第62回 『枯葉~メル・トーメ・ライヴ・イン・ジャパン'90』 |AERA dot. (アエラドット)

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第62回 『枯葉~メル・トーメ・ライヴ・イン・ジャパン'90』

文・林建紀

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 再びメル・トーメの登場だ。連載1回おいての再登場は前例がないが、出来がいいので迷わず取り上げることに。彼の1980年代の快進撃を伝える名盤だ。トーメの絶頂期は『シングス・フレッド・アステア』(Bethlehem/1956)、『アット・ザ・クレッシェンド』(同/1957)、『スイングス・シューバート・アレイ』(Verve/1960)などの名盤を残した1950年代半ばから60年代初めというのが定説だったが、なんと老境にさしかかった80年代に第二の絶頂期を迎えた。『ニューヨーク・マイ・ハート』(Finesse/1980)を皮切りに、ジョージ・シアリング(ピアノ)と組んだ『イヴニング・ウィズ』(Concord Jazz/1982)と『トップ・ドロウアー』(同/1983)、マーティ・ペイチ(編曲)と組んだ『リユニオン』(同/1988)と『イン・コンサート・東京』(同/同)などの名盤を連発、名実ともに男性ジャズ・シンガーの頂点に立つ。これらに推薦盤が加わるというわけだ。

 再来日の話は初来日公演の大成功をうけて直後には持ちあがっていたものと思われる。トーメは「自分のトリオで来れば5回の異なるステージを毎回全曲異なるレパートリーで構成出来る」と語ったという。おそらくは、初来日公演のようにスタジオ録音にも思えるカッチリ組まれたものではなくて、よりエンターテイナー・サイドに立った普段の自由なパフォーマンスを観てほしいとの思いではないか。翌年は果たせなかったが、1年おいて再来日した。上記の通り自身のトリオを率いての来日で、終盤では同フェスティヴァルに出演したフランク・ウェス・オーケストラ(第61回参照)との豪華な共演も聴かれる。トーメの意をくんだ再来日公演ではどんなパフォーマンスが繰り広げられたのだろうか。

《シャイン・オン・ユア・シューズ》で幕開け。ファスト・テンポで鮮やかに快走し、心浮き立たせる格好のオープナーだ。お次は「ルック・メドレイ」か、ピアノだけを伴い思いの丈を吐露するバラード《ルッキング・アット・ユー》から、ミディアム・テンポの小粋な《ルック・アット・ザット・フェイス》につなぐ。スロウ・テンポの《バークリー広場のナイチンゲール》は情感表出の妙技に舌をまき、やがて心温まる。一転して、《ウェイヴ》は活きのいいファスト・ボッサで。軽妙なスキャットや即興の歌詞を交え、観衆も巻き込む楽しいパフォーマンスになった。スロウ・ナンバーの《スターダスト》は丁寧すぎたというか「歌いにかかった」感が否めない。フランク・ウェスの実直で暖かいテナーサックスのほうが買える。ミディアム・ファスト・テンポの《ドン・チャ・ゴー・ウェイ・マッド~カム・トゥ・ベイビー・ドゥー》は軽妙洒脱な持ち味を発揮した好唱だ。

 お待ちかねのスロウ・ナンバー《クリスマス・ソング》はピアノだけを伴って綴るが、これも「歌いにかかった」感が否めない。続く《枯葉》は一転してファスト・テンポで。ドライヴ感と語彙に富むスキャットを中心にしたジャズ・シンガーの骨頂を示す快唱だ。ステージも終盤、ここからフランク・ウェス・オーケストラとの共演が続く。《ユーア・ドライヴィング・ミー・クレイジー》を除いて古いベイシー楽団のヒット曲だ。《クレイジー》はリズム隊だけを従え、《モーテン・スイング》でホーン・セクションが合流する。いずれもミディアム・テンポで軽やかに弾む好唱だ。《セント・フォー・ユー・イエスタデイ》はファスト・テンポで。ウェスが好ソロをとりトーメがスキャットで応じる快演・快唱だ。共演のラストはインスト・ナンバー《スインギン・ザ・ブルース》をファスト・テンポで。トーメがドラムスの腕前を披露するお馴染みの出し物に場内の興奮は頂点に。

 ラストは《ニューヨーク・ステイト・オブ・マインド》。ニューヨークをトーキョーに歌い替え、会場の簡易保険ホールなどを織り込んだ当意即妙の歌詞で笑いすら誘いつつ、大都市の哀歓に溢れる感動的な名唱に仕上げて圧巻、このうえないクローザーになった。

『イン・コンサート・東京』には及ばない。スタジオ録音にも勝る入念な準備で臨んだ同作が傑作ライヴなら、推薦盤は普段のままのステージをとらえた快ライヴと言えよう。トーメは翌年も引き続き同フェスティヴァルのステージに立った。クインテットを従えたスイング寄りのプログラムでライヴ盤も残されているが、こちらは好ライヴにとどまる。推薦盤も廃盤だがさほど入手難ではなく、トーメのコレクションに加えられて損はない。

【収録曲】
Fujitsu-Concord Jazz Festival in Japan '90/Mel Torme

1. Shine on Your Shoes 2. Looking at You - Look at That Face 3. A Nightingale Sang in Berkeley Square 4. Wave 5. Star Dust 6. Don't 'Cha Go 'Way Mad - Come to Baby Do 7. The Christmas Song - Autumn Leaves 8. You're Driving Me Crazy - Moten Swing 9. Sent for You Yesterday and Here You Come Today 10. Swingin' the Blues 11. New York State of Mind

Mel Torme (vo, ds on 10), John Campbell (p), Bob Maize (b), Donny Osborne (ds), Frank Wess (ts on 5), The Frank Wess Orchestra on 8-10.

Recorded at Kan-i Hoken Hall, Gotanda, Tokyo, on December 11, 1990.

※フランク・ウェス・オーケストラのパーソネルは第61回参照。

【リリース情報】
1991 CD/CT Fujitsu-Concord Jazz Festival in Japan '90/Mel Torme (US-Concord Jazz)
1992 CD  Fujitsu-Concord Jazz Festival in Japan '90/Mel Torme (Jp-Concord Jazz)


※このコンテンツはjazz streetからの継続になります。


(更新 2016.5.16 )


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プロフィール

林 建紀(はやし・たつのり)

 ジャズ研究家/翻訳家。com-post同人。1950年生まれ。同志社大学軽音楽部出身。著書に『週刊ラサーン ローランド・カークの謎』(プリズム・ペーパーバックス)、訳書に『ローランド・カーク伝 溢れ出る涙』(河出書房新社)、共著に『JAZZ TRUMPET』『JAZZ PIANO』『JAZZ SAX』(シンコーミュージック)、『読んでから聴け! ジャズ100名盤』(朝日新書)などがある。Twitterのアドレスはhttps://twitter.com/#!/tahsaan_h

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