2020年の夏季オリンピック開催予定地の決定が目前に迫り、国が東京招致に力を入れる中、作家の室井佑月氏は「政府はもっとやることが他にあるのではないか」と苦言を呈している。

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 有名歌手のお母さんの自殺と、福島第一原発の汚染水の問題、おなじ調子でニュースで取り上げるのってどうなのか?

 まだ若い歌手は、お母さんの死をこんなふうに取り上げられ、切ないだろう。可哀想に。まるで汚染水問題の目くらましに、このニュースが使われたような気がしたのはあたしだけだろうか。

 福島第一原発では、毎日700トンの汚染水が発生し、300トンは海に流れ、400トンはタンクなどに貯蔵している。最近では、貯蔵しているタンクからも汚染水が約300トン漏れていた。

 でもって、漏れが見つかった貯蔵タンクの耐用年数は5年ともいわれている。

 はぁ~、事故の収束に何十年、何百年かかるかわからないのに、なぜ耐用年数5年のタンクを使う? 福島第一原発の写真を見ればわかるが、とてつもない数のタンクが並んでいる。あれを入れ替えるのか?

 このままだと、使えなくなった放射性廃棄物の古いタンクの置き場にも困るんじゃないか。素人のあたしでもそのくらいは考える。もちろん、この国の首相である安倍さんはとっくに答えを出しているよね。ゴルフ三昧の、余裕の長い夏休みを取ったぐらいなんだから。

 んでもって、安倍さんは夏休みが終わったあとの8月23日に都庁で行われた「2020年東京オリンピック・パラリンピック招致出陣式」に出席。「私もブエノスアイレス(IOC総会が行われる場所)に行きます!」と発言した。汚染水ダダ漏れの原発をそのままにして行くんかい? なんでも、東京招致の強みは、45億ドル(約4400億円)の潤沢な開催準備金らしい。

 そんな金があるならなぁ、と思うのはあたしだけ?

 文部科学省の発表では、オリンピックなど国際スポーツ大会の日本での開催について、「好ましい」という人が92%なんだとか。そういう人たちは、夢の東京オリンピックにいくら金がかかって、その裏で金をケチってないがしろにされている物事について知らないのだろうか。

 8月23日付の東京新聞によれば、「東京電力福島第一原発事故を受けた『原発事故子ども・被災者支援法』の成立から一年以上たつのに、国が基本方針を策定しないのは違法だとして、福島県などの住民や自主避難者計19人が22日、国を相手取り、基本方針の早期策定などを求めて東京地裁に提訴した」。

 原告一人につき1円の損害賠償請求。彼らは、国が放射線の安全基準値をはっきり示せ、とそれだけをいっている。子どもの安全と健康をもっと真面目に考えろと。

 けど、国ははっきりさせたくないのよね。支援にどれだけお金がかかるかわからないからだろう。国の金は無尽蔵にあるわけじゃない。文科省はオリンピック招致と一緒に、この問題についてどう思うか、ぜひ国民に聞いてみてよ。

週刊朝日  2013年9月13日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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