岩手県陸前高田市の沿岸、高田松原にある「奇跡の一本松」が2月下旬、モニュメントとして蘇る。しかし住民たちの間では、賛否両論が渦巻いている。

 陸前高田市に生まれ育ち、現在も仮設住宅暮らしを強いられている佐藤テル子さん(73)が、震災直後をふり返る。

「何もかもが流された街の青い空に、力強い1本の松が伸びていたのです。健気にがんばっている一本松を眺めていると、なぜか涙が止まりませんでした」

 佐藤さんの長男(当時48)は、近所のお年寄りを避難させようとした矢先、押し寄せてきた大津波に襲われて亡くなった。40年以上前、毎年のように通った海水浴場。朝夕にはよく散歩もした松林。それが高田松原だった。

 一本松はいつしか、人々の心のよりどころとなり、復興のシンボルとなる。しかし、地盤沈下で海水に浸かり、松は昨年5月に枯死が確認された。惜しむ声に対し市議会は昨年7月、永久保存を可決。芯をくり抜き、防腐処理を施すなど、いま専門的な作業が進行中である。

 だが、必ずしも好意的な意見ばかりではない。

「保存費用が1億5千万円と聞いて驚いた。それほどのお金があるなら、高台移転など目に見える復興にあててほしい」

 仮設住宅に住む40代の男性はこう憤りを隠さない。

「大金投入には絶対反対。まだ瓦礫処理も済んでいないのに」

 といった反対意見も多数寄せられた。

「最優先の課題は市民の生活立て直し。そのため土地区画整備や集団移転などの事業に取り組んでいます。一本松の保存には様々な意見があることから、税金を投入せず募金によって賄います」(市都市計画課)

 その募金は、1月16日現在で7480万円と目標の半分にも届かない。不足分は復興のために寄せられた寄付による基金から借り入れ、募金が集まり次第返済するという。市は「募金は順調に集まっている」と説明するが、「集まらなかった場合どうするのか」との疑問も投げかけられている。

 市では海外のスター70人にも賛同を呼びかけているが、俳優のジョン・トラボルタら2人からメッセージが届いたのみで、肩透かしを食らった格好だ。

AERA 2013年2月11日号