業務改善命令が出されたみずほ銀行の内幸町本部ビル(東京都千代田区)。旧第一勧業銀行本店で、過去にも黒い勢力がつきまとった(撮影/今村拓馬)
業務改善命令が出されたみずほ銀行の内幸町本部ビル(東京都千代田区)。旧第一勧業銀行本店で、過去にも黒い勢力がつきまとった(撮影/今村拓馬)

 ドラマ「半沢直樹」ではメガバンクの内部事情が描かれたが、実際の大手銀行にもドラマさながらの裏事情があるようだ。9月27日、金融庁の検査によってみずほ銀行が暴力団融資を隠していたことが発覚した。その背景には、メガバンクならではの事情があった。

 金融庁検査で見つかった「反社会的勢力への融資」は230件、2億900万円あった。グループ企業である信販会社オリエントコーポレーション(通称オリコ)の提携ローンで起きた。

 自動車を分割払いで買う人は信販の客だ。オリコが大丈夫と判断すれば車の代金を立て替える。客はみずほ銀行からローンを借りてオリコに返済。融資が焦げ付いたら、客に代わってオリコが弁済する。みずほにとってはリスクなしのおいしい取引、無審査で融資していた。

 うまい話には落とし穴がある。反社会的勢力、すなわち暴力団やその仲間が「提携ローン」に群がった。同業者は、ガードが甘いために狙われたとみる。遅まきながら2010年9月から、みずほは提携ローンの審査を開始。同年12月に「暴力団にカネを貸していた」と気付いた。

「情報は新田信行執行役員、倉中伸常務を経て上野徹郎代表取締役副頭取まで上がったが、取締役会や経営会議など情報を共有する会議にかけられなかった」(みずほ銀行広報室、肩書は当時)

 西堀利頭取(当時)と並び代表権を持つナンバー2が知っていて、「担当役員止まり」と言うのはヘンである。「銀行ぐるみの隠蔽(いんぺい)」ではないのか。西堀氏は本当に知らなかったのだろうか。統括会社であるみずほフィナンシャルグループの社長だった佐藤康博氏(現みずほ銀行頭取)はどうなのか。

「隠蔽」を突き止めたのは、12年12月に始まった金融庁検査だ。検査官が反社会的勢力への融資リストの提出を求めた。

 中古車販売の提携ローンは、一件50万~100万円ほどの少額融資。オリコから送られてくる書類は月に数万件ある。目利きの検査官でもその中から「暴力団絡み」を探し出すのは、砂漠で針を探すような作業だ。

「ファイルがあることを検査官は知っていたのではないか」

 銀行の事情を知る人は言う。人気テレビドラマ「半沢直樹」では、銀行が隠した書類を検査官が「内部通報」で探すシーンがある。実際にメガバンクでしばしば起きていることだ。正義感、派閥抗争、動機はいろいろだが、「通報」は検査官の有力な手掛かりになっている。

「隠したわけではないので求めに応じてリストを提出した」(広報)。2年余り封印されていた暴力団融資が表に出た瞬間だった。業務改善命令が出る9カ月も前のことである。行内は金融庁に誰が通報したのかという話で持ちきりだ。

 みずほグループは02年、第一勧業銀行、富士銀行、日本興業銀行の3行が統合して生まれた。オリコは旧第一勧銀の取引先で、社長も送っている。隠蔽の責任者である副頭取も第一勧銀出身。他行出身の行員が「不正を正す行動」に出たという見方がある。

AERA 2013年10月14日号