小沢一郎氏(70)=岩手4区=はかつて「小沢王国」とまで言われた、強力な地盤を持っていた。しかしそれも今となっては昔の話のようだ。

 岩手県では、選挙戦終盤の14日、日本未来の党の小沢氏が、盛岡近郊の小さな商店街に立っていた。小雪が舞う中、耳を傾けたのは40人前後。

「皆さんの気持ちを代弁するのが誰か考えていただきたい。特に民主党はTPPと消費増税に賛成するのを条件として公認を出している」

 声を張り上げる小沢氏の横を、様子を確かめるように、民主党の選挙カーが走り抜けていった。

 ここは内ゲバで骨肉相食(は)む岩手1区。袂を分かった小沢氏の元側近、階猛(しな たけし)氏(46)の刺客として、小沢氏は公示4日前に達増拓也知事の妻陽子氏(47)を送り込んだ。本来なら小沢氏本人が登場するまでもなく「裏切り者」は抹殺されていたはずだが、小沢氏が党を割った際、民主系県議23人中、13人が民主党に残った。特に1区は全員階氏についた。「長年、意のままに県議や知事の首をすげ替えてきた小沢氏周辺に対する恨みは広まっている」と元小沢後援会幹部は言う。

 東京地検特捜部による捜査が与えたダメージも大きい。達増氏の総決起集会では、森ゆうこ日本未来の党副代表が「小沢氏の無実がようやく証明されました」というと「弁護士がよかったからな」とヤジが飛んだ。

 震災対応も「王国」にひびを入れた。津波で大きな被害を受けた陸前高田市などを含む岩手3区。ここでも小沢氏は民主党にとどまった黄川田(きかわだ)徹氏(59)に対し、刺客を放ったが、大きく引き離された。「今までの名簿はすべて民主党側にある」と未来陣営は嘆くが、黄川田陣営は「有権者が望んでいるのは政局ではなく復興。黄川田は家族4人を失い自宅も流された。被災者の気持ちを代弁できるのはこちらだ」と分析する。

AERA 2012年12月24日号