14日は衆院選の投票日。『日本人は人を殺しに行くのか 戦場からの集団的自衛権入門』(朝日新書)に書いた内容から、投票の前に、有権者全員に心に留めておいていただきたいことを以下に記す。(紛争屋・東京外国語大学教授 伊勢崎賢治)

1.自衛隊の海外派遣を推進したのは「湾岸戦争のトラウマ」という名の外務省の勘違いだった

 1991年の湾岸戦争時に海上自衛隊をペルシャ湾に派遣して以来、自衛隊の海外派遣へと突き進んできた日本国政府だが、その真のモチベーションは、外務省が「湾岸戦争のトラウマ」と呼んでいるものである。
 この説明は、湾岸戦争当時の海部内閣で官邸にいた、江田憲司氏(現「維新の党」共同代表、当時通産官僚)のブログの記事が詳しい

(2007年10月22日の記事より)。

  「湾岸戦争の時には130億ドルもの支援をしながら「汗をかかない」と批判されたと、「湾岸戦争のトラウマ」をことさら強調する論者も多い。しかし待ってほしい。「湾岸戦争のトラウマ」を言うなら、私も、その当事者の一人である。当時は海部内閣であったが、私は総理の演説担当・国会担当(内閣副参事官)として首相官邸にいた。(略) 
実は、この「湾岸戦争のトラウマ」とは、直接的には、当事国のクウェートが戦後出した米国新聞の感謝広告に「JAPAN」がなかったというコンテクストで使われるのだが、しかし、これも考えてみれば当たり前のことなのだ。 
実は、90億ドル支援(当時のお金で約1兆2000億円)のうち、クウェートに払われたのはたった6億円だったという事実を知らない人が多い。(略)クウェートの首長(略)の石油王にとって6億円程度は「はした金」にすぎないわけだから、感謝しようにもその気がわいてこないのは、ある意味しょうがないことなのだ。 
言いたいことは、「湾岸戦争のトラウマ」を例にあげながら、しきりに「お金だけではだめだ」「汗をかけ」「自衛隊を出さなければ」と言っている人には、背後に、こうした事情、経緯があったことを知った上で発言してもらいたいということだ。」

 つまり、外務省と、自衛隊の海外派遣を推進したい政治家の言う「湾岸戦争のトラウマ」とは、外務省のミスであり、アメリカからのメッセージの背後にある本心を読み違えた思い込みだった。

2.アメリカのエゴ丸出しの戦争に、日本はまたも勘違いで加担していた

 アメリカ同時多発テロ後に、日本がインド洋に自衛隊を派遣する大きな原動力になったのは、アーミテージ米国務副長官の「Show the flag」という言葉だった。しかし悲しいかな、日本はこの言葉を、またしても勘違いして受け取ってしまっていた。
アーミテージは「旗幟を鮮明にしろ」――日本がどちらにつくかはっきりしなさい――と言っただけで、「自衛隊をイラクに派遣しろ」と言ったわけではなかったのである。ここに、自衛隊を海外に派遣するための口実である「湾岸戦争のトラウマ」に、「Show the flag」という口実が加わったのである。

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