東京大学の記者会見で配布された資料。東大の博士号取り消しは3件目という(撮影/写真部・加藤夏子)
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東京大学の記者会見で配布された資料。東大の博士号取り消しは3件目という(撮影/写真部・加藤夏子)

 大規模な研究不正を調査していた東京大学は、3人の博士号を取り消した。しかし、なぜ不正が起きたのか、原因究明の甘さは否めない。

 世間はSTAP細胞論文問題に注目したが、日本のバイオ研究に投げかけた問題は、こちらがより深刻かもしれない。構内の桜の花がほころび始めた3月27日、東京大学は、分子細胞生物学研究所の加藤茂明元教授らのグループによる論文不正にかかわった3人に授与した博士号を取り消したと発表した。

 加藤元教授らの論文不正を疑う申し立てを東大が受理したのは、2012年1月。当初、165本の論文が調査の対象となった。10年以上にわたって、英科学誌ネイチャーや米専門誌セルといった著名な雑誌に掲載された論文を含み、関係する著者は100人以上に及んだ。

 2年以上の調査を終えて、東大が最終報告を発表したのは昨年12月。論文33本に捏造や改ざんがあり、11人が関与したと認定した。そのうち6人が、不正と認められた論文で博士号を授与されており、取り消すかどうか検討されてきた。

 その結果、捏造・改ざんを自ら行い、改ざん部分が論文全体の結論へも影響すると判断された3人の博士号が取り消された。加藤元教授の研究室で05~07年に博士号を取得した元大学院生の金美善氏、藤木亮次氏と、企業研究者の古谷崇氏だ。

 博士号は、研究者にとって免許のようなもの。それを持っていることが雇用の前提になっていることも多い。不正で取り消されたとなれば、非常に重い意味をもつ。

 それにしても、なぜ、このような大規模な問題が起こったのか。調査報告では、「著名な学術誌への論文掲載を過度に重視」「杜撰(ずさん)なデータ確認」「実施困難なスケジュール設定」「強圧的な指示」などがあったと指摘された。しかし、詳細は明らかにならなかった。加藤氏は強制的な態度はなかったと、反論コメントを発表している。

 大学調査の限界が明らかになった。国立遺伝学研究所の小原雄治特任教授は、「調査報告書を読んでも、なぜ不正があったのか、原因と経過がわからず、本当の意味での再発防止策が立てられない」と指摘する。浜田純一東大総長は退任前の会見でこう語った。

「100人にのぼる関係者にヒアリングして、ていねいな調査をした。時間がかかったのはやむをえない。裁判になったときに名誉毀損にならないように、証拠がないことは推測では書けない。突っ込み不足、物足りない面はあるかもしれないが、ギリギリのところで書いた」

AERA 2015年4月6日号より抜粋