1万円余りだった日経平均株価は、1万5千円台に上がり、ひと頃に比べ景況感は確かに上向いた。だが、株式投資をしていない多くの人にとっては、株高の恩恵は無関係だ。

 東日本大震災の復興需要と2020年東京五輪の“特需”がある建設業などでは、人手が足りなくなるほど雇用情勢も改善した。これは、安倍政権がアベノミクスの「第2の矢」である「機動的な財政出動」によって、建設予算をばらまいた効果でもある。増え続ける社会保障費に対応するための消費増税のはずが、予算のバラマキによって国家財政は悪化。安倍政権の経済政策は、多くの矛盾をはらんでいるのだ。

 景気の減速を示す経済指標が相次ぐなかで、予定通りに来年10月に10%への消費増税に踏み切れば、景気にいま以上の逆風が吹くことになる。

●安定成長のかぎ 規制緩和に壁

 安倍政権は、アベノミクスの第1、第2の矢による「カンフル剤」によって元気な間に、「第3の矢」である「成長戦略」を進め、安定した経済成長をはかるつもりだ。

 三菱UFJモルガン・スタンレー証券の嶋中雄二・景気循環研究所長は、

「働き手が減るなか、外国人労働者の導入や女性、高齢者、ロボットの活用といった政策が成長戦略のカギになる」

 とみる。新産業として有望視される医療、農業、教育といった分野の規制緩和を進めることも、日本再生の条件だ。しかし、規制緩和は、既得権益者たちによる「総論賛成、各論反対」の中で思うように進まない。環太平洋経済連携協定(TPP)が、いい例だ。

 景気は良くない。それなのに、政府・日銀は現実を直視しようとしない。

 力強さには欠けるが、日本経済はこれからしばらく回復軌道を何とか保ちそうだ。「駆け込み需要」の反動はそろそろ消え、引き続き第1、第2の矢が景気を強力に下支えするだろう。東京五輪に向けた大規模投資の本格化というプラス材料も大きい。米国を筆頭に海外経済もしっかりしている──。

 そんな楽観論に冒頭の山口さんは警鐘を鳴らす。

「いまはまだ海外投資家に『日本売り』の兆しはないが、公共事業と金融緩和だけに頼っていたら日本の未来はない」

AERA  2014年9月22日号