第35回 ジャズは完全に新しいディメンションに突入した、赤坂BLITS スナーキー・パピー |AERA dot. (アエラドット)

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第35回 ジャズは完全に新しいディメンションに突入した、赤坂BLITS スナーキー・パピー

文・後藤雅洋

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 6月16日、赤坂BLITSでスナーキー・パピーを見た。先ごろ見てたいへん感心したゴー・ゴー・ペンギンとは、編成からしてまったく別物だが、共に単なる快演である以上にジャズの未来を感じさせる予兆に満ちたライヴだった。

 スナーキーは去年横浜で行われたブルーノート・ジャズ・フェスティバルで見たとき、ちょっと気になったバンドだったが、その時は初めて見たせいかいまひとつ掴みどころがない印象だった。その後、彼らの新譜『ファミリー・デイナーVol.2』(Ground Up)やスナーキーのメンバー、ビル・ローレンスの新譜『アフターサン』(Ground Up)などを聴くうち、とにかく彼らは「いろいろな顔」をもったグループなんだということだけは見当が付いた。これはぜひもう一度しっかりと見届けねば、と再度出かけたと言うわけ。

 やはりこれは見ておいて良かった。明らかに去年の公演より内容が良い。そして単に「いいライヴだった」では終わらない「何か」があった。ひとつずつ見ていこう。まずメンバー全員めちゃくちゃ巧い。最近のミュージシャンはみなテクニックが一流なのは知っているが、それでもこれだけの大所帯(総勢9名)なのに「抜け」がない。

 おおむね良いバンドでも、その好印象を際立たすスタープレイヤーたち以外に「足を引っ張らない」程度のサイドマンが必ずいるものだ。ところがスナーキーのメンバーの力量は全員極めてハイレベル。しかしそれだけでは単に「巧いバンド」で終わってしまう。彼らが凄いのは、全員のアンサンブル・パートとそれぞれの個人プレイで「違う顔」を見せてくれるところなのだ。

 たとえば、ステージ向かって左手に陣取った3人のホーン陣(トランペットにテナー2名)は一糸乱れぬ快適極まりないアンサンブルの快楽を満たしてくれると同時に、ソロ・パートでは各人楽器の音色を含め、まったく違ったテイストを発揮しているのだ。これには驚いた。

 またバンド全体で見ると、ステージ向かって右手に位置するキーボード、ギター、ベースが中心となった時と、左手ホーン陣にスポットが当たる場面では、それぞれ音楽のテイストが変化するにも関わらず、グループとしての統一感は保たれている。つまり、聴き手はいろいろなサウンドの変化を楽しみつつ、その全体がスナーキーの音楽になっているというわけ。

 そしてドラムス、パーカッションの2人も、それぞれチーム・サウンドと各々がソロをとる時とではずいぶんと趣が違う。そして巧い。つまりメンバー全員がソロ・プレイでは思い切り個性を発揮しつつ、チームとなると恐ろしいほど緊密な一体感を醸し出しているのだ。

 この「個性を発揮しつつ、チームの音楽としての一体感」も抜群というところは、編成も音楽の内容もまったく異なっているが、ゴー・ゴー・ペンギンにも同じことが言える。そしてこの辺りが「新しいジャズ」の特徴のような気がしてきた。

 一昔前、といってももう半世紀も前の“ハードバップ”や“新主流派”の聴き所は、やはり個人のソロだった。そしてそれが「ジャズの聴き所」でもあった。70年代に入って出てきたウエザー・リポートは、バンドとしての統一感やグループ・サウンドが新鮮だったが、相対的にソロイストにスポットが当たる比率が少なくなり、その辺りがショーター・ファンなどには不評だった。また一世を風靡したフュージョンは巧いことは巧いけれど、どこかしら個性に欠けていた恨みがある。

 それらに対して、スナーキー・パピーやゴー・ゴー・ペンギンは、ソロイストの個性の発揮と、チーム・サウンドとしてのオリジナリティの折り合いが、非常に高いレベルでついている。ジャズは完全に新しいディメンションに突入したようだ。 [次回8/8(月)更新予定]


(更新 2016.7. 4 )


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プロフィール

後藤 雅洋(ごとう・まさひろ)

ジャズ喫茶店主、ジャズ評論家、ジャズサイトcom-post同人http://com-post.jp/。自ら経営する「いーぐる」でジャズを中心に幅広い音楽ジャンルの連続講演をそれぞれの専門家の方々にお願いし開催、現在495回を迎える。近著『一生モノのジャズ名盤500』(小学館101新書)『ジャズ耳の鍛え方』(NTT出版)『ジャズ・レーベル完全入門・増補版』(河出書房新社)。ブログ「いーぐる後藤の新ジャズ日記」http://d.hatena.ne.jp/eaglegoto/

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