安定感を見せる安倍晋三政権。その“キーマン”とも呼ばれる菅義偉官房長官(64)は「安倍さんは改革から逃げない」というが、なぜなのか。その改革への意気込みと飯島勲内閣官房参与の訪朝の真意を、ジャーナリストの田原総一朗氏が対談で追求した。
* * *
菅:今までがそうだったからですよ。私は第1次安倍内閣で総務大臣として教育基本法の改正や防衛庁から防衛省への組織替えなど、いくつかの改革が実現するのを目の当たりにしてきました。あのときは公務員制度改革をやろうとして結果的にたたかれましたけどね。
田原:第1次安倍内閣は2007年の参院選挙で惨敗して、安倍首相も辞任に追い込まれましたからね。あのときと今では、どこが変わったんですか?
菅:前の内閣のときは直線的にワーッと攻めていたんですが、今は全体を見ながら、じっくりと詰めていっている感じです。実行することの順番を決めて、総合的、戦略的に進めていこうとしている。そこは変わったと思いますよ。
田原:改革は進めてほしいですが、一方で気になるのは外交問題です。5月半ばに、飯島勲内閣官房参与が北朝鮮を訪問しました。メディアは菅さんがこの話に一枚かんでいると書いていましたが、訪朝は菅さんが言いだしたんですか?
菅:飯島さんは非常に人脈が豊富ですから、いろんなことをやっている中で相談を受けましたので、私が判断して、総理に了解をいただいたということです。
田原:北朝鮮が核実験したり、ミサイルを発射したりして、各国との関係が冷たくなっています。日米韓で北朝鮮に対して連携しなきゃいけないというこの時期に、事前に知らせず抜け駆けのように訪朝して、アメリカも韓国も不快感を示しているようですが?
菅:日本の北朝鮮政策の基本は、拉致、核、ミサイルの三つの問題を包括的に解決しようというものです。中でも拉致問題は、日本が主導的に動かずに外国に頼んでいるだけでは前に進まないんですよ。私を含め、日本の立場は米韓のいろいろな方に説明しましたし、理解していただいたと思っています。
田原:2002年、小泉純一郎首相の最初の訪朝に当時、官房副長官だった安倍晋三氏が同行して、注目されましたね。
菅:拉致問題は安倍首相の原点と言ってもいい問題なんです。あのときの安倍首相の決意は極めて重いんですよ。主権を侵害して日本の国民を拉致したのは絶対許されない行為で、あらゆる可能性を模索して解決しなければいけないという強い意志を持っているんです。
田原:飯島さんは北朝鮮ナンバー2の金永南最高人民会議常任委員長と会って、拉致被害者の全員帰国と真相解明、実行犯の引き渡しを要求したと伝えられています。でも、これは小泉首相のころから言ってきたことと同じですよね?
菅:会談の内容については公にしていませんが、今、田原さんがおっしゃったことは日本の基本的な立場です。ただ、それが北朝鮮の新しい指導者である金正恩第1書記に伝わっているかどうか、これまで私たちには判断できていなかった。今回の訪朝で、日本の思いは伝わったと思いますよ。
田原:たとえ伝わっても、先代の金正日総書記がどうにもできなかったことを、トップが代わって、前進させられるんでしょうか?
菅:金正日総書記と違い、金正恩第1書記は少なくとも拉致に直接関与していないでしょう。おそらく、拉致問題について判断できる人間は北朝鮮で彼一人だけです。その人物に、まずは日本の考えを伝えたということです。
※週刊朝日 2013年6月14日号