指す。Snow Manの“リアコ枠”として人気を誇っている。 深澤:それ、よく言われるんですけど、自分では全然理由がわからなくて。たぶん、「普通」だからでしょうね(笑)。どこにでもいそうだし、本当にその辺にいますし。昨日も買い物をしていたら、「ファンです」という人と居合わせて、「そうなんだ、何買うの?」とか普通にしゃべりました(笑)。そうやって人と話すのが、息抜きにもなる。こうしてインタビューを受けているときも、番組収録中も、原宿を歩いてるときも、俺は「同じ」なんです。人に信頼してもらうには「作らないこと」って大切だと思うから。  だから俺、YouTubeに出る時はすっぴんで出たいんです。テレビ番組に出演する時はちゃんとメイクしますけど、主にファンの人に届けるコンテンツでは、作りすぎた「アイドル」ではなく、ラフな自分でいたい。作った俺が話す「思い」は届かない気がして。俺はいつまでもファンの「一番近くにいる人」でいたい、と勝手に思っているんです。 ――今年30歳を迎えた。憧れる男性像を尋ねた。 深澤:滝沢くんと河合くん。自分が追いかけた先輩方はやっぱりすごかった。憧れますね。滝沢くんには、「面倒を見た後輩の中で、お前がダントツで手がかかった」と言われますけど、自分としては素直でいい子だったと思うから、ちょっとわからない(笑)。でも、見捨てないで育てていただきました。自分が与えてもらったように、いつか誰かにいい影響を与えたい。そんな人になれたらいいですね。 (ライター・大道絵里子)※AERA 2022年10月3日号

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    誰のため、何のための東京五輪だったのか 白井聡×望月衣塑子「五輪汚職」対談

     昨夏の東京五輪・パラリンピックをめぐる汚職事件が波紋を広げている。何のための五輪だったのか。なぜいま、捜査が行われているのか。政治学者・白井聡さんと東京新聞記者・望月衣塑子さんが語り合った。AERA 2022年10月3日号の「五輪汚職」特集の記事を紹介する。 *  *  * 白井:元電通専務で東京五輪・パラリンピック大会組織委員会元理事の高橋治之容疑者の逮捕に端を発した「五輪汚職事件」で、検察による捜査が進んでいますね。ただ、東京五輪をめぐって「汚いカネ」が動いているんだろうなということは、ずいぶん以前からさまざまな識者から指摘されていました。 望月:英国の通信社ロイターも五輪前の2020年3月、高橋容疑者が招致委員会から820万ドル(当時のレートで約9億円)を受け取り、ロビー活動していたと報じていました。五輪招致疑惑でIOC(国際オリンピック委員会)委員だった際の収賄容疑が持たれているラミン・ディアク世界陸連前会長(セネガル)に腕時計などの贈り物をしたと。そういう情報は日本の検察にも入っていたはず。だけど開催までは黙っていたと。これはこれで罪な話です。 ■メディアの姿勢は 白井:なぜいまになって捜査が行われているのか。私には安倍晋三さんという政治家が亡くなり、疑惑にふたをする「重しが取れた」ことが大きいとも見えますが、何よりも指摘したいのはメディアの姿勢の問題です。東京五輪の招致をめぐって19年、JOC(日本オリンピック委員会)の竹田恒和前会長がフランス検察当局の捜査対象になったときも、真相はどうなのかという追及をやろうとしなかった。これって要するに「新聞社がみんな五輪のスポンサーになっちゃったからでしょ?」っていう、ものすごくわかりやすい話に見えるんです。それをいまになって疑惑が広がっている状況を「驚きだ」みたいに伝えているのを見ると、あなたたちのカマトトぶりこそ驚きだ、と言いたくなります。 望月:これまで五輪のスポンサーは「1業種1社」に限られていたところを、今回の東京五輪では複数の新聞社がスポンサーになりました。「オフィシャルパートナー」として朝日、毎日、読売、日経の4社で各60億円。「オフィシャルサポーター」に北海道新聞と産経新聞で各15億円のスポンサー料を払うことになったと言われています。2008年の北京五輪で読売がオフィシャルパートナーになったとき、すごく儲けたらしいんです。他社からすると「今回は読売1社の牙城にさせまい」みたいな横並び意識もあったと思います。大会前、コロナの感染が爆発するなか菅義偉首相が「コロナに打ち勝った証しとして」などと言っているときに、スポンサーになった新聞社で社説に「中止せよ」と書けたのは朝日のみでした。メディア全体の論調として強く中止を形成していけなかった背景には、新聞社が「カネ儲かるんだから、乗っかっておくか」みたいなことをやって自ら利権に入り込んでしまった点も大きい。 白井:私は五輪が始まる直前に、ある新聞社にコラム執筆を依頼されたんです。テーマは任せるというので、「五輪とメディア」について書きました。メディア企業がスポンサーになっていることで五輪の是非に関する報道はまずいことになっていないか。そして札幌五輪もやろうとしているようだが、再考した方がいいのではないかと。そうしたら掲載は不可。「原稿料は払います」と。載らないのに原稿料を受け取るのは嫌なので別テーマで書き直し、その原稿は改稿して別媒体に載せました。たぶんこの原稿はボツにされるぞ、と予期した上であえて試してみたんですが、やはり案の定でしたね。 ■誰のため、何のため 望月:結局「誰のための、何のための五輪なのか」と考えると、「電通利権のための五輪なのでは?」という結論にならざるを得ないんです。高橋容疑者からすると、東京五輪という巨大なイベントを成功させるために──ここで言う成功はつまり、五輪を商業ビジネス的にいかに「稼げる」ようにするかということだと思いますが、そのために、おそらくさまざまなリスクも負って体を張ってやってるんだと。カネもらうくらい当たり前だろ、という感覚もあるかもしれない。でもこれほどに腐った面々が次々と明るみに出てくると、商業主義に浸りきってしまった五輪というものがそもそも本当に必要なのかという原点を問うてしまうし、何よりも選手にとって不幸ですよね。  組織委は、スポンサー企業の選定やライセンス商品の承認などにも関わる中枢部局「マーケティング局」など、各部局の幹部に電通社員が多く出向していると聞きます。ライセンス商品をどうしても決めたかったりする企業が、規模は小さくても接待だとか高橋容疑者にやっているのと似たようなことをやっているのは想像に難くないですよね。だから、五輪利権=電通利権であるという感じかなという気がします。 (構成/編集部・小長光哲郎) ※AERA 2022年10月3日号より抜粋

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    「しつけが悪い」で追い込まないで 発達障害のある子を早期支援へつなぐ課題とは

     今年7月、福岡で発達障害のある中学生を殴るなどして、施設の理事長らが逮捕された。背景には、養育ストレスを抱えた親への支援の脆弱さがある。誰もが生きやすい社会にするにはどうすればいいのか。AERA 2022年10月3日号の記事を紹介する。 *  *  *  発達障害の子を持つ親は追い込まれていると話すのは、千葉県松戸市にある社会福祉法人「まつど育成会」統括施設長の早坂裕実子さんだ。 「発達障害の子どもを持つ親御さんは、わらをもすがる思いで来られます」  同施設は、子どもから大人までの障害者支援を行う。中でも、幼少期から思春期にかけての発達障害の子どもを持つ親からの相談は深刻だという。  子どもが家の中で全裸のままトイレをどこにでもしたり、家の壁を壊したり。途方に暮れ、子の首を絞めて一緒に死のうと考えるという親もいる。  そこまで親を追い詰めるものは何か。 「親御さんはいろいろな施設に相談に行かれます。しかし、その子に合った『見立て』の中で適切に支援をしてくれるところが少ないと思います」(早坂さん)  例えば、「自閉スペクトラム症」(ASD)と言っても、一人一人様相が異なる。対応が難しい子ほど適切な療育や支援をしてくれる施設は多くない。そうした中で子どもが行動の問題を起こすと「うちの施設では対応が難しい」と言われ、親はまた別の施設を探すことになる。こうして行き場をなくした親は追い込まれていく。早坂さんは自戒の念を込め、「現場の力が足りない」と話す。 「職員は学校で福祉を学んでいても、相対的な学習であって、すぐに一人一人の子どもに合ったアプローチはできません。子どもの困りごとと向き合い、子にも親にも適切な支援を届けられるような、職員の専門性を高めることが重要になっていくと思います」  福岡の事件では、逮捕理由に関連し、理事長による強度行動障害のある人への虐待とも取れる行為の問題も指摘されている。鳥取大学大学院の井上雅彦教授(応用行動分析学)はこう話す。 「強度行動障害の支援現場では、専門知識を持った人材が不足しています。職員は研修を受ける余裕がなかったり、精神的にも高いストレスを抱えたりしている現場が多いのです。さらに、子どもが感情的になった時にはクールダウンする部屋やスペースも必要ですが、資金面で難しいということもあり、行動面での問題を持つ子どもの受け入れ環境は十分と言えません。預かりや利用を拒否されるケースもあります」  問題行動が生じてからの身体的な抑制行為に対しては、押さえつけや抑制など侵襲性の高い方法は、本人や他者への危険が切迫した状況の中で他の方法がない場合にやむを得ず一時的に許される場合はある。しかし、と井上教授は言う。 「『治療』として行うことは倫理的な問題だけでなく、対象者にとって身体的・精神的に取り返しのつかない大きなダメージを残すリスクがあります」 ■子どもに合わせた対応と早期支援がカギになる  こうした課題をクリアする上で重要とされるのが「早期支援」だ。05年に施行された発達障害者支援法では、早期の発達支援が重要と条文にうたわれた。  発達障害のある子どもと親への支援を行う特定非営利活動法人「ADDS」共同代表の熊仁美さんは、早期支援の重要性についてこう語る。 「早期支援をしたからといって、必ずしも就学後に行動の問題が起こらないということはありません。しかし、例えば、欲しいものがあれば『ちょうだい』、嫌なことがあったら『いや』と自分の意思を表示する手段を教え、それがしっかり周囲の人に伝わったという経験を早いうちから積み重ねることはとても重要です。また、早期からさまざまな遊びを通じて、子どもが落ち着いて楽しく過ごすための活動や手段を見つけ、その幅を広げていくことも早期支援の重要な目的です」  逆に、支援が遅くなればなるほど、子どもも親も苦しむことになる。ASDは早期支援が、後の発達や予後によい影響を及ぼすことがさまざまな研究で報告されている。  熊さんたちが実践しているのが、「ABA」と呼ばれる心理学の理論に基づいた療育プログラムだ。Applied Behavior Analysisの頭文字をとった略称で、「応用行動分析学」と称される。具体的な目標を立て、スモールステップに分解し、成功体験を積み重ねる。子ども一人一人の学び方に徹底的に向き合うエビデンスに基づいた方法だ。 「大切なのは、障害を持ったお子さんを変えようとアプローチするのではなく、お子さんの周りにいる親御さん、そして支援者がともに学びながら伴走していくことです」(熊さん)  例えば、幼稚園で運動会の練習が始まり、普段のルーティンが崩れて子どもの癇癪が増えた場合。癇癪(かんしゃく)を抑え込んだり我慢させようと考えるのではなく、園の先生と協力してスケジュールの予告をしたり、家で遊戯のビデオを見てみたり、運動会の部分的な参加を検討したり、本人に合わせた対応を柔軟に考えていくことが必要となる。 「こうした日常の変化に合わせた細かい判断を、親御さんが一人で考えるのは本当に大変です。そこで支援者が、次の見通しを立てながら一緒に考えていくことが重要となります。一口に発達障害といっても千差万別。お子さんやご家庭に合った個別の支援を、早期からしっかり行う体制をつくっていくことが大切だと感じます」(同) ■「保護者頼み」から地域で支えあう仕組みへ  親の苦悩や悩みを受け止め、施設での子どもの虐待をなくすにはどうすればいいか。熊さんは、地域で支えあう仕組みづくりが重要だと話す。 「今の制度は保護者頼みになっていて、保護者の負担が大きすぎると感じます。また、私たちは早期支援を中心に行っていますが、年齢があがるにつれどこに相談したらよいか分からない、という声を頂くことも多い。問題が重篤化する前に、予防的な支援が行える場が少ないのです。エビデンスに基づく支援が早期に受けられる仕組みや、障害を抱えたお子さんと保護者を地域全体で長期的に見守っていく仕組みが必要ですし、私達もその一端を担わなければという思いです」  福岡で起きた事件は、決して許されるものではない。しかし、特異な事件と片づけるのではなく、事件の背景にある子どもや保護者の苦しみ、そして支援者の現状に目を向け、よりよい仕組みづくりへと活かしていくことが必要だという。  逮捕された理事長らが、苦悩する保護者を前に、自分たちにしか解決できないという誤った使命感を抱え、孤立し、行き過ぎた行為になっていった側面もあるのではないか。そしてそこに救いを求めるしかなかった保護者がいることにも目を向けなければならない。 「地域で困っている親御さんには、行政が密に連携を取り、ライフステージで切れ目がないよう関わっていくことが必要です。対応が難しいケースほど、当事者だけでなく支援者をしっかり支え、抱え込んだり孤立したりしないようにする。地域みんなでつながり、長期的にお子さんや親御さんを支える仕組みが求められると思います」  井上教授は、まず「家族への支援を進める必要がある」と話す。 「行動面で問題のある子どもを持つ親は追いつめられ、誰かに相談したくても『しつけが悪い』などと言われると思い、相談機関に行けない人が多くいます。そのハードルを下げ、家族を孤立させない仕組みづくりが求められます」  そのために重要というのが、「ペアレントトレーニング」と「ペアレントメンター」の二つ。前者は、子どもの困った行動に対する適切なかかわり方を親が学び子どもの望ましい行動を促すもので1960年代に米国で開発された。後者は、発達障害の子どもを育てた経験のある人が「先輩の親」として、就学後の不安や学校での心配事などを抱えた「後輩の親」の相談者になるという当事者同士の支えあいの仕組みだ。2005年に日本自閉症協会が養成を始め、いま全国で1800人近いペアレントメンターが養成されている。これらの普及に向けては、実施に必要な人材の育成などが課題とされている。  井上教授はこう話した。 「地域での発達障害支援は法律や仕組みは示されていますが、自治体による差も大きく、まだ道半ばと言えます。強度行動障害などによって地域での支援から切り離され、孤立してしまいがちな子どもやご家族は少なくありません。子どもから成人までの切れ目のない支援と機関の連携、家族も含めた支援を整えていくことで、みんなが生きやすい社会になっていきます」 ※当初の配信記事に「例えば、落ち着きがない『注意欠陥・多動性障害』(ASD)と言っても」とあったのは、「例えば、『自閉スペクトラム症』(ASD)と言っても」の間違いでした。おわびして訂正いたします。 (編集部・野村昌二) ※AERA 2022年10月3日号より抜粋

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    21時間前

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    白井聡×望月衣塑子「呪われた五輪」を振り返る 中止しなかった腐敗の構図とは?

     東京五輪・パラリンピックをめぐる汚職事件が波紋を広げている。コロナ禍に開催前から続いた数々の不祥事。「呪われた五輪」の腐敗の構図が次々と明らかになり、掲げられた理想は遠くかすむ。いったい、こんな五輪に誰がした──。政治学者・白井聡さんと東京新聞記者・望月衣塑子さんが語り合った。AERA 2022年10月3日号の記事を紹介する。 *  *  * 白井:まず、カネと利権。そもそも五輪に、それ以外のことってあったんですか?とさえ思う(笑)。だから私は、いま、さまざまな汚職が明るみに出始めて、ある意味ようやっと東京五輪が「本当に開幕したな」と感じています。だってもう最初から、「アンダーコントロール」というウソから始まり、「(東北のための)復興五輪」という意味不明な言葉、国立競技場の建て替えをめぐるごたごた、エンブレム選び、開会式直前に楽曲担当者と演出担当者が降板に至るスキャンダル、組織委会長だった森喜朗氏の女性蔑視発言と引責降板、マラソン・競歩開催地移転にコロナ禍で強行開催──もう本当にすべてが「恥ずかしい」の一言でしたから。 望月:でもたとえば森さんの女性蔑視発言などは、明るみに出て海外にも報道され、日本の人権意識やジェンダー意識の低さが露呈したからこそ、日本で「あ、これって異常なんだ」と気づくことができた人も多いと思います。東京五輪で数少ない「良いこと」かも。今回の汚職でいろんなことが明らかになっていることも同様です。 白井:問題は、その気づきを得るために何兆円かかっているのか、ということですよ。  なぜ、東京五輪がここまで呪われたものになっているのか。根本の動機が不純だからだと私は思います。動機とは、さかのぼれば3.11を利用したことです。  バブル崩壊以降、日本は経済と暮らしがどんどん右肩下がりになってきて、「平和と繁栄の戦後」というイメージが維持できなくなっていた時に、東日本大震災と原発事故が起きた。本当ならそこで、「あ、戦後の肯定的なイメージをこのまま持続することはもう、絶対にできないんだ」と立ち止まり、見つめ直さないといけなかった。だけど、それは嫌だと。「日本はすごいんだ」と引き続き思い込みたくて「ここは東京でオリンピックだ!」となったわけです。大阪万博開催も同じ動機だと思います。要するに、高度成長期へのノスタルジーで、厳しい現実を否認しようとする、その「否認の欲望の塊のイベント」が東京五輪だった。 ■歴史も記憶も壊す 望月:本当にそうですね。 白井:で、いわばその欲望を政治的に代表していたのが、安倍晋三さんという政治家だったと思います。  たとえば会場となった国立競技場。あれは旧国立競技場を改修して使う手もあったと思うのですが、そんな否認の欲望によるイベントの結果、本当にかけがえのない歴史や記憶も壊しましたよね。私、さんざん五輪の悪口を言っていますけど、スポーツを見るのは本来、大好きなんです。旧国立競技場ではサッカーなどの名勝負や名場面が本当にたくさんあって、私にとっては大切な記憶です。それを金儲けと、否認の欲望を持続させたいがためにぶっ壊した。その恨みは一生忘れませんよ。 望月:五輪の開催地では再開発や、樹木が伐採されるなど自然環境破壊含めて必ずトラブルが起きますよね。これを機会に、本当に五輪の開催はもうやめてほしいと思います。  あらためて振り返っても、東京五輪は開催すべきではありませんでした。当時の首相の菅さんがなぜ「中止」という英断をできなかったか。あの夏、コロナの感染が拡大して、救急車を100回呼んでも来ないとか死者の急増とか本当に深刻な状況でした。そんな中で、児童を全国で128万人、都内で90万人、大会観戦に動員する「学校連携観戦プログラム」という話があって、それに菅さんが「私も学生時代に東洋の魔女を見て感動したから」とか言って実現にすごくこだわってました。本当は学校内での集団感染が増えているという統計が出ていたのに、それもあえて発表せずに、です。コロナ感染に対する菅さんの甘さは際立ってひどかったと思います。なぜそこまで、「盛り上げ」たかったかというと、「五輪をやったオレ」という「菅レガシー」を作りたかったのと、あとはもうIOC(国際オリンピック委員会)も含めた巨大な五輪利権──高橋容疑者どころではない規模の──にどっぷりと浸かり、「とにかくやれよ、菅」というプレッシャーの中で、彼は決して退くことはできなかった。そういう状況もあったのではと思います。  他にも、日本看護協会に500人のスタッフ動員要請が出て、批判を受けて取り下げたものの結局1日に医者230人、看護師310人もの人が五輪のために働くことになった。感染状況を考えると医療機関は猫の手も借りたい時期に、です。本当に、人の命を軽視する国だなと思いましたね。  かと思えばその裏では、組織委の1日当たりの単価が人によって「80万円」だという内部告発がTBSの報道特集で報じられ話題になりました。お金がなく学校進学をあきらめる人がいる一方、税金から1人1日80万の手当が出るのはなぜか。こうやって振り返っても、なんかもうめちゃくちゃでしたね。 ■命を軽視する国 白井:開催費用もどんどん青天井で膨らんでいって、最終的には約3兆円。招致段階の大会経費は7340億円ですから、約5倍に膨れ上がったことになる。他の開催国と比べても桁違いに大きい金額です。2020年の年末時点で追加経費2940億円が決まり、その時点で経費が1.64兆円になる見通しになったときには、森喜朗さんが「きちんと理屈はついている」などと言って、五輪と言えばいくらでもお金が出るみたいな状況になっていった。結局、問題は現代日本人の「たかり根性」ですよね。朝日新聞を含むメディア企業も、このイベントに社会的正当性があるのか一切考えずに翼賛に走った。その落とし前をどうつけるんだということがついに問われているのです。 望月:かくいう我が東京新聞も、社説では中止をとは書けず、「コロナ禍の東京五輪、大切な命を守れるのか」しか書けなかった。スポンサーにこそなってないけど、営業や事業局などでは儲けのチャンスがあるからだと。編集の現場とは全く違う論理で動く仕事とはいえ、そういう論理が結局、社説にまで影響していると思うと……。少しでも旨味が欲しいのが企業の本音とはいえ、残念です。 ■自浄作用失った社会 白井:本当に、そういう私たち社会の醜さこそ金メダル級ですね。安倍政権が超長期政権化して「体制」化した日本にふさわしい醜さですよ。「とにかく儲かりさえすればよい」ということで歯止めがまったくかからず社会全体で暴走してしまった。残念ながら、検察による捜査・勾留という、国家の暴力装置を介した「合法的な暴力」でしか解決できない状況になったということですね。これは山上徹也容疑者のしたこととある意味で同じなんですよ。暴力が合法か非合法かという違いがあるだけで。自浄作用を失った社会の末路です。  この疑獄は、相当大きく発展していく可能性があると思います。というか、捜査が政界までいかなきゃ意味がない。 望月:先ほど、いろんな暗部が明るみに出るのは五輪で数少ない「良いこと」だと言いましたが、それによって社会にショックを与え、私たちの五輪に対する考えの目が覚めるかというと、また別の話なんですね。読者は旧統一教会に関するニュースにはすごく反応するが、AOKIやKADOKAWAの逮捕劇では反応が弱いと聞きます。世の中の人たちにとっては、まだ身に迫るものがない。菅さんが「コロナに打ち勝つために五輪を」と言う一方で多くの死人が出るなど、肌感覚で身近に危機が感じられ、名の知られた政治家がシンボリックな形で罪に問われたとなると、世の中の五輪に対する空気も変わると思います。 白井:ただ、五輪のことを追ってきた人にとっては、今回最初に逮捕されたのが高橋治之さんだったというのは、「お、いきなりこの人来たか」と感じましたよね。捜査の本気度をじゅうぶん予感させるものでした。 望月:いま捜査に入っているのが地検特捜部の主に政治家や官僚などの汚職、贈収賄事件を担当する班なので、誰かしら政治家をターゲットにしているのではと私も思います。事件の広がりが大きいのでお金のルートを絞り込み、「これは」というところで踏み切ってくると見ていますけど。ここまでの大きな疑獄事件になって、札幌五輪への「悪影響」が言われていますが、このままいけば札幌五輪でも「汚職の構図」は変わりません。ここは潔く、開催をやめるべきだと思いますね。 (構成/編集部・小長光哲郎)※AERA 2022年10月3日号より抜粋

