福島第一原発の炉心で働いていた元東京電力社員がいる。彼が見てきた東電とは、どういう会社だったのか。2000年に退職するまで約17年間、東京電力の社員だった、木村俊雄さん(48)に話をきいた。

「社内は、自分に課された仕事をつつがなくやることだけを考える人がほとんどでした。高サラリー・高待遇が約束されていて、そつなく仕事をこなしていれば30代前半で家も建てられる。自分が担当する仕事のパーツのことしか考えないから、全体像が見えず、もし津波が起きたらなんてことをわざわざ心配もしない。それに、社内で出世できる人は、東大卒のエリートだけと決まっていたから、向上心を持つ必要もない。会社に都合よく、向上心が失せる仕組みになっていたと思います」

 木村さんが退職を決意したのも、この社内体質に嫌気がさしたことが大きい。木村さんは、今回の原発事故の責任を取って退任した武藤栄元副社長の直属で働いていたことがある。武藤さんからの指示で、燃料交換システムを安全に効率化するシステム作りを進めていた。武藤さんが本店へ異動になった後も、特命のような形でシステム作りは続いたが、後任の上司は面白くなかったのだろう。その上司にシステムについて報告すると、こう言われた。

「いくらお前がいい仕事をしようが、お前なんか偉くなれないんだ」

 貴重な人生をこの会社で費やしたくない、と心底思った。

AERA 2012年10月15日号