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第15回 洋楽至上主義の復権を目論む…?

文・小浜文晶

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 暑い夏も終わって、日ごと秋の色が濃くなっている今日この頃。キンモクセイの香りに包まれて、秋の夜長にのんびりベランダで月見酒としゃれ込もう、と思っていたのだが…現実はそんなに甘くない。ぼくの目下の職場である音楽・映像ソフトの小売り業界は、ここからが本格的な繁忙期。クリスマス商戦に突入する11~12月の天王山(正念場とも言う)を見据えて、おそらくどこの小売りもこの10月は残業に次ぐ残業、深夜まで注力アイテム(売り伸ばしたい商品)の整備やメンテナンス、キャンペーン施策の獲得交渉などに大わらわなんじゃないだろうか。

 この半年あまり、こちらでやたらニッチなJポップ~インディ・ロックの新譜作品などを好き勝手に紹介させてもらっていたのだが、実は不肖わたくし、会社では、音楽事業部のインターナショナル課に所属する、いわゆる「洋楽担当」、つまり洋楽ロック、クラブ、ジャズ、ワールド諸々のアイテムをお客さんにプッシュする役目を仰せつかっている人間であるのだ。「外タレにうつつを抜かしているヤツが “Jのテリトリー”を荒らすんじゃない!」といったお叱りの声を頂いたことはまだなく、また自分自身、言葉の壁さえあれど、洋楽と邦楽にことさら大きな違いはないと思ってここまで生きてきたものの、最近この洋・邦両者に大きな格差が生じているような気がしてならなくなった。市場内格差とでも呼びたいところだが、端的にいえば、「洋楽離れ」。これをひどく痛感させられている毎日だ。

 会社ではじき出した予約受注~売り上げデータなどに基づく部分も多々あるのだが、そんなことをしなくとも、日常、洋楽が“ないがしろ”にされているような場面に出くわすことはしょっちゅうであり、ゆえにぼくを含めた多くの洋楽ファンは肌感覚レベルでこの底冷え気味の現況を感じ取っているのではないだろうか。「英語の曲なんか別に興味ねぇよ」といった風潮が若者を中心に蔓延していると考えるのは、はたしてただの被害妄想にすぎないのか、いや、あながちそうでもないような…

 昭和を席巻した「洋楽至上主義」の失墜。Jポップ、韓流、アイドル、アニメに代わる代わる王座を奪われ落日の一途。あぁ栄光の洋楽至上主義…R40オーバーの洋楽ファンは、今やまるでゾンビのように、再発市場をさまよい歩く。やれ紙ジャケだ、やれ高音質だ、やれデラックス・エディションだ…職業柄、メーカー各社を敵に回すような軽はずみなディスは憚れるが、昨今、洋楽市場を主導し焚き付けるべきメーカー、あるいは小売りの知力・体力の衰えがあまりにも著しいのは火を見るより明らかだろう。そうなると音楽は、もはや“作品”ではなく、単なる“商材”として扱われていくだけ。これは、洋楽市場の分母が一向に増えない原因のひとつとして見るべきだろうとぼくは思っている。

 LPというメディアがほぼ一線を退いた時点で市場に生まれた、再発・復刻という概念。もちろん“意味のある”再発こそそれなりにあるものの、この概念に依存しすぎた結果、市場およびCDショップは加齢臭とノスタルジアが充満。いつから「洋楽=再発モノ」になってしまったんだろう…とはいえ、ぼくもかなりの割合で再発モノを買っているクチなので、あまりエラそうなことも言えないのだが、やはりピッカピカの新譜作品が、ある種大見得を切りながら花道のド真ん中を闊歩してこそ、洋楽にかぎらず音楽文化全体の発展があるんじゃないのかなと。言ってしまえば、再発商品というのは、あくまでサイドメニュー的なものであるべきなんじゃないのかなと。

 ちなみに、「洋楽がないがしろに」とは言ったものの、それを翻すような少し特別なシチュエーションというのも存在する。それは来日公演の即売会場。そこでCDを購入するというフローは、今でも根強く残っており、実際8月に行なわれたエアロスミスの来日公演(エアロソニック)や、サマソニのキャピタル・シティーズ、さらに9月の東京ジャズに登場したトニー・ベネットの終演後などには、ワッショイ! ワッショイ! 飛ぶように彼らの新作~準・新作が売れていったのだ。ぼくもその現場にいたのだが、これには本当に驚いた。即売ブースに駆け寄る人たちが口々に叫ぶ。「いちばん新しいのはどれ!?」1時間足らずに100枚近くのペースで、エアロスミス『Rock For The Rising Sun』(DVD)、キャピタル・シティーズ『In A Tidal Wave Of Mistery』、またはトニー・ベネット『DuetsII』(ゴリゴリの新譜ではないけれどね)がはけていくという光景は、現在主戦のオンライン・ストアでもこれまでに経験がなかったこと。アーティストのパフォーマンスを直に観る→ 気分が高揚する→ 財布のヒモがゆるむ。この神話のような方程式はまったくもって崩壊していなかったのだ。今そこにある音楽、今そこにいる演奏家の一挙手一投足はさすがに強度が違う。説得力が違う。メーカー、小売りの浅はかな皮算用を駆逐する、魔法のようなパワーがみなぎっている。そして、ここに一筋の光明があると見たり。

 と、ひとり悶々としながら話を進めてきたが、要するにこうした現状を踏まえた上で、次回からしばらく、洋楽至上主義の復権を目論む…とまでは言わないが、洋楽だって聴いてみりゃ案外イイのあるんだぜ、的な若干へりくだった態度で、皆さんに再度振り向いていただけるオススメ新譜をご紹介させていただこうかなと思っている次第。なにしろ来たるべき繁忙期に向けてタマはいくらでもある。さて、どれから出そうかな。[次回11/13(水)更新予定]


(更新 2013.10.30 )


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プロフィール

小浜文晶(こはま・ふみあき)

ローソンHMVエンタテイメント EC事業部・末端構成員。神奈川県出身。著作なし、キャリアなし、甲斐性なしの三拍子にもかかわらず、音楽好きの人のために何か力添えできることがないかと日々思索するも挫折の繰り返し。HMVオンラインでは、ジャズときどきロック、歌謡記事コンテンツを担当中。