◆コンクリート壁がはがれ、塗料が焦げない理由◆

北海道大学大学院教授・奈良林直)

 3号機の鉄骨は間もなく撤去されてしまうので、歴史に残る貴重な映像です。

 私は東芝のエンジニアとして研究所にいた2001年、静岡の浜岡原発1号機で起きた蒸気配管断裂事故の原因究明を担当しました。当初は、水が蒸気を凝縮しながら管内を高速で移動し、衝撃波を生じさせる「ウオーターハンマー(水撃)現象」が疑われ、「老朽化プラントで配管破断」とマスコミに書き立てられましたが、それでは厚さ1センチ超の炭素鋼の配管が花びらのように飛び散るほどの破壊力を説明できない。試行錯誤の結果、蒸気に混ざった微量の水素と酸素が管内に少しずつ高濃度で蓄積し、これがあるきっかけで着火し、音速で燃焼が進み1平方センチあたり2トンもの強い衝撃がかかるデトネーション(爆轟)が起きていたことが判明しました。この結果は、国際会議でも発表し、マスコミにも公表しました。このとき学んだのが真実を公表することの大切さです。原因が究明されたので、非難は沈静化しました。

 3、4号機でも同様の事象が起きたのでしょう。

 耐震Aクラスの堅固な4号機のコンクリート壁が爆風を受けたようにはがれ落ちている一方で、オペレーションフロアに置いてあった格納容器のフタの黄色い塗料や燃料交換機の緑色の塗料が焦げていません。爆轟現象は短時間に高速で薄い膜状の衝撃波が通過するため、塗料の焦げる時間がなかったのです。3号機でも爆発時の映像に、球状の衝撃波が写っています。当時の映像では、衝撃波のあと黒い煙と赤い火炎が見えました。オペレーションフロアで爆発し、火災が発生したためと思います。

 4号機は当時、原子炉が定期点検で停止していたため、水素の発生源はオペレーションフロアにある使用済み燃料プールではないかとも言われていました。しかし、プールの水位は十分でした。最近では3号機と4号機をつなぐ配管のフィルターの3号機側が著しく放射線濃度が高かったことから、3号機から漏れた水素が配管を通じて4号機の建屋に蓄積し、爆発を起こしたといわれています。

 では、なぜ同じ水素爆発を起こしたにもかかわらず、1号機の壁面は、鉄筋の骨組みがきれいに残っているのか。

 これは3、4号機の壁が50センチ以上の厚いコンクリートでできているためです。強固であればあるほど爆発時に壁が受ける圧力は大きくなる。福島第一原発で最も古い1号機の壁はコンクリートパネルを張り付けた強度の弱いものだったうえ、水素濃度も薄かったのです。

 事故発生から6カ月がたち、原発から放出される放射性物質の量は非常に少なくなりました。しかし、いまだに周辺の土地の汚染は放置され、住民は自宅に帰るメドすら立っていない。

 原子力安全委員会の専門委員にも十分な情報は提供されていないのです。私のコメントは公表されたわずかなデータから推測したものですが、政府による情報統制、「菅政権(当時)による"菅口令"」のうわさを聞きます。野田佳彦首相には、すみやかに情報を公開し、さまざまな立場の研究者が事故原因の究明に取り組める態勢をつくることを期待します。

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ならばやし・ただし 1952年、東京都生まれ。2005年まで東芝で原子炉の安全について研究を行う。現在は内閣府原子力安全委員会専門委員も務める


週刊朝日