ストーカー規制法ができて10年以上が過ぎても、各地でストーカーによる被害が続発している。

 ストーカー被害に遭ったとき、相談先の筆頭に挙げられるのが警察だ。警察の不適切な対応もあって埼玉県の女子大学生が殺害された「桶川ストーカー殺人事件」(1999年)をきっかけに、ストーカー規制法が2000年に施行。警察は、つきまといなどをやめるよう「警告」を出すことができる。従わない場合は、公安委員会の「禁止命令」を経て、ストーカーは懲役や罰金の刑を受ける。

 だが、救いを求めた警察に、傷口を広げられる人もいる。

「あんたのは桶川じゃないんだよ」

 関東地方のアパートで一人暮らしをしていた智子さんは、駆けつけた警察官にそんな言葉を浴びせられた。7年前に別れた元交際相手の男性が、玄関ドア前の通路でギターをかき鳴らし、「幸せになろうよ」などと声を張り上げていたことから、警察に通報したのだった。

「私の居場所は知らないはずだったので、失神するかと思いました」

 近くのモスバーガーで向き合うと、男性は「やり直そう」と訴えてきた。

「無理です」

 智子さんがきっぱり言うと、男性は「一緒に死のう」と言い出した。恐ろしくなって走って店を出ると、男性は追いかけてきた。イトーヨーカドーのトイレに駆け込み、110番通報した。警察官は男性を連れて行ったが、すぐに解放されたらしく、夜に再び智子さんのアパートにやってきた。呼び鈴やノックを無視していると、ドアの郵便投入口から、「やり直そう」「明日も来る」などとチラシの裏に書いた「手紙」を入れてきた。その夜はそれで収まったが、翌朝、ギターを抱えてまた現れたのだった。

「『あんたのは桶川じゃない』と言った年配の男性警官は、『それほど緊迫していない』と言おうとしたのだと思います。確かに、別れた彼は暴力をふるうことはありませんでした。でも『死のう』と言われ、私の中では緊迫していた。この警官は前日に対応してくれたのとは別の人で、ストーカー規制法についても詳しくなかった。事情もよく知らないのに、たいしたことないようなことを言われ、私もつい『すみません』と謝ってしまった。でも、あまりにぞんざいな扱いに落ち込みました」(文中名前のみは仮名)

AERA 2012年10月29日号