「早期教育は意味がない」慶応医学部教授が指摘、その理由とは
慶應義塾大学医学部の小児科教授である高橋孝雄医師による「高橋たかお先生のなんでも相談室」。テーマはママのお腹の中にいる胎児の頃から幼児までの「環境要因」について。
胎教、早期教育という言葉もあるほど、スポーツでも勉強でも早いうちからトレーニングを始めたほうがその子のためになると親が考えるのは不思議なことではありません。ただ、脳の発達に精通している小児科医の立場から見ると、そのような考えはどのように映るのでしょうか。
一児の母である出産準備サイト編集スタッフKが高橋先生に伺いました。
●大事なことは「遺伝子」で決まっている
K:今回は、子どもの脳の発達と教育についてお話をお聞きしたいと思います。「胎教」という言葉があるように、赤ちゃんは生まれる前から脳に刺激を与えてあげると発育がよくなるというイメージがあります。このことについて、先生はどんな考えをお持ちですか?
高橋先生:僕の考えをお話する前にちょっと別のお話をしますね。人間の脳にはしわがありますが、赤ちゃんの脳はいつからしわがあると思いますか?
K:そうですね…赤ちゃんがママのお腹を蹴り始める頃ですか?
高橋先生:お、いい線いってますね。予定日よりも早く生まれてくる早産の赤ちゃんのうち、日本では妊娠22週以降に生まれた場合に、ひとりの人として治療を受けることになります。体重で言うと300グラムくらいの小さな小さな人です。22週から25、6週くらいまでの赤ちゃんの脳にはほとんどしわがありません。脳にしわがない状態で誕生した赤ちゃんが保育器の中で治療を受けることになります。そんな小さな赤ちゃんでも、保育器の中で1か月、2か月とすごす間にだんだん脳にしわができてきます。
K:すごい…。
高橋先生:そう、すごいんです。保育器の中に入っている間に呼吸の状態が悪くなったり、感染症にかかったり、ショックを起こしたりすることもあります。でも、脳は決められた通りに正確にしわを作っていきます。その様子は、まるで折り紙を折るように、遺伝子によってあらかじめ決められているのです。早産で生まれて数か月間保育器の中で育っても、大人と同じ脳のしわがきっちり作りあげられるわけです。なにが言いたかったかというと、脳の形や機能が作りあげられていくための遺伝子の“決定力”はとても強く、少々環境が悪くても、大事な部分はしっかりと作られていく、ということです。