埼玉県久喜市「らき☆すた」ファンは、巡礼行為を通じて鷲宮に興味をもち、地域との関係性を築いた。「彼らは自身が住む地域より、鷲宮のことを知っている。結果として、本来ゆかりのない鷲宮が『ふるさと』化したのでは」(北海道大学・山村高淑教授)(撮影/写真部・関口達朗)
埼玉県久喜市「らき☆すた」ファンは、巡礼行為を通じて鷲宮に興味をもち、地域との関係性を築いた。「彼らは自身が住む地域より、鷲宮のことを知っている。結果として、本来ゆかりのない鷲宮が『ふるさと』化したのでは」(北海道大学・山村高淑教授)(撮影/写真部・関口達朗)
キャラクターを描いた絵馬(撮影/写真部・関口達朗)
キャラクターを描いた絵馬(撮影/写真部・関口達朗)
アニメのステッカーを貼ったイタい車、通称「痛車(イタシャ)」(撮影/写真部・関口達朗)
アニメのステッカーを貼ったイタい車、通称「痛車(イタシャ)」(撮影/写真部・関口達朗)
「痛自転車」も(撮影/写真部・関口達朗)
「痛自転車」も(撮影/写真部・関口達朗)

 漫画には、地域に人を呼び込む「特別なチカラ」があるのか。多くの漫画家を輩出している高知県や水木しげるロードで知られる鳥取県では、地域住民が漫画の力で町おこしを成功させた。

 一方で来訪者がまちづくりの主役になったケースもある。漫画「らき☆すた」の聖地巡礼先になった埼玉県久喜市鷲宮(旧北葛飾郡鷲宮町)だ。6年前、鷲宮神社がアニメのオープニング映像に出てくるということで、アニメファンが集まり始めた。

 2007年4月のアニメの放送開始で、来訪者は増えた。その数カ月後に発売されたアニメ雑誌で、作品の舞台が鷲宮であると紹介されて以降、勢いは加速。神社では、キャラクターを描いた絵馬が奉納され、駐車場にはアニメのステッカーを貼ったイタい車、通称「痛車(イタシャ)」が並んだ。

 しかし地元住民はファンに好意的だった。商工会がヒアリングしたところ、むしろ「お行儀がよい」という声も。版元の協力も得て、地元で有名な桐をつかい、10種類のキャラクターストラップを製造、地元商店で販売してみた。発売当日、千個のストラップは30分で売り切れ、後日に追加販売した3千個も1時間で完売した。翌08年の正月、鷲宮神社の参拝者は前年比17万人増の30万人に上った。

 地元商店も、彼らを受け入れた。ファンの溜まり場になったスナックは、彼らの絵のセンスに驚き、外壁いっぱいにイラストを描いてもらった。見よう見まねで描いたイラストを店頭に貼り、ファンを迎える店もあった。ファンを歓迎する姿勢のみならず、作品を大切にする心も伝わった。

 それを感じてか、ファンのマナーは極めて良い。街に空き缶が落ちていたら、自分のゴミでなくても拾って帰る。アニメ放映が終わったあとも巡礼が続く理由について、あるファンはこう言う。「鷲宮は、第2のふるさと」

 鷲宮の経済波及効果は20億円に上るとの見方もある。事実、多くの研究者は地域における漫画の効果として、経済効果や交流人口増を挙げる。ただ、北海道大学の山村高淑教授は「それを目指してライセンスビジネスに陥ると、本当のファンを裏切ることになる」と指摘。地元商工会の吉岡憲一さんは、こう言う。

「町おこしをしようと思ったことはない。ファンが本音で語れる町づくりを考えただけ」

AERA 2013年10月28日号より抜粋