取材した東電社員たちは「こんなはずではなかった」と口をそろえた
取材した東電社員たちは「こんなはずではなかった」と口をそろえた

 大惨事をもたらした福島第一原発事故は、東電で働く社員たちの価値観も一変させた。絶対安泰だったはずの会社が、先行きのわからない不安定企業に成り下がった。

「早くここから抜け出したい」

 この会社なら定年まで安泰。その確信は、福島第一原発事故が起きるまでは揺るがなかった。だが、事故後は一変。東京電力に入社して約10年。こんなことを考えるとは思ってもいなかった。

 有名国立大の文科系学部出身で30代前半のAさんは今、転職支援会社に登録し、転職情報を探っている。転職先は、安定していてビジネス上の競合相手が少ない公益機関が狙いだ。

「ホンネを言えば、水道代の集金人にでもなりたい。集金業務の委託会社なら、幹部になるのも難しくはないでしょうし」

 東電で営業の仕事もしてきたAさんは、周囲から「商社に移る? それとも証券会社?」などと聞かれる。だが自分では「とんでもない」と思う。

「我々がやってきた仕事は、要するにルートセールス。古くからのお客さんとのおつきあいだけで、新規開拓なんて知らない。この会社に、商社や証券のようなハードな仕事ができる人間なんて、いませんよ」

 決まったお客さんに、決まった「営業」しか、してこなかった。そんな自分にも務まりそうな仕事として一番に思いつくのが、水道料金を集金する業務委託業者への再就職だという。

AERA 2012年10月15日号