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第105回 50年前、ビートルズが武道館にやってきた

文・小熊一実

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 1966年6月29日、台風の影響で飛行機が遅れ、夜中というより明け方の3時39分に、羽田空港に着いた。日本の警察は、3万人の警察官を動員して対応した。そして、6月30日から7月2日までの3日間、5公演、ビートルズは、日本武道館に立ち、演奏をした。今から50年前の出来事だ。

 来日50周年を記念して、様々なテレビ番組やイベントが企画されている。また、次回の映画作品として、ビートルズのライヴ映像による映画『THE BEATLES LIVE(仮題)』が今年、2016年秋に公開されることが告知されている。
 解散してから45年以上もたっているというのに、その人気は衰える様子がない。

 そこで、今回はわたしの個人的な思い出を中心に、ビートルズについて書いてみたい。個人的とは言っても、多くの同世代のビートルズファンにとっては、同じような体験があるのではないかとも思うからだ。自分のビートルズ体験と比較などしながら読んでいただけるとうれしい。

 わたしの生まれてはじめてのビートルズ体験は、66年のビートルズ来日公演のニュースだ。わたしは小学4年生、まだ、音楽の面白さに気づいていなかった。
 宇都宮に住んでいたわたしにとって、ビートルズ関連のニュースは、直接、大きな問題ではなかった。それでも、テレビでは連日、長髪の若者達、ビートルズの話題で持ちきりだった。

 66年7月1日の夜、ビートルズの武道館での演奏が、テレビで放送された。放送された演奏は、1日の昼の公演であった。視聴率は、56.5%と史上最高を記録した。
 もちろん、我が家でも見た。わたしと弟、両親、祖父母は食卓につき、夕食を取りながら、テレビを見ていた。我が家の夕食は、いつもテレビを見ながら食べていたのだ。このとき、カラーテレビになっていたのか、まだ白黒テレビだったのか、記憶が曖昧である。64年の東京オリンピックをカラーで見たような記憶があるのだが、それも、自信はない。家族写真を探せば、どこかにテレビが映っている写真があるかもしれない。「NHKの人形劇「ひょっこりひょうたん島」放映の途中から我が家のテレビが、カラーになったのは覚えているのだが。ちなみに、「ひょっこりひょうたん島」の放映は、64年4月~69年4月までだ。

 父がビートルズの番組にチャンネルをあわせ、
「一実は、ビートルズとか興味ないのか?」とわたしに質問した。わたしは、「う~ん、ない」と答えた。「まだ早いかな、もう少ししたら、興味を持つかもしれないな」と父が言った。「好きにならないと思うよ」と答えたような気がする。番組は、ビートルズの演奏というより、女の子たちの叫び声が大きいので、途中でチャンネルを変えてしまった。

 69年から70年にかけて、中学生になったわたしは、ロックの洗礼を受ける。どうしてロックを聴いてみようと思ったのか、そのいきさつは覚えていない。たぶん、ラジオ放送の影響だろうと思う。FM放送を聴くようになり、いろいろな音楽を聴くようになった。ロックだけではなく、ラテンやマンボ、シャンソン、クラシック、バロック音楽、ジャズなどなどだ。その中で、ロックが一番痛烈に、わたしの心をとらえた。最初に買ったのは、レッド・ツェッペリンの3枚目であり、ピンク・フロイドの『原子心母』であり、『天の守護神』のサンタナであり、《長い夜》のシカゴなどである。みな、新譜で聴いた。それらの音楽が怒濤のように、わたしの人生に流れ込んできた。

 そうなってくると、同じ嗜好をもった友達がほしくなるものだ。クラスの友人のI村君やK堀君が音楽好きだということがわかってきた。すると、女の子でも音楽好きな子がいるという情報が入ってくる。隣のクラスにも音楽好きがいるらしい。などという情報が入ってくるが、その人数は、思ったほど多くはなかった。特に、洋楽好きは少なく、クラスで数人だった。少数派のわれわれは、お互いの持っているレコードを貸し借りして、音楽の幅を広げていった。
 
 音楽好きの仲間の中で、とくにK堀くんは、東京の大学に行っているお兄さんがいて、お兄さんのレコードも自由に聴くことができるとのことだった。わたしは彼の家に行き、ビートルズと出会うのだ。ちょうど《レット・イット・ビー》が流行っていた時代だった。なんとか、現役のビートルズに間に合ったわけだ。それまでにも《抱きしめたい》など、知ってはいたが、アルバムをきちんと聴いたことがなかった。

 そんなわたしにK堀くんは、『サージェント・ペッパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』と『アビー・ロード』を貸してくれた。まず、そのジャケットに驚いた。『サージェント・ペッパー』は、今まで見たこともない写真だった。不思議な感じだった。ジャケットを開くと、カラフルな軍服を着たビートルズの4人がいた。新しいような古いような印象だった。なんで軍服なのかと疑問を持った。反戦の意思表示なのだ、と教えてもらった。ひげを生やしているのも不思議だった。しかも、今のビートルズの横に、若い頃のスーツを着たビートルズも立っているのだ。日本の福助さんもいる。理解できないという気持ちと、なんて、おもしろいのだと言う気持ちがわき上がってきた。

