●8月の新車販売 前年比9%減

 実は厚生労働省の統計によると、実質的な賃金水準は、7月まで13カ月続けて前年同月を下回っている。これでは景気回復を引っ張る消費が盛り上がるはずもない。

「消費者の購買力が下がっているのは間違いない」(三井住友アセットマネジメントの宅森昭吉チーフエコノミスト)

 という状況では、景気が冷え込むのは当たり前だ。

 国内の新車販売は、消費増税前には「駆け込み購入」によって盛り上がったが、4、5月はその反動で前年比マイナスが続いた。ただ、6月にはプラスに転じ、安倍政権や経済専門家、大手メディアの間には、楽観論が広がった。ところが、7月はマイナス2.5%、8月に至ってはマイナス9.1%に落ち込んだ。

 日本経済のエンジン役を担ってきた輸出と設備投資も盛り上がらない。

 円安が進むと、外国製品に対する競争力が高まるから、輸出が増える──というのが、日本の輸出産業の“必勝パターン”だった。ところが、安倍政権になって円安傾向が続いているのに、貿易赤字が7月まで、かれこれ25カ月も続いている。

 国内の設備投資の動きも鈍く、4~6月期の設備投資額の伸びは、前年同期比3%と低調だった。BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは、こう指摘する。

「多くの企業が海外生産拠点の拡充に主眼を置き、国内の生産設備の圧縮を続けている」

●予算バラマキで景気を下支え

 超円高に苦しめられてきた企業は、海外での現地生産を進めてきた。日本の人口が減り国内市場が縮んでいくなか、グローバル企業は伸び盛りの国での現地生産に力を入れる。為替相場の変動に対して企業が抵抗力を強めた結果、日本経済は円安になっても輸出が増えない“構造”になってしまったのだ。

 いまの円安は、安倍政権と日銀による政策の影響が大きい。安倍首相の意向をくむ日銀の黒田東彦総裁は、アベノミクスの「第1の矢」である「大胆な金融緩和」に突き進んだ。大量のお金を市場に流し込み、円安と株高に誘導した。

 安倍政権の発足前に1ドル=84円台だった為替相場は、今月上旬に106円台をつけた。この円安と消費増税があいまって、物価が上がって長年の「デフレ」からは脱却したようにみえるが、物価上昇は賃金上昇を打ち消してしまっている。

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