今や子どもも大人と同じように心労をかかえる、ストレス社会。教育の現場で問題になっているいじめにも、ストレスが関連しているとの見方もある。いじめの背景には、いじめる側のストレスが関係しているとも言われるが…。
 
 25年間外来や大学で思春期・青年期のカウンセリングを行い、1千人以上の若者の臨床経験をもつ埼玉工業大学心理学科の袰岩(ほろいわ)秀章准教授は首を横に振る。

「実は、いじめの中心になるのは、成績が中から中の上で、ストレスのない子。むしろ最初はいじめはストレスからではない」

 だが、「いじめはダメだよ」と言われて、すぐにやめられる子とそうでない子がいるという。ある中学2年の女子は面談のときにこう気持ちを吐露した。

「どうしていじめちゃいけないの?と正直思う。いじめをやめると、次は自分がいじめられるかも。(いじめをやめた)自分がどうなるか不安」

 いじめることで自分のアイデンティティーを確立しているのだ。そういう子はいじめができなくなるとストレスを肥大させる。そもそも人をいじめて喜んだり、困っている相手の気持ちを理解できなかったりするのは、いじめる子が幼児性を強く残しているからだ。こうした「共感性の欠如」の背景には、過干渉な親が存在するという。

「公園デビュー時から友達関係や生活全般にわたって大人に介入され続ける子どもは、“心の成長に必須なストレス”を経験させてもらえないから、他者の気持ちを自分からわかろうとしない」

 いじめ問題が深刻化するなか、単に「いじめはダメ!」と迫るほど、子どもは自分の心のよりどころをどこに持っていけばいいのか不安になり、ストレスをため、深刻化することになる。いじめの根絶を目指すなら、まずは大人が子どもの心の「栄養になる親」を目指さなくてはならないし、子どものストレス耐性を強くすることも必要だ。

AERA 2013年4月29日号