「許せないのがブラック企業です。先日あるワタミの社員に話を聞いたら、正社員なのに、バイト以下の扱いだというのです!」

 7月10日、「労働者の町」JR蒲田駅前でこう拳を振り上げていたのは、共産党の“プリンセス”吉良佳子氏(30)だ。七夕には浴衣姿で街頭演説を行うなど、共産党らしからぬ(失礼!)爽やかなルックスが武器。ただ、舌鋒は実に鋭い。目下のターゲットは“ワタミ”で、ツイッターでの触れ込みは、「吉良」をもじって「ワタミキラー」。演説の際には「あなたの会社ブラック企業じゃない?」と書かれた横断幕を掲げるなど、鼻息が荒い。

「敵の大将」である渡辺美樹前ワタミ会長(53)が自民党の比例区から出馬していることについて、こう切って捨てた。「自民党が若者の立場に立っていないことを象徴していると思いますね」。

 6月の都議選で8議席か17議席へと躍進した共産。この勢いで12年ぶりの東京選挙区での議席獲得といきたいところ。新聞各社の情勢調査では、おしなべて自民党の2人と公明党候補に次ぐ4番手。みんなの党、民主党、日本維新の会の候補らと括抗し、予断は許さない状態だ。

「いかに党員以外の層を取り込んでいくか。ブラック企業批判は無党派層にも響くテーマで、ツイッターなどでも反響が大きい」(吉良事務所幹部)

 一方、思わぬ相手からも標的にされた渡辺氏。実は吉良氏が気勢を上げた蒲田は、渡辺氏がワタミの前身となる会社を立ち上げたいわば“聖地”。第一声も蒲田で行っただけに、いたく自尊心を傷つけられたに違いない。先週、東京・浅草、鳥取、宮城などを飛び回り、こう反撃している。

「ブラック企業とやたら批判されますけど、本当にブラックだったら社員全員辞めていますよ」

 やや強引な反論だが、さすが「接客業」のプロ。商店街を練り歩けば若者からお年寄りまで誰かれ構わず近づき、手を握りながら「一緒に写真撮りましょうよ」と気さくに声をかけた。お得意の「ミキスマイル」を振りまく渡辺氏の後ろに目をやると、黒いスーツを着た屈強な若い男性が。スタッフに尋ねると、「私設のSPです。万が一に備えて……」。何かと苦労も絶えないようだ。

 自分への投票を呼びかけるビデオレターをワタミ各事務所に送っていたと報道もされていたが、念願の議員バッジをつけることはできるのか。

「ワタミは高齢者への弁当宅配が人気で、30万食も売れている。渡辺氏の名前も浸透していて、投票する人も多いのではないか。また、ワタミグループの約6千人の従業員に渡辺氏の信奉者は多く、家族や友人に片っ端から投票を呼びかけている」(元ワタミ従業員)

 意外な「票田」もある。グループ企業の中には距離を置く人々もいるが、結局、投票先は渡辺氏になるというのだ。

「落選して会社に戻ってきてもらっては困るので、投票して国会に送り込もうとするはずですよ(笑い)。いずれにせよ、当選は堅いのでは」(同)

 今も苦情の電話がかかってくるという自民党幹部は、当選前から頭を抱えているという。

週刊朝日 2013年7月26日号