ベティ・カーター(ヴォーカル)に捧げた《ミス・B.C.》はファストで。格好いいテーマのあと、頸動脈怒張のワトソン、端正なトランペット、うねうね激走するテナー、きらめくピアノが続き、テーマで終える。ワトソンとテナーが傑出、鳥肌ものの熱演だ。

 《カリタ》は速めのミディアムで。耳馴染みのいいテーマ、伸びやかなトロンボーン、熱情迸るアルト、クールに気を吐くトランペット、そよ吹くフルート、燃盛るワトソン、テーマと続く。トロンボーンとワトソンが光る。17分を飽かせない心地よい聴き物だ。

 《ロング・ウェイ・ホーム》はワトソンを全面にフィーチャー。まずはフリーテンポでカデンツァを一しきり、スロウに転じるや実にエモーショナルに歌い上げて遺憾がない。

 《アンフォールド》はファストで。ホーンのチェイス大会だ。賑やかなテーマ、トロンボーン、2トロンボーンの8バース→4バース→同時即興、4トランペットの8バース→4バース→2バース→集団即興、2テナー|2アルト|バリトン&アルトの16バース→2テナー&2アルトの8バース→集団即興、テーマと続く。渾身の熱演、当夜の白眉だ。

 《イン・ケース・ユー・ミスド・イット》はファストで。イントロ、これまた格好いいテーマ、茫洋たるトロンボーン、熱く駆けるワトソン、小気味よく弾けるピアノ、合奏、阿鼻叫喚の集団即興、ワトソンのメンバー紹介、合奏と続き、狂喜の公演は幕を下ろす。

 いずれ劣らぬ腕っこきたちが事前にリハを重ねていたとあってまとまりは申し分ない。音質はさておき、同店の狭さが効いて迫力と生々しさはピカ一だ。パワフルでマッシヴ、ビッグバンドの醍醐味が満喫できる。惜しむらくは達者なソロイストたちのクレジットがないことだ。筆者にも特定できる方もあればできない方もある。完璧は期せず見送った。再現とはいえ『テーラーメイド』ともどもワトソンの才とバンドの威容が伝わる名盤だ。

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