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    21時間前

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    【後編】「安倍元首相と教団の関係を検証して被害者を救済を」 旧統一教会を脱会した“信仰2世”の願い 

    「世界平和統一家庭連合」(旧統一教会)の元信者で、親が信者である「信仰2世」の冠木結心(かぶらぎけいこ)さん。合同結婚式で二度結婚し、いずれも相手の男性からひどい仕打ちを受けた。そして、韓国で10年もの間、極貧生活を送ることになる。【前編】ではその経緯を詳述したが、冠木さんの苦労は、洗脳が解けて日本に帰国してからも続いた。【後編】では、日本における「2世」としての生きづらさ、安倍晋三元首相と教団との関係性への思いなどを聞いた。 *  *  *「旧統一教会を脱会したときに、私はこれからどうやって生きていけばいいのかわかりませんでした。自分を否定したり、犠牲にしたりすることで成り立っていた世界だったので、自己否定する癖が染みついてしまっていたんです。そんな精神状態のまま、ずっと教会の命令に従って生きてきました。狭い世界の中でしか生きるすべがなかった宗教(信仰)2世の人たちは、外の世界に放り出されたらすんなりとは生きていけない。社会に適応できずに、精神を病んでしまう人も少なくありません」  旧統一教会の「信仰2世」である冠木結心(かぶらぎけいこ)さんはこう語る。  母親が信仰していた旧統一教会に自身も高校生で入信した冠木さんは、合同結婚式による二度の結婚と離婚を経験。娘2人を抱えながら、10年もの間、韓国での極貧生活を耐え忍んだ(詳細は【前編】を参照)。  2013年、教祖である文鮮明が死去したことで洗脳が解けて、脱会。娘たちと日本に帰国することになった。その時の気持ちを冠木さんはこう振り返る。 「私の入信の動機は母への親孝行で、教義への信仰ではなかったので、洗脳が溶けやすかったのだと思います。実は頭の片隅には教会に対して不満がありましたが、母を悲しませたくなかったので受け入れていただけでした」(以下同)  帰国後、まずは親族のアパートに身を寄せた。だが、そこにはまだ信者である母親が住んでいた。献金として教団に生活費を搾取されていた母親は、姉の稼ぎを頼りにしなければ生活がままならない状態になっていたのだ。  旧統一教会では、合同結婚式を挙げて授かった子どもを「神の子」と呼ぶ。母親はすでに洗脳が解けた冠木さんには関心を示さず、「神の子」である娘たちに信仰を強要しようとした。娘たちが自分と同じ目にあうことは絶対に避けたい。私は母と絶縁しなければならない――冠木さんはこう心に決めた。 「親が信者である2世は、どんなに親と離れたいと思っても、経済的な自立ができないと縁を断ち切るのは難しい。だから、親がいないと生きていけない“子どもの2世”は、どんなに嫌でも信仰を受け入れざるを得ない。これは、子どもの人権に関わる問題です。私は身をもってそれを経験したし、娘たちのためにも、ここで私が“負の連鎖”を断ち切らなければいけないと思ったんです」  冠木さんは、親族の家から引っ越す際に警察に相談し、親族による「児童虐待及びこれに準ずる行為」を理由に、住民票の閲覧制限をかけた。その後、安定的な仕事がなかった冠木さんは役所に生活保護を申し出たが、閲覧制限をかけていたことから、母親に居場所を知られずに済んだ。 「10年も韓国で暮らしていた私には、日本での生活基盤がなく、40歳手前のシングルマザーが仕事を見つけるのは困難でした。でも、娘2人はどうにかして育てなければならない。そこで、しばらくは生活保護を受けて暮らしを立て直すことにしたんです。そのおかげで娘たちを学校に通わせることができたし、私自身も心身が回復して、社会復帰することができました。生活保護には本当に助けてもらいました。心から感謝しています。ただ、もしこれが若い2世だったら、役所から『あなたは若いから働ける』と言われて門前払いされたかもしれない。今、宗教2世は社会問題となっていますが、彼らを救済する受け皿がなければ、自立していくことは難しいのではないでしょうか」  社会復帰した冠木さんはすでに生活保護に頼らずに生活しており、娘たちは成人しているという。  ただ、やはり「2世」として社会で生きていくのは困難がつきまとった。他人との距離感に戸惑いを感じることがあり、冠木さんは「教会に戻ろうかな」と何度も心が揺れたという。 「何か悪いことが起こると『教会をやめたからなのかな』と思ってしまうんです。末端の信者はまじめで優しい人が多かったから、『世間の人より、教会の人たちのほうが温かく迎え入れてくれるのでは』と、何度も戻ることを考えてしまいました」  それでも、教団に戻ることなく踏みとどまった冠木さん。旧統一教会は今、宗教法人の「剥奪」まで叫ばれているが、頭をよぎるのは末端の信者のことだという。いま宗教法人が剥奪されたら、末端の信者は行き場を失う。その時のために、信者たちを救済する制度を国に検討してほしいと願っている。 「信者は生きる拠り所を奪われてしまうわけですから、極端な行動をする人が出てしまう可能性もあります。『国から迫害を受けている』と教会から誘導され、かつてのオウム真理教信者の、相手に怒りを向けるような凶行に出たり、自分を傷つけてしまったりする人も出るかもしれません。私はそのことをとても心配しています。あのオウムの事件があった時点で、統一教会にもメスを入れるべきだったのです。そのツケが回ってきて、今になって2世問題が深刻化しているのだと思います」  安倍晋三元首相を銃撃した山上徹也容疑者は、母親が旧統一教会に多額の献金をしたことで生活が苦しくなったと供述している。そんな環境の中、安倍元首相が旧統一教会の友好団体にビデオメッセージを送っている動画を目にして、「つながりがあると思った」ことが動機の一端とされる。同じ2世という立場からも、冠木さんは「安倍元首相とつながりがあったのかは検証すべきだ」と話す。 「亡くなってしまった安倍元首相に直接確かめることはできませんが、ビデオメッセージを出していたのだから、広告塔の役割を果たしていたと思われても仕方がありません。国葬の前に、実際はどうだったのかを政府に検証してほしいと思っています。ただ、すでに友好団体が安倍元首相の大規模な追悼式をやっているわけですから、教団側は関係性を認めたも同然だとは思います」  27日に行われる国葬については、「国葬に反対している国民の意思だけではなく、旧統一教会に人生を狂わされた被害者たちの気持ちも置き去りにされているように感じます」と語った。  2世も含めた被害者の救済に、政府は目を向ける必要がある。(AERA dot.編集部・岩下明日香)

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    稲垣えみ子「原発回帰の波に対抗するには、まだまだ『やりよう』がある」

     元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。 *  *  *  原発のことを書く。専門家でもないし運動家でもないが、福島の事故を機にある意味「人生を変えた」身としては、やはり今の局面について語るべきと思う。  戦争に伴うエネルギー危機で、原発回帰の波が世界中で起きている。未曾有の事故を起こした日本も然り。再稼動どころか新しい原発も作ろうと首相も堂々と言い始めた。  確かに原発は電力不足回避の一助となろう。だがその重い負の面が消えたわけではない。事故を起こした場合の回復困難な被害はもちろん、発電が生み出す放射性廃棄物の行き場は未だどこにもない。加えてこの度、戦時には敵の攻撃対象になるという恐ろしい現実まで突きつけられた。それでも目立った反発が見られないのは、あらゆるものが値上がりする目前の現実を前にしては、「背に腹は代えられない」ということなのだろう。  原発の問題は、結局そこに行き着くのだと思う。自分は生きていないであろう将来のために、余分なお金を払ったり、不便な暮らしに耐えたり、ただでさえ余裕のない中でそんなホトケのような行動を取れるのか。やはりそれはリアルにホトケでない限り難しすぎることだ。原発はできれば止めたいと多くの人が願っていても、なし崩し的に事態が元へ戻るのはそう思うと致し方ないことかもしれない。  で、ですね。ここで私が言いたいのは、その「原発を抱きしめて幸せになるか」「離れて不幸になるか」という選択肢そのものが実は違うんじゃないかということである。  電気をほぼ使わない暮らしを実際にやってみて何が驚いたって、待っていたのは想像していたような我慢でも不便でも不幸でもなく、安心と楽しさと豊かさだったことだ。ゆえに「1億円あげるから元に戻って」と言われたら全力でご辞退申し上げる。無論誰もがそうなるかは不明。でもこのささやかだがリアルな事実には、幸せを求めるほどなぜか不幸になってしまう現代人のジレンマを解く鍵があるように思う。我らはまだまだ「やりよう」があると思うのだ。 ◎稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行※AERA 2022年10月3日号

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    “目玉なき”今年のプロ野球ドラフト 「サプライズ1位」指名の候補挙げるなら誰だ!

     プロ野球ドラフト会議まであと1カ月を切ったが、毎年のように起こるのが事前に予想されていなかった選手のいわゆる“サプライズ”の1位指名だ。昨年も松川虎生(ロッテ)と吉野創士(楽天)を最初の入札で1位指名として予想していたメディアは皆無だった。  そして今年はどのカテゴリーにも明確なナンバーワンと呼べる選手は不在で、昨年以上に読みづらい状況になっている。それを考えると事前に予想されていなかった選手が1位で指名される可能性も高いだろう。そんな中で、現時点で考えられる“サプライズ1位”となり得る候補はどんな選手がいるのか、探ってみたいと思う。  一昨年は早川隆久(楽天)と佐藤輝明(阪神)、昨年は隅田知一郎(西武)に4球団が競合しているように、即戦力として期待される大学生が人気を集めることが多いが、今年はそこまで完成度の高い選手は見当たらない。社会人も吉村貢司郎(東芝)、益田武尚(東京ガス)が有力候補だが、万全の1位候補と呼ぶには少し物足りない印象だ。そうなると、思い切って将来性に賭けて高校生の優先度を上げる球団が増えてくるのではないだろうか。  高校生では現時点で評価が高いのが投手では斉藤優汰(苫小牧中央)、門別啓人(東海大札幌)、野手では松尾汐恩(大阪桐蔭・捕手)、内藤鵬(日本航空石川・三塁手)、浅野翔吾(高松商・外野手)の名前が挙がり、知名度と甲子園での活躍を重視する声が強ければ山田陽翔(近江)という選択も驚きではないだろう。そして今年の高校生候補は浅野以外にも外野手の有力候補が多く、そうなってくると希少性から優先度が上がってきそうなのが内野手だ。  大学生もリードオフマンタイプは多いものの、パワーのある内野手は少ないだけに、多少粗削りでも高校生の内野手を思い切って1位にする球団が出てくることがあってもおかしくないだろう。そうなると筆頭候補として挙げたいのがイヒネ・イツア(誉・遊撃手)だ。両親がナイジェリア出身で、抜群の運動能力を誇る大型ショートである。甲子園や東海大会の出場はなく、夏の愛知大会も2回戦で敗れているものの、プロからの注目度は高く、多くのスカウトが視察に訪れている。まだまだ攻守とも完成度は低いが、モノになった時のスケール感の大きさでは今年の高校生野手でも屈指だ。大化けすれば、今までにはいないタイプのショートになる可能性を秘めた選手である。  高校生の内野手でもう1人サプライズ1位候補として推したいのが内田湘大(利根商・一塁手)だ。恵まれた体格とパワーに加えてスイングに柔らかさがあり、大きいフォロースルーはスラッガーとしての高い素質を感じさせる。夏の群馬大会でも2本のホームランを放ち、その飛距離は圧倒的だった。  ファーストの選手がそこまで評価が高くなるのかという声も聞こえてきそうだが、投手を兼任しており、その負担を考えて一塁を守っているとのことで、その動きはとても一塁手選任の選手のものではない。投手として最速149キロをマークするなど肩の強さも抜群で、高い運動能力を考えれば内野の他のポジションで勝負できるだけのポテンシャルを秘めた選手である。ただでさえ右の強打者タイプは人気になりやすいだけに、急浮上してくることも十分に考えられるだろう。  高校生の投手で候補として挙げたいのが安西叶翔(常葉大菊川)だ。186cmの大型右腕で、サイドスローとスリークォーターの間くらいの独特の腕の位置から、コンスタントに145キロを超えるストレートを投げ込んでくる。ボールの出所を上手く隠したフォームも持ち味で、打者からすると嫌らしさと怖さを感じる投手と言えそうだ。昨年までは安定感が課題だったが、この春から夏にかけて一気に成長してきた点もプラス要因である。大勢(巨人)が変則の本格派として活躍していることも安西にとって追い風となりそうだ。  大学生は1位候補が多く、二刀流の矢沢宏太(日本体育大)を筆頭に投手では金村尚真(富士大)、曽谷龍平(白鴎大)、荘司康誠(立教大)、菊地吏玖(専修大)、青山美夏人(亜細亜大)、野手では野口泰司(名城大・捕手)、山田健太(立教大・二塁手)、蛭間拓哉(早稲田大・外野手)、森下翔太(中央大・外野手)、沢井廉(中京大・外野手)などの名前が挙がる。  そんな中で意外な1位候補として挙げたいのが松山晋也(八戸学院大)、松井颯(明星大)、仲地礼亜(沖縄大)の3人の投手だ。松山は春まではほとんどリーグ戦での実績はなかったが、この秋はイニング数を大きく上回る奪三振を記録。恵まれた体格から投げ下ろすストレートは常時150キロを超え、ストレートだけに関しては今年の候補の中でも指折りだ。  松井も最終学年で大きく成長した右腕。150キロ近いストレートを1試合を通じて投げることができ、コントロールも安定している。首都リーグの二部所属ながら、評価は急上昇している印象だ。仲地は沖縄の大学から初のドラフト指名を狙う。欠点の少ない躍動感あふれるフォームで140キロ台後半のストレートは数字以上の威力があり、縦のスライダーも打者の手元で鋭く変化する必殺のボールだ。昨年出場した大学選手権でも見事な投球を見せており、この3人の中では唯一全国大会の実績があるのもプラス要因だ。  ドラフトの順位は事前の評価や知名度だけでなく、球団のニーズやその年の“市場動向”で大きく変化するものである。冒頭でも触れたが今年はより読みづらい状況となっているだけに、残り1カ月を切ってもここから浮上してくる候補が出てくることも十分に考えられるだろう。(文・西尾典文) ●プロフィール西尾典文1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

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    “弱点”を補える選手は誰だ? ドラフト補強ポイント【日本ハム・ロッテ・楽天】

     プロ野球のドラフト会議まであと約3週間となり、各球団の動向や候補選手についての報道も多くなる時期となってきた。今年は本命らしい本命は不在という印象で、近年多かった事前の1位指名公表も少なくなることが予想されるが、各球団どんな選手を狙うべきなのか。補強ポイントと、その選手がチームにマッチするかという点から探ってみたいと思う。今回は現在パ・リーグのBクラスに沈んでいる日本ハム、ロッテ、楽天の3球団だ。 *  *  * 【日本ハム】  5位に大差をつけられて最下位に沈んだ日本ハムだが、先発投手は伊藤大海、上沢直之、加藤貴之と安定した3人が揃い、野手も清宮幸太郎、万波中正、今川優馬が二桁ホームランを記録するなど全体的に戦力は底上げされた印象を受ける。その中で補強ポイントを挙げるとすれば、リリーフの強化、将来の正捕手候補、近藤健介の後継者などとなりそうだ。  まず補強ポイント関係なく推したいのが二刀流で注目を集めている矢沢宏太(日本体育大・投手兼外野手)だ。投手としては即戦力としては物足りないものの短いイニングであればストレートとスライダーである程度抑え込める可能性はあり、野手としてはプロでもトップクラスの足と肩を備えている。そして何より投手、野手両面でまだまだ能力の底が見えないというのが大きな魅力だ。ビッグボスからは野手の方が良いという発言もあったが、やはり二刀流に挑戦してもらいたいという声も多い。外野手でメインとして出場し、リリーフでも起用するという新たな形の二刀流も検討してもらいたいところだ。  リリーフは層が薄いだけに比較的早く使える投手を複数狙いたいところだが、2位以降でおすすめしたいのが橋本達弥(慶応大)、小孫竜二(鷺宮製作所)の2人だ。橋本はスピードに加えてカットボール、スプリットという絶対の武器があるのが大きな魅力。小孫は短いイニングでのストレートの勢いはアマチュア全体でも上位で、今年は安定感を増している。2位のウェーバーが早いことから、1位候補にもなっている益田武尚(東京ガス)をリリーフ起用を想定して獲得するというのも面白そうだ。  捕手は年齢構成を考えれば将来性のある高校生を獲得したい。4位以降で狙えそうな選手で面白いのが清水叶人(健大高崎)だ。甲子園の出場こそなかったものの、関東では屈指の打てる捕手として評判で、夏の群馬大会でも打った瞬間に分かる一発を放っている。宇佐見真吾の後継者として期待できる素材だろう。 【ロッテ】  2年連続の2位からAクラス入りが苦しくなっているロッテ。今年の成績を見ると長打力不足が課題だが、ドラフトですぐに解消するのは現実的ではない。また、今年は山口航輝が大きく成長し、二軍でも西川僚祐や山本大斗が結果を残してきているのはプラス材料だ。ポジション的には若手まで見た時に気になるのが二遊間だ。  セカンドは中村奨吾がFA権を取得しており去就が不透明な状況。期待の大きかった平沢大河が伸び悩み、その後も選手を獲得しているが、有力なレギュラー候補は見当たらない。昨年も2位で池田来翔を獲得しているが、できれば将来性のある高校生を狙いたいところだ。一方の投手は佐々木朗希を筆頭に若手に楽しみな選手が多いが、リリーフ陣の高齢化が目立ち、若手は左の本格派も少なく、そのあたりを補強しておきたい。  1位を投手にするか野手にするかで悩むところだが、今年は左投手の有力選手が少ないためまず真っ先に確保しておきたい。最有力候補として推したいのが曽谷龍平(白鴎大)だ。明桜時代は無名だったが大学で大きく成長した大型左腕で、軽く投げているようでも145キロを超えるストレートは勢い十分。課題だった制球力も向上しており、三振を奪う能力も高い。他球団との競合も考えられるが、まず狙いたい選手である。  2位で残っていればぜひ狙いたいのが大型ショートのイヒネ・イツア(誉)だ、攻守とも粗削りだが、運動能力の高さは抜群で、今年の高校生内野手の中でもスケールの大きさはナンバーワンと言える存在である。少し時間はかかるタイプに見えるが、高校2年から3年にかけて急激な成長を見せているところも大きな魅力だ。守備力と早くから戦力になることを重視するのであれば友杉篤輝(天理大)を推したい。小柄だがフットワークの良さは大学球界でも随一で、積極的な走塁と高いミート力も光る。うまくいけば今宮健太(ソフトバンク)のようなショートになれる可能性は十分だ。  リリーフタイプの投手では日本ハムのところでも挙げた橋本達弥(慶応大)、小孫竜二(鷺宮製作所)ももちろん候補だが、手薄な左腕ということで面白いのが林優樹(西濃運輸)だ。高校時代は完全な技巧派だったが、社会人でストレートが見違えるほど力強くなった。高校卒3年目という若さも魅力で、3位以降で残っていればぜひ狙いたい投手である。 【楽天】  ここ数年大型補強を繰り返しながらなかなか優勝に届かない楽天。実績のある選手を多く集めたことでレギュラー陣が高年齢化しているが、特に気になるのが投手陣だ。先発で最も若いのが早川隆久で、それ以外は軒並みベテランと言える年齢となっており、若手の有力候補も多くない。リリーフは抑えの松井裕樹が健在で、他にも若手がそれなりにいるだけに、将来先発の柱になれるような投手を狙いたいところだ。一方の野手も気になるポジションは多いが、特に気になるのがショートだ。小深田大翔と山崎剛は来年揃って28歳となり、その下の世代になると有力なレギュラー候補が見当たらない。最低でも1人はショートの選手を指名しておきたいところだ。  優先順位を考えるとやはり投手ということになる。できれば高校生の大物を狙いたいが、今年は明確なナンバーワンと呼べる高校生投手がいないだけに、筆頭候補はロッテと同じく曽谷龍平(白鴎大)としたい。同じサウスポーでも早川とは少しタイプが違い、まだまだ成長が見込めるというのも大きな魅力だ。曽谷は競合も考えられるだけに次の候補も考えたいが、そうなったら思い切って高校生の門別啓人(東海大札幌)を狙うのも面白いだろう。アベレージは140キロ台前半だが、力を入れると145キロを超え、高校生のサウスポーにしてはコントロールも安定している。甲子園出場経験はないものの、総合的に見て高校生の左腕ではナンバーワンと言える存在だ。  曽谷、門別のどちらかが指名できても、もう1人スケールの大きい投手は確保しておきたい。そこで2位の候補として挙げたいのが安西叶翔(常葉大菊川)だ。サイド気味のスリークォーターから投げ込むストレートはコンスタントに145キロを超え、数字以上の勢いが感じられる。今のチームにいないタイプの投手というのも推したいポイントだ。  3位以降では野手の補強ポイントであるショートのレギュラー候補を狙いたい。ロッテでも挙げたイヒネ・イツア(誉)、友杉篤輝(天理大)以外の候補としては戸井零士(天理)も面白い。180cmの大型ショートで、守備に関してはもう少しスローイングの強さが欲しいが、フットワークとハンドリングは高校生離れしたものがあり、丁寧なプレーが光る。打撃も無駄な動きのないスイングで、パンチ力も十分だ。高校生のショートの候補は少ないだけに、3位あたりで狙っている球団も多いだろう。(文・西尾典文) ●プロフィール西尾典文 1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

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    中学生監禁事件の背景に「脆弱な支援」と「親心」 発達障害の子を持つ親の養育ストレス

