草食部下が増えている。特徴は「本音を語らない」「マイペース」「競争心がない」……。
 異分子の出現に職場は大混乱。彼らと上手に向き合い、育てるには、どんな方法があるのか。

 大手居酒屋チェーンで新人の指導役を務めるブロック長のA子さん(39)は、店のカウンターで大きくため息をついた。期待していた新入社員のZ君(23)が昨年末、突然休職したからだ。
 Z君は優秀な幹部候補生。入社早々、都内の繁華街にある人気店の店長に抜擢された。A子さんもZ君に目をかけ、熱心に指導していた。
 だがZ君は、あまり自分の話をしたがらない。
 「店のスタッフも私も、Z君がそこまで悩んでいたなんて気づかなかった。雑談でもいいから、気持ちを話してくれたらよかったのに」
 前触れもなくZ君が消えると、売り上げやアルバイトを管理する司令塔がいなくなり、店はパニックに。新しい店長が派遣されるまで、A子さんが緊急で対応し、必死の思いで混乱を収めた。
 「あれ以来、若い子に無理をさせるのが怖くて……。草食系って、こういうことなのかな」
 と、A子さんは振り返る。

◆「そもそも無理な注文」
 地方自治体の職員B男さん(44)も、部下のY君(25)の草食ぶりに唖然としている。
 「できません」
 それがY君の口癖だ。さらりと悪びれずに言う。
 B男さんの部署の仕事は、鉄道が新設される地域の再開発。Y君の役目は地元の業者たちとの折衝だ。といっても、その内容は契約書の確認などで、決して難しい業務ではない。だが仕事を頼んで2日後、Y君はあっさり音を上げた。以降はひたすら「できない」の繰り返しだ。
 B男さんは言う。
 「自分には無理だと思うと、すぐに諦める。ズルはしない代わりに、自力で何とかしようとする気概がない」
 加えて、マイペースだ。ある日、B男さんはY君のミスを叱った。怒られている間は神妙な面持ちだったY君だが、自分の席に戻ったとたん、新聞を広げてくつろぎだした。
 「私が新人だった時とは、何かが根本的に違うんです。叱られた後くらい、仕事のフリくらいはしたものでしょ?」
 そんなY君の本音を聞き出そうと、B男さんは飲みに誘うのだが、いつも断られてしまう。どうしたらよいかと、B男さんは途方に暮れている。
  「やる気を出してほしい気持ちもわかるけど、ゆとり世代に『もっと働け』というのは、そもそも無理な注文ですね」
 そう断言するのは、世代間ギャップの問題に詳しいプレスラボ代表の梅田カズヒコさん(31)だ。
 長引く不況で就職難になり、成果主義が広がる一方、終身雇用や年功序列はすたれ、給料は上がらない。当然、会社への帰属意識は薄れ、働く意欲も減退すると梅田さんは言う。
 「だから自分の稼げる範囲で楽しく生きていく、というのも一つの答えです。彼らにしてみれば、クビにならない程度に働きながら、好きなことをして楽しければいいか、と思うわけです」

◆サル山型ではだめ
 博報堂若者生活研究室アナリストの原田曜平さん(35)は、若者が草食化する背景にソーシャルメディアの存在もあると分析している。
 かつては「1対1」が基本だった人間関係は、「1対多」や「多対多」へと変化した。情報が相手だけにとどまらず、他へ筒抜けになるような状態では、本音など打ち明けられない。
 「だから今の若い世代には『無頼』がいない。誰かに本音を打ち明けても、他人に伝わってしまうのではと心配だから、腹を割って話せない。上の世代が思う以上に、彼らは不信社会を生きています」

AERA 3月25日号