モザンビーク、ザンビア、ジンバブエ、スワジランド、レソト、南アフリカ、ナミビア、ボツワナ、マラウィ……。一昨年、ローカルバスを町から町へ乗り継いで、6カ月かけて南部アフリカ諸国をひとりで旅した。紛争が収まってから少しずつインフラが整い観光客が増え、個人旅行も可能になってきたと聞いた。それならば、どんな人々がどんな街でどのように暮らしているのか、実際に行って自分の目で確かめてみたい。

なぜ、そんなことを思い立ったのかって? それは1990年代、ニューヨークに住んでいたころにさかのぼる。当時のニューヨークは犯罪が多いことで有名だった。その中でも物騒な地区でホームレス・シェルターを運営する友人が、安全な道筋を教えるから自分たちの街を歩いて見て欲しいと私に言った。好奇心旺盛な私も躊躇した。でも友人の言葉を信じ、勇気を出してひとりで歩いた。ショックだった。落書きで汚れたビルの前で夕涼みをしている黒人の家族が、通りすがりの私と笑顔で挨拶を交してくれる。キオスクの前にたむろしている不良風の若者たちが、通ろうとすると道をよけてくれる。子どもがいて、夫婦がいて、当たり前の生活がある。どうやってこんな荒んだ所で暮らせるのか? なぜここに居るのか? なぜここに生きていても人間的な優しさを忘れずにいられるのかとの思いが次々とあふれ出た。そして馴染みの東京とは異なり、一見、驚きを感じる風景も、人々の生活の場の一部なのだと気がついた。

それ以来、その思いとともに世界を旅してきた。今回、アフリカの街を歩くと、いまいましい歴史、ままならぬ環境、不均衡な経済発展という背景のもとに、それぞれの土地と時間の中で生きる大らかな人びとに出会えた。

【プロフィール】

ひがしぞの・やすこ/東京都出身。ニューヨーク在住を機に世界の広さに目覚め、世界を見る旅をするために?結婚! 海外勤務もあるサラリーマンの夫に支えられてこれまで訪れた国は100ヵ国以上の、人呼んで「旅主婦」。翻訳家の父譲りの語学センスと健脚・健啖を活かして諸国を歩き、名所旧跡に留まらず、素顔の人々、ありのままの生活に真正面から出会った瞬間、抜群の反射神経で愛機コンデジのシャッターを切り、その街らしい風景やその国の風土をカメラに収める。