     発達障害のある中学生を殴るなどして、福岡県で施設の理事長らが逮捕された。事件から浮かび上がってきたのは、子どもためにどんな支援が正しいのか苦悩する親の姿だった。AERA 2022年10月3日号から。 *  *  * 「すがってしまう親御さんの気持ちは、よくわかります」  東京都内で自閉症の息子(10代)と暮らす女性(40代)はそう話す。  今年7月、福岡県久留米市で障害児福祉施設などを運営するNPO法人の理事長の男(57)らが逮捕される事件が起き、関係者に衝撃を与えた。  理事長らは、発達障害のある14歳の中学生の手足を結束バンドなどで拘束し、頭に袋をかぶせ殴って脅し、施設で監禁した。この施設は県内外から重度の知的障害や自閉スペクトラム症(ASD)がある人を積極的に受け入れ、激しい自傷・他害や物を壊すなど「強度行動障害」のある人の生活改善を実現するとPRしていた。中学生の母親は、息子の暴言などに悩み「合宿費用」として約100万円を理事長に支払い依頼していたという。  冒頭の女性の息子は3歳の時、「自閉症」と診断された。集団生活に入れず、教室から飛び出したり、食事の皿を投げたり。夜中に物音で目覚めると1日中起きていたりした。  この子にとってどのような支援が正しいの──。  女性はいくつもの施設や相談先を回り、試行錯誤を繰り返した。だが、夫や両親は「しつけが足りない」などと女性を責めた。女性は「しんどかった」と振り返る。 「発達障害の子を持つ親が最も大変なのが、この子にとって何が正解なのかが見つからないことです。そういう時に、『俺に任せろ』と言って指導をしてくれる人がいたら、大金を払っても頼ったのは親心だと思います」  自閉症の息子(26)がいる都内在住の女性(55)は、事件についてこう話す。 「暴力で従わせようとすれば、子どもは自分の身を守るために従います。しかし、それでおとなしくなったことが、本当に改善したといえるのか、その後の親子の生活に良い変化があるのか疑問に思います」  発達障害は脳の先天的な発生・発達の偏りによる。対人関係が苦手で感覚の過敏や鈍さを伴うこともある「自閉スペクトラム症」、読み書きに困難を抱える「学習障害」(LD)、落ち着きがない「注意欠陥・多動性障害」(ADHD)の主に三つに分類される。特性は一人一人異なり、複数の特性が重複していることもよくある。強度行動障害は知的障害とASDが伴う場合が多い。  文部科学省の2012年の調査では、「発達障害の可能性のある児童生徒」の割合は、全国の公立小中学校の通常学級に在籍する児童生徒の6.5%で15人に1人の割合だ。ASDは米疾病対策センター(CDC)の18年の分析で、4歳児は59人に1人、8歳児は44人に1人。これらの値は、発達障害の認知度の高まりとともに専門機関での受診が増えたことで増加傾向にある。  鳥取大学大学院の井上雅彦教授(応用行動分析学)は、発達障害の子どもの支援は十分ではないと語る。 「そのために、発達障害がある子を抱える親は、高い養育ストレスを抱えていることがわかっています。米国での最新の研究ではASDの子どもを持つ親の31%がうつ、33%が不安障害、10%が強迫性障害などの可能性があると指摘しています。特に母親は子どもと接する時間が長いので、負担がかかり、バーンアウト(燃え尽き)の可能性も高くなります」 (編集部・野村昌二) ※AERA 2022年10月3日号より抜粋

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    深澤辰哉「人が笑っている顔って、いいんですよ」 敢えて“三枚目”を選んだ理由

     Snow Man・深澤辰哉さんがAERAに登場。グループのMCとしてトークを回し、つっこみつつ、自分自身もいじってもらう役割だという。「パスがこないと成り立たない。いろいろな人に支えられている」と語った。AERA 2022年10月3日号から。 *  *  * 「あ~ホントだ。こっちもいい!」  表紙フォトグラファー蜷川実花から、自身が思う“利き顔”とは違う向きも褒められた。肩ひじ張らない自然体で、うれしそうにモニターを覗き込んだ。撮影現場も、リラックスムードに引っ張られて笑顔が増える。  人気アイドルグループSnow Manの最年長だ。トークを回すMC役ながら、ボケたりいじられたりもする三枚目役としてグループを支える。 「三枚目は誰でもできることではないが、やってみたら?」  事務所の先輩、滝沢秀明にそう勧められたのは20歳ごろ。 「ひたすらかっこつけてた時期で、嫌でした、最初はね(笑)。でも、その頃から滝沢くんとお仕事をする機会が増えて、いろいろな形でいじってくれるようになって。そうしたら、打ち返さなきゃいけないから、トークの勉強にもなった」  何より、気づいたことがあった。 「人が笑っている顔って、いいんですよ。こっちの方が自分らしいなぁと素直に思うようになったんです」  さらに「長年、尊敬する先輩」というA.B.C-Zの河合郁人に「ボケるだけじゃなくMCもやった方がいい」と勧められ、現在のスタイルが生まれた。「河合くんのやり方を近くで見て学ぶことができたのは大きかった」という。 「俺の立ち位置は、うまくパスを出してくれる人がいないと成り立たない。メンバー、先輩後輩、いろんな人たちに支えてもらっていると思います」  9月21日発売の2ndアルバム「Snow Labo.S2」では、ラボ(研究所)という名に相応しい、多様なジャンルに挑戦した。参加したユニット曲「ガラライキュ!」は王道アイドルソングだ。 「俺、本当のフィールドはこっちかも、と思いました(笑)。今回は、リード曲も自分たちが『これで踊りたい』と決めさせてもらった。岩本(照)が振り付けを担当した『JUICY』の“バランすのダンス”、楽しいのでぜひ皆さんに真似していただけたら」 (ライター・大道絵里子)※AERA 2022年10月3日号

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    【前編】22歳元女性自衛官が実名・顔出しで自衛隊内での「性被害」を告発 テント内で男性隊員に囲まれて受けた屈辱的な行為とは

     元女性自衛官が実名・顔出しで、訓練中に受けた性被害をYouTubeで告白したことが話題を呼んでいる。五ノ井里奈さん(22)は、陸上自衛隊に所属していた2021年の6月~8月、複数の上官から集団でセクハラを受けたという。上長に被害を訴えても取り合ってもらえず、自衛隊内の捜査機関に被害届を出しても、検察からは不起訴とされた。現在は検察審査会に不服申し立てをし、結果を待っている。五ノ井さんは、AERA dot.の単独インタビューに応じ、「日常的に起きているセクハラの被害から、残された女性隊員を守りたい」と、自身の受けた体験を語った。 *  *  * 五ノ井さんが陸上自衛隊に入隊したのは、2020年4月。小学生の頃から女性自衛官に憧れ、20歳のときに自衛隊の門をたたいた。教育期間は順調にこなし、その時までは、思い描いていた自衛官の姿に誇りとやりがいを持っていた。  だが、その後に配属される中隊名が発表されたときから、風向きが変わった。女性の先輩隊員から、こんな忠告を受けたのだ。 「あそこの中隊はセクハラとパワハラがひどいから気をつけろ」  五ノ井さんが配属された東北方面の中隊は、隊員58人の中で女性は5人。1人は育休中だったので、実質的に女性隊員は4人しかいなかった。同部屋の女性隊員からも「セクハラは覚悟して」と言われたので警戒はしていたものの、すぐにそれが現実のものとなった。 「2020年秋ごろ、勤務中に、男性隊員が『柔道しようぜ!』と言いながら技をかけてくるのですが、腰をつかまれて“バック”のような体制にされて腰を振ってくるんです。それを女性隊員が目撃していました。廊下を歩いていると、急に抱きつかれることも日常的にありました」(五ノ井さん)  部屋に戻ると、女性隊員同士でこうした行為を報告しあった。だが女性隊員は圧倒的少数。自分の身を守るだけで精いっぱいの場合もある。  2021年6月24日。山に入って訓練をしていた時、新人の五ノ井さんは夕食や酒のつまみを作る役割を任されていたので、天幕で料理を作っていた。天幕とは2~3人用のテントのことで、山での訓練では寝床として使用されていた。天幕で酒盛りをし、定員より多い男性隊員が入れ代わり立ち代わり入ってきて、多いときには5、6人くらいの隊員がぎゅうぎゅうになって座っていた。料理を作るためにいた五ノ井さんはその輪の中に入れられ、胸をもまれ、キスをされ、男性隊員の陰部を下着越しに触らせられた。  逃げられないと思った五ノ井さんは、別の天幕にいる女性隊員にLINEで「はやく来てください」と助けを求めた。女性隊員からは「オオカミなってる??w」と返事がきた。「オオカミ」とは、男性がお酒を飲んで暴走し、理性をコントロールできない状態のこと。「はい」と返せば、女性隊員は助けに来ないと思い、五ノ井さんは「なってません とりあえず早く来てください」と再度助けを求めた。だが、その女性隊員は「今来たらやばい」という別のLINEも受け取っていたことから、結局、五ノ井さんのいる天幕には来なかった。女性隊員はその直後に退職した。  状況としては“見捨てられた”ようなものだが、五ノ井さんはこの女性隊員の気持ちもわかると話す。 「女性隊員が自分の身を守るためには、来ないのが正解なんです。夜遅い時間に男性隊員のストレス発散に使われて、自分だって危ない目にあう可能性があるんですから、行きたくない気持ちにもなりますよ」(同)  五ノ井さんからLINEを受け取った元女性隊員は当時の状況をこう証言する。 「LINEを受け取った前日に、私も同じ天幕で宴会に参加して、同じようなセクハラを受けていました。その時は、男性隊員から膝に乗って接待しろとか、頬にキスしろと強要されました。ある男性隊員から次の日は『覚悟しとけ』と言われ、もう何をされるかわからないので、五ノ井さんに助けを求められた時に行くことができませんでした。止めに行きたい気持ちはあったのですが、止めに入ったら(次は)自分に来るので、怖くて助けられませんでした」  元女性隊員自身も「ほぼ毎日抱きしめられる」などのセクハラを受けており、五ノ井さんが日常的に被害にあっている場面も目撃していたという。元女性隊員によると、この部隊は2018年から女性隊員が入るようになり、その時から、「セクハラがヤバイ」として悪評が立っていた。セクハラをしているグループの中心は、20代後半の男性隊員数名で、他の隊員は上下関係から、逆らうことができず、ただ見ているだけだったという。  だが、この日のセクハラ事件は、中隊でも問題となった。事件を目撃していた誰かが、中隊長に報告したからだ。すぐに「中隊長に告げ口したのは誰か」と、犯人捜しが始まり、被害者である五ノ井さんが疑われた。加害者からは、「セクハラじゃなくて、コミュニケーションの一部だもんな」と声をかけられた。事情聴取として曹長から呼び出された五ノ井さんは「何もありません。大丈夫です」と報告した。問題が大きくなり、組織に居づらくなるのを避けようとしたからだ。 「自衛隊には厳しい上下関係があって、その場の空気に合わせなければならない。和を乱せば、無視や陰口を言われますから」(同) ■セクハラを超えた性被害を受けて限界に  この日以降、五ノ井さんは気持ちを押し殺しながら日常的なセクハラに耐えてきたが、昨年8月に我慢の限界に達する出来事が起きた。  8月3日から地方で約1カ月間の訓練があった。訓練場所に到着した日の夜、部屋で食事の準備をしていた五ノ井さんは、男性隊員から「料理はいいから接待しろ」と言われ、男性隊員十数人の輪の中に座らされた。宴会だったので、隊員らは酒を飲んでいた。  一曹Eと二曹Yが格闘の話をしていたところに、男性隊員S三曹が部屋に入ってきた。するとEは、Sに「五ノ井に首をキメて倒すのをやってみろ」と命令した。Sは、五ノ井さんの首に両手を当てて、そのままベッドに押し倒すような技をかけた。 「この時、Sさんが暴走し始めたのです。股を無理やりこじ開け、腰を振りながら陰部を押し当ててきました。一人で『あんあん』とあえぎ声みたいな声を出して、それを見ている周りの男性隊員たちは笑っていました。特にEとYはこっちを見ながら確実に笑っていました」(同)  続いて、2人目の男性隊員Kも「首をキメて」押し倒し、Sと同様の動きをした。さらに続いた。3人目男性隊員Rは同様に押し倒した後、五ノ井さんの両手首を押さえつけながら、何度も腰を振ってきた。 「全力で抵抗しようと、手首に力を入れて振りほどこうとしましたが、男性の力にはかないません。諦めて、終わるのを待つしかありませんでした。終わって体を起こすと、周りの男性隊員たちはこっちを見ていました」(同)  コトが終わると、Rからは「五ノ井って案外力が強いな」と言われた。五ノ井さんが抵抗していたことはわかっていたのだ。  一旦話題が収まったにもかかわらず、再び一曹Eが格闘技の話を面白おかしくしはじめて、「あれ、首をキメて倒すのどうやるんだっけ?」と笑いながら言い出した。すると、再びSが、五ノ井さんの首に両手を当てて押し倒し、腰を振ってきた。五ノ井さんの引きつった顔を見たSは「これ誰にも言わないでね」と口止めしてきたという。 「もう限界でした。訓練場所は、すぐに抜け出せる環境ではありませんでしたが、先輩の女性隊員と中隊長Mに相談して、帰りたいとお願いしました」(同)  先輩女性隊員は、最初は味方してくれたが、男性中隊長が「訓練は訓練だ」と言うと、「そうだよ、訓練は訓練だから」と態度を変えた。訓練はあと20日以上続く。これ以上耐えられないと感じた五ノ井さんは、訓練から抜けることを懇願した。だが、セクハラを受けたことが理由では、6月の時のように告げ口したと思われてしまう。母親が倒れたことにして、実家に帰れることになった。  この時、先輩女性隊員からは「一応、嘘ついていることは心の隅にでも置いておいてね」と言われた。エスカレートする性被害から逃れるための苦渋の判断にもかかわらず、被害者である五ノ井さんに非があるような言い方に聞こえた。 ■被害届を出すも不起訴処分  この8月の性被害の後、適応障害と診断され、五ノ井さんは休職することになった。被害については、まず、自衛隊の総務・人事課にあたる「一課」にセクハラ被害を報告した。だが、一課からは「8月のセクハラの件を見たという証言が得られなかった」と回答された。次に、自衛隊の犯罪捜査に携わる警務隊(防衛相の直属組織)に強制わいせつ事件として被害届を出した。 「警務隊の現場検証では、人形を使って再現しました」(同)  検察庁の捜査をへて、22年5月31日付で判決が出た。結果は、不起訴処分。五ノ井さんが不起訴の理由を尋ねると、検察官は「複数の自衛官を取り調べたところ、五ノ井さんを『首ひねり』という技で倒すところは見たけれども、腰を振るようなわいせつ行為をしているところは見ていない」という供述だったと説明された。そして「被疑者を有罪にするにはそれなりの証拠が必要だ」とも言われたという。 「その場で見ていた人がたくさんいたのに、なぜか腰を振ったという証言は出てこない。単に技をキメて押し倒しただけで、どうして笑いが起きるのでしょうか。その続きがなかったら、笑うわけがない」(同)  五ノ井さんは6月7日付で、検察審査会に不服申し立てをしている。  自衛隊内部では、この事件をどう捉えているのか。AERA dot.は五ノ井さんが配属された東北方面の部隊に事実確認すると、広報担当は「現在、部隊で調査中のため回答は差し控える」と答えた。調査結果がいつ出るかは未定だという。また、五ノ井さんが報告を上げた「一課」にも確認をしたが、「その件は一課長が対応したが、いまは不在」とのこと。代わりに対応した指令業務室の担当者は「事実を調査中のため、予断を持って回答することは差し控えたい」と回答した。なお、被疑者の処罰については、「判明した事実に基づき、厳正に対処する」とした。 (AERA dot.編集部 岩下明日香) ※「後編」では、五ノ井さんがセクハラを受けてもすぐに辞めなかった理由、顔と名前を出して告発に踏み切った経緯などを明かす。

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    【後編】元女性自衛官が「性暴力」を告発した理由 「セクハラを“なかったこと”にするのが許せなかった」

     元女性自衛官の五ノ井里奈さん(22)が、訓練中に受けた性暴力をYouTubeなどで告発して話題となっている。五ノ井さんは、「セクハラの被害から、残された女性隊員を守りたい」と、AERA dot.の単独インタビューに応じた。「前編」では具体的な性被害の実態を詳述したが、「後編」では五ノ井さんが自衛隊を志した理由、セクハラを受けてもすぐには辞職せず、今回の告発に踏み切った思いなどを聞いた。 ※「前編」より続く。 *  *  * 宮城県東松島市出身の五ノ井里奈さん(22)は、小学4年生の時に東日本大震災に見舞われた。小学校にいる時に被災し、学校の1階部分は津波で浸水した。五ノ井さんたち児童は2階に逃げて無事だったが、避難所生活の後、母親と再開できたのは1週間後。家に戻ると、1階部分は津波に流され、室内で飼っていた愛犬2頭が亡くなっていた。散り散りに避難していた父親と兄2人とも再会し、その後は公民館で避難生活を送った。  この時、災害支援に来てくれたのが女性自衛官だった。 「女性自衛官がお風呂を造ってくれたり、お風呂上がりには腕相撲をしたりして、遊んでくれました。私は小さい頃から柔道のオリンピック選手を目指していたので女性自衛官にそのことを伝えると、『柔道は続けたほうがいいよ。頑張ってね』と応援してくれました。私にとって憧れの存在でした。この時から、いつかは陸上自衛隊に入りたいと夢を抱くようになりました」(五ノ井さん)  11年たったいまでも、女性自衛官と連絡を取り合って、感謝の言葉を伝えているという。  公民館で3カ月過ごした後、五ノ井さん一家はアパートに移った。しかし、小学6年生の時に両親は離婚。がんの治療中だった母親が、3人の子どもを女手ひとつで育てることになった。  五ノ井さんは、中学・高校と柔道で全国大会ベスト16の成績を残し、山口県にある大学に進学する。だが自衛官への夢が捨てきれずに中退。自衛隊体育学校の柔道部に入って、オリンピックを目指すことにした。好きな柔道を続けながら、自衛官アスリートへの道を切り開こうとしたのだ。  2020年4月、晴れて陸上自衛隊に入隊する。だが、「前編」で記したように、配属された東北方面の中隊では日常的にセクハラをされ、ひどい性暴力を受けた。五ノ井さんは次第に追い詰められていく。 「常にセクハラはあったので、受けている方も感覚がまひしてしまうんです。外ではアウトなことも、自衛隊内ではセーフになってしまう雰囲気がありました。男性隊員は、コミュニケーションの一部だと解釈していたようです。その意識を改善させることはほぼ不可能です。結局は、被害を受けた女性隊員がいなくなるしか解決策はないんですよね。私も自分で自分の身を守るためには逃げるしかありませんでした」  五ノ井さんは、2021年8月に複数の男性隊員から受けた性暴力を機に、休職することになった(被害の詳細は「前編」参照)。精神科医からは、適応障害と診断され、3~4カ月分の薬が処方された。 「憧れていた自衛官になるという夢を失い、どん底でした。先の見えない生活に絶望して、好きな柔道もできなくなりました。震災の時に助けてもらった女性自衛官みたいになりたくて入隊したのに、内部ではあんなにひどい実態があるなんて思ってもいませんでした……」  精神的に追い詰められ、何度も自死を考えた。覚悟を決めた今年の3月16日深夜、思いがけないことが起こった。 「ベッドの上に正座して、よしっ、と決断した時に、震度6強のすごく大きな地震がきたんです。その時、思いました。ああ、ここで死んではいけない。地震のせいで、生きられなかった人がいるのに、自分は何をしているんだろうって」  東日本大震災の記憶がよみがえり、五ノ井さんは自死を踏みとどまった。「どうして被害者が泣き寝入りして苦しまなければならないのか。性暴力に負けてはいけない」と組織と闘うことにした。  昨年8月に受けた性暴力について、自衛隊の犯罪捜査に携わる警務隊(防衛相の直属組織)に強制わいせつ事件として被害届を出した。今年5月末に不起訴処分になったが、現在は検察審査会に不服申し立てをし、結果を待っている。  この不起訴処分に関して、国際人権NGO「ヒューマンライツ・ナウ」副理事長の伊藤和子弁護士はこう疑問を呈する。 「圧倒的に男性が多い自衛隊のような閉ざされた空間で性暴力が起きると、『見ていない』と口裏を合わせる可能性があります。今回はどうだったのか。加害者が何人もいる場合、供述に矛盾が生じることがあります。一貫して細部まで同じことを言っているのか、そうでないのか。すべて同じであれば、口裏合わせをしている可能性もあるでしょう。丁寧に供述の評価が行われたのか疑問の余地が残ります」  不起訴後、五ノ井さんが検察官にその理由を尋ねると「複数の自衛官を取り調べたところ、五ノ井さんを『首ひねり』という技で倒すところは見たけれども、腰を振るようなわいせつ行為をしているところは見ていない(という供述だった)」と説明されたという。ただ、伊藤弁護士は、首に手をかけて押し倒している時点で暴行罪を問うことができるとも指摘する。 「少なくとも押し倒した所を見ている人がいたわけですから、立件すべきです。なぜ検察は暴行罪で起訴しなかったのかも非常に疑問です」  たとえ刑事事件で起訴されなかったとしても、民事裁判でハラスメントが認定されることもある。伊藤弁護士は「第三者委員会を立ち上げて、構造的な問題を調査する必要がある」と話す。 「男性隊員が女性隊員に対して、首に手をかける技をかけていること自体がハラスメントであるという認識があるのか否か。私的な生活の中で起きた出来事なのか、訓練中の行為なのか。訓練と称したハラスメントではないのかなど、さまざまな疑問が浮かびます。ハラスメント行為があれば処分に値する問題なので、組織としてきちんと調査をするべきです」  最後に、五ノ井さんは実名と顔出しで告発に踏み切った理由をこう話す。 「内部に残る自衛隊員から『なかったことにしようとしている』と聞きました。隠蔽(いんぺい)です。ここでなかったことにしたら、これから被害者がもっと増えてしまう。セクハラをしている人は、今でも普通に隊にいて、また新しい女性隊員が入ってきた時に同じことが起こります。それだけは阻止したい。あとは、謝罪がほしいです。その一心で声をあげようと決意しました」  五ノ井さんの悲痛な思いは、自衛隊員たちに響いているのだろうか。(AERA dot.編集部・岩下明日香)

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    他球団が欲しがる「巨人の中堅2人」 トレードなしで起用も増えず「もったいない」の声も

