米国・オバマ大統領をもてなしても、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉で、「大筋合意」できなかった安倍晋三首相(59)。ゴールデンウイークの4月29日~5月8日もトップセールスを兼ねて企業を引き連れ、欧州6カ国を外遊する。だが、その裏で失速するアベノミクスの目玉として原発・武器輸出の動きが加速している。

昨年のゴールデンウイーク、トルコに原発4基をトップセールスした安倍首相。日本から輸出される原発の建設予定地となっているのは、トルコ北部の都市・シノップだ。今春、日本から訪れたジャーナリスト・守田敏也氏が原発の危険性を訴える講演を終えると、約200人の聴衆が立ち上がって大きな拍手を送った。

「現地の反原発の熱気はすごかったです。市長は原発反対を掲げて当選した人ですし、デモも頻繁に行われている。親日感情は強いのですが、『マジメな日本人が失敗したのだから、政府を信用できないトルコで原発が成功するはずがない』という意見をよく聞きました」 (守田氏)

シノップでは小舟による漁業や豊かな自然を売りにした観光業がさかんで、地元の人々は原発建設による影響を心配しているという。黒海を挟んだ対岸はウクライナで、チェルノブイリ事故後は白血病やがんが増えたと多くの人が語っており、放射能への警戒心も強いようだ。

「強権的な中央政府は地元の声を聞こうとしない。建設予定地では大規模な森林伐採が始まっていますが、事前の環境アセスメントも行われていない。日本なら考えられないことです」(同前)

そんなトルコ人の悲鳴など、安倍首相には届かないようだ。安倍政権は4月11日、原発を「重要なベースロード電源」と位置づけたエネルギー基本計画を閣議決定。18日にはトルコへの原発輸出を可能にする両国間の原子力協定が国会で承認された。首相肝いりの「トップセールス」は、着々と実現へコマを進めている。

原子力協定承認の採決を欠席した民主党の菅直人元首相がこう語る。

「あの『エネルギー基本計画』を見た時点で、安倍政権は完全に“居直った”と感じました。原子力ムラと政府が一体となって再稼働や核燃料サイクルを推進する。3.11前の構図が、そのまま復活している。ただ、さすがに国内ですぐには原発新設はできないと考え、海外への輸出に活路を見いだそうとしているのでしょう」

そんな中、トルコへの原発輸出をめぐって、ある「疑惑」が持ち上がった。

シノップの原発建設予定地の地質などの現地調査は、敦賀原発(福井県敦賀市)などを運営する日本原子力発電(日本原電)が昨年7月、11億2千万円で受注した。

ところが、この入札に参加したのは、日本原電1社のみ。入札の書類審査項目の中には、次のような条件が含まれていた。

<当事業と同様、もしくは、類似の事業について十分な実績を有しているか>

実は、これにはカラクリがある。海外での原発立地の調査に実績がある国内企業は、2011年からベトナムで調査を行った日本原電だけ。これでは、入札など名ばかりだ。この問題を追及してきた環境NGO「FoE Japan」の満田夏花(かんな)理事がこう指摘する。

「原発が動かず、収入が見込めない日本原電を、国が救済するために受注させたのではないか。経済産業省に報告書の公開を求めても、『相手国との関係がある』などの理由で公開せず、審査や事業計画の詳細は黒塗りにされたものしか出てこない。税金が投入された事業なのだから、きちんと公開すべきです」
 
週刊朝日  2014年5月9・16日号より抜粋