「乳児健診をやっているところには電車で行くしかないし、午前中だけなのでどうしてもラッシュ時に移動せざるを得ない。腰痛だから抱っこ移動も難しいし、荷物だってたくさんある。そういう事情をわかっているんでしょうか」

 一時住んでいたニューヨークでは、通行人がベビーカーを運ぶのを手伝うのが当たり前の風景だったが、日本では階段を前にベビーカーの親が困っていても、そこに手を差し伸べる人はあまりいない。

 東京メトロ丸ノ内線方南町駅(杉並区)で昨年から「ベビーカーおろすんジャー」を名乗り、駅での上げ下ろしを手伝っている男性(28)は、活動を始めて困っている人が非常に多いことにようやく「気づいた」と語る。

「自分がこういう活動をすることで、方南町ではベビーカーを持つ人が増えたみたいなんですが、そのほかの地域ではまだまだ。もっと自分みたいな人が増えてくれるといいのですが」

 電車内で授乳をしたという、自分自身の経験から授乳服ブランド「モーハウス」を立ち上げた光畑由佳さんは、「泣く子どもにいらいらする周りの気持ちも、子どもを乗り物に乗せざるを得ない親の気持ちも両方わかる」と言う。ただ、岡山県倉敷市の商店街に育ち、地域社会に子どもがいるのが当たり前の環境で過ごしてきた光畑さんは、子連れ専用車両やスペースなどを設けて両者を切り離す流れには違和感を覚える。モーハウスでは創業当初から、スタッフが子どもを連れて働く子連れ出勤を実践している。

「乳児のうちから社会に溶け込ませることで、お互いの存在に慣れることができる。子どもも『場を読む』力が身に着くと思います」

※AERA 2014年2月3日号より抜粋