     現在セ・リーグでBクラスに沈んでいる巨人。新型コロナウイルスの集団感染で多くの選手が離脱して苦しい状況ではあるが、ここからの巻き返しに注目が集まる。そんな中、石川慎吾、重信慎之介と能力的には高く評価されているものの、なかなか出場機会が回ってこない中堅2人が存在する。  選手層の厚いチームという事情もあり、常時出場は難しいかもしれない。加えて、若手への切り替えを図る球団方針もある。出場機会が減ってしまうのは理解できるが、あまりにチャンスが少ない。他球団へ行けばレギュラー争いに加わることのできる実力があると言われているだけに「もったいない」の声も多い。  開幕から調子に乗り切れない巨人はペナント争いで首位から13ゲーム差の5位。先述のようにオールスター前にはコロナ禍の直撃を受け、7月19日からの4日間で首脳陣、選手、スタッフを含め計73人が陽性判定を受けた。  優勝争いは非常に厳しい状況ではあるが、今はチームが若返りの時期でもあり、有望株たちの奮起も期待されている。野手では坂本勇人の後継者と言われる中山礼都、レギュラー定着が期待される増田陸に加え、秋広優人、菊田拡和など有望株は少なくない。一方、投手でも大卒ルーキーの大勢がストッパーとして活躍し、赤星優志、山崎伊織、堀田賢慎など開花の兆しを開幕当初に見せていた将来のエース候補は多い。 「良い素材が多いのは間違いないが中心選手になるには数年かかる。若手の積極起用が苦戦にもつながっている部分もある。編成面も任される原辰徳監督は数年先を考えているのでしょう。オフの積極補強がなかったのを見ても、球団方針として決定事項なのかもしれない」(在京球団編成担当) 「(若手が期待通り成長すれば)将来的に黄金時代が来るかもしれない。しかし巨人は常勝を宿命づけられている球団。ファン、スポンサーなどが(勝てない)現状に対して不満を持っている場合も多い。中堅クラスの実力者をなぜ使わないのかという声も聞こえる。石川、重信はその最たる例です」(大手広告代理店関係者)  数年後を見据えヤングジャイアンツを育成するのはごもっとも。しかし巨人のファン、そしてスポンサーなどは「常に勝利」を求めている。結果を出せる可能性がある実力者を起用すべきとの意見もある。  そして、二軍などで結果を出しながらも「起用されない選手」の筆頭が石川だ。  石川は16年オフのトレードで日本ハムから巨人に移籍。加入1年目となった17年には99試合に出場して、57安打、5本塁打、20打点と存在感を見せたが、それ以降はなかなか出場機会を増やせないでいる。だが、先述のようにファームでは常に結果を残し続けており、一軍で使われないのが不思議な気もするほどだ。 「打撃はレギュラークラス。特に飛距離はトップクラスで逆方向の打球も簡単にスタンドインさせる。東京ドーム外野席上部看板にもバンバン当てています。外野守備も決して悪くなく標準以上でもある。出番は少ないですが確実に仕事をこなせるメンタルの強さもある」(巨人担当記者)  石川は今季もこれまで一軍の出場は13試合と少ないが、打率.353(17打数6安打)とハイアベレージをキープしている。新型コロナウイルスの影響で選手も大量に離脱しており、ここからチームの救世主的な存在となれるのか。  また、石川と同じ外野手の重信も実力がありながら出場機会に恵まれない選手の一人だ。早稲田大時代から安打製造機として知られ、15年のドラフト2位で巨人に入団。即戦力として期待されながらも、なかなかレギュラー奪取には至らず中堅の域に差し掛かっている。 「早稲田の先輩であるヤクルトの青木宣親のような活躍を期待されたが伸び悩んでいる。大学時代の活躍から、将来的にはメジャー挑戦もという声も上がったほどの選手だった。試合に出れば確実に結果を残すが、パフォーマンスが安定しないところもある。チーム編成上の影響もありレギュラー奪取とまではいかない状況が長く続いている」(巨人担当記者)  今のところ巨人ではともに一軍当落線上の選手にはなってしまってはいるが、他球団からの評価も高い。7月31日のトレード期限までに動きはなかったが、「試合に出さないのであれば欲しい」という声も多くあるようだ。 「石川は代打だけでは惜しい。スタメンで4打席立てばシーズン25本塁打は期待できる。重信は実戦タイプで伸び代もまだ感じる。試合に出続け経験を積めば大学時代のような存在感を示すことができる可能性もある」(在京球団編成担当)  これからのチームを担う若い選手を育てなければいけないチーム事情もある。かつての坂本や岡本和真などは若手時代から我慢して使い続けたことで、現在のような確固たる地位を築くことができた。だが、常勝チームがゆえに勝つことも求められる。そうなった場合、やはり石川、重信のような選手も積極的に起用しなければいけないような気もするが……。 「全ては原監督の考え方次第。これだけ苦戦をしても若手中心の起用法に変化はない。今後も同様ならば石川と重信の立ち位置も変わらないので、トレードの可能性も出てくる。2選手との交換でポイントを絞って戦力補強をしつつ若手育成をするのが現実的ではないか」(巨人担当記者)  巨人は今、ピンチを迎えている。球団史上2度目となるシーズン最下位の可能性もでてきた。若手へのシフトも重要だが、目先の1勝も大きな意味を持つ状況になっている。新型コロナウイルスの影響で離脱した選手が多い中で、石川、重信の起用は増えるのか。また、シーズンオフのトレードなど、名門チームでくすぶる中堅2人の今後はどうなっていくのだろうか。

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    ホラン千秋「鬼ヤバ弁当」予想外の反響に驚き 飾り気ゼロも「他人に合わせる必要ないと思う」

     澄んだ声と飾ることのない自然体で、いまやすっかり“夕方の顔”。そんな人気に拍車がかかったのは、飾り気ゼロのお弁当だった。ホラン千秋をひもとけば、根幹に流れる“解釈”が見えてきた。AERA2022年9月26日号の記事を紹介する。 *  *  *  タッパーのなかで散らばる小松菜。ラップで区切ったハンバーグとラタトゥイユ。詰めたというよりは、ぶちこんだように見えなくもない。  タレントでキャスターのホラン千秋さん(33)は、自身のブログやインスタグラムに手作り弁当を載せている。だが、ぱっと見、流行(はや)りの「映え」とはまるで対極。どんと横たわるきゅうりのぬか漬けに、スカスカのとうもろこしご飯──。そんな自由な弁当が注目されている。 「自分では、お弁当の見た目がひどいなんて思ってもいなかったんです」  と、笑うホランさんだが、ファンやフォロワーの間では「鬼ヤバ弁当」として愛されている。  そうなったきっかけは? 「1食分の料理を作るのって難しいじゃないですか。ほうれん草がぱらぱらと入っているお弁当は、2日くらい保存容器として使って、その最後の1食分を冷蔵庫から出して持っていっただけなんです。どっちも同じ容器だから、詰め替える作業を省略すれば時短になります」 ■「残飯みたい」と言われ  ある時、ブログのネタに困り、目の前にあった弁当を載せた。 「そしたら『残飯みたい』とコメントがきて。母親も、『私がこういうお弁当を作っていたって勘違いされるじゃない』って戸惑っていました。私としては、キラキラしたデコレーション弁当と同列だとは思わないけれど、“あるもので工夫したお弁当”には変わらないよなという感覚だったんです」  料理好きだというホランさん。一つひとつのおかずはどれもおいしそうで、ラザニアなど手が込んだものもある。ただ、その盛り付けは、ときに質素で、ときに豪快。当初はビジュアルについて散々な言われようだったが、次第に変化し始める。 「写真を載せているうちに、『この弁当を見て気が楽になりました』というコメントがくるようになって。きれいにお弁当を作らなければという呪縛みたいなものがあって、そこから解放される人がいるのだと、予想外の反響に驚きました」  きらびやかな弁当がSNSに並ぶなか、おかずが1色しかない弁当を恥ずかしく感じる人がいることにハッとしたという。だが、最近では「白米とミートボールだけ」といったシンプルな弁当がコンビニでヒットしていると伝えると、机をバンッと叩いて切り出した。 「何であのお弁当は歓迎されるのに、同じような私のお弁当は『うわぁ』ってなるんだ!って思うんですよ。その気持ちの差がどうして生まれるのかを考えたとき、同じものを作っても、家庭での努力は過小評価されがちだって気づいて」 ■「衣装選び」はパズルだ  たしかに、弁当箱には「こうあるべき」という思い込みを詰めがちだ。だが、ホランさんは違う。小さな箱のなかに「宇宙が広がっている」とたとえる。 「そりゃ私だって、心と時間と脳みそに余裕があれば、『曲げわっぱでのっけ弁』を作ってみたいって願望もあります。全部違うおかずにして、紫キャベツや青じそで彩りや仕切りを加えるとか。でも、寝たいし、頑張りたくないし、韓国ドラマだって見たい。人生の優先順位をリスト化したら、『お弁当をきれいに作る』というのはそれらの欲望よりも下のほうにあって。お弁当作りの優先順位が高い人ももちろんいると思いますし、それはそれで素敵だと思うんです。ただ、他人にあわせて自分が高くする必要はないですよね」  目の前にあることに優先順位をつけて、てきぱき判断する。その考え方は、弁当作り以外にも垣間見える。  平日の夕方、週5日間キャスターを務める「Nスタ」では、1週間分の衣装がまとめて用意されるという。トップニュースがスポーツやエンタメの明るい話題のときは、ピンクや黄色など、暖色系の洋服を。事件や事故など、悲しいニュースが続く日は落ち着いた色を自分で選んでいる。 「ときに、大変なニュースが続いてしまった週の後半には、明るい色しか残っていないということもありうるので、そうならないためにどう組み合わせるか、バランスを見ながら衣装のパズルをしています」  一つ質問するたびに、明快でユーモアの交じった答えが飛び出す。秒単位で動くニュース番組でも、そのスキルはいかんなく発揮。相方であるTBSの井上貴博アナウンサーとともに、落ち着きながらもときにアツく、しっかり的を射た“コメント力”が人気を博している。さらに、今秋からはバラエティーの新番組でMCに抜擢された。 ■バカ笑いできる「瞬間」 「今でも私の“ホーム”は長いこと育てていただいたバラエティーだと思っています。バラエティーの仕事は楽しいし、バカ笑いできる瞬間ってすごく大事だと思っているんです。ニュースとバラエティーって雰囲気に振れ幅がありますが、切り替えは特に意識していません。スタジオに入ると、自然と番組ごとの私に切り替わっているのだと思います。それぞれの番組に合わせてチューニングすることで、どんなジャンルの仕事でも対応できるタレントでありたいです。それに、この数年は皆さん大変なことが多かったですよね。そんなとき、私の場合は半ば強制的に明るい瞬間を持ってくることで、重たい空気にのみ込まれないよう、ニュートラルな場所に私を引き戻してくれるのが、バラエティーの現場。だから、とっても大切なんです」  20代の頃は悩みもあった。強烈な才能と個性にあふれる芸能界で、自分の価値がどこにあるのかわからなくなったことも。 「平凡な私にできることはあるのだろうかと、自信を持てない時期がありました。でも、“普通”が求められることもあると気づいて楽になりました。私たちタレントは“本人”としてテレビに出るので、本来持っている以上のものは出せないと思っています。一時的に取り繕えても、継続は難しい。今も天才的な才能や実力はないし、自信をなくすときもあります。そんなときは、こんな自分を信じてくれる人の声を信じればいい。その積み重ねが、毎日笑いながら仕事ができる日々に続いています」  だからこそ、「自分」を偽らない。 「それに、私のお弁当みたいに自分が普通だと思っていたことが、周りからするとそうじゃなかったということもありますからね(笑)。ありのままでいることが、一番大切なのだと思います」 (編集部・福井しほ) ※AERA 2022年9月26日号

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    乃木坂46で選抜入りゼロも…… 「将来のセンターになれる逸材」と評価急上昇のアイドルは?

     アイドルグループ・乃木坂46は新たな時代を迎えている。今年はグループ結成10周年を迎え、5月14、15日に日産スタジアムで開催された「10th YEAR BIRTHDAY LIVE」には現メンバーだけでなく、西野七瀬、白石麻衣、生駒里奈ら卒業生たちが登場して公演を盛り上げた。  月日が流れると共に、メンバーが卒業していく。今年に入って1期生の星野みなみ、2期生の北野日奈子、山崎怜奈が卒業。1期生の樋口日奈、和田まあやも8月31日発売の30枚目シングル「好きというのはロックだぜ!」の活動を最後に卒業することが決まっている。  一方で、新しい風も。今年から加入した5期生は井上和、菅原咲月、川崎桜らを筆頭に加入から1年も経たずに人気メンバーとなり、次のシングルで何人が選抜入りするか注目されている。  乃木坂に在籍しているメンバーは現時点で43人。ただ、全員が同じステージで歌えるわけではない。各シングルの表題曲を歌う16~20名の「選抜メンバー」が選ばれる。他のメンバーは「アンダーメンバー」という枠組みの中で活動する。 「人気メンバーが選抜で固定されているので、アンダーから新たに入るのは容易ではありません。乃木坂に在籍して一度も選抜入りできずに卒業するメンバーも少なくない。それほど厳しい世界です。でも選抜メンバーの全員が日の当たる道を歩んできたわけではない。アンダーから大ブレークした代表格がエースの齋藤飛鳥です。グループの初期は白石、西野、生駒ら人気メンバーに隠れる形でアンダーの常連メンバーでしたが、モデルとして活躍してパフォーマンスを磨くことで大輪の花を咲かせた。選抜入りしなくても人気メンバーはいますし、活動の全てではないですが、彼女の歩んだ道のりは後輩に大きな勇気を与えている」(スポーツ紙の芸能担当記者)  ネクストブレークを狙う逸材たちの中で、テレビ関係者から高い評価を得ているのが4期生の林瑠奈だ。  民放のテレビ制作スタッフは「頭の回転が速く、バラエティー能力が高いと現場で評判です。お笑い好きで瞬発力があるだけでなく、場をうまく回すこともできる。共演した芸人やタレントの評判がいい。独特の感性と発言で、乃木坂の中では異質なオーラを身にまとっているのも魅力です」  林は順風満帆な道のりを歩んだわけではない。18年8月に坂道合同オーディションに合格するが、グループには配属されず坂道研修生として活動した後、20年2月に4期生に加入する。同じ4期生の中でも林より早く加入し、圧倒的な人気を誇る賀喜遥香、遠藤さくらに比べて当初は影が薄かったが、アンダーライブやグループ活動で輝きを放つこと存在感が増していく。歌唱力は乃木坂トップクラス。ダンススキルも磨かれ、ライブで見せるパフォーマンスが話題になった。  8月上旬にYouTubeでMVが公開された4期生の楽曲「ジャンピングジョーカーフラッシュ」ではフロントメンバーに抜擢され、大きな武器である歌唱力を発揮。コメント欄には、「林の歌声って世間が気づいたら爆発的に人気出るだろうな。そう思うぐらい魅了される」、「話題の5期生加入。でも、新4期生の覚醒がそれを大きく上回る。林瑠奈、ほんとうに凄すぎる。美しくなりすぎて、一時も目が離せない」など称賛の書き込みが相次いだ。  テレビ東京の帯番組「乃木坂工事中」でも話題に。「10th YEAR BIRTHDAY LIVE」のパフォーマンスを取り上げた放送回で、MCを務めるバナナマン・設楽統が「林とかいい表情するよね。アイドルがステージで輝いているのを絵に描いたみたいな」と名指しで絶賛していた。  前出のスポーツ紙記者は「林は選抜入りにとどまらず、賀喜や遠藤のように将来はセンターになれる可能性も十分に秘めている。楽曲によって色々な表情を見せて観客の目を引きつける。中心の立ち位置でなくても『主役感』があるんですよね。ファンからの人気が高まっていますし、これからも快進撃が続くと思います」と期待を込める。さらなる活躍が楽しみだ。(梅宮昌宗) ※週刊朝日オンライン記事

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    【後編】「安倍元首相と教団の関係を検証して被害者を救済を」 旧統一教会を脱会した“信仰2世”の願い 

    「世界平和統一家庭連合」(旧統一教会)の元信者で、親が信者である「信仰2世」の冠木結心(かぶらぎけいこ)さん。合同結婚式で二度結婚し、いずれも相手の男性からひどい仕打ちを受けた。そして、韓国で10年もの間、極貧生活を送ることになる。【前編】ではその経緯を詳述したが、冠木さんの苦労は、洗脳が解けて日本に帰国してからも続いた。【後編】では、日本における「2世」としての生きづらさ、安倍晋三元首相と教団との関係性への思いなどを聞いた。 *  *  *「旧統一教会を脱会したときに、私はこれからどうやって生きていけばいいのかわかりませんでした。自分を否定したり、犠牲にしたりすることで成り立っていた世界だったので、自己否定する癖が染みついてしまっていたんです。そんな精神状態のまま、ずっと教会の命令に従って生きてきました。狭い世界の中でしか生きるすべがなかった宗教(信仰)2世の人たちは、外の世界に放り出されたらすんなりとは生きていけない。社会に適応できずに、精神を病んでしまう人も少なくありません」  旧統一教会の「信仰2世」である冠木結心(かぶらぎけいこ)さんはこう語る。  母親が信仰していた旧統一教会に自身も高校生で入信した冠木さんは、合同結婚式による二度の結婚と離婚を経験。娘2人を抱えながら、10年もの間、韓国での極貧生活を耐え忍んだ(詳細は【前編】を参照)。  2013年、教祖である文鮮明が死去したことで洗脳が解けて、脱会。娘たちと日本に帰国することになった。その時の気持ちを冠木さんはこう振り返る。 「私の入信の動機は母への親孝行で、教義への信仰ではなかったので、洗脳が溶けやすかったのだと思います。実は頭の片隅には教会に対して不満がありましたが、母を悲しませたくなかったので受け入れていただけでした」(以下同)  帰国後、まずは親族のアパートに身を寄せた。だが、そこにはまだ信者である母親が住んでいた。献金として教団に生活費を搾取されていた母親は、姉の稼ぎを頼りにしなければ生活がままならない状態になっていたのだ。  旧統一教会では、合同結婚式を挙げて授かった子どもを「神の子」と呼ぶ。母親はすでに洗脳が解けた冠木さんには関心を示さず、「神の子」である娘たちに信仰を強要しようとした。娘たちが自分と同じ目にあうことは絶対に避けたい。私は母と絶縁しなければならない――冠木さんはこう心に決めた。 「親が信者である2世は、どんなに親と離れたいと思っても、経済的な自立ができないと縁を断ち切るのは難しい。だから、親がいないと生きていけない“子どもの2世”は、どんなに嫌でも信仰を受け入れざるを得ない。これは、子どもの人権に関わる問題です。私は身をもってそれを経験したし、娘たちのためにも、ここで私が“負の連鎖”を断ち切らなければいけないと思ったんです」  冠木さんは、親族の家から引っ越す際に警察に相談し、親族による「児童虐待及びこれに準ずる行為」を理由に、住民票の閲覧制限をかけた。その後、安定的な仕事がなかった冠木さんは役所に生活保護を申し出たが、閲覧制限をかけていたことから、母親に居場所を知られずに済んだ。 「10年も韓国で暮らしていた私には、日本での生活基盤がなく、40歳手前のシングルマザーが仕事を見つけるのは困難でした。でも、娘2人はどうにかして育てなければならない。そこで、しばらくは生活保護を受けて暮らしを立て直すことにしたんです。そのおかげで娘たちを学校に通わせることができたし、私自身も心身が回復して、社会復帰することができました。生活保護には本当に助けてもらいました。心から感謝しています。ただ、もしこれが若い2世だったら、役所から『あなたは若いから働ける』と言われて門前払いされたかもしれない。今、宗教2世は社会問題となっていますが、彼らを救済する受け皿がなければ、自立していくことは難しいのではないでしょうか」  社会復帰した冠木さんはすでに生活保護に頼らずに生活しており、娘たちは成人しているという。  ただ、やはり「2世」として社会で生きていくのは困難がつきまとった。他人との距離感に戸惑いを感じることがあり、冠木さんは「教会に戻ろうかな」と何度も心が揺れたという。 「何か悪いことが起こると『教会をやめたからなのかな』と思ってしまうんです。末端の信者はまじめで優しい人が多かったから、『世間の人より、教会の人たちのほうが温かく迎え入れてくれるのでは』と、何度も戻ることを考えてしまいました」  それでも、教団に戻ることなく踏みとどまった冠木さん。旧統一教会は今、宗教法人の「剥奪」まで叫ばれているが、頭をよぎるのは末端の信者のことだという。いま宗教法人が剥奪されたら、末端の信者は行き場を失う。その時のために、信者たちを救済する制度を国に検討してほしいと願っている。 「信者は生きる拠り所を奪われてしまうわけですから、極端な行動をする人が出てしまう可能性もあります。『国から迫害を受けている』と教会から誘導され、かつてのオウム真理教信者の、相手に怒りを向けるような凶行に出たり、自分を傷つけてしまったりする人も出るかもしれません。私はそのことをとても心配しています。あのオウムの事件があった時点で、統一教会にもメスを入れるべきだったのです。そのツケが回ってきて、今になって2世問題が深刻化しているのだと思います」  安倍晋三元首相を銃撃した山上徹也容疑者は、母親が旧統一教会に多額の献金をしたことで生活が苦しくなったと供述している。そんな環境の中、安倍元首相が旧統一教会の友好団体にビデオメッセージを送っている動画を目にして、「つながりがあると思った」ことが動機の一端とされる。同じ2世という立場からも、冠木さんは「安倍元首相とつながりがあったのかは検証すべきだ」と話す。 「亡くなってしまった安倍元首相に直接確かめることはできませんが、ビデオメッセージを出していたのだから、広告塔の役割を果たしていたと思われても仕方がありません。国葬の前に、実際はどうだったのかを政府に検証してほしいと思っています。ただ、すでに友好団体が安倍元首相の大規模な追悼式をやっているわけですから、教団側は関係性を認めたも同然だとは思います」  27日に行われる国葬については、「国葬に反対している国民の意思だけではなく、旧統一教会に人生を狂わされた被害者たちの気持ちも置き去りにされているように感じます」と語った。  2世も含めた被害者の救済に、政府は目を向ける必要がある。(AERA dot.編集部・岩下明日香)

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    “ラジオ界の宝”ピストン西沢の「GROOVE LINE」、24年半の歴史に幕 「ラジオのために生まれてきた」