『アビー・ロード』も不思議なジャケットだった。ただ道路を横断しているだけなのに、とてもかっこよく思えた。ジョン・レノンの白いスーツ姿、裸足のポール・マッカートニー、黒のスーツのリンゴ・スター、ジーンズのジョージ・ハリスン。全員が自分の個性を主張しているようだった。『サージェント・ペッパー』では、全員がひげを生やしていたが、『アビー・ロード』の時には、ポールは、ひげを生やしていない。どうなっているのか?と疑問に思ったものだ。わたしは借りたレコードを、買ってもらったばかりのオープン・リールのテープ・レコーダーで録音して、何度も何度も聴いた。

 ビートルズ熱は、高校に進学してますます燃え上がった。そこには、I田くんとI泉くんがいたのだ。
 彼らのビートルズにかける情熱は、すさまじいものがあった。わたしがローリング・ストーンズやキング・クリムゾン、エマーソン・レイク&パーマー、グランド・ファンク・レイルロードなど、さまざまなアーティストに興味を持っていたのに対し、彼らは、ほとんどビートルズ一本槍だった。

 まず、すべてのLPレコードはもちろん、シングル・レコードも持っていた。そして、ジョン・レノンがどんな人物かということや、ポールが左利きであること。それぞれの曲にまつわるエピソードなどを調べまくっていた。そして、もっともわたしに影響を与えたのは、ビートルズの歌を聴いて、主旋律を歌っているのは誰か、バックでコーラスを入れたのは誰か、をわたしがわかるように指導してくれたことだ。
 学校が終わると、わたしたちは、そんなことばかりやっていた。

 ビートルズが解散した後、ソロになってからも、メンバーのアルバムや新曲を聴いていた。

 東京に出て来たから、本物の生きたジョン・レノンに触った。これは、「第36回 Dream Powerジョン・レノン スーパー・ライヴ2013 その2」で書いた。

 最近の話題では、わたしが主催するイベントで着るために、1枚だけオリジナルのTシャツを作った。ジョン・レノンのこども時代の写真をTシャツにプリントしたのだ。
 それを着てマンションに帰ってきたとき、突然、女性に声をかけられた。
「あなた、ビートルズ好きなの?」。わたしは答えた。「この写真がジョンだって、よくわかりますね。あなたこそ、かなりのマニアですね」。その女性はわたしに名刺を渡して、「ここでお店やってるから、遊びに来て」と言った。

 お店は銀座にあるバーで、店の名前は「Abesada」だった。
 そして、女性の名前は島村洋子。ネットで調べると、小説家だった。それも、たくさん出版している。わたしは、阿部定を主人公にした短編集「色さんげ」と八百屋お七、四谷怪談のお岩、唐人お吉などを描いた『惚れたが悪いか』を買った。

 それから何度か、銀座の「Abesada」に飲みに行った。しかしその店も、2016年、今年になって閉めてしまった。
 それでも、時々メールが来る。「八重洲でビートルズ、ライヴ見るんですが、ごはんもおいしいですけどご一緒しませんか?」

 そしてわたしは、のこのことビートルズの幻影につかまったように出かけていくのだ。もちろん、来日記念イベントも予定されている。会場では、小説家の島村洋子さんにも会えるかもしれない。

 7月2日には、来日したときにビートルズに単独インタビューした元ミュージックライフ編集長の星加ルミ子さんへのインタビューも予定されている。

 ビートルズが聴きたくなったら、ここに行くのがオススメだ。 [次回7/13(水)更新予定]

■公演情報はこちら
http://big-echo.jp/hst/archives/3894

ビートルズ関連のイベント、毎週のように開催しています。
http://big-echo.jp/hst/

■参考:過去のビートルズ関連のコラム
第26回 ポール・マッカートニーがやってくる!
第27回 ポール・マッカートニーがやってくる! その2
第35回 ルー・リード追悼とDream Powerジョン・レノン スーパー・ライヴ2013 その1
第36回 Dream Powerジョン・レノン スーパー・ライヴ2013 その2
第45回 あるがままに LET IT BE~レット・イット・ビー~
第60回 わたしが一番好きな時期のポール・マッカートニー
第81回 ポール・マッカートニーが日本武道館でライヴをやるということ
第91回 ヒット・チャートで1番になったビートルズと、ビートルズのそっくりさんライヴ『レット・イット・ビー』


(更新 2016.6.29 )


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プロフィール

小熊一実(こぐま・かずみ)

 1956年生まれ。プロデューサー。このサイトの前身「JAZZ STREET」に引き続き、「Music Street」の企画編集を担当。ジャズ、ロックはもちろん、クラシック、歌謡曲からアヴァンギャルドまで、聴きまくっている音楽狂。音楽以外にも、落語会やロボット・イベント、映画も製作している。ここでは、ジャンルを超えて、趣味に走ったライヴ情報をお届けしたい。補足情報をfacebookに掲載します、見て下さい。https://www.facebook.com/kazumi.koguma