「小5自転車衝突で女性寝たきり、母親に9500万円賠償命令」——。神戸地裁が7月4日に出した判決だ。

 その事故は発生当初、新聞記事にもならなかった。2008年9月22日の夜、当時小学5年生だった少年は、マウンテンバイクに乗り、神戸市北区の住宅街の坂道を時速20~30キロのスピードで下っていた。そのとき、知人の散歩に付き添って歩いていた女性(67)に衝突。女性ははずみで約2メートル飛ばされて頭を強く打ち、脳挫傷の重傷。5年後の現在も意識不明で遅延性意識障害(いわゆる植物状態)が続いている。

 被害者側は介護費用や逸失利益など約1億500万円の支払いを求めて裁判を起こした。法廷で少年の母親側は、「危険な走行はしておらず、日ごろから指導もしていた」と主張したが、田中智子裁判官は「少年の前方不注意が事故の原因」と認定。さらに、少年がヘルメットを着用していなかったことなどから、「事故を起こさないように子どもに十分な指導をしていなかった」として、少年の母親(40)に対し、計9500万円(被害者に3500万円、すでに傷害保険金を被害者に支払っていた損保会社に6000万円)を賠償するよう命じた。

「子どもが起こした事故なのに厳しすぎる」「自転車事故で9500万円は高すぎるのでは?」

 この判決をとりあげたテレビ番組のコメンテーターの発言やネット上の書き込みには、そんな意見も散見された。

 しかし、自転車は道路交通法上、れっきとした「軽車両」だ。たとえ子どもであっても、公道を走る以上は「車両」の運転者として交通ルールを守らなければならないし、被害者側からすれば、加害者が子どもであろうと大人であろうと、損害に見合った賠償を受けるのは当然なのだ。

 自転車はどちらかといえば「交通弱者」のイメージが強い。しかし実際に、交通ルールを無視した運転で「加害者」となる深刻な事故も多発している。12年に発生した自転車乗車中の交通事故件数は13万2048件。交通事故全体の約2割にのぼる。そのうち、自転車が加害者になったケースは2万891件だった。

 過失割合は定かではないが、自転車対歩行者の事故は2625件(うち死亡事故5件)、自転車対二輪車の事故は7854件(うち死亡事故14件)、自転車対自転車の事故は3260件発生している。

 警察庁の統計によると、加害事故を起こした自転車の法令違反の内訳は、(1)安全運転義務違反(安全不確認等)(2)一時不停止(3)信号無視、の順となっている。

 ちなみに、自転車は車道を左側通行するのが原則で、「自転車通行可」の標識などが出ているところをのぞき、歩道はあくまでも歩行者優先。だが実際には、歩道を走る自転車は日常の風景だ。

 もちろん、自転車での飲酒運転も道路交通法で禁止されている。自転車といえども、法律を無視して事故を起こした運転者は「重過失致死傷罪」に問われ、懲役や罰金などの刑事罰を受けることもある。

 さらに、加害事故を起こすと、冒頭の判決のように被害者側から損害賠償を請求される。つまり、クルマの事故と同じく、民事上の責任もとらなければならないのだ。

週刊朝日  2013年7月26日号