     J-WAVEの人気番組「GROOVE LINE」が9月29日に終了する。「自分がやりたいことができる環境をつくってきた」というピストン西沢さんの24年半とは、どんなものだったのか。AERA 2022年10月3日号の記事を紹介する。 *  *  *  あと十数秒で放送が終わる9月1日の夜7時前、ピストン西沢さんが言った。 「そうだ、この番組、今月いっぱいで終了です」  突然の終了宣言にリスナーはざわつき、DREAMS COME TRUEの中村正人さんは「ピストン西沢はラジオ界の宝。」とブログに投稿した。番組にはアーティストからの出演希望が相次いだ。スタジオでは物心ついたときから聴いていたというチャラン・ポ・ランタンが涙し、石井竜也さんが絵を贈るなど、ラスト1カ月はゲスト満載、祭りのような放送が続いている。  一貫してハイテンション、独特のトークとDJミックスで人気を集めるピストンさんは24年半、J-WAVEの夕方の時間を走り続けてきた。同じナビゲーターが続ける番組でさらに長いのは、同局ではクリス・ペプラーさんの「TOKIO HOT100」しかない。聴取率は6月の首都圏ラジオ聴取率調査(ビデオリサーチ)で同時間帯トップだし、スポンサーもついているが、10月からの新番組編成のために終了することになった。 「ラジオの自分は店じまいして、他の自分が今度はメインになるというだけの話です。やりたいことがいろいろありますから」  とピストンさんは語る。 ■ADから始めた努力家  そもそもバイリンガルのナビゲーターが主流のJ-WAVEに、なぜピストンさんが出演することになったのか? 「脳科学者にも言われたんですけど、僕は小さい頃から今まで子どもが興奮しているような状態がずっと続いてるんですよ。うるさい子どもだったと思うし、我慢しないと社会でうまくやっていけないことはわかっていたから、自分の能力でごはんが食べられるところを目指したんです」  選んだのは音楽の道だった。通産省(当時)の官僚だった父親が薦める企業には行かず、ディスコで、今でいうクラブDJをしていた。番組の初代プロデューサーで当時を知る杉山博さんは、 「彼がターンテーブルミックスを始めると客が集まってきてフロアがぎゅうぎゅうになるんです。とんでもなく人気のあるDJでした」  しかし、ピストンさんにはディスコより放送局の水が合っていた。声をかけられてFM横浜の深夜番組で初めてマイクの前に座り、J-WAVEのパーティーでDJをしたときに自らプレゼンして番組制作に携わるようになる。杉山さんは、 「人気DJなのに、一から番組作りを学びたいと言ってADから始めました。努力家で、でも振り切った面白さがあるやつなんで、スタッフの中でも瞬く間に知れ渡り、裏方よりしゃべったほうがいいんじゃないか、となったんです」 ■少しずつ陣地を拡大  1993年頃から番組に出演し、最初はですます調で真面目に話していた。3週目くらいに、留守番電話にリスナーが入れた鼻歌の曲名を当てる企画を始めた。ピストンさんは振り返る。 「それから番組がうまく回り出しました。僕は制作者としての勘が働いたから生き延びた。どうしたら面白くなるか、自分で矯正していったんでしょうね」  そして98年に「GROOVE LINE」がスタートした。ゲストをいじったり、リスナーとの電話を途中でブチッと切ったりと、J-WAVEらしくない、やんちゃな番組は評判になった。とはいえ、最初から好きなように話せたわけではない。局内には歓迎しない人もいた。 「昨日の放送でいいと言ってくれる人が局の中に1人増えたと感じたら、今日はもう少し言ってみようと、少しずつ陣地を拡大していきました。自分がやりたいことができる環境を作ってきたんです」  とピストンさん。傍若無人に聞こえるトークの裏には緻密な思考がある。松尾健司プロデューサーは、 「ただ話しているのではなく、番組が面白いのか、リスナーは喜んでいるのか、スポンサーがどう思っているかまで、360度が見えている。そんな人はそうそういません」  台本には曲名くらいしか書かれていない。あとはピストンさんが臨機応変に言葉を繰り出す。リスナーが飽きたと察すれば、すかさず言葉や行動で刺激する。ピストンさん自身も、 「僕がディレクターとして自分を見たら、これだけラジオに合ってるやつはいないと思いますね。ラジオのために生まれてきたやつだとも言えます」  人気は過熱し、2009年にHMV渋谷での公開生放送が終了するときには、ファンがフロアを埋め尽くした。  番組にはリスナーから日々1千通、2千通に上るメッセージが届く。ピストンさんはそこから世の中の動きやリスナーの思いを敏感に感じ取ってきた。  東京都板橋区でお好み焼き店「みりおんばんぶー」を営む佐々木拓・麻子夫妻は、仕込みをしながら番組を聴いて17年になる。投稿で番組とつながり、東日本大震災、麻子さんの病気、コロナと、危機に瀕するたびにピストンさんに励まされて乗り越えてきた。  番組での紹介でリスナーが来店するようになり、18日には17人が集まってリスナー会議が開催され、「最後まで番組を盛り上げていきましょう!」と乾杯した。参加したラジオネーム「Mr.ハラキリ」さんは多い日には50通ものメッセージを投稿し、10年間で4670回以上、番組で取り上げられた。 ■リスナーに寄り添う  やはりリスナーにはおなじみの「野球道」さんは仕事中にもネタを考え、生活が番組中心に回っているほど。他の番組より採用のハードルが高いだけに読まれたときの喜びは大きい。 「ピストンさんは一瞬のうちに順番を入れ替えたり、セリフ調にしたりして、より面白く味付けして読んでくれる。そのすごさは投稿した本人にしかわからないんですよ」  20代の「右手にコーラ」さんはトラック運転手をしていた5年前に番組を聴き始めた。毎日30通を投稿するが、採用されなくても番組を盛り上げる一助になればいいと言う。 「ピストンさんには恩があるんです。電波越しにDJの面白さを教えてもらって2年前に機材を買って練習を始めました。今はクラブでDJをしています」  ナビゲーターのトーク力は非常時に試される。東日本大震災後の不安な日々の中、いつものピストンさんの声にホッとした人は多かった。リスナーの気持ちに寄り添った情報発信は高く評価され、ギャラクシー賞ラジオ部門DJパーソナリティ賞を受賞している。  コロナで世の中が硬直したときも話題をそらさず、周りに感染した人はいますか、療養中のあなたに電話しますよ、と呼び掛けた。 「僕の中でラジオの重要な部分はやはりコミュニケーションなんです。みんなで同じ気持ちを味わって気が楽になったり、勉強になったり。共有と拡散です」 ■「今、すっごい自由」  今後、やりたいことの一つがSNS、YouTubeでの交流だ。たとえば、悩みや相談事をみんなで考える。生きている上で抱えているものを軽くしたり、やりたいことを我慢しない生き方を探すヒントになればいい。  番組終了後の同時間帯にはタカノシンヤさんと藤原麻里菜さんによる新番組「GRAND MARQUEE」が始まるが、ピストンさんの声は日曜夜7時の「DRIVE TO THE FUTURE」で引き続き聴くことができるし、YouTube配信も始めている。 「長くやっていて一番の大敵は自分に飽きちゃうことなんです。番組終了が決まってから急に楽しくなっちゃった。今まで番組継続に悪影響があるものは自分の中でアウトと縛ってきたけど、もう関係ないもんね。今、すっごい自由ですから」  28日は秀島史香さんと2人で進行する。29日の最終日に何が起きるかはわからない。(ライター・仲宇佐ゆり)※AERA 2022年10月3日号

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    Aぇ! group「今が推しどき」「這いつくばってでも前に」 初アリーナでたてたファンとの誓い【メンバー詳細コメント】

     あの悔しさは、たしかに晴らした。  今年7月、関西ジャニーズJr.のAぇ! groupが出演するはずだったライブ「Summer Paradise 2022」がメンバーのコロナ感染で中止になったとき、SNSには人気チケットを手にしていた人々の悲痛な嘆きがあふれた。大切なファンを悲しませてしまったことは、誰よりも6人のメンバーたち自身が心を傷めたにちがいない。すぐに公式ブログ上で発表されたコメントの数々は、「その気持ち俺たちが責任持って請け負います」「もっと大っきくなって東京突撃します」「絶対に6人でまたリベンジするからな」「浮気せずに待ってて」などと精いっぱいファンの心に寄り添っていた。  そして、約束はすぐに果たされた。9月28~29日、単独ライブ「西からAぇ!風吹いてます! ~おてんと様も見てくれてますねん LIVE2022~」を開催。しかも会場のぴあアリーナMMは、7月のライブで予定されていたTOKYO DOME CITY HALLの約4倍のキャパシティを持ち、ユニット単独では記念すべき“初関東&初アリーナ”公演となった。さすが、オリジナル曲「Stray dogs.」で「We’re like a stray dogs」とシャウトしているメンバーたち。ハングリー精神で、見事にピンチをチャンスに変えた。  28日のライブ当日。大舞台に立った6人は、終始、うれしくてたまらないといったキラキラな笑顔を投げかけた。そして、ときに髪を振り乱して全力で踊り、ときにマイクが割れるほど必死に叫び、頻繁に本場・関西仕込みのハイレベルなコントを炸裂させた。観客たちは必死でペンライトを振ってボルテージを上げたり、ほほえみながら見守ったり、まさに“おてんと様”よろしく暖かに6人を包み込んでいた。  関西ジャニーズとしての誇りを胸に、しっかりと爪痕を刻み付けたメンバーたち。フィナーレでは、それぞれ自らの言葉を噛みしめるように、“次の約束”を口にした。 草間リチャード敬太 えー本日は皆さん、ご来場で、ごらい、噛んじゃったー(笑)。ご来場いただきまして、誠にありがとうございました。僕たちAぇ! groupにとって初となる単独アリーナ公演、どうでしたか?[会場拍手] ありがとうございます。もうそれ以上の拍手を僕から送りたいです(笑)[自分でも小さく拍手]。このね、曲もそうですし、コントもそうですし、もうみんなで一体となって手振ってる感じ、ペンライトばーって振ってる感じ。めちゃめちゃ楽しい。めちゃめちゃ綺麗やし。みんなが出し切ってくれるこの、この感じがすごく伝わってきます。それに負けへんように僕もうわーってやってたら、バテそうになりました(笑)。いやでも、ほんまにそこで感じるエネルギーってすごいなって思うので、これからも僕たちにエネルギーを届けてください。僕らからもエネルギーを送ってます。エネルギーを交換しあいましょう。またこういう場を持てるように僕たち頑張っていきますので、ここからも一緒に上を目指して楽しく歩んでいきましょう。 福本大晴 Aぇ!のライブとしては1月に関西Jr.のライブやってからかな? 本当に久しぶりって感じがして、みんなのペンライトが見えた瞬間に「あ、やっと会えた!」っていう気持ちがあって。で、そのペンライトがバーって、声出されへんぶん、めっちゃ楽しそうに振ってくれてんのがさー、もうすっごい楽しくて。で、俺らが楽しなってんのを見て、(みなさんも)楽しなってるでしょ、絶対?(笑) だからこうお互いに支えあって、なんか人間してるなって感じがして、本当に最高です。タイトルにもありますけどね、西からAぇ!風吹いてます。その勢いを、本当にめちゃめちゃ感じています。なにわ(男子)がデビューして、(関ジャニ)∞さんは日産スタジアムでライブをやって、ジャニーズWESTさんは東京ドームでライブをして、で、僕たちは今、アリーナに立っています。でもね、僕、Aぇ! group結成してプロフィールのところの夢に5大ドームツアーするって書いてるんすよ。だからこのアリーナはまだ通過点です。その5大ドームツアー、夢叶えた先にもっとでっかい夢が待っているかもしれません。なのでみなさん、夢を叶えるため、僕たちも支えるんで、お互い支えあっていきましょう。 末澤誠也 みんなに本当に感謝です。忙しいのにさぁ、足を運んでくれてね。やって平日やん。なんで平日にライブすんねんって思ったやろ? ……そりゃしゃーない(笑)。でもさ、もっとたくさんの場所でみんなと楽しい時間空間を作りたいなっていうのは今日改めて感じました。僕、あのー、ほんまにAぇ! group好きなんですよ。信頼もしてるし。だから全然不安がなくて。そう、だからね、みんなも俺らのことほんまに信用してほしいね。信用してくれとるって信じてるけどね。俺たち絶対後悔させへんし、Aぇ! group応援しててよかったなって思ってもらえるように、がむしゃらに全身全霊で、プライドかけてやっていきたいなと思ってます。みなさん、Aぇ! group、今が推しどきです[うんうんとうなずきながら、自信ありげな表情]。Aぇ! groupってさ、アホなことばっかりするやん。でもみんなノリに付きあってくれるやん。自分たちが楽しい面白いと思っていることをみんなも楽しんだり笑ったりしてくれてるっていうのがすごい僕はうれしいし、これからもそういう関係でいられたらなと思っております。みんな頼むよ! これからAぇ! groupまだまだいくからね! ここで終わらんよ! これからもずっとついてきてください。 佐野晶哉 本日は「西からAぇ!風吹いてます!~おてんと様も見てくれてますねんLIVE2022~」にお越し下さいまして、本当にありがとうございます。「吹かせます(※昨年まで放送されていた冠番組タイトルから)」じゃないんですからね、「吹いてる」んですから! 吹かせてくれてるのは紛れもなく、僕たち6人ではなくてこの会場、全国世界にいるAぇ!を好きでいてくれてるみんなのおかげです。今年の夏はほんまにたくさんの経験させてもらえた夏で、(関ジャニ)∞さん(ジャニーズ)WESTさんの背中を間近で見させてもらって。今までももちろんめちゃめちゃでかく見えたけど、初めて(ライブで)バックにつかせてもらったら、もうね、MAXだと思ってた憧れの気持ちがもっともっと好きになって。こんな先輩勝てへん、すごすぎるて、って悔しい気持ちもたくさんあるけど、Aぇ! groupにしか出せへん空気感も絶対あると思うし、もし今なくてもこの6人とこのみんなとやったら絶対見つけていけると思ってるし。今年の夏、スタジアムっていう7万人のとてつもなくでかい野外の景色[※7月、関ジャニ∞が日産スタジアムで行ったライブ『18祭』]も見せてもらって、また夢も広がっているので、これから本気で戦っていくので、僕たちについてきてください。 小島健 みなさん、本日はご来場いただき誠にありがとうございました。もう本当にこのライブ楽しくて。リハやったらただただ走ってるところとかも、みんながおるから俺たちめちゃめちゃ楽しくて。このステージにおるときは、Aぇ! group、無敵になれます。だから今後ね、僕らがこう失敗とかすることもあるやろうし、ちょっと間違えちゃうこともあるやろうし、つまづくこともあってコケちゃうかもしれへんけど、その度に俺たち立ち上がって、それはみんながおるから立ち上がれて、這いつくばってでも立ち上がれんくても、前に進んでいきます。それがAぇ! groupなりの、俺たちなりの王道やと思ってるんで。その道で進んでいくんで、みなさん覚悟決めて俺らについてきてください。これからもよろしくお願いします。 正門良規 改めまして本日はご来場いただき本当にありがとうございました。ちょっと眺めさせてください、この景色を[メンバーカラーの青いペンライトが一斉に振られるのをゆっくり見渡して]。ありがとうございます。いや本当にね、今年はAぇ! groupとしてみなさんに会うことはできないんじゃないかなって考えたこともありました。それがこういう形で実際に顔と顔を見あわせながら、同じ空間で、同じ空気吸って、同じ時間を過ごしてる。これほど尊いことはないなと。みなさんの顔を見てパフォーマンスができる幸せ、ね、声こそ出せなかったり、まだマスクをつけてたりとか、みなさんにご協力していただいている部分もたくさんあるんですけども、みんなでつかみ取った、みんなでここまできたと僕は本当に思っています。小島の名言にもありますが、俺たち全員でAぇ! groupです。みなさまどうぞこれからも末永くもっともっとたくさんの景色を、もっともっとたくさんの思い出を共に作っていきましょう。 雨降って、地固まる。おてんと様がいる限り。 「今が推しどき」なAぇ! groupが表紙を飾る10月4日発売の「週刊朝日」10月14-21日号は、メンバーがこのライブへの意気込みなどを語ったインタビューや、数々の写真で公演の模様を振り返るライブスナップ、そして撮り下ろしグラビアなど、計12ページの大ボリュームでその魅力に迫る。 (本誌・大谷百合絵) ※週刊朝日オリジナル記事

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    「妊活したいけど1回も性交していない……」結婚6年目夫婦の他人に言えない深い悩み

     今や、約5.5組に1組が不妊治療の検査や治療を受けたことがある時代。今年4月から不妊治療が保険の適用対象になったことで、より治療の間口が広がった側面もある。こうした中、不妊は未だ当事者が「身近な人にこそ話しづらい」と悩むテーマだ。  センシティブな内容であるがゆえに、誰にも言えない深い悩みを抱え、孤独の中に佇んでいる人は依然として多い。こうした当事者のさまざまな“孤独”を掘り下げながら、不妊治療の今を探る短期連載「不妊治療の孤独」。第一回前編は、妊活したいけれども「性交ができない」と悩む37歳女性の実態から――。 *  *  * 「妊娠の入り口にも立てていないことを、ずっと誰にも言えませんでした」  東京都在住の会社員、A子さん(37)。3年間の交際期間を経て、3歳年上の夫と結婚したのは6年前、A子さんが31歳、夫が34歳の時のことだ。自他共に認める仲良し夫婦で、互いを信頼し合っている。週末には二人で外食を楽しんだり、一緒にランニングしたり、どこにでもいる幸せそうな夫婦だ。  夫婦はある一点だけ、人に言えない悩みを抱えていた。それは、「性交ができない」という悩みだった。  身体的に何か問題があるわけではない。性欲もあるし、スキンシップも嫌いじゃない。問題は、“挿入”の一点のみ。それ以外、つまり挿入を伴わない性交であれば、何の問題もないのだ。  具体的には、こんな具合だ。A子さんは、挿入に対する恐怖感が強く、いざという時に体がこわばって萎縮してしまう。反射的に足に力が入ったり、股が閉じてしまうこともしばしばで、どうしても力を抜いて臨めない。  夫からどれだけ「大丈夫だよ」「リラックスして」と優しく声をかけられても、「絶対に痛いに違いない」という思い込みはどうしても拭えず、それが原因で、実はこれまで挿入を伴う性交は誰とも経験がない。  A子さんが怖がることで、夫との性交も、自然と途中でやめることになる。何度も挑戦はしてきたが、うまくいかないことが続き、「そのうちできるようになるよ」と辛抱強く待ってくれていた夫も、いつしか「無理にやらないといけないことじゃないから」と、挑戦から遠ざかるようになっていた。  誰に迷惑をかけるわけでもない、あくまで二人の間の問題だ。交際期間を含め、誰にも悩みを打ち明けたことはない。性交ができなくても、互いへの愛情に変化があるわけではなく、穏やかな日常を過ごしていた。  ところが、その誰にも言えない悩みが、A子さんが35歳の誕生日を迎えた頃から深刻味を帯びてきた。夫婦ともに「子どもが欲しい」という気持ちが強まっていたからだ。  街で子どもを見かけたら、「かわいいね」「うちも子どもがいたら楽しいだろうね」「私たちは……」という会話に自然となる。A子さんの後に結婚した友人も含め、同年代はベビーラッシュ。  子を持つ友人とランチをすれば「少しでも早く産んだ方が、子育てがラクだよ」、「35歳を過ぎたら妊娠率が下がるらしいから、早めに妊活を始めた方がいいよ」などと、悪気のないアドバイスが向けられる。「早く孫の顔が見たい」という親や親戚からの無邪気な声もプレッシャーだ。  そんな中、A子さんは「私たちは妊娠するステップの“入り口”にも立てていない」と焦りを募らせるようになった。  私たち夫婦のように「性交できない」という同じような悩みを持って妊活している人がいないのか、ネットで探したこともある。妊活のノウハウとして出てくるのは排卵日近辺に性交する「タイミング法」をはじめとした、性交ができる前提の情報ばかり。 「自分たちの状態がいかにマイノリティなのか、思い知らされたような気がした」  というA 子さんは同時に、年齢とともに卵子の老化が進むことや、タイムリミットという壁が存在することも知り、余計に焦りに火がついた。 「子どもが欲しいなら、性交ができるようにならないといけない」  思いが強まる中で、しばらく遠のいていた挑戦から、再チャレンジの日々が始まった。「何とかできるようになりたい」との一心で挑戦を重ねるも、どうしてもうまくいかない。このままだと時間が経つばかりで、自然に子どもを授かることは難しいままだ。  藁をもすがる思いで門を叩いたのが、不妊治療を行うクリニックだった。不妊治療を専門とするクリニックに、性交を一度もしたことがない夫婦が行くハードルも「相当なものだった」(A子さん)が、ネットの口コミで「些細なことにも耳を傾けてくれる先生」とあったのが背中を押した。  3年間の交際期間、6年間の夫婦生活の中で、一度も性交が実現していないこと。自分たちなりに試行錯誤を続けているが、どうしてもうまくいかないこと。妊娠を希望するようになって、今の状況に強い焦りを感じていること……。相手はいくら医師と言えども、初対面の他人に話すには、とても勇気がいる内容だった。  医師はゆっくりうなずきながら、顔色ひとつ変えずに話を聞いていた。その後、医師から発せられた言葉は意外なものだった。 「珍しいことではありません。今、そういう方がとても多いんですよ」  医師が言うには、同じように性交ができないという悩みを抱えて相談に訪れる夫婦は決して少なくないという。主に女性側の問題である「挿入障害」や、男性側の問題である「勃起障害」や「射精障害」、さらに性的な興奮が起きないなど、いわば性反応がうまく起こらない状態を総称して「性機能障害」と呼ばれることを知った。  A子さんの場合には、典型的な挿入障害にあたり、少しずつ慣らしていくことで改善されるケースも少なくないという。 「ただ年齢を考えると、あまり悠長なことを言っていられないのも事実です。性交渉の代わりになる手段を並行して試すことから始めましょう」  医師から提案されたのが、採取した精液を、針のない注射器=シリンジを使って膣に注入する「シリンジ法」と呼ばれる方法だ。Amazonなどの通販サイトなどでも手軽に入手することができ、ここ数年で妊活に使用するカップルが増えている。  タイミング法と同じく、排卵日近辺に行うことで、性交渉と同程度の確率で妊娠が期待できるという。使用するシリンジを見ると、膣内に入る部分は柔らかなゴム製で、太さは女性の指より細い程度。A子さんも「これなら、私でも大丈夫かもしれない」と思えた。実際、シリンジは問題なく挿入することができたことから、シリンジを用いたタイミング法に挑戦し始めている。A子さんは言う。 「いつまでも挿入ができない私は“異常”なのだと落ち込んでいましたが、先生の言葉で救われた。シリンジ法でネット検索すると、たくさんのカップルが活用している方法のようで、必ずしも性交しなくても妊娠の手段はあることに、まずは一安心。どうかこの方法で妊娠してほしいと願っています」(A子さん)  複数の医師によれば、性機能障害を持つカップルに共通するのは、性交はうまくいかずとも夫婦仲が良いこと。妊娠したいという希望を機に、医療機関を受診するケースが多い。不妊治療の浸透によって、不妊相談が一般的になってきた中で、「性交ができない」という悩みが表面化しやすくなったこともある。不妊外来で患者と向き合う千村友香里医師(さくら・はるねクリニック銀座)も言う。 「今の時代、“性交と妊活は別物”と考えた方がうまくいきやすいかもしれません」  晩婚化や女性の社会進出、共働き、現代の生活習慣、デジタルの普及……「性交ができない」妊活の背景には、さまざまな問題が絡み合っているようだ。こうした中で、「子どもは自然に授かるべきもの」と思い込み過ぎると、時に自分たちを追い詰めてしまうことにもなるかもしれない。  A子さんが受診した医師が「珍しいことではない」と言うように、性交を試みてもできない夫婦は少なくない。後編では、性交をパスして妊活に進む「セックスレス妊活」の葛藤や悩みについて。(松岡かすみ) 後編も読む→【年々増加する「セックスレス妊活」 性外来の医師が指摘する深刻な課題とは】

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    阪神、中日、広島は“将来の大砲候補” 各球団「ドラ1」で狙いたい選手【セ・リーグ編】

