理化学研究所の小保方晴子氏や作曲家の佐村河内守氏など、一躍時の人となった人物が大きく非難されている今、作家の室井佑月氏は、世間に対してこのような指摘をする。

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 STAP細胞の小保方さんが、研究論文を捏造したと叩かれまくっている。彼女は叩かれまくる前、ノーベル賞確実、リケ女の星、などと様々なメディアで持ち上げられていた。

 彼女の話題の前は、ゴーストを使って曲を作っていた佐村河内氏が、過剰に持ち上げられ過剰に落とされたっけ。

 耳が聞こえないフリをして障害者手帳を取ったのは悪いことだが、それをウリにしたのは彼だけの責任か。そういう美談を使って商売をする側にも、作られた美談に簡単に喜んでしまう我々にも、無意識の差別意識があったかも。つまり、程度は違えども共犯ね。

 小保方さんにしても、所属する研究所はさらなる研究費を国に付けてもらいたい、国は消費税が上がる前にノーベル賞間近と煽って国威発揚したい、穿(うが)っていえば、国は専業主婦の配偶者控除を減らしたいなんて考えもあって、だとしたら働く女の代表みたいな彼女の存在はめちゃめちゃ都合がよかった。だから、勝手にスターに祭り上げたわけで、彼女がメディアに出て目立ちたいといったわけじゃないだろう。

 彼女を取り巻くいろいろな思惑に、まだ未熟な研究者は、急かされ、惑わされてしまった。彼女は筆頭著者だったが、研究はチームでやる。厳格なチェック機能が働かなかったのは、そのチームも、いろんな思惑に惑わされていたのかもしれない。

 じつは、いろんな思惑を持つ場所がいちばん叩かれるべき存在なのだとあたしは思う。そこに踊らされてしまう我々は、いつも騙される側、そして共犯になってしまう。

 たとえば、19日付の日刊ゲンダイに書かれていた、「厚生労働省が職業訓練事業で天下り団体(高齢・障害・求職者雇用支援機構=JEED)に不正入札させた疑いが浮上し、経済産業省は被災地への雇用創出事業を“ペーパーカンパニー”(一般社団法人地域デザインオフィス)に落札させていた」という記事。

 たとえば、21日付の東京新聞に書かれていた、「議員・公務員給与カット終了」という記事。国民には4月から8%に上がる消費税だけでなく復興増税の負担もより重くなるのに、政治の側が復興財源に充てるためにやった、国会議員や国家公務員の給与の削減は、たった2年ほどで終了されるという。

 片方は国民の税金にたかる悪い輩、片方は自分たちさえよければいいという狡い輩。本来なら、こういう者がメディアによって国民に袋叩きにされるべきだ。

 しかし、袋叩きにあうのは、決まってそれほど力の無い個人。ちょっと成功していて、世間の妬みや嫉みを受けやすい人。

「アベノミクス」で世の中のみんなが良くなると国民に信じ込ませ、「やっぱり駄目じゃね?」、そうじわじわと不安や不満の声があがってくると、巷にいけにえが差し出される。この人なら好きにしていいよ、と。

 この流れがほんとうに嫌。

週刊朝日  2014年4月11日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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