第3回 吉田ヨウヘイgroup 『From Now On』 |AERA dot. (アエラドット)

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第3回 吉田ヨウヘイgroup 『From Now On』

文・小浜文晶

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 とかく音楽市場の冷え込みが深刻化していると言われる時代ではあるが、それとは裏腹に最近の新しいバンド、特にここ4、5年の間にデビューした人たちの楽曲には、エラそうな言い方かもしれないけど、総じて色々な音楽をよく聴いてるな、しかもちゃんと玩味し咀嚼しているな、という印象を受けている今日この頃。
 “聴く子は育つ”の金言どおり、「この若さでこういう演奏や言葉の選択ができるのかぁ」と泡食う瞬間もしばしば。「おやおや、さすがはiPod、YouTube世代。俺たちが若い頃なんて……」といったアラフォーオヤジの憎まれ口さえ憚れる。手練れたしたたかさとは無縁の彼らの楽曲には、それを補って余りある、音楽的ボキャブラリーの豊富さや鋭いセンスに裏打ちされた珍妙な説得力がある。ただ若さで押しまくればいいという時代でもないのだろう、きっと。

 そんなことを強烈に感じさせてくれたのが、今回ご紹介する、吉田ヨウヘイgroupの『From Now On』。 実は正直、「色々な音楽をちゃんと玩味して咀嚼している」サウンドなんてものにはそうそう出会えるもんじゃないだろと、前言を翻さんばかりの高を括っていたのだが、「いや、ココにあったぞ!」と思わずガッツポーズの一枚となったことは、少なくともぼくの中ではとても有名な話だ。

 何でもこれが初の全国流通盤だそうで、ぼくは友人の紹介で彼らの音楽、つまりこのアルバムを知ったのだが、いやぁ、とにかくスバラシイ。スバラシすぎて腰が抜けた。出会ってから一週間、腰はずっと抜けたまま。今後聴き込むほどにありとあらゆるところが抜けていきそうな気さえしている。
 その腰抜かしポイントは追って説明するとして、まずは彼らのオフィシャル・ホームページにアクセスし、いざプロフィール・ページへ。

 吉田ヨウヘイgroup。その名のとおり、ボーカル&ギターの吉田ヨウヘイをリーダーとするグループで、ギター、ベース、ドラムのほか、テナー・サックス、ピアノ、キーボード、その中にはフルート、オーボエ、ファゴットなどを兼任する者もいるという、なかなか“匂う”男女混合セプテット(7人組)だ。またクレジットによると、吉田ヨウヘイは、曲によってはアルト・サックスも吹くらしい。 ということで、多分にジャズ・コンボ的な音の風合いをイメージさせるが、その手の要素は、リズム・アレンジなどにほんのスパイス程度にといった感じだろうか。しいて挙げるなら、クルセイダーズがバックを付けたマイケル・フランクスの『The Art Of Tea』なんかが質感的に少し近いかな。

 そもそも彼らにいの一番で目を付けたのは音楽評論家の岡村詩野さんなのだそうで。岡村さんからは「日本のダーティー・プロジェクターズになれる逸材」という称賛まで頂戴している。ちなみにダーティー・プロジェクターズとは、ビョークやデヴィッド・バーンもゾッコンのN.Y.ブルックリンのインディ・ポストロック・バンドで、奇妙で複雑な歌のレイヤーと変態ギターが芯となり、そこに様々な音楽要素がブチ込まれたかなりユニークなサウンドを鳴らす男女混合の5人組だ。たしかに一見して両バンドに共通するのは、華のなさ……失礼、割とフツーのおにいちゃん・おねえちゃんたちによる混合チームという部分だが、実際、音楽的な部分でも多くの共通点を見付けることができるのだ。そう、奇妙で複雑な歌のレイヤーと変態ギターのマリアージュ。これが、吉田ヨウヘイgroupに腰を抜かしたひとつめのポイント。ふじたまゆ、琴音というウラ若き“紅二点”が繰り広げる多重コーラスはノーブルかつファンシーで、ときにキッチュのちサイケデリック。コーラスと言っても無味乾燥のバック・コーラスではなく、ほぼ全編において主役を食いそうなほど前に出ていることもあって、ちょっとしたオペラの高揚感だって味わえる。

 そして、変態ギター。変態といっても、超絶技巧と紙一重という意味合いなので、いわゆるガチガチのノイズ・音響系ではない。吉田ヨウヘイ、そしてリード・ギターの西田修大ともに音の使い方がすごく巧い。アコギもエレキもバッチリ。トレモロが効いたサウンドなんかはまるでグレイトフル・デッドのジェリー・ガルシアを彷彿とさせるね。トロトロのはちみつを頭からかけてもらっているようなイイ気分だ。

 さらにもうひとつ、というかむしろここが最大のポイントかもしれない。歌詞の世界があまりにもスバラシイ。吉田ヨウヘイのちょっぴりフニャっとした声を通して描かれる日常の風景や、まとまらない心情の吐露が、どうにも頭から離れない。どこにでも落ちているような言葉を拾っているんだけど、ポップスのセオリーを知り尽くしているかのような良質なメロディにひとたび乗れば、それは瞬く間に愛と熱のあるシグナルへと様変わりする。こんな歯の浮くような決めゼリフを躊躇なく綴らせてしまうのだから、色々なものを玩味して咀嚼してできたグッド・ミュージックこそ、人を詩人にさせるというもの。

音楽市場が不況だの何だのはこの際ホントにどうでもいいな。とにかく、このアルバム『From Now On』の良さを人に伝えたくってウズウズしている。[次回4/17(水)更新予定]


■吉田ヨウヘイgroup
http://rensyu.sumomo.ne.jp/example/


(更新 2013.4. 3 )


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プロフィール

小浜文晶(こはま・ふみあき)

ローソンHMVエンタテイメント EC事業部・末端構成員。神奈川県出身。著作なし、キャリアなし、甲斐性なしの三拍子にもかかわらず、音楽好きの人のために何か力添えできることがないかと日々思索するも挫折の繰り返し。HMVオンラインでは、ジャズときどきロック、歌謡記事コンテンツを担当中。

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