安倍政権が掲げる成長戦略に「原子力発電の活用」が盛り込まれた。生物学者である池田清彦・早稲田大学教授は、この問題について警鐘を鳴らす。

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 安倍政権は原発の再稼働を最大限推進するつもりのようだ。何と愚かなことをと思う。先日も原発再稼働を推進したい自治体から、よりによって私の所に、原子力の安全性について講演してくれないかとの依頼が来てあきれた。世間の人の考えていることは私には理解できない。「電力の安定供給は成長戦略に欠かせない」といったもっともらしい理由をつけているが、電力は現時点でも十分に足りている。本当の理由は原発をできるだけ早く再稼働させないと電力会社の赤字が嵩むからだ。

 原発は始末の悪い発電装置で、稼働しなくても維持に相当の金がかかる。経済産業省の試算によれば、すべての原発が停止したとしても、その維持費に年間1.2兆円かかるという。一方、稼働させるのにかかるコストは1.7兆円でさして変わらない。原発が再稼働してどれくらいの電力が作れるかというと、電力の総売上高は15.5兆円、3.11の原発事故以前の日本の電力供給の原発依存度は約24%だから、原発が事故以前のように稼働すると、単純計算で原発から作られる電力は売上高で3.7兆円となる。経費が1.7兆円なので、2兆円の儲けである。停止していれば1.2兆円の持ち出しだから、稼働と停止の差は3.2兆円である。これでは電力会社が原発を再稼働したいのも無理はない。

 もちろん、この赤字は電力料金に反映されるから、安い電力を買いたければ消費者も原発再稼働に協力しろというのが安倍政権の言い分なのであろう。確かに未来永劫事故が起こらず、放射性廃棄物の処分もスムースに進むというのであれば、この理屈は正しい。しかし現実には、地震の巣のような日本列島で再び大きな原発事故が起きない保証は全くなく、原発を稼働させれば溜まる一方の放射性廃棄物の処分については、その目処さえ立っていない。あと100年といわず50年のうちには、日本列島が放射性物質で汚染まみれになる恐れが強いと思った方がよい。

 原発再稼働とは、たかだか9社の電力会社の赤字を救うために、未来の日本人を危険に曝す暴挙に他ならない。福島の事故を直視すれば明らかなように、高濃度の放射性物質で汚染された土地は当分利用できない。安倍政権は国土強靭化などと言っているが、再稼働は国土荒廃化への第一歩である。アベノミクスに騙されてはいけない。所詮相場はうたかたの夢ではないか。放射性物質はうたかたの夢のようには消えず、長い悪魔のようにいつまでも残るのである。

週刊朝日 2013年6月28日号