ICT(情報通信技術)教育を推進する佐賀県。来春の県立高校全新入生約6800人に、タブレット型端末を購入させると決めた。古川康知事がトップダウンで押し切ったこの事業を巡り、波紋が広がっている。

 佐賀の教育現場では早くも悲鳴が上がっている。県立高校の教師が嘆く。

「2012年度にテスト導入した高校でも、賛成の先生はほとんどいなかった。若手の先生はソフトの開発に忙殺されたり、新形態の授業の準備に時間が取られたりで、大変な思いをしたそうです」

 タブレットには学習ソフトが組み込まれ、キーボードを含むセットの予定価格は7万~8万円。県から一部補助が出るとはいえ、負担は一人5万円にもなるのだ。これまで県立高校の入学時にかかった費用は、制服や教材費など約10万円。それが15万円に跳ね上がる。

 佐賀県多久市議会では10月21日、「県立高校のタブレット端末必須購入に反対する意見書」を全会一致で採択した。意見書を出した野北悟議員は言う。

「無線LANの設置など、自宅で新たな費用がかかる可能性もあるのに、保護者への説明が不十分です。ICT教育推進はいい。しかし、県は全国的な注目を集めるハードの導入ばかり進めていて、トラブル時のサポート体制など、人間の力が必要な部分の支援が遅れています」

 実際に一部の高校で実施した体験講座ではネットワーク回線がパンクし、対応に苦慮したという。それでも古川知事は強気だ。多久市議会で意見書が採択された21日のブログでは、導入反対派を狩猟民族から農耕民族に変われなかった“時代遅れの縄文人”にたとえ、

「ICT教育の現場には、農耕をみつめる縄文人がいては困る」

 と批判した。県の教育委員会教育情報化推進室は、

「導入される端末は、高校卒業後も大学などで使用できるものです。家計が厳しい家庭には、無利子の貸し付けや奨学金の拡大を検討しています」

 と理解を求める。

 だが、IT技術の問題に詳しい落合洋司弁護士はこう提言する。

「問題は、5万円も負担させて何をやるのかということ。タブレット型端末は2万円台でも買えます。安い端末ではできない授業の中身について、佐賀県はきちんと説明すべきです」

 道具ありきなら、本末転倒と言わざるをえない。

週刊朝日  2013年11月15日号