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増える空き家 管理体制が崩れスラム化問題に

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週刊朝日#住宅

 アベノミクスで盛り上がる不動産市場。マンション発売戸数は前年を上回るペースで、消費者は買い時とばかりに殺到する。だがその裏で日本列島を覆い尽くす勢いで増えているのが、「危険な空き家」だ。空き家といえば一戸建てのイメージが強いが、日本全国に広がる756万戸の空き家のうち462万戸、実に6割強がマンションを中心とする共同住宅なのだ。

 前橋市内の中心街に、築35年の居住者ゼロのマンションがある。6階建てで、壁には朽ちたパチンコのネオン看板が残されており、1階のガラス扉の前には古タイヤが転がっている。近くの不動産会社の社長によると、ある男性が1、2階をパチンコ屋、4階以上を分譲マンションとして建てたが、すぐにトラブルが持ち上がったという。

「『品がない』というマンション購入者たちの反対を押し切って、その男が壁にパチンコ屋のネオンの看板を付けてしまった。すると買った人がだんだん出ていき、賃貸の部屋にも人が入らなくなった。商品価値はガタ落ちし、空っぽになった後、ガラの悪い連中のたまり場になったこともあった」

 近所に住む女性は「誰が住みついているかわからないから前を通るとき怖い。警察に『見回りをしてください』と頼んでいます」と話す。

 不安は治安だけではない。ある不動産業者は、「台風のときに1階のうどん屋の看板が落ちたし、パチンコ屋の看板も駐車場に落下した。外壁もそのうちはがれて落ちてくるだろう。人通りがあるところなので、通行人に当たるかもしれない」と心配する。都市・住宅問題の専門家で、日本マンション学会理事の松本恭治氏はこう語る。

「地方のマンションでは、空き家率が半分を超すものも少なくないです。空き家率が高ければ管理体制は崩れやすくなり、崩れたときにマンションはスラム化する。特に地方の投資型マンションが危ない。一般的にそのマンションに居住していないオーナーは管理意識が低く、遠方に住んでいる場合は連絡も取りづらくなって、さらに管理が困難になる傾向にあります」

 同じ群馬県にある5階建てマンションは、管理会社が倒産し荒廃した典型例だ。一時はヤクザらが住みついた「危険なマンション」でもあった。地元の不動産業者の話では、90年代初めに分譲したが、管理会社が倒産。多くの部屋が競売にかかり当時の資料には、「エレベーター動かない、浄化槽管理不能」とあった。貯水槽を掃除しておらず、水道水はとても飲める状態ではなかったという。

 この時期のマンションを知るBさんに話を聞くことができた。15年ほど前、父親が経営する不動産開発会社が社員寮として購入した部屋に今も住んでいる。

「当時はヤクザらが占有していました。シャブ中(覚せい剤中毒)みたいなのが2人で奇声を上げながら窓から物を投げて、うちの社員とよくもめていましたね。そこらじゅうごみだらけで、3回にわたり社員6人で丸1日かかって片づけました。2トントラック2台分ぐらいごみが出ました」

 前出の松本氏によると、住民が管理に関心を寄せなくなったマンションは、暴力団などが入居しやすい土壌ができるという。

 空き家問題をめぐり、決まって指摘されるのは、行政が関与できる範囲が極めて限定的である点だ。財産権などの問題があり、強く出られない背景がある。

 埼玉県川口市のとある住宅密集地には、3年ほど前の火事で焼け残り、黒く炭化したがれきのまま放置された空き家がある。近隣の話を総合すると、住んでいたのは、きょうだいである中年の女性2人と男性1人。姉が亡くなり、目が不自由だった妹は施設に入る。そして残った男性が、まもなく焼身自殺した。その際、隣の家に火が燃え移り全焼してしまった。放置された空き家から蚊やハエがわき、強風で壁板は飛んでくる。

「見ているだけでもいい気持ちはしない。真裏の家は引っ越した」(近隣住民)。火事から1年がすぎたころ、町内会で147人の署名を集めて「何とかしてほしい」と市に訴えた。しかし、市からの回答は、「資産を引き継ぐ人が特定しないので対応が難しい。プライバシーの問題があり、調査にも限界がある」というものだった。

 権限の限界としてまず挙げられるのが、地方税法の壁だ。守秘義務の関係で徴税の際に知り得た個人情報を、それ以外の目的で使うことができない。同じ市役所職員であっても、誰が固定資産税を払っているのか情報共有できないのだ。

 また建築基準法上の「行政代執行」もまた「抜かずの宝刀」となっている。著しく保安上危険な建物に対して、所有者への撤去命令や、行政が代わって取り壊す規定がある。ところが国土交通省の調査では、命令までいったのは05年度から11年度にかけて全国でわずか15件。危険の定義があいまいだったりで二の足を踏む自治体が多いのだという。

 空き家問題をさらに深刻にさせているのは、持ち主がハッキリしているにもかかわらず、取り壊すことなく長年、放置されている家屋があることだ。東京都足立区にある大正時代に建てられたという長屋は、誰も住まなくなって20年以上が経過している。

 近隣住民の女性は、「この間の強風で壁板がはがれたし、地震で崩れないかも心配。親戚の子が来ると、『お化け屋敷が目の前にある』と言われる。空き家にネコがたくさん住みつき、自分の家の周りにオシッコをする。1階の窓は開けられないほど臭い」

 この長屋の持ち主の女性に聞くと、「借家にしていたけど、一部だけが兄に任せた不動産業者が勝手に売ってしまったり、いろいろトラブルがあった。壊したいとは思ってたんですが……」と言う。こうしたケースは全国にみられるという。その理由をある区役所の担当者は「固定資産税の問題が絡むからではないか」と推測する。

週刊朝日 2013年5月17日号


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