レコードの場合、ステレオ盤やモノラル盤がオリジナルになるもの、さらにさかのぼってSP盤がオリジナルになるものに分かれる。

 細かいことをいうと、ステレオの再生装置、モノラルの再生装置、SP盤の再生装置と、少しづつ違っているのだ。

 つまり当時の音を、当時のリスナーが聴いていたように再生しようとすると、再生装置へのこだわりも生まれてくるというわけだ。

 さて、わたしもオリジナル盤の音というものを聴いてみたくなってしまった。

 しかし現在、有名曲のオリジナル盤は貴重であり、レコード1枚が数万円を超えるものも珍しくはない。そのため、わたしはジャズのブルーノートのオリジナル盤をすべてそろえようなどということは考えない。いや、最初からあきらめている。

 でも、SP盤で世に出たものをSP盤で聴いてみたいと思うようになった。

 たとえば、エディット・ピアフの《バラ色の人生》やチャーリー・パーカーのSP盤をほしくなってしまったのだ。
 SPレコードの専門店などもあるのだが、安く手に入れる方法を模索した結果たどり着いたのが、オークションである。

 毎日オークションでレコード探しをしていた時に出会ったのが、黒洲太郎氏である。彼は人生の終活のために自分のコレクションを整理し始めた、と自己紹介していた。
 調べてみると、黒洲氏には著書もあるのがわかった。

 黒洲氏のオークションの目玉は、ビリー・ホリデイ・オリジナル盤コンプリート・セット。

 彼の紹介文を引用しよう。

  「終活も終盤を迎えBillie Holidayオリジナル盤コンプリート・セットをお譲りします。
  私はBillie Holidayの研究をして参りました。

  私のサイト
  http://billieholiday.info/
  に掲載したディスク・コレクション10inch 78rpm (SP), 12inch 78rpm(Vdisc), 12inch LP,10inch LPの全てです。
  (途中略)
  出品内容 10inch 78rpm(SP)124枚+α、12inch 78rpm (SP)5枚、12inch LP 36枚+α、10inch LP15枚+α
  合計180枚+α(200枚超)(+αとは前述の他セット物は枚数に数えていません)」

 売値は300万円、値下げ交渉ありとあった。

 わたしは心を動かされたが、なによりその置き場所を用意することができない。ただ、そのようなものを収集している人に会ってみたくなり、面会を希望したところ、すぐに快諾いただいた。

 そういえばこのミュージック・ストリートを始めるきっかけになった故中山康樹とも、サイトでのCDの売買で知り合ったのだった。

 終活も終盤を迎え、と語っていたので老人を想像していたのだが、わたしを最寄りの駅まで迎えに来てくれたのは、ベンツに乗った精悍な紳士だった。聞けば、わたしより5歳年上なだけだ。
「終活は、早いでしょう」というと、笑っておられた。

 ご自宅に案内されると、ビンテージ・オーディオを中心にジャズのオリジナル盤がきれいに整理されていた。

 黒洲氏は学生時代をアメリカで過ごし、就職もアメリカ勤務となり、その間にジャズのLPのコレクションを続けていたとのことだ。
 日本にいたのでは、とてもできることではない。

 たくさんのオリジナル盤を聴きながら、楽しいひと時を過ごさせてもらった。

 音楽を通してこのような出会いがあるなんて、人生、なかなか、素敵ではないですか。 [次回1/14(水)更新予定]