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第65回 『ブルーノート・カフェ』ニール・ヤング

文・大友博

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 2015年11月半ば、ニール・ヤングは、06年ごろから熱心に取り組んできたアーカイヴ・シリーズのパフォーマンス編第11弾として『ブルーノート・カフェ』を発表している。アルバム『ディス・ノーツ・フォー・ユー』への着手と同時にスタートした1987年11月から翌年9月にかけてつづけられたニール・ヤング&ザ・ブルーノーツとのツアーをまとめたもので、2枚のディスクに21曲が収められている(+MCと歓声のパートが2トラック)。

 ライヴ盤、スタジオ編の双方に収められている《テン・メン・ワーキン》という曲のタイトルが示すとおり、ブルーノーツのメンバーはニールを含めて10人。ニールがギター/ヴォーカル、フランク“ポンチョ”サンペドロがギターではなくキーボード、ドラムスとベースには、ジョー・ウォルシュから紹介された(あるいは奪った)というチャド・クロムウェルとリック・ロサス、そして6人のホーン奏者(サックス×3、トロンボーン、トランペット×2)という編成だ。ちなみに、70年代初頭からスティール・ギター奏者としてニールの活動を支えてきたベン・キースがこのブロジェクトにはアルト・サックスで参加している。

 本WEB連載28回目30回目でも書いたことだが、1980年代は、MTVの放送開始、CDの登場と定着、制作現場の急速なデジタル化などによって、ロックやポップをめぐる環境が激変した時代だ。いわゆるバブル期とも重なり、聴き手側も、一様に浮ついていた。当然のことながら、本物志向のベテランほど苦しい状況に追い込まれ、迷走してしまった人も少なくない。ニールの場合、迷走という言葉はふさわしくないかもしれないが、移籍したレコード会社との確執もあり、少なからず、パワーを低下させてしまった。時代をあざ笑うかのように、作品ごとにテクノ、ロカビリー、カントリーと方向性を変えていく彼に愛想を尽かし、離れてしまったというファンも少なくなかっただろう。

『ディス・ノーツ・フォー・ユー』は、そういった時期からの復活を強く感じさせるものであり、結局、ニールの基本的な姿勢はなにがあっても変わらないのだということを、あらためて示すものだった。

 企業のために歌うアーティストたちを愉快に糾弾し、そのうえで「この音楽は聴く人たちのためのもの」と歌うタイトル・トラック、《ロッキン・イン・ザ・フリー・ワールド》の予告編ともいえる《ライフ・イン・ザ・シティ》など、同作品の収録曲を中心に構成された同時期のライヴでも彼は、若干ブルース・ブラザーズを意識したものと思われるブルーノーツとともに力強く歌い、ギターを弾きまくっている。抱えているのはおなじみの愛器ブラッキー=53年製レスポールだが、ブルースがテーマということもあり、そのプレイからジミー・リード、マイケル・ブルームフィールド、J.J.ケイルといった人たちの影響が感じられる点も興味深い。

『ディス・ノーツ・フォー・ユー』収録曲以外では、『エヴリィバディーズ・ロッキン』制作時の未発表曲《ドント・テイク・ユア・ラヴ・アウェイ・フロム・ミー》、89年の『フリーダム』で正式に作品化される《クライム・イン・ザ・シティ》、バッファロー・スプレングフィールド時代の《オン・ザ・ウェイ・ホーム》、70年代中期の名曲《トゥナイツ・ザ・ナイト》も収められている。


(更新 2015.12.16 )


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プロフィール

大友 博(おおとも・ひろし)

 1953年東京都生まれ。早大卒。音楽ライター。会社員、雑誌編集者をへて84年からフリー。米英のロック、ブルース音楽を中心に執筆。並行して洋楽関連番組の構成も担当。ニール・ヤングには『グリーンデイル』映画版完成後、LAでインタビューしている。著書に、『エリック・クラプトン』(光文社新書)、『この50枚から始めるロック入門』(西田浩ほかとの共編著、中公新書ラクレ)など。