     高校生、大学生のプロ志望届提出者の公開もスタートし、10月20日のドラフト会議に向けての話題も多い時期となってきた。各球団、これから候補選手の最終的な絞り込みを行うこととなるが、現在のチーム事情などを考えて1位指名で欲しい選手は誰なのか考えて見たいと思う。今回はセ・リーグの6球団だ(順位は9月8日終了時点)。  まず最下位に沈んでいる中日は昨年のドラフトではブライト健太、鵜飼航丞と大学生の外野手を上位で指名したが、今年もチーム事情を考えるとまずは打てる野手が最優先となりそうだ。特に優先すべき能力は長打力となるが、すべてのカテゴリーを通してホームランバッターとしてのポテンシャルが最も高い選手としては内藤鵬(日本航空石川)を挙げたい。身長180cm、体重100kgの“おかわり”体形でパワーももちろん飛び抜けたものがあるが、それ以上にスイングに悪い癖がなく、柔らかさがあるのも魅力的だ。気になるのは同じサードに年齢も近い石川昂弥がいることだが、石川がセカンドを守れることと、ファーストを守る助っ人のビシエドも年齢的にベテランとなっているため、ポジション的な重なりはそれほど考えなくて良いのではないだろうか。  現在5位の巨人はリーグワーストのチーム防御率(3.81)が課題となっているが、それでも投手陣は期待の若手たちが多く伸びてきており、内野も外野もレギュラーが高齢化していることを考えると、まずは野手を狙いたいところだ。チームを大きく変える意味でもやはり誰もが認める大物選手が欲しいところだ。そうなると先日に1位指名の可能性が報じられた浅野翔吾(高松商)が最適な人材と言えるのではないだろうか。本人は中距離打者を目指すと話しているが、東京ドームであればある程度ホームランも狙うことができ、また外野手登録で右打ちの選手が少ないというチーム事情にもマッチしている。岡本和真以来となる甲子園の大物スター獲得に期待したい。  4位の広島はここ数年、大学、社会人の投手を中心に指名している。8月のスカウト会議では、白武佳久スカウト部長が外野の右の大砲を補強ポイントとして話しているが、その需要に最もマッチする今年の候補と言えば森下翔太(中央大)になるだろう。1年春には早くも大学日本代表に選ばれており、当時の代表候補合宿ではナンバーワンのスイングスピードをマークしている。課題だった確実性もこの春は打率3割をクリアし、自己最多となる3本塁打を放つなど成長を見せているのもプラス材料だ。7月には大学日本代表のオープン戦で死球を受けて右手を骨折するアクシデントに見舞われたが、既に復帰しており、体の強さも備えている。そういう部分も猛練習で知られる広島向きの選手と言えるだろう。  3位の阪神はここ数年、投手も野手も大物選手の獲得に成功し、若手は非常に充実している印象を受ける。その中でも強いて将来的なことを考えての補強ポイントを挙げるとすれば右の強打者タイプとなりそうだ。大山悠輔も来年で29歳となり、23歳以下では井上広大しか見当たらないだけに、右の大砲候補を狙いたい。そうなるとこれまでにも名前の出た内藤鵬(日本航空石川)と森下翔太(中央大)の2人が有力候補となる。どちらかを選ぶとなれば、土のグラウンドで内野の守備力が問われるということを考えると、外野手の森下の方がチームにはマッチしているのかもしれない。もし1位は投手でということになっても、右の強打者タイプを1人は狙いたいところだ。  昨年の最下位からリーグ2位につけているDeNAだが、戦力的には万全と言えず、補強ポイントは少なくない。やはり気になるのが先発投手の太い柱となれる候補が少ないところだ。昨年も1位で小園健太を指名しているが、一昨年1位の入江大生はリリーフタイプだけに、左右問わず長く先発を任せられる投手をまず狙いたい。年齢構成的には高校生を狙いたいが、今年は小園レベルの大物は不在なだけに、筆頭候補として挙げたいのが荘司康誠(立教大)だ。本格化したのは4年春からで、即戦力というには少し完成度は物足りないものの、スケールの大きさは抜群。意外に器用で変化球も悪くない。タイプ的にも先発向きに見えるだけに、ぜひ狙いたい選手である。  リーグ連覇が見えてきた首位ヤクルト。近年多くの投手を上位で指名し、それなりに戦力にはなっているものの、絶対的なエースは不在の状況は続いている。期待の大きい奥川恭伸も怪我の影響もあり今年停滞していることを考えると、やはり先発タイプの投手を真っ先に狙いたいところだ。DeNAのところで挙げた荘司も有力候補だが、より安定感のある先発候補としては金村尚真(富士大)も面白いのではないだろうか。地方リーグ所属ながら、実績は抜群で特にコントロールは大学球界でも1、2を争うレベルにある。常に結果を残し続けており、故障がないというのも大きな魅力だ。タイプ的にも小川泰弘の後継者としてマッチしそうな人材である。(文・西尾典文) ●プロフィール西尾典文1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

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    橋下徹が安倍元首相の国葬に反対する「フェア」な理由

     9月27日に安倍晋三元首相の国葬が行われる。産経新聞社とFNNの合同世論調査(9月17~18日)では賛成31.5%、反対62.3%。岸田首相の国会での説明に「納得できない」と答えた人は72.6%にのぼる。そんな状況でのいわば強行だが、果たして先日のイギリス・エリザベス女王の国葬のように「しめやかに敬意が示された」などと言えるかどうか。元大阪市長の橋下徹氏は当初から「反対」のコメントを発信してきた。最新刊『最強の思考法 フェアに考えればあらゆる問題は解決する』(朝日新書)の中でも、「安倍元首相は国葬に値する。しかし今のやり方での国葬には反対する」と明言。同書から一部抜粋して、橋下氏の反対論の真意を紹介する。 *  *  * ■「安倍さんだから」が理由なら、北朝鮮と同じ  僕はあらゆる問題を常に「フェアの思考」で考えている。それは、たとえば相手の立場に立って考えることや、自らの主張や態度の一貫性を保つこと、絶対的な正解はないことを前提とすること。「ルールを重視して考える」というのもその一つである。  この思考法を直近の事例で説明しよう。安倍晋三元首相の国葬の問題である。  2022年7月8日、安倍元首相が奈良市内における参議院選挙の街頭演説中に凶弾に倒れた。警備体制が敷かれている中での白昼堂々の銃撃である。日本中に激震が走り、安倍元首相を悼む声が国内のみならず世界各国から溢れかえった。  岸田文雄首相は選挙後の7月14日、国葬を行うと表明した。それに対して、賛成の声も多かったが、反対の声ももちろん上がった。  国葬賛成派は、安倍元首相の功績からすれば当然のことだと主張する。  反対派は安倍元首相個人を礼賛してはならない、安倍政治には罪の部分もある、国税を投入すべきではないということを理由とする。  この点「フェアの思考」からすれば、安倍元首相の功罪の評価については絶対的な正解はないことを前提とする。  その上で、ルールとプロセスを重視する思考をとる。  日本は世界に向けて法の支配、ルールに基づく統治を発信している。特にロシアによるウクライナ侵攻について、ロシアに対して法に従えと強く主張している。  そうであれば、日本自体がルールに基づく統治を厳格に遵守しなければならない。 「安倍さんだから」という理由で国葬にすると判断したのであれば、それは法に基づく統治、法治国家とは言えない。中国や北朝鮮などと同じく、人に基づく統治、人治国家である。  元首相である安倍さんが国葬なら、菅直人元首相が亡くなった場合にはどうするのか?鳩山由紀夫元首相が亡くなった場合にはどうするのか?  安倍元首相を支持する者の多くは、菅元首相や鳩山元首相不支持のいわゆる保守層である。彼ら彼女らは「安倍さんは当然国葬だけど、菅さん、鳩山さんが国葬なんてとんでもない!」と主張するだろう。しかし当然、菅元首相や鳩山元首相の支持者もいるわけで、その者たちは菅元首相や鳩山元首相の国葬も求めるかもしれない。  この点、アメリカは分かりやすい。慣例上、大統領経験者が亡くなった場合にはご遺族が拒否しない限り原則国葬とされている。ニクソン元大統領はウォーターゲート事件があったがゆえに本人やご遺族が国葬を望まなかったそうだ。  アメリカは二大政党制なので、各大統領経験者には単純に言えばアメリカ国民の約半分の不支持者がいるにもかかわらず、国葬になる。 ■雰囲気による国家運営が最も危ない  では、日本はどうか?  戦後、これまでは吉田茂元首相のみが国葬で、あとは国葬は行われず、内閣と自民党の合同葬などが営まれていた。  ゆえに安倍元首相がいきなり国葬になるのであれば、唐突感が否めない。しかし岸田首相の国葬の表明後、国葬でいいじゃないか、という雰囲気に世間は包まれた。  この雰囲気による国家運営というものが一番危険なのだ。  安倍政権の問題の一つに桜を見る会に関するものがあった。もともとは政府主催の一定の功績のある国民を招待する行事であったのだが、安倍元首相はじめ自民党の議員たちが、自分の後援会関係者を呼ぶ行事と化していた。  この点、税金を使う政府の行事が、政治家の支持者獲得のための後援会行事になっていると批判され、桜を見る会は中止に追い込まれた。  このような事態を招いたのは安倍政権や日本政府が、政治イベントと行政イベントの区別がついていなかったことが原因であった。  政治イベントは、政治家が自分の好きな者を呼んでくればいい。政治資金パーティーが典型だが、政治家の政治活動とはそのようなものである。  しかし行政イベントとなればそうはいかない。日本政府は、どのような政治信条を持っているか、どこの政党を支持するかに関係なく、全国民を対象に振る舞わなければならない。全国民からの税金で支えられているのだから当然である。  ゆえに行政イベントの場合には、明確な基準が必要なのだ。  国葬であれば、国葬にする基準、しない基準が必要になる。  この点、内閣府設置法第4条3項33号に、内閣府の所掌事務として「国の儀式」に関する事務が定められていることを根拠に、岸田政権は安倍元首相の国葬を決定してもいいという意見があるが、とんでもない間違いである。  国の儀式を内閣が行うのは当たり前のことである。重要なのは、どのような場合に国葬にするのかの基準と判断プロセスなのである。 ■ルールと判断プロセスの明確化しかない  岸田首相は、(1)憲政史上最長の8年8カ月にわたり内閣総理大臣の重責を担った(2)東日本大震災からの復興、日本経済の再生、日米関係を基軸とした外交の展開などの大きな実績を残した(3)外国首脳を含む国際社会から極めて高い評価を受けている(4)民主主義の根幹たる選挙が行われている中、突然の蛮行によって亡くなり、国の内外から幅広い哀悼、追悼の意が寄せられている、という理由を持ち出し国葬に値すると表明した。  それに対して安倍政治には罪の部分もあるし、国葬にすれば安倍元首相を称えることを国民に強制することになるので国葬にすべきでないという意見もある。  だからこそ、ここは絶対的な正解を求めるのではなく、ルールと判断プロセスを重視する「フェアの思考」が必要なのである。  すなわち岸田首相が掲げた4つの具体的理由とは別に、一般化した国葬の基準を法律上明確化すべきである。そして岸田首相が個人的に判断するのではなく、判断のプロセスも明確化すべきである。  たとえば、衆院・参院両議長や最高裁判所長官、それに民間の代表者も加えて審議会で議論をしてもらい、そしてその意見を踏まえて最後は内閣、つまり首相が判断する。  審議会で責任を負いながら決定するのは困難であろうから、審議会にはあくまでも意見を出してもらう。その上で責任をもって決定するのは内閣、つまり首相だ。  このようなプロセスを踏むことにより、正解に近づいたと見なしていくのである。  その決定について全国民が賛同することはあり得ない。常に反対意見が出るだろう。しかし適切なプロセスを踏むことによって、反対意見の人の納得度も高めていく。これが「フェアの思考」だ。 ■共産党や辻元議員と同じ反対派と思われるのは心外  このような明確な基準や適切なプロセスを踏むことなく、「安倍さんだから」国葬にするというのは最悪の国家運営だ。  法の支配というのは、自分に不利になること、相手に有利になることでも受け入れる姿勢がなければならない。  つまり基準に適合し、適切なプロセスを踏んだのであれば、自分が支持しない元首相が国葬になっても受け入れなければならない。安倍元首相「だけ」を国葬にするというのはあってはならない。  このような「フェアの思考」から、僕は「安倍元首相は国葬に値する。しかし今のやり方での国葬には反対する」というコメントを出した。  しかしこのようなコメントは、世間でなかなか受け入れられない。つまり多くの国民は「フェアの思考」ができていない。  安倍政治と対立していた共産党や立憲民主党の参議院議員の辻元清美さんたちは、案の定、安倍政治の罪の部分も考慮すれば国葬にすべきではないと主張している。結論だけ見ると、僕も共産党も辻元議員も、同じ反対派になってしまう。  これは僕にとって心外なのだ。  共産党や辻元議員たちは安倍政治を否定的に評価して国葬に反対。他方、僕は安倍政治の功績は十分に認めて国葬に値すると評価した上で、「フェアの思考」から反対という主張である。  この2つの論が明確に異なることを理解して欲しい。僕のほうは単純賛成、単純反対とは全く次元の違う論なのだ。  ルールに基づく国家運営を逸脱することほど怖いものはない。あっという間に権力は暴走する。ゆえに僕はルールに基づく国家運営の重要性を国民のみなさんに理解してもらいたい。それで「国葬に値する、しかしこのやり方では反対」という、複雑に聞こえるメッセージを発信したのである。

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    「あすけんの女」を泣かせるユーザーが続出 会員数750万人超“ダイエットアプリ”人気の理由

     会員数750万人を誇る食事管理アプリ「あすけん」。一日の終わりに食事内容についてアドバイスをくれる管理栄養士キャラクター「未来(みき)さん」、通称「あすけんの女」の泣き顔がSNSで話題だ。「今日もあすけんの女を泣かせた」「あすけんの女、すぐ泣く」といった投稿があげられている。未来さんを泣かせているユーザーと、未来さんの“中の人”に話を聞いた。  *  *  * 「小説トリッパー」2022年春号に掲載された作家の織守きょうやさんのエッセー「あすけんの女」は、食事管理アプリ「あすけん」のキャラクターを題材にしたもので「あすけんの女に対して抱く感情の全てが書いてある」と反響を集めた。織守さんが「あすけん」を使い始めたのはコロナ禍の体重増加がきっかけだったという。 「行動制限の影響もあってか2kgくらい体重が増えてしまったんです。『ゆるゆる調整しなきゃいけないな』と思っていたところ、久しぶりに会った知人がすっかりやせていたんです。理由を聞いたら『あすけん』だというので、その場でインストールしました」 「あすけん」は2007年にサービスを開始した人気のレコーディングダイエットサービス。コロナ禍における体形管理への関心の高まりや、口コミによって、ここ2年は年間150万人のペースでユーザーが増加していて、現在会員数は累計750万人を超える。  使い方は体重や食事内容、運動量を入力するだけ。カロリーや栄養バランスが計算され、その過不足をもとに100点満点で採点結果が出る。ユーザー平均は53点と、意外と低めだ。「あすけん」事業責任者の道江美貴子さんは言う。 「高得点が難しいのは、カロリーのほかにPFCバランスや野菜の摂取量、運動量にもしっかり配点があるためです。『お菓子をいっぱい食べているけれど目標カロリー内だからOK』『とにかくりんごだけを食べて摂取カロリーを下げる』といったアンバランスなダイエットでは良い採点にはなりません。必要な栄養素を必要な分だけ取る、健康的なダイエットをサポートするアプリになっています」 ■「あすけんの女」の表情がバロメーター  そして、「あすけん」の最も特徴的な機能が、管理栄養士のキャラクター・「未来(みき)さん」による毎日のアドバイスだ。状況に応じてさまざま表情を見せ、「どうしてもこってりしたものを食べたい時は、お野菜をいっしょに食べるようにしましょう」など、食事内容に応じて具体的なアドバイスが表示される仕組みになっている。  カロリーオーバーが続けばさめざめと泣き、カロリーが目標値内でも脂質や塩分の摂取量に厳しいものがあれば、スンとした表情で指摘をくれる。この、涙をもって食べ過ぎを指摘してくる未来さんの態度がSNSで話題になっている。「今日もあすけんの女を泣かせた」「あすけんの女、すぐ泣く」といったコメントとともに高カロリーの食事の画像や採点結果のスクリーンショットが毎日のように投稿されている。  織守さんも「叔母がおやつに豚まんを差し入れてくれたので、今日もあすけんの女には泣いてもらいます」「あすけんの女、今日のところはなんとか笑ってる」など、SNSに未来さんとの攻防の様子をつづっている。 「あすけんの女が泣きそうでも、私は『食べたい!』と思ったときは食べるんです。『明日は友達と中華を食べにいく』と投稿すると、『明日は織守さんちのあすけんの女が泣くぞ』『あすけんの女がなんと言うか楽しみですね』といったコメントをもらったりして。そうこうしているうちに、あすけんの女を泣かせる悪い男のような気分になってきましたね(笑)」(織守さん)  ほほ笑んでみせたかと思えば泣いたり冷めた目で見つめてきたり――。そんな「あすけんの女」の機嫌を保つ攻略法を探るうちに、いつのまにか食事管理ができてしまっているというわけだ。  SNSでは泣き顔にばかり言及されている「あすけんの女」だが、本来はめったなことでは涙を見せない。道江さんによれば、カロリーオーバーやお酒の飲みすぎ、過度なカロリー不足が数日続いたときに泣いてしまうのだという。 「未来さんの涙は『いつもと違うけど大丈夫?』という心配の涙なんです。泣いてしまったときは、本当に心配されてしまうような、気を付けなくてはいけない状態なんだな、と思ってくださいね」(道江さん) ■「ダメな日」を受け止めることがダイエット継続のコツ  道江さんいわく、ダイエットから脱落してしまう人に多いのは、飲み会などのちょっとしたイベントを機に、「一回カロリーオーバーしてしまったし、もういいや」となし崩し的に食事管理をやめてしまうパターン。未来さんが泣くという、“失敗”もある種の楽しみや笑いのネタになっている点が、「あすけん」が支持される理由のひとつかもしれない。 「あすけんの女に特別深い愛情があるわけではないんです。『泣かせちゃってごめんね!』とは思わない。でも、深刻そうな泣き顔で『このままだと体重に影響が出てきてしまうかもしれません』とか言われると、『わかったよ……仕方ないなあ』と調整しようという気持ちになります」(織守さん)  そんないつも厳しく指導してくれる未来さんが、「食べ過ぎ」を笑ってゆるしてくれるタイミングがいくつかある。誕生日、クリスマス、年末年始などのハレの日だ。 「誕生日などは、“アメとムチ”で言うところの“アメ”ですね。1週間でやせることはないですから、ダイエットで一番重要なのは継続。ダメなときがたまにあってもいいよね、という気持ちで続けていくのが一番のコツです」(道江さん)  織守さんも、誕生日の日の未来さんのコメントには思わず笑顔になった。 「誕生日だったので思いっきり食べたら、いつもだったら泣くはずの『あすけんの女』が『お誕生日は楽しめましたか?』と笑顔を見せたんです。『ふーん、かわいいとこあるじゃん』って感じ(笑)。点数は容赦なく低いんですけどね」(織守さん) 「ダイエットは自分自身との孤独な闘い。一人で継続するのは大変です。伴走者である未来さんの一喜一憂を楽しんでいただきながら、カロリー制限だけではない健康管理をぜひ学んでください。未公開の表情や衣装もあるので、これからの未来さんにもぜひ期待してください」(道江さん) (文・金山佐和)

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    【フォトギャラリー】ホラン千秋さん、大反響の「鬼ヤバ弁当」の“中身”

     澄んだ声と飾ることのない自然体で、いまやすっかり“夕方の顔”。そんな人気に拍車がかかったのは、飾り気ゼロのお弁当だった。ホラン千秋さんは、こう言う。「写真を載せているうちに、『この弁当を見て気が楽になりました』というコメントがくるようになって。きれいにお弁当を作らなければという呪縛みたいなものがあって、そこから解放される人がいるのだと、予想外の反響に驚きました」【関連記事】ホラン千秋「鬼ヤバ弁当」予想外の反響に驚き 飾り気ゼロも「他人に合わせる必要ないと思う」

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    巨人が“浅野以外”で欲しいのは? ドラフト補強ポイント【中日・広島・巨人】

     プロ野球のドラフト会議まであと約3週間となり、各球団の動向や候補選手についての報道も多くなる時期となってきた。今年は本命らしい本命は不在という印象で、近年多かった事前の1位指名公表も少なくなることが予想されるが、各球団どんな選手を狙うべきなのか。補強ポイントと、その選手がチームにマッチするかという点から探ってみたいと思う。今回は現在セ・リーグでBクラスの巨人、広島、中日の3球団だ。 *  *  * 【中日】  立浪和義新監督が就任し、期待が高かった中日だが最下位が決定的となっており、今年も苦しいシーズンとなった。昨年のドラフトでは長打力不足を解消するためにブライト健太、鵜飼航丞の強打者タイプの大学生外野手2人を指名したが、ともに確実性に大きな課題を残しており、一軍の戦力となるにはまだ時間がかかりそうな印象だ。若手野手では岡林勇希がブレイクし、土田龍空も成長を見せているが、根尾昂が投手に転向となり、石川昂弥も故障続きとなると、やはり今年も野手中心の指名と考えるのが妥当ではないだろうか。  そこで筆頭候補として推したいのが内藤鵬(日本航空石川・三塁手)だ。西武のところでも紹介したが、その長打力は高校生ではナンバーワンであり、今年の候補全体を見ても長距離砲としての素質の高さはトップという印象を受ける。仮に内藤を1位で指名できたとしても、大砲候補はプロで苦しむケースが多いだけに、もう1人くらいは高校生の強打者タイプを狙いたい。  石川、ブライト、鵜飼も右打ちだということを考えると左打者が狙い目になりそうだが、2位で残っていれば狙いたいのが西村瑠伊斗(京都外大西・外野手)だ。体はそれほど大きくないが、ミート力は高校球界でも1、2を争う存在で、技術で遠くに飛ばすことができる。足と肩も高水準で、広い外野を任せられるポテンシャルも備えている。下位で狙えそうな選手では田中多聞(呉港)も面白い。少し確実性には課題が残るが、大型でパワフルなスイングは高校生離れしたものがある。肩の強さがあるのも魅力だ。  投手では高橋宏斗を筆頭に若手に楽しみな選手は多いが、主力はベテランも多いだけにこちらも柱となれる人材は必要だ。2位で西村が残っていなければ、その枠でスケールのある投手に切り替えるのも一つの手だろう。候補としては先発タイプなら青山美夏人(亜細亜大)、リリーフタイプなら橋本達弥(慶応大)が面白い。青山は長身と長いリーチでボールに角度があり、力を入れた時のストレートの勢いは目を見張るものがある。また未完成な部分も目立つが、スケールでは大学生投手でトップクラスだ。橋本は東京六大学を代表する抑え投手。150キロに迫るストレートにフォーク、カットボールと決め球を複数備えている。ともに完全な即戦力という感じではないが、2年目から一軍の戦力になれるだけの潜在能力は十分にありそうだ。 【広島】  5位の広島は森下暢仁、栗林良吏、森浦大輔など即戦力を期待して獲得した投手がしっかり戦力になっている印象が強い。一方で野手は坂倉将吾、小園海斗の成長はあるものの、鈴木誠也の抜けた穴は大きく、昨年社会人の右打者を獲得はしているが、やはり強打者タイプは必要になるだろう。  高校生であれば内藤鵬(日本航空石川・三塁手)ももちろん候補だが、脚力のある選手を重視するチームであることを考えると少しマッチしないようにも感じる。そこで候補として推したいのが森下翔太(中央大・外野手)だ。東海大相模時代から評判の強打者で、1年春には早くも大学日本代表に選ばれている。その後は少し苦しんだ時期が長かったが、今年の春は打率3割をクリアし、課題の確実性も向上してきた。全身を使ったフルスイングで広角に長打を放つことができ、脚力と肩の強さも備えている。また今年は死球による骨折から早期に復帰するなど体の強さを見せているところも広島向きの選手と言えそうだ。  前述した通り、投手陣は確実に補強されてきているが、高校卒の若手となると遠藤淳志と玉村昇吾しか一軍の戦力になっておらず、二軍まで見ても2年目の小林樹斗くらいしか有望株は見当たらない。そうなると高校生のスケールのある投手を狙いたいところだが、候補としては斉藤優汰(苫小牧中央)、門別啓人(東海大札幌)などが挙げられる。斉藤はたくましい体格から投げ込むストレートが武器で、スピードはコンスタントに145キロを超える。まだ粗削りではあるが、今年の高校生投手ではスケールの大きさはナンバーワンと言えるだろう。  門別はオリックスのところでも紹介したが、スピードだけでなく総合力も高いサウスポー。将来の先発候補として期待できるだろう。大学生でも将来性とスケールを重視するなら仲地礼亜(沖縄大)が面白い。高校時代は無名ではあったが、大学で急成長した本格派右腕で、昨年の大学選手権でも好投している。森下に次ぐエース候補として狙いたい存在だ。 【巨人】  4位に沈む巨人は数字的には投手成績が課題のようにも見えるが、今年プロ初勝利をマークした投手が8人出ていることからも分かるように、今後の成長が楽しみな投手は少なくない。一方で野手は坂本勇人、丸佳浩、中田翔など中心選手にはベテランプレイヤーが多く、数年後には大きくメンバーを入れ替える必要があり、若手の有望株は必要不可欠な状況となっている。  そんな中で9月28日には早くも浅野翔吾(高松商・外野手)の1位指名を公言したが、これはチーム状況を考えても非常に理解できる選択と言える。右打ちの外野手で支配下の選手は外国人のウォーカーを含めて2人しかおらず、内野も含めてもパンチ力のある若手は多くない。浅野自身は中距離打者を目指すと話しているが、東京ドームが本拠地であればホームランを量産することも期待できるだろう。  ただ、巨人は抽選に外れ続けており、その時の選択も重要になってくる。過去には野手を外して投手に切り替えたこともあったが、チーム事情を考えるとやはり外しても野手を狙いたい。そこで、指名されず残っていれば推したいのが松尾汐恩(大阪桐蔭・捕手)だ。将来の正捕手候補としても当然魅力的な人材だが、巨人としては坂本の後釜候補として考えたい。地肩の強さとフットワークは抜群で、長打力十分のバッティングも高校生ではトップクラスだ。浅野、松尾ともに指名できないケースでも中日のところでも挙げた西村瑠伊斗(京都外大西・外野手)や、イヒネ・イツア(誉・遊撃手)など高校生のスケール型の選手を狙いたい。  投手は前述したように楽しみな若手が多いが、リリーフの手当てはしておきたい。4位以降で残っていれば検討したいのが小孫竜二(鷺宮製作所)だ。今年で大学卒3年目だが、短いイニングであれば球威で圧倒することができ、課題だった制球力も確実に向上している。リリーフなら早くから戦力となる可能性は高い。大学生であれば才木海翔(大阪経済大)も好調時のストレートは目を見張るものがあるだけに、セットアッパー候補として面白いだろう。(文・西尾典文) ●プロフィール西尾典文 1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

