ここに中国人からの大量申請が舞い込んで事態はさらに複雑となった。MM2Hがスタートした2002年時点では、中国人が他国の不動産を買い漁ることなど、全く想定できなかったはずだ。

■「国の安売りはよくない」「移住できる人が減る」

 今回の定住条件の厳格化について、マレーシア国内ではどう受け止められているのだろうか。「過去20年余りでマレーシアの経済的価値は向上したのだから、従来のような低い規定で定住者を受け入れるべきではない」という意見がある。これまでの規定では、マレーシアに完全に住みつかなくても、現地金融機関に口座を開いてそこそこのお金を積めば許可が出るといったもので、こうした「国の安売り姿勢」に疑問を抱く人もいた。

 現地で日本人向けの企業進出コンサルティングを手掛ける40代華人男性は「マレーシアのASEANにおける経済力や、各国の定住に関する規定などを総合的に判断したら、今回発表された新規定はむしろ妥当な水準ではないか」と指摘。「別荘目的で使う一時在住者向けにビザを出しても、大した経済的利益は上がってこない。国の経済を考えれば、ハードルを上げてでもしっかりした定住ビザを出すことは悪いことではない」と主張する。

 一方、マレーシアの日本人向けフリーペーパー「Mタウン」の発行人、広岡昌史さんは「他国での移住施策と比べ、資産や居住条件等のハードルが低いため、マレーシア政府にとっては想定したほど利益になっていなかった可能性がある」と指摘しつつ、「新条件の導入で、マレーシアへの移住を検討していた人々にとってハードルが上がるため、個人的には残念に思う」と語る。

■中国人向けタワマンがある“州王”は抗議

 そんな中、中国人向けのタワマン群が立ち並ぶジョホール州の州王は今回の改定に異議を唱えた。マレーシアでは13の「州」のうち、9つの州に現在もなお州王(スルタン)という王族がいる。

 州王は今回の改定を「極めて後ろ向きな判断」と断罪、「新規定は、マレーシアから投資家や観光客を遠ざけるだけ」と政府方針に苦言を呈した。

 王族がクレームをつける事態になったひとつの理由として、新規定の対象が新規申請者だけでなく、すでに定住している外国人に対しても、ビザ更新の際にはこの規定を遵守することが求められるからだ。M子さんは「こんな条件では、いま居住している外国人はほぼ全員住めなくなります。わが家のような現役世代でも、住み続けることは無理」と政府の方針に怒りを示す。

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