10月16日、「脱原発」を掲げ、動きだした小泉純一郎元首相(71)が、千葉県木更津市で開かれた講演会に登場した。演説するその姿はかつて、「自民党をぶっ壊す!」と叫んで首相を射止めた現役時代さながら。100分間にわたって熱弁する“小泉劇場”に、居並ぶテレビカメラ、会場を埋め尽くした約1100人の聴衆が聴き入った。

 その迫力におののいた永田町では、小泉氏が「脱原発新党」を立ち上げるという噂が駆け巡ったが、そこはこう否定した。

「どっかの新聞でまた、原発ゼロの新党を考えているんじゃないかというのもあったけど、そんなこと毛頭考えてません。私の話が聞きたいという所には行ってお話しして、何かの参考になればという話なんです」

 だが、衆参で“絶対多数”を誇る安倍内閣を攻めあぐねる野党が、この好機を逃すはずもない。各党から続々とラブコールが送られているのだ。昨年末の衆院選以降、存在感が薄れていた生活の党の小沢一郎代表も、かつての政敵をこう評価した。

「小泉氏も政治の現場を離れ、公平な高みから眺めて脱原発という心境に至ったんだろう」

 菅直人元首相、民主党もエールを送った。とはいえ、野党バラバラという現状を見る限り、「脱原発」を軸とした政界再編は夢のまた夢。そんな中、意外な“キーマン”として名前が挙がっているのが、細川護熙元首相である。

 1993年、日本新党の代表として38年ぶりの自民党からの政権交代を実現。98年に60歳で電撃引退した後は、芸術家として活動してきた。長く政治の世界から距離を置いてきた細川氏だが、3.11以後は「脱原発」に目覚めているという。関係者が証言する。

「細川氏は最近も、エネルギー関連の専門家と会うなどして『脱原発』の道を模索している。そんな細川氏に数週間前、小泉氏が人を介して『会いたい』とアプローチしたようです」

 小泉氏と細川氏が脱原発で共闘すれば、その影響力がさらに増すことは必至。果たして本当なのか。細川氏本人を直撃すると、こんな答えが返ってきた。

「小泉さんとは会って話をしたいと思っています。当然、原発の話題になるでしょう。8月に視察したという、フィンランドにある使用済み核燃料の最終処分場の話を聞いてみたい。どこまでの話になるかわかりませんが、日本の現状は本当に深刻。どう行動するべきか考えなければならない」

 実は、細川氏には小泉氏と意外な縁がある。小泉氏が自民党総裁選に出馬する直前まで、細川氏や田中秀征・元経済企画庁長官らとともに「行政改革研究会」として活動していたのだ。月に1度、食事をしながら、小泉氏の持論だった郵政民営化などの改革案を語り合ったという。

 小泉氏と同じく、細川氏も自身の政界復帰については固く否定する。それでも、原発問題には強い危機意識を持っていた。

「福島第一原発の状況は危機的で、4号機の崩落があった場合、影響は一国にとどまらない。民主党政権時代、野田佳彦首相に『脱原発で旗幟(きし)を鮮明にすべし』と助言しましたが、その後の対応は本気度が見えませんでした。波風は立てたくないのですが、戦うべきところは、体を張らないといけないと思っています」

 となると、目指すところはやはり野党再編なのか。

「どの政党がくっついてというような永田町の話ではなく、国民運動にしていかなければならない。政権交代を実現した日本新党も、元は国民運動でした。脱原発が『一部の人が言っていること』と思われている今の空気を変えなければならない」(細川氏)

週刊朝日  2013年11月1日号