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    専業主婦の年金を増やすワザ 60代の10年で「月約17万円」をめざせ

     老後資金の頼みの綱はやっぱり年金。今の年金世代に多い専業主婦は、その年金が少額のことが多いが、実は制度をうまく利用すれば60代の10年だけで年金額を相当増やせる。しかも、それは将来の「おひとりさま対策」にもつながる。一石二鳥の年金増額策とは──。 *  *  *  都内に住む専業主婦のAさんは、60歳になるとすぐ地元の年金事務所に行った。 「私の年金は70万円弱しかありません。何でも若いころに未加入の期間があるからとのことですが、夫に聞くとそれが今からでも挽回できるというのです」  Aさんが利用するのは、国民年金の「任意加入」という制度。保険料を支払う必要はあるが、加入すると将来の年金は確実に増える。  Aさんがしみじみ言う。 「毎年来る『ねんきん定期便』を見ては『少ないなあ』と思っていたんです。少しは良くなるみたいですが、いったい、どこまで増えるのか……。世の中、本当に知らないことが多い」  Aさんの言うとおり、世の中は知らないことだらけだ。そして、知らないと「損」をすることが多い。年金の世界では、奇しくもAさんのような「専業主婦」が格好の事例になる。現在、年金世代に差しかかっている女性の多くが若いころに未加入の期間があるからだ。  Aさんは「任意加入」を利用したが、実はほかにも年金を増やせる仕組みがあり、上手に利用すれば60代の10年で相当、年金額を増やせる。おおむね50代以上の専業主婦にあてはまる「年金増額策」を探ってみよう。  この世代の専業主婦は、同じような「人生パターン」を生きてきた人が多い。短大か大学へ進学→就職→数年後、会社員の男性との結婚で寿退社→専業主婦、である。  多くの人が未加入の期間があるとしたのは、国の制度による。1991年3月までは、学生は20歳になっても国民年金に強制加入ではなかったのだ。加入は任意だったから、未加入が圧倒的多数派。したがって、大抵の人は「2年」ほど未加入期間がある。浪人していればそれが「3年」などにのびる。また、その後の生き方しだいで、さらに未加入の期間が長い人もいる。  年金制度の中では、専業主婦は国民年金の「第3号被保険者」になる。20~59歳で、会社員の夫の被扶養者なら「3号」でいられる。いくつか年上のことが多い夫は、今や60代前半は会社で働き続けるケースがほとんどだ。したがって専業主婦も「3号」のまま60歳を迎える人が多い。  さあ、問題はそこからだ。冒頭のAさんが行ったように、国民年金に「任意加入」するところから年金増額策は始まる。 【STEP1 任意加入】  任意加入は、まさに未加入や保険料を納められなかった期間がある人のために設けられている制度だ。一定の条件を満たす本人が申し出れば、60歳から65歳まで最長5年間入れる。ただし、59歳までの分と合わせた加入期間が、国民年金の加入上限である「40年(480月)」に達したら、そこで終了となる。  任意加入できる期間は、今年度の「ねんきん定期便」なら【480月-20歳~59歳の加入月数】で自分のケースがわかる。任意加入しておけば、多くの専業主婦が5年間のうちに「満額」の老齢基礎年金をもらえるようになるだろう。  増える年金額は「1620円×加入月数」で、5年間丸々加入できる人なら最大で年間「9万7200円」増やせる。しかも老齢基礎年金は終身年金だから、それが死ぬまでもらえる。  保険料は今年度は月1万6590円、1年で約19万9千円だ。1年加入すると1万9440円(1620円×12)年金が増えるから、65歳から年金受給を始める場合だとちょうど10年で元が取れる。つまり75歳以上生きると、長生きするだけ得になる。  保険料は口座振替が基本で、まとめて払う「前納」も6カ月、1年、2年と3パターンが用意されている。2年前納だと1カ月弱分の1万5790円もお得になるから、それらを利用すると元が取れる期間がさらに短くなる。  女性は長生きの人が多く、さらに後述する「おひとりさま対策」のことを考えると、60代前半での任意加入は必須といえるのではないか。  その上、国民年金に任意加入すると、さらに年金を上積みできる「資格」が得られる。国が国民年金の加入者向けに用意している「上乗せ年金」に加入することができるのだ。 【STEP2 付加年金・国民年金基金】  上乗せ年金には「付加年金」と「国民年金基金」の二つがある。ともに自営業者など国民年金の第1号被保険者のために用意されている制度だ。59歳まで「3号」だった専業主婦は、任意加入後は「1号」扱いになるため利用できるようになる。  付加年金は、月400円の付加保険料を納めれば「200円×納付月数」の付加年金額を終身受給できる。最大5年間納めても年金額は年「1万2千円」にしかならないが、どんな場合でも2年で元が取れる。  国民年金基金も終身年金が基本だ。ただし付加年金と違って、毎月の掛け金が6万8千円までと高額かけることができる。60歳女性なら、5年間加入できる場合は月2万3750円の掛け金で65歳から年「6万円」の終身年金がもらえる(保証期間15年つき)。ただし、計算してみると元を取るのに「約24年」もかかる。  どちらも59歳までの年金未加入期間が「5年」ある人はともかく、多数派を占めるとみられる「2年」程度では金額的なうまみは少なそうだ。ただし、両方に加入することはできない決まりで、どちらかを選ばなければならない(もちろん加入しない手もある)。  早く元が取れるという観点からは付加年金に軍配が上がる。長寿に自信があり、かつお金の管理が苦手という人なら、国民年金基金を利用してもいいかもしれない。「年金化」しておけば将来、勝手に定期的にお金が振り込まれてくるため、ほったらかしで済むからだ。  さらに、もう一つ、確定年金ではないが、個人型確定拠出年金、いわゆるiDeCo(イデコ)にも加入できる(任意加入している期間のみ)。2017年からの規制緩和で専業主婦も加入できるようになり、今年5月から65歳まで加入できるようになった。  しかし、イデコは投資信託を使っての「積み立て投資」が主だ。最長の5年でも期間が短く、長期投資のメリットを生かせない可能性が高い。したがって加入可能になった17年から始めている人以外は、手を出さないほうがいいだろう。 【STEP3 5年繰り下げ】  任意加入で老齢基礎年金を「満額」にし、一定の上乗せ年金にも加入した上で、余裕がある専業主婦には、ぜひ「とどめ」を刺してほしい。60代後半は年金をもらわずに受給を遅らせる「年金繰り下げ」を実行するのである。  長寿時代を迎え、今年の大改正で上限年齢が70歳から75歳に引き上げられたこともあり、「繰り下げ」は注目を集めている。  何と言っても魅力的なのは増額幅だ。1カ月受給を遅らせるごとに「0.7%」年金額が増える。1年で8.4%、5年で42%、仮に上限の75歳まで受給を遅らせると実に「84%」と倍近くまで増える。1年で1割弱も増える金融商品は存在しない。年金は金融商品ではないが、そんな「高利回り」を国が保証してくれるのだ。  60代後半の5年間繰り下げするだけで「約110万円(月9.2万円)」にもなる優れものだ。 「2年未加入」の専業主婦が65歳から年金受給を始めた場合の年金額は「約74万円(月6.2万円)」だから、月3万円も増えるのだ。 ■「おひとりさま」への効果  これだけでもうれしいが、それが夫が先に死亡した場合の「おひとりさま対策」にもなっている点に注目してほしい。若いころ会社で働いていた時代の少額の老齢厚生年金を持つ専業主婦と老齢厚生年金が月10万円の夫で考えてみよう。  こうした専業主婦世帯では、夫の遺族厚生年金は夫の老齢厚生年金の4分の3分を受給することになる。すると、この専業主婦は10万円×3/4で「7.5万円」の遺族厚生年金をもらえる(*)。70歳まで繰り下げた自分の老齢基礎年金「9.2万円」を合わせると月「16.7万円」だ。  一方、何もしなかった場合は、7.5万円+6.2万円で「13.7万円」になる。  総務省の家計調査年報(21年)によると、65歳以上の夫婦無職世帯の総支出は月約25万5千円。2人世帯が1人に変わった場合の総支出は約7割に減るとされるから、平均的家計では「約17万8500円」になる。  先の数字と比べてほしい。何もしなかった場合は月4.2万円も不足するのに、増額対策をほどこした専業主婦だと不足額は1.1万円で済む。年額に直しても13.2万円。おひとりさまの期間が10年続いたとしても、貯蓄が150万円程度あれば足りてしまう。 【STEP4 おまけ】  お金はあって困るものではない。さらに余裕資金があるのなら「積み立て投資」に挑戦する手もある。若い世代が今、我先にと始めている投資法だ。  簡単に言えば、主に世界経済全体を対象にしている投資信託を毎月、一定額購入する投資法だ。成長性を重視するのなら、投資対象は「株式」が主流になる。長期間積み立て続けることで世界経済の成長の波に乗ることを狙うのだ。  国の制度である「つみたてNISA」なら年間40万円まで積み立てできる。60代10年なら400万円まで投資ができ、運用益はすべて非課税だ。 ◇  以上見てきたように、年金の少なさを嘆く専業主婦でも、制度を知り、それを利用できる少しの余裕があれば60代の10年で老後資金を増額できる。ちなみに、国民年金の任意加入の保険料は、夫が会社員なら夫に出してもらおう。全額が社会保険料控除に使えるから、夫の所得税・住民税が安くなる。これまた一石二鳥なのだ。(本誌・首藤由之) *正確には、自分の少額の老齢厚生年金が先に支給され、それと夫の老齢厚生年金の4分の3との差額が遺族厚生年金になる※週刊朝日  2022年10月7日号

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    母は父に処刑され、自身も処刑寸前に追い込まれ…壮絶な生涯を遂げた“もう一人”のエリザベス女王

    『戦国武将を診る』などの著書をもつ産婦人科医で日本大学医学部病態病理学系微生物学分野教授の早川智医師が、歴史上の偉人や出来事を独自の視点で分析。今回は、英国での“二人”のエリザベス女王について「診断」する。 *  *  *  9月8日、英国女王エリザベス2世が崩御された。20世紀から21世紀、激動の連合王国を統治した偉大な君主に追悼を申し上げたい。古くから英国は女王が統治すると発展するといわれてきた。その意味で最初に思い浮かぶのは19世紀、大英帝国の最盛期に君臨したヴィクトリア女王であろう。そして次に思い浮かぶのは16世紀にイングランドをヨーロッパの強国の地位に引き上げたエリザベス1世である。 ■二人のエリザベス女王  名は体をあらわすというが、心理学的に人は与えられた名に見合った振る舞いをすることが知られている。我々医師や大学教員には古風な名前の持ち主が多く、映画監督や芸術家には少し変わった名前が多いという研究があるが、出身階級や家庭の教育に加えて、与えられた名にふさわしい行動をとろうと無意識のうちに努力しているのかもしれない。故エリザベス2世の場合、同名のエリザベス1世が名君だっただけに直接の血のつながりはないとはいえ、何らかのプレッシャーを感じていたであろう。  エリザベス1世はテューダー朝2代目、英国ルネサンスを代表する名君かつ暴君であるヘンリー8世の次女として生まれた(1533年)。最初の王妃キャサリン・オブ・アラゴンに男児が生まれないことに業を煮やしたヘンリー8世がカトリック教会と決別して離婚、再婚したアン・ブーリンとの第1子であったが、その後も男児は生まれず、父王は2番目の王妃に姦通の濡れ衣を着せて処刑してしまう。その後も王妃たちに理由をつけては離別や処刑を繰り返し、都合6人の王妃との間にエリザベス、エドワード、メアリーの3人の子をもうけた。  ヘンリー8世の後を継いだ王子はエドワード6世として即位するが、生来病弱で、結核(一説には先天梅毒)により15歳で死去、そのあとを継いだメアリは愛する母が離婚されたことを恨んで、カトリックに復帰するとともにプロテスタントを徹底弾圧、「ブラッディ・メアリー」という悪名を残した。母方の親戚スペイン王太子フェリペ(のちのフェリペ2世)と結婚するも子には恵まれず42歳で死去。やっとエリザベスに王位が回ってきた。 ■処刑寸前に追い込まれ  エリザベスは母を殺した父によって庶子の身分に落とされたり、その父を恨む姉によってロンドン塔に拘束されて危うく処刑されそうになったり、若年のころから権力闘争と宗教戦争の恐ろしさを痛感していた。そのために、英国国教会を重んじながらカトリックや清教徒に対する厳しい弾圧は行わず、ドイツや北欧のプロテスタント諸国、カトリックのスペインやそのライバルであるフランスと等距離外交を展開。また女王の配偶者を狙って近寄ってくる貴族たちや諸外国の王族を「私は国家と結婚しています」といって適当にあしらい生涯を独身で通した。その間、フランスにおける新教徒と旧教徒の内戦、スペイン無敵艦隊の襲来など何度も危機があったが、宰相バーリー卿ウィリアム・セシルや海賊出身の名提督フランシス・ドレーク卿などの活躍でこれを乗り越え、英国ルネサンスの最盛期を築いた。  筆者の好きな古楽の世界では、ウィリアム・バードやジョン・ダウランド、アンソニー・ホルボーン、トマス・モーリーなどの作曲家が輩出し、文学の世界では英国史上最大の劇作家ウィリアム・シェイクスピアが活躍したのがこの時代である。  しかし。 「処女王」の称号を守るために生涯結婚せず、エリザベス1世の没後にはライバルだった遠縁のスコットランドのメアリー女王の長男ジェームズ6世(英国王としてはジェームズ1世)を後継に迎えざるを得なかった。  エリザベス1世の偉大な生涯は当然ながら、伯父エドワード8世の退位(有名なシンプソン夫人との恋のために王位を放棄)、そして父ジョージ6世の早逝によって、25歳で王位につかざるを得なかったエリザベス2世に影響を与えたに違いない。しかし、エリザベス1世の寂しい晩年に比べると、多くの子供たちや孫たちに囲まれて最期を迎えたエリザベス2世は幸せだったかもしれない。 ■チャールズという名の国王  さて、母の死を受けて即位した新国王チャールズは、その名を冠するイングランド国王(スコットランド国王としても)3代目である。面白いことに国によって王様の名前に好みがあるようで、フランスでは聖ルイ王(ルイ9世)以来、ルイが多い。太陽王ルイ14世が有名だが、その曽孫でロココの遊蕩児ルイ15世、フランス革命に非業の死を遂げたルイ16世、そしてその弟のルイ18世まで18人もいる。  英国で多いのは、ハノーバーから移って王位についたジョージ1世からエリザベス2世の父までのジョージ、エドワード証聖王からエリザベスの伯父まで8人も続くエドワードであろうか。フランスにおける領土を喪失したジョン欠地王のようにケチのつく名前は選ばれない。  チャールズも英国王の名としては微妙である。前述のジェームズ1世の息子だったチャールズ1世は非常に謹厳実直な性格の持ち主だったようであるが、王権神授説を信じて清教徒が多数を占める議会との妥協をあくまで拒み、革命で断頭台に上るという悲劇の最期を遂げた。  その息子チャールズ2世は辛くも清教徒革命を逃れてフランスに亡命したが、父の仇を討つために頑張った形跡はなく、フランスやスペイン領ネーデルラントのブルージュで優雅な宮廷文化の吸収と美女たちとの恋愛遊戯に10年を費やした。強権的な指導者オリバー・クロムウェルの没後、清教徒政府の瓦解を受けて王政復古で英国に戻ってきたが、政治は家臣に任せて相変わらず多くの愛妾を抱え、庶子たちはノーサンバーランド公やバクルー公、グラフトン公、セントオルバンズ公など、現在も続く英国貴族の先祖となっている。  ただ、王妃キャサリンとの間には嫡子に恵まれず、弟のジェームズ2世、そのあとは姪のメアリー2世、アンと続くが直系の子孫は絶えてしまった。そして遠縁のハノーバー家から英語の話せない英国王がヘンデルとともにやってきてこれが現在の英国王室の直系祖先である。 ■「ピースメーカー」としての期待  チャールズも物心つくころから、自分が将来は伝統ある王室の後継者であることは意識していたであろうが、先代先々代のチャールズがあまりぱっとしなかったことは面白くなかったであろう。しかし、欧州全体に目を向けると、有名なシャルルマーニュ(カール大帝)や日の沈まないスペイン帝国を築いたカール5世(カルロス1世)など、同名の名君は少なくない。  チャールズ3世はカミラ夫人に発した“下ネタ”が報じられることもあったが、ご両親や祖父のジョージ6世、曽祖父のジョージ5世のような謹厳実直な君主よりもさらにもう1代前のエドワード7世のようなユーモアあふれる国王になっていただきたいと願う。エドワード7世も母であるヴィクトリア女王があまりに偉大かつ長命で王位に就いたときは高齢であり、治世は10年足らずであったが、保守党(ソールズベリー侯爵とバルフォア)と自由党(キャンベル=バナマンとアスキス)が交互に政権を担当、日英同盟、英仏協商、英露協商を締結、甥で英国に対抗意識むき出しだったドイツ皇帝ウィルヘルム2世とも良好な関係を維持した「ピースメーカー」であった。  チャールズ新国王は皇太子時代から環境問題や人権には活発に意見を述べてこられたが、中東のイスラム原理主義者、ロシアとウクライナ、中国と台湾など、世界がきな臭くなっている今こそ、国際協調への活躍を祈念したい。 ◯早川 智(はやかわ・さとし)1958年生まれ。日本大学医学部病態病理学系微生物学分野教授。医師。日本大学医学部卒。87年同大学院医学研究科修了。米City of Hope研究所、国立感染症研究所エイズ研究センター客員研究員などを経て、2007年から現職。著書に『戦国武将を診る』(朝日新聞出版)など ※AERAオンライン限定記事

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    『鬼滅の刃』竈門炭治郎の日輪刀の知られざる秘密 「刀鍛冶の里」で起こった“ある事件”とは

