安倍晋三首相(58)が颯爽と6月5日に発表した成長戦略第3弾が市場で評価されず、株価が下落しようが、党と官邸の「0対100ゲーム」の力関係は微動だにしない。その一例が日本維新の会を巡る動きだ。

 同会の共同代表である橋下徹大阪市長(43)と幹事長の松井一郎大阪府知事(49)が、翌6日、白昼堂々と首相官邸に乗り込んだ。面談相手の安倍首相と菅義偉官房長官(64)に、米軍の新型輸送機オスプレイの訓練に関して、地元大阪・八尾空港で一部受け入れる提案をした。その後、首相は小野寺五典防衛相(53)を呼び、八尾空港へ飛行訓練の一部移転が可能か検討するよう指示を下す。

 この光景に歯がみしたのが自民党の大阪府出身議員たちだ。「官邸と維新の2人が連絡を取り合うときは、いつも大阪府連の頭ごし。官邸から事後説明もないから、いきり立つ支持者にどう説明していいかわからん。こっちの面目は丸つぶれや」(選出議員の一人)。

 橋下氏の従軍慰安婦発言の余波で、人気低迷が著しい維新だが、参院選後の憲法改正を巡る攻防を見据え、安倍-菅ラインは、その関係を保持しているのだ。地元大阪で連日、維新とせめぎ合っている自民党大阪府連はいわば丸ごと“生けにえ”にされたのだ。「議員同士集まると、いつも『誰か菅さんに“どういうことか見解を聞きたい”と言いに行け』という話になるが、押し付け合いに終わる。でも自分のところの議員より他党を大事にするのはおかしいだろう」。

 火種はまだある。5月28日に参院選の比例候補に、飲食店チェーンなどを手がける「ワタミ」の創業者である渡辺美樹氏(53)を公認すると発表。すると党本部には支持者からの抗議の電話が殺到した。「なぜワタミなんだ。いくら支持率が高く比例の候補者を増やせと言われていても、今や“ブラック企業”の代名詞とまで言われる企業の創業者だ。有権者に対して自民党が渡辺氏の経営方針にお墨付きを与えたとのメッセージを送ることになる」(閣僚経験者)。

 ワタミを巡っては、08年に入社2カ月で自殺した女性社員の、過労での労災が認められている。ほかにも渡辺氏の言動について、疑問符を投げかける論調は多い。渡辺氏は、第1次安倍政権時に、官邸にできた「教育再生会議」の有識者メンバーの一人で、会見では「4月10日に安倍首相から声をかけてもらった」と、首相直々のリクルートだったことを明かした。電話だけでなく、さっそく首相官邸前では「ワタミは従業員を大事にしろ!」と叫ぶ一団も現れた。雰囲気を察して渡辺氏も党本部の各所に「ご迷惑をおかけします」と謝って回った。それでも党内からは声高な反対論は聞かれない。

「だって人事があるからね」と明かすのは、ある中堅議員だ。「参院選に勝てばあと5年続く長期政権になるかもしれない。前に参院選で負けたとき、誰がどう発言したか安倍さんは全部覚えている。何か口にしたら人事で干される。ひたすら我慢だ」。

 また党是である憲法改正を目指している以上、維新との連携や、知名度のある候補者を立てることに表立って異論を唱えにくいのも事実。まさに「もの言えば唇寒し」なのだ。

週刊朝日 2013年6月21日号