1996年1月13日、高速増殖原型炉「もんじゅ」の事故隠蔽問題について調査を担当していた、西村成生(しげお)氏(当時49)が変死体となって発見された。動燃(動力炉・核燃料開発事業団=現在の日本原子力研究開発機構)の総務部次長だった西村氏は生前、動燃のさまざまな“暗部”に触れざるを得ない立場にあった。その西村氏が残した膨大な資料、「西村ファイル」をひもとくと、原発や関連施設をめぐる反対派の市民運動家へ露骨な“監視”の様子が記されていた。ジャーナリストの今西憲之氏と本誌取材班が明らかにする。

*  *  *

 1988年、岡山県と鳥取県の県境にあるウラン鉱山・人形峠で、「ウラン残土問題」をめぐって住民と動燃の対立が起きた。これに関する資料では、動燃が住民について詳細に調べ上げていたことが分かる。住民の名前、生年月日、職業のほか、動燃に対する理解、住民に対する「工作方法」などについても記載があった。調査は家族関係にも及び、多くの世帯で家族の勤務先や家庭事情まで詳細に書かれていた。

 動燃は、都会から離れた小さな集落ならではの濃密な人間関係を、巧妙に「工作」に利用しようとしていた。たとえば、地元の有力地権者Aさんの項目には、〈本人は養子のため、養母、妻の意見に従うようである。方面(かたも)地区内の親しい知人、親せき等を説得し理解を求めたい〉

 農家Bさんについては、〈本家の○○を使い説得〉などと記載されている。ほかを見ても、「工作」方法はいよいよ具体的だ。

〈地元では、○○と本家分家の関係にある ○○町議→○○→本人の説得〉(県職員Cさん)〈本人は養子のため、実権は養母にある。区内の動きに従うことが多く、婦人会、親せき等の利用も考えられる〉(教員Dさん)

 地域独特の本家、分家や養子縁組と言った関係や地区の婦人会などを利用し、「工作」に使おうとしていたのだ。資料には、頻繁に「町議」の名前が出てくる。東郷町議だった前田勝美氏(現・湯梨浜町議)のことだ。本人がこう語る。

「その時の動燃人形峠事業所の所長が私の親類だった関係で、地元住民の説得を頼まれました」

 実際、その依頼で住民の説得をしたという。動燃は、政治家まで動員して“懐柔”に動いていたのである。

週刊朝日 2013年3月15日号