    【※ネタバレ注意】以下の内容には、今後放映予定のアニメ、既刊のコミックスのネタバレが含まれます。 『鬼滅の刃』アニメ新シリーズ「刀鍛冶の里編」の制作が発表されて以降、新情報はまだ解禁されていない(2022年9月30日時点)。このシリーズで新しく参戦する、恋柱・甘露寺蜜璃と霞柱・時透無一郎のティザービュジュアルや新PVの完成度の高さは、ファンの期待を高めている。放映時期、新しい声優メンバー発表が待ち遠しい今だからこそ、「刀鍛冶の里編」の見どころについて、放映前におさらいしておきたい。今回は主人公・竈門炭治郎が刀鍛冶の里で手にする、「新しい日輪刀」の謎について考察する。炭治郎の日輪刀は、刀鍛冶の里で起こる“ある事件”をきっかけに、大きな変化を遂げることになる。 *  *  * ■「英雄」が使う入手困難な「剣」  古今東西、物語のヒーロー(英雄)たちは、異能、優れた身体能力、稀有な道具を使って強大な敵と戦う。英雄と「剣」にまつわる伝承は数多くあり、石に刺さっていたアーサー王の名剣エクスカリバー(「アーサー王物語」)、リンゴの大木に突き立てられていたシグルズの名剣グラム(『ヴォルスンガサガ』)など、その由来は象徴的に語られている。『日本書紀』『古事記』に登場する、八俣大蛇(ヤマタノオロチ)の尾から見つかった草薙剣(くさなぎのつるぎ。※天叢雲剣 あめのむらくものつるぎ)もそれにあたる。  いずれも入手困難であること、他の物体から取り出されること、持ち主が運命的に“選ばれている”ことを想像させる語りであることが特徴だ。 ■『鬼滅の刃』の「日輪刀」の神話性 『鬼滅の刃』において、鬼と戦う鬼殺隊の隊士たちは、「日輪刀」と呼ばれる、太陽のパワーを秘めた刀を使用するが、不死に近い肉体を持つ鬼を倒すためには、この日輪刀が必須となる。 「日輪刀は 別名 色変わりの刀とも言ってなぁ 持ち主によって色が変わるのさぁ」(鋼鐵塚蛍/2巻・第9話「おかえり」)  日輪刀は原材料が「陽光を吸収する鉄」で、それだけでも神話的なエピソードだが、刀の持ち主が「道具」である日輪刀に「色変わり」という影響を与える相互性が興味深い。日輪刀の「色変わり」が、入隊試験を終えた鬼殺の剣士の第一の関門となる。 ■竈門炭治郎の「日輪刀」  炭治郎は水柱・冨岡義勇(とみおか・ぎゆう)の導きによって、元・水柱の鱗滝左近次(うろこだき・さこんじ)から、剣術と体術の指南を受けた。コミックス1巻・第4話で炭治郎の説明とともに描かれている刀は、おそらく鱗滝から借りたものだ。これには、柱の日輪刀に刻まれている「惡鬼滅殺」(あっきめっさつ)の文字はなく、通常の刀であると思われる。2巻で炭治郎がはじめてもらう日輪刀にも刻まれていない。 「この刀の後から階級制度が始まり 柱だけが悪鬼滅殺の文字を刻むようになったそうだ」(鋼鐵塚蛍/15巻・第129話「痣の者になるためには」) 注※セリフ中では「悪」の表記 注※「この刀」=刀鍛冶の里で手にする新しい炭治郎の刀。300年以上前のもの。  炭治郎は激戦のために、何度か日輪刀を破損・紛失し、そのたびに自分の日輪刀の制作者である、鋼鐵塚蛍(はがねづか・ほたる)から厳しく叱責されている。しかし、炭治郎はもともと「水の呼吸」の使い手である。のちに「ヒノカミ神楽」を使うようになった彼の日輪刀にも、変化が必要だったはずだ。そんな時に、刀鍛冶の里で、炭治郎は「新しい日輪刀」と出会う。 ※以下、放映予定の「刀鍛冶の里編」の内容が含まれます。ネタバレにご注意下さい。 ■刀鍛冶の里での「事件」(1)  遊郭での戦いの際に、日輪刀を刃こぼれさせてしまった炭治郎は、鋼鐵塚から「お前にやる刀はない」と言われてしまう。新しい刀も届けてもらえなかった。炭治郎は鋼鐵塚と直接話をするため、刀鍛冶の里に出向くが、そこでいくつもの事案が重なって、300年以上前に実在したという天才剣士を模した「カラクリ人形」と戦闘訓練を行うことになった。  刀鍛冶の少年・小鉄の助力もあり、炭治郎の能力はさらに覚醒する。とうとう炭治郎が「カラクリ人形」に勝ったその瞬間、その人形の「体内」から、1本の日輪刀があらわれた。神話的物語において、「英雄」の条件のひとつである、「入手困難な剣」を炭治郎が手にした瞬間だった。この「天才剣士のカラクリ人形」に勝つことは、炭治郎にとって通過儀礼としての意味を持つ。さらに、この「剣」の持ち主は、炭治郎の祖先、炭治郎の耳飾りとも関係していた。  一見、唐突とも思える「カラクリ人形」の描写であるが、このカラクリ人形のモデルとなった剣士と竈門家の縁、「強い者」を倒すことで手に入れられる「最強のアイテム」というエピソード、そして、その剣が「体内」から出てくるところに、強い神話性が感じられる仕組みとなっている。これらは鬼滅の作者・吾峠呼世晴氏の周到な「仕掛け」であるといえよう。 ■刀鍛冶の里での「事件」(2)  この「天才剣士の日輪刀」は、そのまま使用できるわけではなかった。長い年月によって、著しく劣化していたからだ。そこで、刀鍛冶の里の「技の継承」が、この古い日輪刀をよみがえらせるために必要となる。上弦の鬼たちが刀鍛冶の里を襲撃してきたことにより、炭治郎たちは刀鍛冶を鬼から守らねばならない。 「天才剣士の日輪刀」を研ぐ鋼鐵塚は、顔を切られても、目をつぶされても刀の研磨をやめなかった。敵である上弦の鬼にすら「私とてこれ程集中したことはない!!芸術家として負けている気がする!!」と言わしめている。そして、小鉄少年も命をかけて日輪刀を守ろうとした。 「時透さん… お 俺のことはいいから…鋼鐵塚さんを…助けて…刀を…守って…」(小鉄/14巻・第118話「無一郎の無」)  刀鍛冶たちの熱い思いと技の継承が、炭治郎の「新しい日輪刀」に命を吹き込む。 ■完成された炭治郎の「日輪刀」  この「新しい日輪刀」は、『鬼滅の刃』のテーマともいえる「継承」を表現し尽くしたモチーフだといえるだろう。 「血の継承」のエピソードとして、竈門家が先祖から受け継いだ縁の深さが語られている。竈門家で相伝された「ヒノカミ神楽」は、数百年の時をへて、天才剣士の技を後世につなぐものだった。  次に「技の継承」であるが、これは刀鍛冶たちの日輪刀製作の様子からうかがい知ることができる。また、冨岡義勇と鱗滝左近次、ともに戦ってきた仲間によって研鑽されていった炭治郎の剣技も、「技の継承」を示している。「選ばれた血」だけが人を強くするのではない、炭治郎の成長には、多くの人たちの「思い」がつながっているのだ。  鬼の攻撃によってひどい傷を負った鋼鐵塚から、研磨が完成した日輪刀を手渡された炭治郎は涙を浮かべた。 「あっ刀… ありがとうございます 煉獄さんの鍔だ!!」(竈門炭治郎/15巻・第129話「痣の者になるためには」)  炭治郎の「新しい日輪刀」は、炎柱・煉獄杏寿郎の鍔がつけられたことで完成する。刀鍛冶の里では、この鍔がある1人の人物の命を救う。誰も死なせはしないと、言った煉獄の願いが、この鍔に込められている。たくさんの人々の心を背負って、炭治郎は戦う。  「刀鍛冶の里編」では、「新しい日輪刀」のエピソードひとつをとっても、これほど重層的な物語が展開される。続報が待ち遠しい。 ◎植朗子(うえ・あきこ)1977年生まれ。現在、神戸大学国際文化学研究推進センター研究員。専門は伝承文学、神話学、比較民俗学。著書に『「ドイツ伝説集」のコスモロジー ―配列・エレメント・モティーフ―』、共著に『「神話」を近現代に問う』、『はじまりが見える世界の神話』がある。AERAdot.の連載をまとめた「鬼滅夜話」(扶桑社)が好評発売中。

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    進化型カプセルホテルは豪華で快適 若い女性客にも人気の理由とは

     狭くて、利用客は男性ばかり。そんな従来のイメージが変わりつつある。本当だろうか。進化型カプセルホテルに記者が泊まってみた。AERA 2022年10月3日号より紹介する。 *  *  *  「出張でもないのに、高級カプセルホテルに泊まる……贅沢!」「カプセルホテルめっちゃおしゃれ! 開放感すごい~!」  ユーチューブやインスタグラムで、こうした女性からの投稿をいくつも目にした。  カプセルホテルと言えば、男性専用で古めかしく、終電を逃したときに泊まるイメージだったのだが。  少し前から気になってはいたが、やはりハードルは高い。でも、記者(女性、30歳)が思い切って、都内のカプセルホテルに泊まって取材してみると、豪華で居心地のいい「進化型カプセルホテル」が、多く誕生していた。  取材で歩き回った夕方、疲れがどっと押し寄せた。もう家に帰るのも無理……。  そんな日に行ったのは、東京メトロ竹橋駅近くの「ナインアワーズ大手町」だ。  外装も内装も白。共用スペースの机や椅子はシンプル。有名デザイナーが手がけた。 ■快適、SNS映えも  カプセルホテルは閉鎖的なイメージが強いが、ここは廊下の壁がガラス張りで、明るいうちは、日光がよく入る。暗くなったら、暖色のライトが窓の外に漏れる。SNS映えする。  男女別の専用エレベーターでフロアも別々。ベッドも厚く、硬めで腰が痛くならなそうだ。慣れない布団だと寝られない記者もぐっすりだった。  寝る前に共用スペースで「残業」した。机、いす、コンセント、Wi-Fiがある。家なら寝てしまうけど、ここなら緊張感を保てる。想像以上に快適だ。ナインアワーズの米本秀高さんは言う。 「ナインアワーズの名前の由来は『1時間のシャワー+7時間の睡眠+1時間の身支度=9時間』です。眠るだけなのに、個室ホテルは割高に感じる。だからといってネットカフェに泊まるのは疲れる。そんな方たちのために必要な『眠り』と『シャワー』に特化したサービスを提供しています」  一部店舗では睡眠解析サービスも。カプセル内の赤外線カメラやマイクが、心拍やいびきを測定、メールで結果を届ける。宿泊料金は時期によるが3千~5千円ほど。この価格、この快適さなら、十分満足と思う人も多いだろう。  読みたかった本を持ち込んで、羽を伸ばしたい……。そんな特別な時間を過ごしたいという需要にも応える。 ■ファーストクラス気分 「地上でファーストクラスを体験!」  こうアピールするのは、「ファーストキャビン」だ。今年2月にリニューアルした市ケ谷店では、ベージュのジャケットを着たスタッフが「いらっしゃいませ」と、柔らかいほほえみで迎えてくれる。  ここのホテルは窮屈さがない。普通はカプセル内では中腰になる。だが、ここでは天井まで自分のスペースだ。カプセル内で立つこともできる。  最もランクの高い「ファーストクラスキャビン」に泊まってみた。  なんとベッド以外のスペースがある。机もあって、普通のホテルの部屋のようだ。アコーディオンカーテンで仕切る。  広い大浴場に、洗濯乾燥機、充実のスキンケアグッズ、数万円する高級ドライヤーも完備。なんと豪華なことか。宿泊料金は4千円から。ビジネスクラスは千円ほど安くなる。  女性客のほうが多いのではないかと思ったが、記者が宿泊した8月の平日は、2対1の割合で男性客が多かった。それでも、女性に好まれそうなサービスを提供する理由について、ファーストキャビンの西島紗織さんはこう答える。 「男性でもハードルを感じる人もいる。男性でも女性でも心地よく感じる清潔な場所は選んでもらえるはず。メインターゲットは30、40代女性です」  全館女性専用のカプセルホテルも出てきた。「秋葉原 BAY HOTEL」だ。  記者が日曜日に泊まったところ、ワンピース姿の20、30代くらいの女性が多い印象だった。支配人の大上香音さんは言う。 「東京ドームなどでコンサートがある週末は、稼働率がかなり上がります。夜行バスの時間に間に合わない、または翌日ゆっくり帰りたい方が使ってくださっています」  ここでは「推(お)し事(ごと)プラン」が人気だという。推し活での疲れを癒やして、というのが狙いで、栄養ドリンクなどのプレゼントを選べる。  アニメやゲームのキャラクターとも時折コラボ。なんとカプセル内に、キャラクターの特大イラストが貼られている。まるでキャラクターと一緒に寝そべっているかのようだ。 ■「推し活」に活路  大上さんは、推し活のエネルギーを感じている。 「キャラクターで飾るのは10室ほどですが、予約枠が瞬時に埋まることもあります。ただ、部屋はランダムなんです。予約したお客様は、どのキャラクターのカプセルに当たるか、実際に来るまでわかりません。推しのキャラクターのカプセルに泊まれるのか、そういう楽しみもあると思います。コラボ期間中にリピーターになってくれる方も多いですね」  カプセルホテルは増えている。厚生労働省の衛生行政報告例によると、カプセルホテルを含む簡易宿所の施設数は、2010年に約2万4千だったが、20年には約3万8千と6割も増えた。鍵となったのは、13年頃から始まったインバウンドの増加だった。  ホテル評論家の瀧澤信秋さんは言う。 「インバウンドは増えたものの、宿泊施設が不足していました。旅館やホテルも増えましたが、一から造るハードは開業までに時間を要します。それに比べて、カプセルホテルは準備期間が短く、数を伸ばしました」  ただ、最近はカプセルホテルの休業や閉鎖も耳にする。 「コロナ禍とインバウンドが減ったことが大きいですが、実は宿泊施設の供給過剰は、コロナ禍前から始まっていました」と瀧澤さん。一般のホテルの開業ラッシュだった18年頃から、稼働率の低下が指摘されるようになったという。 「カプセルホテルも淘汰されています。他社にない魅力を打ち出そうとした。結果、進化を遂げたのです」 (編集部・井上有紀子) ※AERA 2022年10月3日号

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    サウナブームの意外な“落とし穴” 疲労の専門家は「快感あっても頭と体は疲れるだけ」と指摘

     空前のサウナブーム。「ととのう」快感を求める愛好家が増える一方で、人によっては「疲れた」「翌日がだるい」というマイナスの意見もある。疲労の専門医によると、快感を得られたとしても、実は脳や体にはとても大きな負担がかかっているため、心臓や脳の疾患リスクが増大する危険もあるという。サウナ好きな筆者には耳が痛い話だが、「気持ちいい」だけではないサウナの「リスク」を聞いてみた。 *  *  * 高温のサウナで汗をたっぷりかき、冷たい水風呂へ。ほてりを冷やしてからは外気浴。イスなどに腰かけてぼーっとリラックス。サウナ好きにとって、この「ととのう」状態は、何よりも心地よい時間である。  サウナ大国であるフィンランドの大学などの研究論文によれば、サウナに入る頻度が高い人は、それほど入らない人よりも健康長寿で心臓疾患や認知症のリスクが低くなる、との結果が示唆されたという。気持ち良くて、健康にもプラスに作用するなんて最高ではないか。  だが、疲労の専門家で「東京疲労・睡眠クリニック」院長の梶本修身医師は、この論文に疑問を呈する。 「私もこの論文を読みましたが、『サウナに入る頻度が高いから健康』と解釈できる一方で、『健康な人でないとサウナには頻繁に入れない、だからこの結果が出た』という読み方もできるんです。日本人も体調不良や病気なのにサウナに入る人はそうそういませんよね」  梶本医師はサウナの健康効果について否定的で、むしろ危険だと訴える立場を取る。その理由をこう解説する。 「高温の空間で大量に汗をかくため、脱水症状や熱中症をおこしやすくなります。脳温度が上昇し自律神経がオーバーヒートすると、血圧や心拍、体温などの調節機能が低下し、心筋梗塞や脳卒中などのリスクが生じます。そんな状態で水風呂に入ることは、心臓発作のリスクをさらに高めることになります」  そして、「サウナは百害あって一利なし……せめて一利ならあるかもしれない、というくらいの認識です」と続ける。  では、その「一利」とは何か。梶本医師は、厳しい寒さの冬が長く家にこもりがちになるフィンランドの特殊な生活環境だからこそ生まれた、サウナの効用に言及する。 「家に閉じこもるようになると、汗を出す汗腺が閉じてしまいます。汗腺には体温を調節する重要な役割があり、これは自律神経の働きによって制御されています。汗をかけない極寒の環境ではサウナという外的刺激によって汗腺を開き、自律神経による体温調節機能を回復させてあげる、というプラスの効果はあるのかもしれません」  日本でもコロナ禍で家から一歩も出ない時間が長く続いたり、寒冷地で冬は家に閉じこもり運動をまったくしない人がいるとすれば、サウナが有効となる可能性はあるという。  ただ、厳寒のフィンランドと日本では気候がまったく違う。日本では、満員電車や重い買い物袋を持って歩くだけでも自然に汗腺が開く。汗が流れ出るほどでなくても、活動中は自律神経が汗腺を開いて体温を調節しているのだという。梶本医師によれば、日本で普通に生活している限り、わざわざ酷暑環境を作って汗腺を開く必要はないということだ。  こうした環境でサウナに入るとどうなるか。 「懸命に頑張っている自律神経にさらに負担をかけるので、疲れてしまうだけです。日々のストレスや仕事で疲れている自律神経からすれば、『ひーひー言うとる時に何してくれんねん!』という状況ですよ」  とはいえ、サウナに入った日はストンと眠れている気がする。安眠効果についてはどうなのだろうか。 「すぐ眠れたという声は聞きますが、それは疲れて『寝落ち』しているだけで、寝つきがいいこととは全く異なります。緊張や覚醒をつかさどっているのも自律神経。自律神経が極度に疲れると覚醒を保てなくなり寝落ちしてしまうのです。さらに睡眠リズムを作るのも自律神経ですから、寝落ちした状態では睡眠の質がとても悪く、変な時間に目が覚めたりして疲れを回復させることはできません」  ネットを見ると、「サウナの翌日がだるい」などの投稿が散見されるが、睡眠の質の悪さが原因なのかもしれない。  ただ、愛好家にとってサウナや水風呂、その後の外気浴が気持ちいいことは事実だ。身体への負担が大きいのに、なぜ気持ちがいいと感じるのか。  梶本医師によると、β-エンドルフィンという物質など、気分の高揚や幸福感を得られる「脳内麻薬」が関係していると考えられる。  マラソンで苦しい状態が続いた後、多幸感や陶酔感を覚える「ランナーズハイ」と呼ばれる現象が起きることはよく知られるが、それと同じ現象がサウナでも起きているというのだ。 「動物は子孫を残すため生きることに忠実ですが、ヒトは脳の前頭葉が発達しているため、自己利益を実現する『欲』を持ちます。欲によって脳の報酬系と呼ばれる回路の働きが活発になり、『もっと、もっと』という精神状態になってしまう。これが災いしているのがサウナやその後の水風呂です。体には良くないことが分かっていたとしても『もっと快楽を』と、のぼせるまで頑張る人が出てしまうのです。ランナーや筋トレ愛好家でも、常に脳内麻薬による快感を求めてトレーニングを休めなくなる方がいます」  自律神経の機能は20歳を「100」とすると、40歳で半減、50歳で3分の1、60歳で4分の1に減るのだという。体の調子を整えてくれる力が、ガクッと衰えていくということだ。  脳内麻薬のおかげで、身体の悲鳴にはなかなか気づくことは難しい。梶本医師も「体に悪いと知っても、やめようとは思う人は少ないと思います」と話し、こうアドバイスする。 「水分をしっかり補給する。絶対にのぼせるまで入らず、サウナを出た後は、ぬるいシャワーで体を冷やす、涼しい部屋で過ごすなど、脳と体を守る基本は大切にしてください。また、年齢により自律神経が衰えるということをしっかり理解して、若い時よりも入る時間を短くすること。高齢になると温度を感じる機能が鈍くなりますので、のぼせに気づきにくくなりますからね」  サウナに入るかは個人の自由だ。ただ、快感を味わうだけではなく、自分へのいたわりも必要であることは心得ておきたい。(AERA dot.編集部・國府田英之)

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    「退団」か「残留」か立場の微妙な助っ人は? 所属チーム去れば“争奪戦”になり得る選手も

     ペナントレースも大詰めとなり、選手の去就に関する話題も増えてくる時期となったが、大きな関心ごとの一つが外国人選手の動向ではないだろうか。球団からすれば来季に向けてどの選手を残留させるかの判断が求められる時期であり、逆に来年も日本でのプレーを目指す選手にとっては残り試合の成績が非常に重要となる。  また、コロナ禍以降は大当たりと言える選手は少ないだけに、退団となれば他球団が獲得に動くケースも考えられるだろう。そこで今回は今シーズンの成績はそこまで突出していないものの、他球団も含めて来季以降も戦力として面白い存在になりそうな外国人選手を探ってみたいと思う(年俸は推定、成績は9月15日終了時点)。  まず日本で十分な実績がありながら、厳しい立ち位置となっているのがウィーラー(巨人)だ。一昨年のシーズン途中にトレードで楽天から移籍し、昨年は規定打席にはわずかに届かなかったものの3割近い打率を残し、チーム2位の打点をマークするなど活躍。しかし今年は新加入のポランコとウォーカーにはじき出される格好となり、来日以来最低の成績となっている。  成績を考えれば退団が濃厚と見られるが、それでも残留、もしくは他球団が獲得に動く可能性が否定できないのが野球に対する真摯な姿勢とそのキャラクターだ。実績のある選手の場合、出場機会が減るとモチベーションを保つことができないケースも多い中で、ウィーラーからはそんな様子は全く見られない。二軍でもしっかり結果を残しているのも立派だ。また今シーズンの年俸は1億1000万円と安くはないが、昨年は5000万円でプレーしており、条件面についてもある程度妥協することが予想される。もし巨人を退団になったとしても、得点力不足の球団が手を挙げる可能性は十分にありそうだ。  同じセ・リーグの野手ではマルテ(阪神)の動向も気になるところだ。来日3年目の昨年はキャリアハイとなる22本塁打、71打点の成績を残しベストナインも受賞したものの、今年は度重なる故障でほとんど一軍の戦力になることができていない。現在の2億円近い高額な年俸と、一昨年も故障に悩まされていたことを考えると、阪神が契約延長のオファーを出す可能性は低いと見られる。  しかし昨年見せていた選球眼の良さと勝負強さは天下一品で、今年も少ない出場ながら二軍では圧倒的な成績を残しており、今年で31歳とまだまだ若いのはプラス要因だ。もし大幅な減俸となる条件をのむということであれば、貴重な右のパワーヒッターだけに獲得に動く球団が出てきてもおかしくないだろう。  パ・リーグの野手で真っ先に名前が挙がるのがレアード(ロッテ)だ。日本ハムに在籍していた2016年にはホームラン王にも輝き、今年4月にはNPB通算200本塁打を達成するなど長くリーグを代表する長距離砲として活躍している。しかし今シーズンはチームトップの本塁打数を放ってはいるものの、打率は1割台と低迷。腰の故障で長期離脱した2020年を除いて、最も苦しいシーズンとなっている。守備に関しても年々衰えが見られており、今年は大半が指名打者での出場となっている。  約3億円と見られる高額な年俸もネックだが、それでも退団と言い切れないのはチームの得点力不足が深刻だからだ。チーム本塁打数はリーグ5位、チーム打率はリーグ最下位と盗塁以外の数字は軒並み低調で、安定して長打を期待できる選手は不在の状況となっている。もう1人チームを支えていたマーティンが家庭の事情で既に帰国し、このまま退団が濃厚と見られており、実績のある外国人選手が2人抜けることを懸念する声が出てくることも十分に考えられる。残り試合で持ち味の長打力を発揮すれば、残留の可能性もまだありそうだ。  投手で気になるのが巨人のデラロサとビエイラの2人だ。デラロサは2019年の来日以来中継ぎ、抑えとして活躍してきたが、今年は開幕から調子が上がらずに2度の登録抹消を経験。これまでで過去最低の成績となる可能性が高い。さらに深刻なのがビエイラで、昨年はNPB史上最速となる166キロをマークするなど抑えとして活躍したが、今年は9試合に登板して防御率9点台と全く戦力になっておらず、8月には二軍戦で左脛骨を骨折し今シーズン中の復帰は絶望的となっている。  チームはリリーフ陣が苦しい状況だけに残留の可能性も高いが、ともに年俸はそれなりに高く、大幅減俸となれば交渉が難航することも予想される。リリーフ陣には苦労している球団も多いだけに、巨人が見切りをつけた場合は、争奪戦となることも十分に考えられるだろう。  冒頭でも触れたが、コロナ禍以降新外国人選手にはどの球団も苦労しており、その分日本で実績のある選手の人気が高騰することも予想される。そういう意味でも残りシーズンの外国人選手のプレーぶりに例年以上の注目が集まることになりそうだ。(文・西尾典文) ●プロフィール西尾典文 1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

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