◆地下に防壁を造らなければ、汚染はさらに拡散する◆

(京都大学原子炉実験所助教・小出裕章)

 福島第一原発事故の状況は公開された写真で理解していたつもりですが、敷地内で撮影された動画を見て、すさまじい破壊が起こったことがよくわかりました。

 原発事故の危険性を訴え続けてきましたが、私もどこか油断があったと思います。ましてや原子力を推進する人たちは、このような破壊が起こるとは想像もしていなかったでしょう。

 運転を止めていた4号機は下のほうまで壁が吹き飛んでいますね。私は当初、建屋内のプールに保管されていた使用済み核燃料から水素が発生して爆発が起こったと考えましたが、そうだとすると水素は軽いので建屋の上部が破壊されたはずです。東京電力の説明のように、3号機で発生した水素がダクトを通じて流れ込んだのかもしれません。

 停止中の4号機には、建屋上部のプールに使用済み核燃料も含めて1535体もの燃料集合体が入っています。崩壊を防ぐ補強工事がおこなわれたようですが、余震などで建物が崩れ落ちる危険性があります。そうなると強い放射能を出す使用済み核燃料がばらまかれて、だれも近づけなくなってしまう。

 私は事故直後から、燃料棒が入っている炉心と使用済み核燃料のプールを、ひたすら冷やし続けなければいけないと言ってきました。半年たっても、それに変わりはありません。冷却に失敗すれば再び水蒸気爆発が起こることも考えられます。

 しかも、1号機から3号機の炉心の核燃料は溶融体となって、どこにあるかもわからない。1号機に関しては、溶融体が圧力容器の鋼鉄を溶かして、格納容器の下部に落ちています。さらに格納容器を溶かして外に出ている可能性が高い。もし、コンクリートの土台や岩盤にめり込んでいれば、いくら水をかけても内部は冷やせません。水を循環させる冷却システムもできているようですが、高濃度の放射能を含んだ冷却水をためるタンクを遮蔽するものがないのも気になります。

 核燃料の溶融体が地下水と接触すれば放射能汚染が拡大します。それを防ぐために地下に防壁を張り巡らせる必要があると訴えてきました。できるだけ早く造らなければいけないのですが、敷地にがれきが散乱する中で、しかも10シーベルトなどという放射線が測定される現場で、地下にダムを造るような大がかりな工事は非常に困難だと思います。それでも造らなければ、放射能汚染は地下から海に拡大していきます。

 2号機、3号機も内部の状況がわかってくれば、1号機と同様に核燃料の溶融体が格納容器の外に出ていることが明らかになるでしょう。大気中への放射能汚染も止まっていないので、壊れた建屋全体を覆う工事も必要です。核燃料の崩壊熱は10年後も10分の1にしかなりません。熱の問題はつきまといますが、ある段階で覚悟を決めて工事を始めなければなりません。空調を付けて冷やしながらでもやるしかない。

 放射能汚染は非常に深刻です。国は被害を大きく見せないように避難区域を限定していますが、放射線管理区域を定める日本の法律を厳密に適用するなら、福島県の東半分、宮城県、茨城県、栃木県の一部、さらには千葉や東京都のホットスポット地域を無人にしなければいけません。

 原発がいったん事故を起こせば、これだけ大きな取り返しのつかない被害が出るのです。国も電力会社も、ただちに全国の原発を止めるべきです。

     *

こいで・ひろあき 1949年、東京都生まれ。著書に『隠される原子力・核の真実 原子力の専門家が原発に反対するわけ』『原発のウソ』などがある

次のページ